次々と吹き上がる、灼熱のキノコ雲。森が燃え上がり、大地が抉れ、空気が焼ける。魔物たちが光に飲み込まれ、消えていく。断末魔の悲鳴すら上げる暇もなく、一瞬で塵と化していく。十万の魔物が、まばたきする間もなく灰になった。
あれほど恐ろしかった黒い波が、跡形もなく消え去っていく。地獄絵図が浄化され、死の行軍が終わりを告げる。邪悪な者たちの野望が、天からの裁きによって打ち砕かれていく。
レオンは、安堵の息を漏らした。
やった。間に合ったのだ。
王都は救われた。人々は助かった。子供たちの笑い声は消えず、老人たちの穏やかな日々は続く。明日を夢見る若者たちの未来は、守られた。
アルカナの想いは、無駄にならなかった。五人で誓った約束は、果たされたのだ――。
その時だった。
激しい衝撃が、レオンを襲った。
「うわあああっ!」
意識が転がり、世界が回転する。上下左右の感覚が失われ、自分がどこにいるのかも分からなくなる。
気がつけば、幽体離脱は終わっていた。
レオンは暗い牢獄の中で、冷たい石の床に転がっていた。全身が痛む。頭がガンガンする。けれど、生きている。確かに生きている。
だが、激しい揺れが全身を翻弄していた。
ゴゴゴゴゴゴ……!
地震だ。いや、地震なんてものではない。世界そのものが揺れている。クジラの墜落による衝撃波が、遺跡全体を揺るがしているのだ。地面が波打ち、壁が軋み、空気が震える。
「うわぁぁぁ!」
「キャァァァ!」
「ひぃぃぃ!」
「いやぁぁぁ!」
少女たちの悲鳴が、牢獄に木霊した。
四人とも、恐怖に震えている。いつもは勇敢な彼女たちが、まるで嵐に怯える小鳥のように身を寄せ合っていた。
あれほどの衝撃だ。それほど遠くないこの牢獄が、無事であるはずがなかった。
「しまった……」
レオンはキュッと口を結んだ。
【運命創造】で狙ったのは、魔物たちの一掃だけ。その余波で自分たちがどうなるかまでは――愚かにも、想定していなかったのだ。
ガラガラと天井の一部が崩落し、巨大な岩塊がすぐ近くに落下する。その轟音と衝撃に、少女たちがまた悲鳴を上げた。
このままでは、生き埋めにされてしまう――――。
せっかく世界を救ったというのに、こんな場所で、誰にも知られることなく。
それだけは、絶対に嫌だった。
こんなところで終わるわけにはいかない。
「ミ、ミーシャ! シールド!」
レオンは、崩れかけた床を這うようにしてミーシャの元へ辿り着くと、震える細い腕をしっかりと掴んだ。
冷たい。
氷のように、冷たい。
【運命創造】による寿命提供の影響が残っているのか、彼女の身体は芯まで冷え切っていた。いつもは温かな体温が、今はまるで感じられない。
「で、でも……」
ミーシャの空色の瞳が、不安げに揺れた。
いつもの余裕ある笑顔は、そこにはない。
「ま、まだ……魔力が……うまく……」
声が、震えている。
呼吸が、浅い。
【運命創造】の副作用から完全には回復していないようだった。
普段の彼女なら、シールドなど造作もないはず。けれど今は、魔力を引き出すことさえ難しい状態。
それでも――頼れるのは、彼女しかいなかった。
「負担をかけてゴメン」
レオンは、ミーシャの手をそっと握りしめた。
温もりを、伝えるように。
「でも、ミーシャしか頼れないんだ」
その言葉に、ミーシャの瞳が大きく揺れた。
完璧主義の彼女にとって無理筋の挑戦にはとても抵抗がある。しかし、そんなことを言っている場合ではなかった。
ゴゴゴゴゴ……!
また、激しい揺れが襲ってきた。
天井の亀裂が、蜘蛛の巣のようにみるみる広がっていく。ガラガラと、岩の破片が降り注ぐ。大きな岩塊が、今にも頭上から落ちてきそうだった。
もう、一刻の猶予もない。
「わ、分かったわ……」
ミーシャは、覚悟を決めたように頷いた。
その瞳に、いつもの芯の強さが戻ってくる。
「やってみる……」
震える両手を、天に向けて掲げる。
白い僧衣の袖がはらりと落ち、細い腕があらわになった。その指先から、淡い黄金色の光が滲み出る。
しかし――。
それは、あまりにも弱々しかった。
いつもの張りも輝きもない。まるで、風に揺れる蝋燭の炎のように、今にも消えそうな儚い光。
それでも、ミーシャは必死に魔力を絞り出そうとしていた。
歯を食いしばり、全身に力を込めて。
仲間のために、夫、レオンのために。
苦悶の表情が、その美しい顔を歪める。
額に脂汗が浮かび、金色の髪が汗で張り付いている。
それでも、シールドは完成しない。
魔力が足りないのだ。
「やっぱり無理かも……っ。くぅぅぅ……っ」
天井の亀裂が、ビシビシと不吉な音を立てて広がっていく。
このままでは全員、ここで押し潰されてしまう――――。
あれほど恐ろしかった黒い波が、跡形もなく消え去っていく。地獄絵図が浄化され、死の行軍が終わりを告げる。邪悪な者たちの野望が、天からの裁きによって打ち砕かれていく。
レオンは、安堵の息を漏らした。
やった。間に合ったのだ。
王都は救われた。人々は助かった。子供たちの笑い声は消えず、老人たちの穏やかな日々は続く。明日を夢見る若者たちの未来は、守られた。
アルカナの想いは、無駄にならなかった。五人で誓った約束は、果たされたのだ――。
その時だった。
激しい衝撃が、レオンを襲った。
「うわあああっ!」
意識が転がり、世界が回転する。上下左右の感覚が失われ、自分がどこにいるのかも分からなくなる。
気がつけば、幽体離脱は終わっていた。
レオンは暗い牢獄の中で、冷たい石の床に転がっていた。全身が痛む。頭がガンガンする。けれど、生きている。確かに生きている。
だが、激しい揺れが全身を翻弄していた。
ゴゴゴゴゴゴ……!
地震だ。いや、地震なんてものではない。世界そのものが揺れている。クジラの墜落による衝撃波が、遺跡全体を揺るがしているのだ。地面が波打ち、壁が軋み、空気が震える。
「うわぁぁぁ!」
「キャァァァ!」
「ひぃぃぃ!」
「いやぁぁぁ!」
少女たちの悲鳴が、牢獄に木霊した。
四人とも、恐怖に震えている。いつもは勇敢な彼女たちが、まるで嵐に怯える小鳥のように身を寄せ合っていた。
あれほどの衝撃だ。それほど遠くないこの牢獄が、無事であるはずがなかった。
「しまった……」
レオンはキュッと口を結んだ。
【運命創造】で狙ったのは、魔物たちの一掃だけ。その余波で自分たちがどうなるかまでは――愚かにも、想定していなかったのだ。
ガラガラと天井の一部が崩落し、巨大な岩塊がすぐ近くに落下する。その轟音と衝撃に、少女たちがまた悲鳴を上げた。
このままでは、生き埋めにされてしまう――――。
せっかく世界を救ったというのに、こんな場所で、誰にも知られることなく。
それだけは、絶対に嫌だった。
こんなところで終わるわけにはいかない。
「ミ、ミーシャ! シールド!」
レオンは、崩れかけた床を這うようにしてミーシャの元へ辿り着くと、震える細い腕をしっかりと掴んだ。
冷たい。
氷のように、冷たい。
【運命創造】による寿命提供の影響が残っているのか、彼女の身体は芯まで冷え切っていた。いつもは温かな体温が、今はまるで感じられない。
「で、でも……」
ミーシャの空色の瞳が、不安げに揺れた。
いつもの余裕ある笑顔は、そこにはない。
「ま、まだ……魔力が……うまく……」
声が、震えている。
呼吸が、浅い。
【運命創造】の副作用から完全には回復していないようだった。
普段の彼女なら、シールドなど造作もないはず。けれど今は、魔力を引き出すことさえ難しい状態。
それでも――頼れるのは、彼女しかいなかった。
「負担をかけてゴメン」
レオンは、ミーシャの手をそっと握りしめた。
温もりを、伝えるように。
「でも、ミーシャしか頼れないんだ」
その言葉に、ミーシャの瞳が大きく揺れた。
完璧主義の彼女にとって無理筋の挑戦にはとても抵抗がある。しかし、そんなことを言っている場合ではなかった。
ゴゴゴゴゴ……!
また、激しい揺れが襲ってきた。
天井の亀裂が、蜘蛛の巣のようにみるみる広がっていく。ガラガラと、岩の破片が降り注ぐ。大きな岩塊が、今にも頭上から落ちてきそうだった。
もう、一刻の猶予もない。
「わ、分かったわ……」
ミーシャは、覚悟を決めたように頷いた。
その瞳に、いつもの芯の強さが戻ってくる。
「やってみる……」
震える両手を、天に向けて掲げる。
白い僧衣の袖がはらりと落ち、細い腕があらわになった。その指先から、淡い黄金色の光が滲み出る。
しかし――。
それは、あまりにも弱々しかった。
いつもの張りも輝きもない。まるで、風に揺れる蝋燭の炎のように、今にも消えそうな儚い光。
それでも、ミーシャは必死に魔力を絞り出そうとしていた。
歯を食いしばり、全身に力を込めて。
仲間のために、夫、レオンのために。
苦悶の表情が、その美しい顔を歪める。
額に脂汗が浮かび、金色の髪が汗で張り付いている。
それでも、シールドは完成しない。
魔力が足りないのだ。
「やっぱり無理かも……っ。くぅぅぅ……っ」
天井の亀裂が、ビシビシと不吉な音を立てて広がっていく。
このままでは全員、ここで押し潰されてしまう――――。



