「本日は解説に、おなじみのサキサカさんをお招きしています! サキサカさん、どうぞよろしくお願いいたします!」
「よろしくお願いいたします! いやぁ、今年も来ましたねぇ、この日が!」
サキサカは興奮を隠せない様子で、マイクを握りしめた。
五十代半ばの恰幅のいい男性で、顔には冒険者時代についたという古傷が走っている。かつてはAランクパーティのリーダーとして名を馳せ、数々の強敵を打ち倒してきた歴戦の勇者だ。引退後は持ち前の観察眼と、戦場で培った洞察力を活かして解説者に転身し、その分かりやすく熱のこもった語り口で住民たちから絶大な支持を得ていた。
「さて、いよいよ始まりました『グランド・アルカナ』ですが、どのようにご覧になってますか?」
レオンはノリノリで質問を投げかけた。普段は国王として威厳を保たなければならない立場だが、この放送席では一人のファンとして、純粋にこの祭りを楽しむことが許される。それが、レオンにとっては何よりの息抜きだった。
「昨年は緋色のルナチームが優勝でしたね」
サキサカは感慨深げに頷いた。
「あの炎龍で全てを焼き尽くす劇的な逆転劇は、今でも語り草になっています。あれほどの魔力の奔流、今年は他の三チームがどう対策してくるかが見ものですね」
「確か去年の前半、エアモンレースではルナチームは三位だったんですよね?」
「そうなんです。エリナ様のチームがトップで、かなりのアドバンテージを持っていました。しかしルナ様は、後半戦でお得意の炎魔法を駆使して見事に逆転しました」
「あの炎龍はすさまじかったからなぁ……」
レオンは去年の光景を思い出しながら、思わず苦笑を漏らした。
「竜殺し」の異名を持つルナの魔力は、文字通り規格外だ。その力が解放された瞬間、湖面に設置された闘技場全体が灼熱の渦に包まれた。エリナが築き上げたアドバンテージなど、あの炎の前では紙切れ同然だったのだ。勝負は一瞬で決まり、緋色の炎が湖面を焦がす中、ルナは不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「あれはもはや反則レベルですよね。それを今年はどうかわすか、というのも見どころになりそうです」
「なるほど。楽しみですね」
レオンは頷きながら、モニターに視線を向けた。
「さて、エアモンたちが次々と飛び出していますね」
輝くゲートから怒涛のように現れてくるエアモンたちを、レオンは幸せそうに眺めていた。赤、黒、金、銀。四色のユニフォームを身にまとった無数の小さな存在が、ゴールを目指して懸命に走っている。その一匹一匹に、飼い主の想いが込められているのだ。
「ええ。住民の方々が一年かけて愛情込めて育て上げた、いわばパートナーたちが競技に出て必死に走っている。実に素晴らしい光景ですね」
「そうなんですよ」
レオンの声に、熱がこもった。
「この光景こそが、我が国の誇りなんです」
カメラがガーディアンエリアでの攻防を捉えた。
必死に逃げながらゴールを目指す無数のエアモンたちと、それらを捕獲しようと網を振り回すガーディアンたち。老人も子供も、男性も女性も、誰もが汗だくになりながら真剣に戦っている。捕まえた時の歓喜、逃げ切られた時の悔しさ。そのすべてが、彼らの人生の一部になっている。
その姿は、まさにレオンが夢見た『誰もが笑顔で暮らせる世界』の一つの形だった。
「自分が参加できる祭り、これがうちの王国の一つの柱ですからね」
レオンはぐっとこぶしを握って力説した。
「見ているだけじゃなく、自分も参加して、自分の力で結果を左右できる。それが大事なんです」
働かなくてもいい社会。衣食住が保障され、生活の心配がない世界。それは一見すると理想郷に思えるが、放っておけば深刻な問題を引き起こす。何をしたらいいのか分からない空虚感、自分の存在意義を見失う無力感、生きている実感の喪失。そういったものが、人々の心を蝕んでいく。
レヴィアとの議論の中で、レオンはそのことを痛感した。人間には、何かに打ち込み、努力し、達成する喜びが必要なのだ。それがなければ、どれほど物質的に満たされていても、真の幸福は得られない。
レオンが出した答えが、エアモンだった。
アバターであり、パートナーであり、一緒に成長し、一緒に戦う存在。エアモンを育て、共に遊び、そしてこの祭りで競い合う。そこには努力があり、達成感があり、悔しさがあり、喜びがある。充実した人生に必要な感情が、このシステムをステージとして花開くのだ。
特にこの国民総出の祭りはその集大成である。自分のエアモンが走り、もしくはガーディアンとして戦い、自分の力でチームを勝利に導く。それは、生きている実感を取り戻すための、レオンなりの答えだった。
――これがシアンに見せたい、僕の答えだ。
レオンは心の中でそう呟きながら、モニターに映る人々の笑顔を見つめていた。
「おっ! 早くもゴールしたエアモンたちが出ているようですね!」
サキサカが興奮した声を上げ、レオンもモニターに視線を集中させた。
「よろしくお願いいたします! いやぁ、今年も来ましたねぇ、この日が!」
サキサカは興奮を隠せない様子で、マイクを握りしめた。
五十代半ばの恰幅のいい男性で、顔には冒険者時代についたという古傷が走っている。かつてはAランクパーティのリーダーとして名を馳せ、数々の強敵を打ち倒してきた歴戦の勇者だ。引退後は持ち前の観察眼と、戦場で培った洞察力を活かして解説者に転身し、その分かりやすく熱のこもった語り口で住民たちから絶大な支持を得ていた。
「さて、いよいよ始まりました『グランド・アルカナ』ですが、どのようにご覧になってますか?」
レオンはノリノリで質問を投げかけた。普段は国王として威厳を保たなければならない立場だが、この放送席では一人のファンとして、純粋にこの祭りを楽しむことが許される。それが、レオンにとっては何よりの息抜きだった。
「昨年は緋色のルナチームが優勝でしたね」
サキサカは感慨深げに頷いた。
「あの炎龍で全てを焼き尽くす劇的な逆転劇は、今でも語り草になっています。あれほどの魔力の奔流、今年は他の三チームがどう対策してくるかが見ものですね」
「確か去年の前半、エアモンレースではルナチームは三位だったんですよね?」
「そうなんです。エリナ様のチームがトップで、かなりのアドバンテージを持っていました。しかしルナ様は、後半戦でお得意の炎魔法を駆使して見事に逆転しました」
「あの炎龍はすさまじかったからなぁ……」
レオンは去年の光景を思い出しながら、思わず苦笑を漏らした。
「竜殺し」の異名を持つルナの魔力は、文字通り規格外だ。その力が解放された瞬間、湖面に設置された闘技場全体が灼熱の渦に包まれた。エリナが築き上げたアドバンテージなど、あの炎の前では紙切れ同然だったのだ。勝負は一瞬で決まり、緋色の炎が湖面を焦がす中、ルナは不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「あれはもはや反則レベルですよね。それを今年はどうかわすか、というのも見どころになりそうです」
「なるほど。楽しみですね」
レオンは頷きながら、モニターに視線を向けた。
「さて、エアモンたちが次々と飛び出していますね」
輝くゲートから怒涛のように現れてくるエアモンたちを、レオンは幸せそうに眺めていた。赤、黒、金、銀。四色のユニフォームを身にまとった無数の小さな存在が、ゴールを目指して懸命に走っている。その一匹一匹に、飼い主の想いが込められているのだ。
「ええ。住民の方々が一年かけて愛情込めて育て上げた、いわばパートナーたちが競技に出て必死に走っている。実に素晴らしい光景ですね」
「そうなんですよ」
レオンの声に、熱がこもった。
「この光景こそが、我が国の誇りなんです」
カメラがガーディアンエリアでの攻防を捉えた。
必死に逃げながらゴールを目指す無数のエアモンたちと、それらを捕獲しようと網を振り回すガーディアンたち。老人も子供も、男性も女性も、誰もが汗だくになりながら真剣に戦っている。捕まえた時の歓喜、逃げ切られた時の悔しさ。そのすべてが、彼らの人生の一部になっている。
その姿は、まさにレオンが夢見た『誰もが笑顔で暮らせる世界』の一つの形だった。
「自分が参加できる祭り、これがうちの王国の一つの柱ですからね」
レオンはぐっとこぶしを握って力説した。
「見ているだけじゃなく、自分も参加して、自分の力で結果を左右できる。それが大事なんです」
働かなくてもいい社会。衣食住が保障され、生活の心配がない世界。それは一見すると理想郷に思えるが、放っておけば深刻な問題を引き起こす。何をしたらいいのか分からない空虚感、自分の存在意義を見失う無力感、生きている実感の喪失。そういったものが、人々の心を蝕んでいく。
レヴィアとの議論の中で、レオンはそのことを痛感した。人間には、何かに打ち込み、努力し、達成する喜びが必要なのだ。それがなければ、どれほど物質的に満たされていても、真の幸福は得られない。
レオンが出した答えが、エアモンだった。
アバターであり、パートナーであり、一緒に成長し、一緒に戦う存在。エアモンを育て、共に遊び、そしてこの祭りで競い合う。そこには努力があり、達成感があり、悔しさがあり、喜びがある。充実した人生に必要な感情が、このシステムをステージとして花開くのだ。
特にこの国民総出の祭りはその集大成である。自分のエアモンが走り、もしくはガーディアンとして戦い、自分の力でチームを勝利に導く。それは、生きている実感を取り戻すための、レオンなりの答えだった。
――これがシアンに見せたい、僕の答えだ。
レオンは心の中でそう呟きながら、モニターに映る人々の笑顔を見つめていた。
「おっ! 早くもゴールしたエアモンたちが出ているようですね!」
サキサカが興奮した声を上げ、レオンもモニターに視線を集中させた。



