十五年間、上手くいかないことだらけだった。
そもそも国なんて作ったことなどないのだ。レオンは冒険者であり、鑑定士であり、せいぜいパーティの参謀を務めた程度の経験しかない。国家の運営など、酒屋の談義でしか知らない世界だった。
建国予定地へ初めて足を踏み入れた日のことを、レオンは今でも鮮明に覚えている。あの日の焼け焦げた空気の匂い、まだ熱気をはらんだ足元の瓦礫を踏む感触、仲間たちの息を呑む音まで、すべてが脳裏に焼き付いて離れない。
そこには、荒々しい巨大なクレーターがあるばかりだった。熾天使の一撃が穿った傷跡は、まるで大地が泣き叫んでいるかのように生々しく、その縁に立つだけで足がすくんだ。周りを見渡せば、衝撃波で吹き飛ばされた荒れ地がどこまでも続いており、木々は根こそぎ吹っ飛んで、岩は砕け散り、生命の気配というものが一切感じられなかった。風だけが虚しく吹き抜けていき、その音がまるで亡者の嘆きのように聞こえた。
こんなところに、どうやって人が住むのか?
エリナが呆然と呟き、ミーシャが珍しく言葉を失い、シエルが「無理でしょ、これ……」と弱音を吐いた。ルナでさえ、いつもの快活さを失って黙り込んでいた。みんなお互いの顔を見合わせたが、そこに映っているのは同じ絶望だった。
レヴィアが手伝ってくれるとしても、こんな荒れ地に五人で理想の国を作るなど、とてもイメージがわかない。
全員で大きなため息をついたあの瞬間、レオンは自分の選択が間違いだったのではないかと、初めて本気で疑った。
しかし、レオンは諦めなかった。諦められなかったと言った方が正確かもしれない。
仲間たちがいた。自分を信じてついてきてくれた、大切な仲間たちが。彼女たちの前で膝を折るわけにはいかなかったし、何より、シアンを失望させれば、待っているのはアポカリプス――この世界そのものの終焉なのだ。退路はとうに断たれていた。もうやる以外ないのだ。前に進むしか、道はない。
日々、レヴィアと激論を交わした。
都市計画について、どこに何を建てるべきか。政策について、どんな法律を整備すべきか。経済について、どうやって富を循環させるか。技術について、何を優先的に開発すべきか。そして何より、人の心について――どうすれば人々が笑顔で暮らせるのか。
意見が対立することは日常茶飯事だった。レオンが理想を語れば、レヴィアが現実を突きつける。レヴィアが効率を求めれば、レオンが人情を説く。
時には机を叩いて怒鳴り合い、「もうお前とはやってられんわ!」とレヴィアが席を蹴って立ち上がり、決裂しかけたことも一度や二度ではなかった。ミーシャが聖女の微笑みで仲裁に入り、エリナが無言で二人を睨みつけ、ルナが「いい加減にしなさいよ!」と火を噴きそうになりながら割って入る。そんな夜が、何度あったことか。
それでも、解決策をみんなで考え、みんなで実行していった。一人の知恵には限界があっても、みんなで知恵を寄せ合えば必ず道は開ける。レオンはそう信じていたし、仲間たちもそれに応えてくれた。
それでも、失敗した。何度も、何度も、数え切れないほど失敗した。
立てた計画が現実の壁にぶつかって頓挫し、見込んでいた資源が手に入らず、技術が追いつかずに設計からやり直しになったことは数え切れない。意見が衝突して空中分解しかけたプロジェクトもあれば、どうしても折り合いがつかずに、手伝ってくれていた住民たちが離れていった夜もあった。
ある晩、レオンは一人でクレーターの縁に座り込んでいた。月明かりに照らされた荒れ地を見つめながら、涙が止まらなかった。「自分には無理なのではないか」「みんなを巻き込んでしまって申し訳ない」「いっそ全部投げ出してしまいたい」。そんな弱音が、次から次へと溢れ出してきた。
その時、隣に誰かが座った。エリナだった。何も言わず、ただ隣に座って、同じように月を見上げていた。
夜風にエリナの黒髪が揺れる――。
しばらくして、ぽつりと呟いた。
「私が絶望の底にいた時、あなたが『君たちと一緒なら世界を救える』そう言ってくれたから頑張れたの……」
そう、あの時からこの物語は始まっていたのだ。
ここでくじけたら全てが水の泡――。
レオンはエリナの手を取り、静かにうなずいた。
レオンは歯を食いしばって立ち上がり、また歩き始めた。倒れても、躓いても、這いつくばってでも前に進んだ。仲間たちも、同じように歯を食いしばって、一緒に歩いてくれた。
そして今、その全てが一つの形になったことを、レオンは感じていた。
数十万人の民がスタンディングオベーションで自分を讃えてくれている。あの荒れ地だった場所に、美しい湖が生まれ、壮大なタワーが建ち、人々の笑い声が絶えない街ができた。自分を信じ、自分についてきてくれた人々が、笑顔で手を振ってくれている。
それは金銀財宝よりも、権力よりも、名誉よりも、何よりも価値のある報酬だった。
何度も絶望に叩き落とされながらも決して諦めなかった十五年間の集大成が、今、目の前に広がっている。あの日流した涙も、あの夜交わした激論も、あの時離れていった人々への想いも、全てがこの瞬間のためにあったのだと、今なら思える。
そもそも国なんて作ったことなどないのだ。レオンは冒険者であり、鑑定士であり、せいぜいパーティの参謀を務めた程度の経験しかない。国家の運営など、酒屋の談義でしか知らない世界だった。
建国予定地へ初めて足を踏み入れた日のことを、レオンは今でも鮮明に覚えている。あの日の焼け焦げた空気の匂い、まだ熱気をはらんだ足元の瓦礫を踏む感触、仲間たちの息を呑む音まで、すべてが脳裏に焼き付いて離れない。
そこには、荒々しい巨大なクレーターがあるばかりだった。熾天使の一撃が穿った傷跡は、まるで大地が泣き叫んでいるかのように生々しく、その縁に立つだけで足がすくんだ。周りを見渡せば、衝撃波で吹き飛ばされた荒れ地がどこまでも続いており、木々は根こそぎ吹っ飛んで、岩は砕け散り、生命の気配というものが一切感じられなかった。風だけが虚しく吹き抜けていき、その音がまるで亡者の嘆きのように聞こえた。
こんなところに、どうやって人が住むのか?
エリナが呆然と呟き、ミーシャが珍しく言葉を失い、シエルが「無理でしょ、これ……」と弱音を吐いた。ルナでさえ、いつもの快活さを失って黙り込んでいた。みんなお互いの顔を見合わせたが、そこに映っているのは同じ絶望だった。
レヴィアが手伝ってくれるとしても、こんな荒れ地に五人で理想の国を作るなど、とてもイメージがわかない。
全員で大きなため息をついたあの瞬間、レオンは自分の選択が間違いだったのではないかと、初めて本気で疑った。
しかし、レオンは諦めなかった。諦められなかったと言った方が正確かもしれない。
仲間たちがいた。自分を信じてついてきてくれた、大切な仲間たちが。彼女たちの前で膝を折るわけにはいかなかったし、何より、シアンを失望させれば、待っているのはアポカリプス――この世界そのものの終焉なのだ。退路はとうに断たれていた。もうやる以外ないのだ。前に進むしか、道はない。
日々、レヴィアと激論を交わした。
都市計画について、どこに何を建てるべきか。政策について、どんな法律を整備すべきか。経済について、どうやって富を循環させるか。技術について、何を優先的に開発すべきか。そして何より、人の心について――どうすれば人々が笑顔で暮らせるのか。
意見が対立することは日常茶飯事だった。レオンが理想を語れば、レヴィアが現実を突きつける。レヴィアが効率を求めれば、レオンが人情を説く。
時には机を叩いて怒鳴り合い、「もうお前とはやってられんわ!」とレヴィアが席を蹴って立ち上がり、決裂しかけたことも一度や二度ではなかった。ミーシャが聖女の微笑みで仲裁に入り、エリナが無言で二人を睨みつけ、ルナが「いい加減にしなさいよ!」と火を噴きそうになりながら割って入る。そんな夜が、何度あったことか。
それでも、解決策をみんなで考え、みんなで実行していった。一人の知恵には限界があっても、みんなで知恵を寄せ合えば必ず道は開ける。レオンはそう信じていたし、仲間たちもそれに応えてくれた。
それでも、失敗した。何度も、何度も、数え切れないほど失敗した。
立てた計画が現実の壁にぶつかって頓挫し、見込んでいた資源が手に入らず、技術が追いつかずに設計からやり直しになったことは数え切れない。意見が衝突して空中分解しかけたプロジェクトもあれば、どうしても折り合いがつかずに、手伝ってくれていた住民たちが離れていった夜もあった。
ある晩、レオンは一人でクレーターの縁に座り込んでいた。月明かりに照らされた荒れ地を見つめながら、涙が止まらなかった。「自分には無理なのではないか」「みんなを巻き込んでしまって申し訳ない」「いっそ全部投げ出してしまいたい」。そんな弱音が、次から次へと溢れ出してきた。
その時、隣に誰かが座った。エリナだった。何も言わず、ただ隣に座って、同じように月を見上げていた。
夜風にエリナの黒髪が揺れる――。
しばらくして、ぽつりと呟いた。
「私が絶望の底にいた時、あなたが『君たちと一緒なら世界を救える』そう言ってくれたから頑張れたの……」
そう、あの時からこの物語は始まっていたのだ。
ここでくじけたら全てが水の泡――。
レオンはエリナの手を取り、静かにうなずいた。
レオンは歯を食いしばって立ち上がり、また歩き始めた。倒れても、躓いても、這いつくばってでも前に進んだ。仲間たちも、同じように歯を食いしばって、一緒に歩いてくれた。
そして今、その全てが一つの形になったことを、レオンは感じていた。
数十万人の民がスタンディングオベーションで自分を讃えてくれている。あの荒れ地だった場所に、美しい湖が生まれ、壮大なタワーが建ち、人々の笑い声が絶えない街ができた。自分を信じ、自分についてきてくれた人々が、笑顔で手を振ってくれている。
それは金銀財宝よりも、権力よりも、名誉よりも、何よりも価値のある報酬だった。
何度も絶望に叩き落とされながらも決して諦めなかった十五年間の集大成が、今、目の前に広がっている。あの日流した涙も、あの夜交わした激論も、あの時離れていった人々への想いも、全てがこの瞬間のためにあったのだと、今なら思える。



