月はきっと、星を願う

あの後、6月にあった生徒会選挙で北野くんは無事当選し、今月7月から生徒会長に就任した。

そしてわたしはずっと『選ばれていない』と信じている。
でも、不可解なことが起こるようになっては、いた。
毎回風が吹くと、そのときの誕生星座が見えた。めまいがすると、より鮮明に見えた。
夜には月と太陽、両方が見える。北極星が動いたりする。








_______でも全部、見えないふりをしている。



三ヶ月たった今、私は神楽ちゃんと北野くんと澄井くん。4人で一緒にいる。

「天河。これ、書類」

澄井くんがそう言って、数枚の紙を差し出してくる。

「え?」

「部活設立に必要な書類。これの項目、全部埋めたら北野に渡しな。」

「……ありがとう」

受け取りながら、少しだけ視線を落とす。

(天文学部、か……)

澄井くんが書いたんだろう。部活の正式名称記入の部分に『天文学部』と書かれている。
 
不思議だった。好きなはずなのに。

今は、『天文学』っていうこの言葉を見るだけで胸がざわつく。

「どうしたの?」

神楽ちゃんが顔を覗き込んでくる。

「いや………なんか実感なくて」

適当に笑ってごまかす。

「まぁでも星ちゃんっぽいよね」

「そう?」

「うん。星ちゃんってあんまガツガツしてないじゃん?どちらかと言うと…一歩後ろから客観視してる感じ?」

「あーたしかに、わかる」

軽さの中に真剣がある神楽ちゃんとそれに同意する澄井くん。

ここ数ヶ月一緒にいて分かった。
神楽ちゃんはTHE女の子のようなお嬢様。明るくて、社交的。
澄井くんは一番普通というか、誰とでも分け隔てなく仲良くしてる。そして、情報の整理が上手。
北野くんは言葉数が少ないけど、仲間思い。超絶現実主義者。なんというか非科学的だし証明できないものは信じない。
 

「そうなのかな?あんま自分のこと、分からないや」

そう言って適当に笑う。

 

「天河」
 
「お、生徒会長のお出ましじゃーん」

「うっせー、ちょ、澄井黙ってろ」

振り向くと、教室の後ろのドアのところから晴月くんがこちらに向かって歩いていた。
 

「それ、早めに出しとけよ」 

目線で、書類を指す。

「うん」

短く返事をする。

それだけの、何でもない会話。

なのに。

 

 






__________ドクン。

 







 

また、心臓が鳴る。無意識に、視線を逸らす。



今回は窓の外を見なかった。

詰めていた息を吐き出す。

「あと」

足音が近づく。

「顔色、まだ悪い」


そして下に向けていた顔を、北野くんが手で上を向けせる。

これ顎くいじゃん…

「……平気だってば」

手を避け、赤い顔を隠すようにまた下を向く。

「平気なやつはそういう顔しねーよ」

少しだけ、ため息混じりに言う。



「……ほっといてよ」

 

ぽつりと、漏れる。


一瞬、空気が止まる。

神楽ちゃんと澄井くんが、驚いた顔でこっちを見る。


 
あ、言いすぎた。
 



そう思った瞬間___

 

「無理」



即答だった。

「は……?」

思わず顔を上げ、声を漏らす。

「ほっといたら倒れそうなやつを放置できるほど、俺、性格悪くねーから」

さらっと言う。

いつも通りの、普段の会話のように。









__________でも

 

 








なんで、なんで…………こんなに、響くの。

そのとき。

 

 

____ふわっ。

 

 

また、風が吹いた。反射的に、空を見る。

「……っ」

見えた。 

蟹座。
真ん中の台形をベースに、3本の線が伸びた形状。7個の星、全部が暗い星で、一番明るい星は3.5等星のタルフ。

控えめに、でも確かにそこにある。

 

 

 

そして

 

 




その光の奥に。

 

 




一瞬だけ。

 

 

 

“倒れている誰か”が、見えた。

 

 

 

「――っ!!」

 

 

思わず、息を呑む。

 

 

 

違う_______________

 

 

違う違う違う































____________絶対に、違う。

 


見たくない。考えたくない。

違う。絶対、絶対違う…。

 

 

 

「天河!」

腕を掴まれる。 

「、っ!」
 
思いっきり息を飲み込む。

そして、現実に引き戻される。


「……大丈夫か」

 


その声で。その顔で。

 






認めたくはない。
 


でも、もう、はっきりと分かってしまった。

 

 

 

さっき見えた『誰か』が___

誰だったのか。

















『私の大切な人が誰なのか』

















身体も、声も、私の全部が、震える。

それでも。

 

「……大丈夫」



無理やり、笑った。

「ほんとに、なんでもないから」

見えないふりをする。知らないふりをする。

でも…もう無理だ。

喉の奥が、ぎゅっと締まる。さっき見えた光景が、頭から離れない。

あんなの、絶対に。






嫌。








私がやるべきなのは、きっと、大切な人を死なせないこと。


だから、自分がしんどくてもやらないと。