ミーシャは優雅な所作でタラップを降りると、深々と一礼した。
その金髪が、朝日を受けて黄金色に輝く。
「大アルカナ王国より、お迎えに上がりました」
その声は、春の風のように柔らかく響いた。
「こっ……これに、乗っていく……のか?」
レスター三世は、声が裏返りながら冷や汗を垂らした。
六十年以上生きてきて、未だかつて空飛ぶ乗り物などに乗ったことがない。
いや、そもそも空飛ぶ乗り物が存在すること自体、今この瞬間まで知らなかったのだ。
「さぁ、国王レオンがお待ちでございます。どうぞ……」
ミーシャは、うやうやしくタラップを指し示した。
その微笑みは完璧で、一点の曇りもない。
「くっ……」
レスター三世は、隣の枢機卿と目を合わせた。
二人の視線には、同じ困惑が浮かんでいる。
――こんな、聞いたこともない魔道の飛行物体に乗っていいのか?
――そもそもこれは本当に安全なのか?
判断がつかなかった。
いや、正直に言えば――怖いのだ。
六十年の人生で築き上げてきた常識が、目の前で音を立てて崩れていくようだった。
「大丈夫でございますわ。落ちたりはいたしませんので」
ミーシャは、二人の動揺を見透かしたように、にっこりと微笑んだ。
その笑顔には、どこか挑発的な色が混じっているようにも見えた。
――ああ、この娘は分かっているのだ。我々が怯えていることを。
――そして、それを楽しんでいる。
田舎者の馬車を嗤ってやろうと気楽に待ち構えていたら、とんでもないものがやってきてしまった。
立場が、完全に逆転していた。
得体の知れないものには乗れない、などと言ってしまえば、嗤われるのは自分たちの方だ。それだけは、絶対に避けなければならない。
王としての矜持が、それを許さなかった。
たとえ心臓が口から飛び出しそうなほど恐ろしくても、乗る以外ない。
レスター三世は、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「……よしっ! 案内せよ!」
覚悟を決めて、一歩を踏み出す。
その額には、玉のような冷や汗が浮かんでいた。
◇
純白の機体に近づくにつれ、レスター三世の心臓の鼓動は速くなるばかりだった。
ドクン、ドクン、ドクン――。
――これは、いったい何でできているのだ?
金属のようで、金属ではない。
滑らかで、継ぎ目がなく、まるで巨大な真珠を削り出したかのような質感。
恐る恐る手を伸ばし、指先で触れてみる。
ほのかに温かい。
まるで――生きているかのように。
タラップを一段一段登りながら、彼は周囲を見回した。
鋭く張り出した翼の、未来的なフォルム。
流線型の機首は、まるで猛禽類の嘴のように鋭い。
そして、エンジンから湧き上がる熱気が、陽炎のように揺らめいている。
その熱波が頬を撫で、レスター三世は思わず顔を顰めた。
どう見ても魔道具などではない。
魔力など、みじんも感じないのだ。
むしろ機械仕掛けに近いようではあるが――そんなものが空を飛ぶ理屈が分からない。
歯車と蒸気で動く機械なら知っている。
しかし、そんなもので空を飛べるとは到底思えなかった。
人間の技術で、こんなことが可能なのか? それも冒険者たちが作った、貧民たちの国で。
信じられなかった。
信じたくなかった。
しかし、目の前の現実は、彼の常識を根底から覆していた。
六十年かけて築き上げてきた世界観が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
◇
機体の中に足を踏み入れた瞬間――。
レスター三世は、息を呑んだ。
「なんと……」
そこは、まるで宮殿の一室のようだった。
いや、宮殿以上かもしれない。
重厚な革張りのシート。
深い飴色に輝く、高級なマホガニーのインテリア。
柔らかな照明が、室内を温かく、そして優しく照らしている。
どこからともなく、心地よい音楽が流れていた。
弦楽器の調べ。
聴いたことのない旋律だが、心の奥深くに染み入るような美しさがある。
そして何より外の灼熱が嘘のように、ひんやりとした空気が肌に心地いい。
「こちらにどうぞ」
ミーシャは、優雅な仕草で席を勧めた。
レスター三世が恐る恐る腰を下ろすと、シートが彼の体型に合わせてゆっくりと沈み込んだ。
――な、なんだ、この座り心地は。
まるで雲の上に座っているかのようだ。
王宮の玉座よりも、遥かに快適である。
その贅沢さに、レスター三世は言葉を失った。
「全員乗ったか?」
不意に、ぶっきらぼうな声が響いた。
コクピットの方を見ると、金髪の少女がいた。
面倒くさそうに頭上のスイッチをパチパチと入れている。
「あと一方ですー!」
ミーシャが声を張り上げた。
「は? 誰じゃ、あの子供は?」
レスター三世は訝しげにミーシャに聞いた。
どう見ても、十歳かそこらの少女にしか見えない。
そんな子供が、この得体の知れない飛行物体を操縦するというのか?
「こ、子供じゃないです! 神に連なる者……もう数千年も生きておられます」
ミーシャの声が、どこか畏れを含んで震えた。
その金髪が、朝日を受けて黄金色に輝く。
「大アルカナ王国より、お迎えに上がりました」
その声は、春の風のように柔らかく響いた。
「こっ……これに、乗っていく……のか?」
レスター三世は、声が裏返りながら冷や汗を垂らした。
六十年以上生きてきて、未だかつて空飛ぶ乗り物などに乗ったことがない。
いや、そもそも空飛ぶ乗り物が存在すること自体、今この瞬間まで知らなかったのだ。
「さぁ、国王レオンがお待ちでございます。どうぞ……」
ミーシャは、うやうやしくタラップを指し示した。
その微笑みは完璧で、一点の曇りもない。
「くっ……」
レスター三世は、隣の枢機卿と目を合わせた。
二人の視線には、同じ困惑が浮かんでいる。
――こんな、聞いたこともない魔道の飛行物体に乗っていいのか?
――そもそもこれは本当に安全なのか?
判断がつかなかった。
いや、正直に言えば――怖いのだ。
六十年の人生で築き上げてきた常識が、目の前で音を立てて崩れていくようだった。
「大丈夫でございますわ。落ちたりはいたしませんので」
ミーシャは、二人の動揺を見透かしたように、にっこりと微笑んだ。
その笑顔には、どこか挑発的な色が混じっているようにも見えた。
――ああ、この娘は分かっているのだ。我々が怯えていることを。
――そして、それを楽しんでいる。
田舎者の馬車を嗤ってやろうと気楽に待ち構えていたら、とんでもないものがやってきてしまった。
立場が、完全に逆転していた。
得体の知れないものには乗れない、などと言ってしまえば、嗤われるのは自分たちの方だ。それだけは、絶対に避けなければならない。
王としての矜持が、それを許さなかった。
たとえ心臓が口から飛び出しそうなほど恐ろしくても、乗る以外ない。
レスター三世は、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「……よしっ! 案内せよ!」
覚悟を決めて、一歩を踏み出す。
その額には、玉のような冷や汗が浮かんでいた。
◇
純白の機体に近づくにつれ、レスター三世の心臓の鼓動は速くなるばかりだった。
ドクン、ドクン、ドクン――。
――これは、いったい何でできているのだ?
金属のようで、金属ではない。
滑らかで、継ぎ目がなく、まるで巨大な真珠を削り出したかのような質感。
恐る恐る手を伸ばし、指先で触れてみる。
ほのかに温かい。
まるで――生きているかのように。
タラップを一段一段登りながら、彼は周囲を見回した。
鋭く張り出した翼の、未来的なフォルム。
流線型の機首は、まるで猛禽類の嘴のように鋭い。
そして、エンジンから湧き上がる熱気が、陽炎のように揺らめいている。
その熱波が頬を撫で、レスター三世は思わず顔を顰めた。
どう見ても魔道具などではない。
魔力など、みじんも感じないのだ。
むしろ機械仕掛けに近いようではあるが――そんなものが空を飛ぶ理屈が分からない。
歯車と蒸気で動く機械なら知っている。
しかし、そんなもので空を飛べるとは到底思えなかった。
人間の技術で、こんなことが可能なのか? それも冒険者たちが作った、貧民たちの国で。
信じられなかった。
信じたくなかった。
しかし、目の前の現実は、彼の常識を根底から覆していた。
六十年かけて築き上げてきた世界観が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
◇
機体の中に足を踏み入れた瞬間――。
レスター三世は、息を呑んだ。
「なんと……」
そこは、まるで宮殿の一室のようだった。
いや、宮殿以上かもしれない。
重厚な革張りのシート。
深い飴色に輝く、高級なマホガニーのインテリア。
柔らかな照明が、室内を温かく、そして優しく照らしている。
どこからともなく、心地よい音楽が流れていた。
弦楽器の調べ。
聴いたことのない旋律だが、心の奥深くに染み入るような美しさがある。
そして何より外の灼熱が嘘のように、ひんやりとした空気が肌に心地いい。
「こちらにどうぞ」
ミーシャは、優雅な仕草で席を勧めた。
レスター三世が恐る恐る腰を下ろすと、シートが彼の体型に合わせてゆっくりと沈み込んだ。
――な、なんだ、この座り心地は。
まるで雲の上に座っているかのようだ。
王宮の玉座よりも、遥かに快適である。
その贅沢さに、レスター三世は言葉を失った。
「全員乗ったか?」
不意に、ぶっきらぼうな声が響いた。
コクピットの方を見ると、金髪の少女がいた。
面倒くさそうに頭上のスイッチをパチパチと入れている。
「あと一方ですー!」
ミーシャが声を張り上げた。
「は? 誰じゃ、あの子供は?」
レスター三世は訝しげにミーシャに聞いた。
どう見ても、十歳かそこらの少女にしか見えない。
そんな子供が、この得体の知れない飛行物体を操縦するというのか?
「こ、子供じゃないです! 神に連なる者……もう数千年も生きておられます」
ミーシャの声が、どこか畏れを含んで震えた。



