皇帝たちの視線が、一斉にレスター三世たちに向けられる。
鋭い、値踏みするような視線だ。
「お前たちも来たのか」
「どこまで見せられた?」
「何を考えている?」
言葉にはしないが、そういう問いかけが視線の中に込められていた。
レスター三世は諸侯たちに歩み寄ると、軽い挨拶を交わす。
「お元気そうで何より」
「陛下もご壮健で」
表面上は和やかな挨拶だ。しかし、その裏では別の会話が交わされていた。
目と目が合う。
その瞳の奥に、同じ感情が渦巻いているのが見えた。
――とんでもないことになった。
――この国は、我々の想像を遥かに超えている。
――一体、どうすればいい?
――お前の国なら戦って勝てるか?
言葉にはできない。しかし、皆が同じことを考えているのは明らかだった。
一瞬の沈黙。
キュッと口を結んだそれぞれの口。
助けてくれ――――。
そんな心の声さえ聞こえてきてしまう。
レスター三世は苦笑して会釈することしかできなかった。
今は知らねばならない。この国を、国王レオンを。
『敵を知り己を知れば百戦して危うからず』
何も知らない今は動いてはならない。
改めてそう決意すると、ミーシャに案内されるがままレスター三世は静かに席に着いた。
◇
「ウェルカムドリンクでございます」
ミーシャの声が、室内に響いた。
「私どもの国で獲れたシャンパンですわ。どうぞ……」
ミーシャの案内で、一人の女性が前に出てきた。
レスター三世は、思わず目を見張った。
美しい。
光り輝く不思議な衣装を身にまとった、黒髪の女性だった。
髪は美しく結い上げられ、うなじには一筋の後れ毛が垂れている。切れ長の目は知性を湛え、薄い唇には上品な微笑みが浮かんでいる。
その立ち居振る舞いには、一分の隙もなかった。まるで、生まれた時から給仕のために存在しているかのような、完璧な所作だ。
彼女は、キラキラと輝く美しいシャンパングラスを差し出した。
グラス自体が芸術品のようだった。
透明な器の中で、琥珀色の液体が揺れている。細かな泡がシュワシュワと立ち上り、グラスの縁で次々と弾けていく。
そして――弾けた泡の後から、虹色の輝きがゆらゆらと舞い上がっているではないか。
まるで、液体の中に小さな妖精たちが住んでいるかのようだ。
レスター三世はキツネにつままれたような気分で、最高の笑顔を見せる彼女からグラスを受け取ろうと手を伸ばした。
しかし――。
レスター三世は、ふと違和感を覚えた。
この女性、どこか現実感が薄い。
美しすぎる、完璧すぎるのだ。人間には、どこかに欠点や個性があるはずだ。しかしこの女性には、それがない。まるで理想の給仕を具現化したかのような、非の打ちどころのない存在。
――まさか。
レスター三世は、そっと眼鏡をズラして女性を見た。
その瞬間――。
「へっ!?」
レスター三世は、思わず奇声を上げた。
そこには、人間ではないものが立っていた。
丸いガラス玉の頭。
銀色の金属でできた体。
関節には複雑な機構が見え、胴体からは微かな駆動音が聞こえてくる。
ロボットだ。
あのエアモンのような幻ではない。実体を持った、金属の人形が、シャンパングラスを持って立っているのだ。
慌てて眼鏡をかけなおす。
すると、再びそこには黒髪を結んだ清潔感のある女性が、笑顔でたたずんでいた。
何事もなかったかのように。当然のように。
レスター三世は、その衝撃に気が遠くなる思いだった。
「こちらはアンドロイドのアリスXIさんですわ」
ミーシャが、まるで古い友人を紹介するかのような気軽さで紹介する。
「ア、アンドロイド……?」
聞いたことのない言葉だった。しかし、その意味は何となく理解できた。
人の形をした、機械。
人ではないのに、人のように振る舞う存在。
「そう、実体のあるエアモンだとお考えくださいませ」
ミーシャは、にっこりと微笑んだ。
「この国には数百万体のこういうアンドロイドが働いておりますわ」
「数百万体!?」
レスター三世は、耳を疑った。
数百万。
それは、自分の国の総人口に匹敵する数字だ。
つまりこの国には、人間と同じ数だけの「人でないもの」が存在し、働いているということか。
レスター三世はぽかんと口を開けたまま、アリスXIを見つめた。
彼女は――いや、「それ」は――ニコッと笑ってシャンパンをさらに前に差し出した。
その笑顔が、あまりにも自然で、あまりにも人間らしくて。
レスター三世は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「あ、ありがとう……」
苦虫を嚙み潰したような表情で、シャンパングラスを受け取った。
鋭い、値踏みするような視線だ。
「お前たちも来たのか」
「どこまで見せられた?」
「何を考えている?」
言葉にはしないが、そういう問いかけが視線の中に込められていた。
レスター三世は諸侯たちに歩み寄ると、軽い挨拶を交わす。
「お元気そうで何より」
「陛下もご壮健で」
表面上は和やかな挨拶だ。しかし、その裏では別の会話が交わされていた。
目と目が合う。
その瞳の奥に、同じ感情が渦巻いているのが見えた。
――とんでもないことになった。
――この国は、我々の想像を遥かに超えている。
――一体、どうすればいい?
――お前の国なら戦って勝てるか?
言葉にはできない。しかし、皆が同じことを考えているのは明らかだった。
一瞬の沈黙。
キュッと口を結んだそれぞれの口。
助けてくれ――――。
そんな心の声さえ聞こえてきてしまう。
レスター三世は苦笑して会釈することしかできなかった。
今は知らねばならない。この国を、国王レオンを。
『敵を知り己を知れば百戦して危うからず』
何も知らない今は動いてはならない。
改めてそう決意すると、ミーシャに案内されるがままレスター三世は静かに席に着いた。
◇
「ウェルカムドリンクでございます」
ミーシャの声が、室内に響いた。
「私どもの国で獲れたシャンパンですわ。どうぞ……」
ミーシャの案内で、一人の女性が前に出てきた。
レスター三世は、思わず目を見張った。
美しい。
光り輝く不思議な衣装を身にまとった、黒髪の女性だった。
髪は美しく結い上げられ、うなじには一筋の後れ毛が垂れている。切れ長の目は知性を湛え、薄い唇には上品な微笑みが浮かんでいる。
その立ち居振る舞いには、一分の隙もなかった。まるで、生まれた時から給仕のために存在しているかのような、完璧な所作だ。
彼女は、キラキラと輝く美しいシャンパングラスを差し出した。
グラス自体が芸術品のようだった。
透明な器の中で、琥珀色の液体が揺れている。細かな泡がシュワシュワと立ち上り、グラスの縁で次々と弾けていく。
そして――弾けた泡の後から、虹色の輝きがゆらゆらと舞い上がっているではないか。
まるで、液体の中に小さな妖精たちが住んでいるかのようだ。
レスター三世はキツネにつままれたような気分で、最高の笑顔を見せる彼女からグラスを受け取ろうと手を伸ばした。
しかし――。
レスター三世は、ふと違和感を覚えた。
この女性、どこか現実感が薄い。
美しすぎる、完璧すぎるのだ。人間には、どこかに欠点や個性があるはずだ。しかしこの女性には、それがない。まるで理想の給仕を具現化したかのような、非の打ちどころのない存在。
――まさか。
レスター三世は、そっと眼鏡をズラして女性を見た。
その瞬間――。
「へっ!?」
レスター三世は、思わず奇声を上げた。
そこには、人間ではないものが立っていた。
丸いガラス玉の頭。
銀色の金属でできた体。
関節には複雑な機構が見え、胴体からは微かな駆動音が聞こえてくる。
ロボットだ。
あのエアモンのような幻ではない。実体を持った、金属の人形が、シャンパングラスを持って立っているのだ。
慌てて眼鏡をかけなおす。
すると、再びそこには黒髪を結んだ清潔感のある女性が、笑顔でたたずんでいた。
何事もなかったかのように。当然のように。
レスター三世は、その衝撃に気が遠くなる思いだった。
「こちらはアンドロイドのアリスXIさんですわ」
ミーシャが、まるで古い友人を紹介するかのような気軽さで紹介する。
「ア、アンドロイド……?」
聞いたことのない言葉だった。しかし、その意味は何となく理解できた。
人の形をした、機械。
人ではないのに、人のように振る舞う存在。
「そう、実体のあるエアモンだとお考えくださいませ」
ミーシャは、にっこりと微笑んだ。
「この国には数百万体のこういうアンドロイドが働いておりますわ」
「数百万体!?」
レスター三世は、耳を疑った。
数百万。
それは、自分の国の総人口に匹敵する数字だ。
つまりこの国には、人間と同じ数だけの「人でないもの」が存在し、働いているということか。
レスター三世はぽかんと口を開けたまま、アリスXIを見つめた。
彼女は――いや、「それ」は――ニコッと笑ってシャンパンをさらに前に差し出した。
その笑顔が、あまりにも自然で、あまりにも人間らしくて。
レスター三世は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「あ、ありがとう……」
苦虫を嚙み潰したような表情で、シャンパングラスを受け取った。



