青く燃えるエフェクトを纏ったアルカナタワーの内部は、レスター三世の想像を遥かに超えていた。
純白の外壁は入り口から見ると膜のように薄く、内部には光の回廊が広がっていた。床も壁も天井も、すべてが透き通るような素材でできている。そしてホコリ一つなく、まるで空気そのものが建材になったかのようだ。
アルカナタワーは、外から見れば純白の巨塔だった。
しかし、内側からは違った。
壁が、透明なのだ。
まるで魔法にかけられたかのように、内側から見ると外の景色がすべて透けて見える。
奥に進むと、ガラスでできたような昇降機が鎮座していた。
それは水晶よりも透明で、氷よりも冷たく輝いており、四方が見渡せる完全なシースルーになっている。
「こちらへどうぞ」
ミーシャが優雅に手を差し伸べ、一行を籠の中へと案内した。
レスター三世は、恐る恐る足を踏み入れる――。
籠は緩やかな曲面で構成され、透明な繭に包まれるような感覚だった。
だがふと、レスター三世は眼鏡を取ってみる。すると、外の景色は消えてしまった。
そう、ARだったのだ。見えているものは現実そのままではない、魔法のような世界であることを思い出し、レスター三世はキュッと唇をかんだ。
騎士団長と枢機卿も、同様に顔を青くしながら乗り込んでくる。彼らはまだこのカラクリに気がついてないようだった。
全員が乗り込むと、昇降機は音もなく上昇を始めた。
床が透けているので、自分の足元遥か下方に床が見える。ただのAR映像のはずだが、この感覚には慣れそうになかった。
上昇するにつれて、視界がどんどん広がっていく。
どこまでも青く美しい湖面が広がっている。
朝日を受けて煌めくその水面は、まるで巨大な鏡のようだった。空の青と湖の青が溶け合い、どこまでが空でどこからが水なのか、もはや境界が分からない。
湖畔には、多彩な色のタワーが林立しているのが見える。住民の住むタワマンだ。その数は、数え切れない。百や二百ではきかないだろう。
それぞれが数十階はありそうな高層建築で、それぞれ色彩を放ちながら個性を発揮している。それはエアモンと同じ仮想現実のエフェクトで、眼鏡をはずせば見えなくなるが、眼鏡をかければにぎやかな現代アートのミュージアムのように見えた。
そしてエアモンたちもその現代アートの間を楽しそうに飛び交っているのが見える。鳥のエアモン、蝶のエアモン、龍のような大きなエアモン。色とりどりの存在が宙を舞い踊っている。
レスター三世は、その光景を見つめ続けた。
言葉が出ない。
美しい、という言葉では足りない。
これは――異世界だ。
国王レオンが夢見た理想郷が、ここに実現しているのだ。
◇
案内されたのは、貴賓室だった。
記念式典が行われるステージの後方上部に張り出した、特等席のような空間。ガラス張りの壁面からは、巨大なステージと、その向こうに広がる湖面が一望できる。
レスター三世は、室内を見回して唸った。
しっとりと上質な高級感が、漂っている。
しかし、それは彼の知る「高級」とは質が違っていた。
王宮の高級さは、金と宝石で飾り立てる類のものだった。より多く、より派手に、より豪奢に。それが権力の証だった。
しかしこの部屋は違う。
シンプルなのだ。
余計な装飾がほとんどない。しかし、使われている素材の一つ一つが、途方もなく上質なのが分かる。
壁や家具に使われている木材は、見たこともない美しい木目を持っていた。触れてみると、絹のように滑らかで、ほのかに甘い香りがする。おそらく、この大陸では手に入らない希少な樹木なのだろう。
床に敷かれた絨毯は、足が沈み込むほど厚く、それでいて一切の重たさを感じさせない。糸の一本一本が光を反射し、歩くたびに色が変わるように見える。
そして各所に配された観葉植物がゆったりと揺らめき、さわやかな森の香りが漂ってくる。
落ち着く――――。
豪華ではなくラグジュアリー。これが、本当の贅沢というものか。
レスター三世は、自国の王宮を思い浮かべ、キュッと口を結んだ。
金箔を貼り付けた壁、宝石を散りばめた玉座、重厚な彫刻が施された調度品。それらが急に、安っぽく思えてきた。
見栄を張るための贅沢と、心にしみわたる良いものを追求した贅沢。
その違いを、この部屋は無言で教えてくれていた。
奥の席を見れば、すでに見知った大陸の諸侯たちが座っている。
レスター三世は、彼らの姿を見て目を細めた。
知った顔がいくつかある。ロイヤル・ローズの女王、ヴォルカ帝国の皇帝、東方の太守。いずれも大物ばかりだ。
彼らはワインを傾けながら、静かに会話を交わしている。
しかし、その表情には余裕がなかった。
皆、どこかぎこちない笑顔を浮かべ、困惑が見て取れる。
そしてレスター三世は気づいた。
諸侯たちのそばに、それぞれエアモンが控えている。
それぞれの後方、控え席には、お付きの者たちが座っているが、そこにもエアモンたちが居た。
ある者には青い鳥のエアモンが、ある者には白い犬のエアモンが、ある者には金色の猫のエアモンが。彼らも、あの「洗礼」を受けたのだ。
――皆、同じ衝撃を受けたのじゃな。
お互いに陰に陽にぶつかり合ってきた数十年の歴史がありながらも、レスター三世は妙な連帯感を覚えた。
純白の外壁は入り口から見ると膜のように薄く、内部には光の回廊が広がっていた。床も壁も天井も、すべてが透き通るような素材でできている。そしてホコリ一つなく、まるで空気そのものが建材になったかのようだ。
アルカナタワーは、外から見れば純白の巨塔だった。
しかし、内側からは違った。
壁が、透明なのだ。
まるで魔法にかけられたかのように、内側から見ると外の景色がすべて透けて見える。
奥に進むと、ガラスでできたような昇降機が鎮座していた。
それは水晶よりも透明で、氷よりも冷たく輝いており、四方が見渡せる完全なシースルーになっている。
「こちらへどうぞ」
ミーシャが優雅に手を差し伸べ、一行を籠の中へと案内した。
レスター三世は、恐る恐る足を踏み入れる――。
籠は緩やかな曲面で構成され、透明な繭に包まれるような感覚だった。
だがふと、レスター三世は眼鏡を取ってみる。すると、外の景色は消えてしまった。
そう、ARだったのだ。見えているものは現実そのままではない、魔法のような世界であることを思い出し、レスター三世はキュッと唇をかんだ。
騎士団長と枢機卿も、同様に顔を青くしながら乗り込んでくる。彼らはまだこのカラクリに気がついてないようだった。
全員が乗り込むと、昇降機は音もなく上昇を始めた。
床が透けているので、自分の足元遥か下方に床が見える。ただのAR映像のはずだが、この感覚には慣れそうになかった。
上昇するにつれて、視界がどんどん広がっていく。
どこまでも青く美しい湖面が広がっている。
朝日を受けて煌めくその水面は、まるで巨大な鏡のようだった。空の青と湖の青が溶け合い、どこまでが空でどこからが水なのか、もはや境界が分からない。
湖畔には、多彩な色のタワーが林立しているのが見える。住民の住むタワマンだ。その数は、数え切れない。百や二百ではきかないだろう。
それぞれが数十階はありそうな高層建築で、それぞれ色彩を放ちながら個性を発揮している。それはエアモンと同じ仮想現実のエフェクトで、眼鏡をはずせば見えなくなるが、眼鏡をかければにぎやかな現代アートのミュージアムのように見えた。
そしてエアモンたちもその現代アートの間を楽しそうに飛び交っているのが見える。鳥のエアモン、蝶のエアモン、龍のような大きなエアモン。色とりどりの存在が宙を舞い踊っている。
レスター三世は、その光景を見つめ続けた。
言葉が出ない。
美しい、という言葉では足りない。
これは――異世界だ。
国王レオンが夢見た理想郷が、ここに実現しているのだ。
◇
案内されたのは、貴賓室だった。
記念式典が行われるステージの後方上部に張り出した、特等席のような空間。ガラス張りの壁面からは、巨大なステージと、その向こうに広がる湖面が一望できる。
レスター三世は、室内を見回して唸った。
しっとりと上質な高級感が、漂っている。
しかし、それは彼の知る「高級」とは質が違っていた。
王宮の高級さは、金と宝石で飾り立てる類のものだった。より多く、より派手に、より豪奢に。それが権力の証だった。
しかしこの部屋は違う。
シンプルなのだ。
余計な装飾がほとんどない。しかし、使われている素材の一つ一つが、途方もなく上質なのが分かる。
壁や家具に使われている木材は、見たこともない美しい木目を持っていた。触れてみると、絹のように滑らかで、ほのかに甘い香りがする。おそらく、この大陸では手に入らない希少な樹木なのだろう。
床に敷かれた絨毯は、足が沈み込むほど厚く、それでいて一切の重たさを感じさせない。糸の一本一本が光を反射し、歩くたびに色が変わるように見える。
そして各所に配された観葉植物がゆったりと揺らめき、さわやかな森の香りが漂ってくる。
落ち着く――――。
豪華ではなくラグジュアリー。これが、本当の贅沢というものか。
レスター三世は、自国の王宮を思い浮かべ、キュッと口を結んだ。
金箔を貼り付けた壁、宝石を散りばめた玉座、重厚な彫刻が施された調度品。それらが急に、安っぽく思えてきた。
見栄を張るための贅沢と、心にしみわたる良いものを追求した贅沢。
その違いを、この部屋は無言で教えてくれていた。
奥の席を見れば、すでに見知った大陸の諸侯たちが座っている。
レスター三世は、彼らの姿を見て目を細めた。
知った顔がいくつかある。ロイヤル・ローズの女王、ヴォルカ帝国の皇帝、東方の太守。いずれも大物ばかりだ。
彼らはワインを傾けながら、静かに会話を交わしている。
しかし、その表情には余裕がなかった。
皆、どこかぎこちない笑顔を浮かべ、困惑が見て取れる。
そしてレスター三世は気づいた。
諸侯たちのそばに、それぞれエアモンが控えている。
それぞれの後方、控え席には、お付きの者たちが座っているが、そこにもエアモンたちが居た。
ある者には青い鳥のエアモンが、ある者には白い犬のエアモンが、ある者には金色の猫のエアモンが。彼らも、あの「洗礼」を受けたのだ。
――皆、同じ衝撃を受けたのじゃな。
お互いに陰に陽にぶつかり合ってきた数十年の歴史がありながらも、レスター三世は妙な連帯感を覚えた。



