月はきっと、星を願う

「俺ちょっとせんせーんとこ行ってくるわ」

「あ私も、ちょっと隣のクラスの子と話してくるー」

そう言って、澄井くんと神楽ちゃんが教室を出ていって、私と北野くんだけが残った。


「天河」

不意に名前を呼ばれる。

顔を上げると、北野くんがこちらを見ていた。

「お前がやりたいって言ったんだろ」

「う、うん」

「じゃあいいじゃん。遠慮すんな」

それだけ言って、視線を逸らす。

そっけないのに、不思議と冷たくはなかった。

むしろ、少しだけ、安心した。

その瞬間だった。

 












_________ぐらり。



















 

視界が、思いっきり揺れた。

「……っ」

思わず目をぐっと瞑る。そして、心臓が大きく跳ねる。

反射的に窓の外を見る。


「また……?」 


青空。

雲ひとつない、普通の空。

 

なのになんで…

 

「見えるの…」

小さく呟く。

見間違いなんかじゃない。ちゃんと見えた。

 

牡羊座。 

「おい、大丈夫か?」

気づけば、晴月くんが私の背中をさすり、すぐ隣でしゃがみ込んでいた。 

「顔色、悪いぞ」



近い。思ったよりもずっと近くて、思わず息を呑む。
北野くんって、顔がめちゃくちゃ整っている。きれいな鼻筋、健康的に焼けた肌の色、奥二重のライン。

「あ、いや……ちょっとぼーっとしてただけ」

赤い顔とさっきのめまいを隠すように誤魔化す。

「ほんとか?」

じっと見られる。

「……無理すんなよ」

ぽつりと、それだけ言う。 

「うん」

短く返事をする。

でも、その時。

 




____ドクン。

胸が、大きく鳴った。

 

この感じ……知っている。

 

でも、いつ?どこで?

思い出そうとした瞬間―― 

頭の奥に、ノイズみたいなものが走った。

 

 

____『晴月君!目覚ましてよ!』____

 

 

「っ……!」

 

思わず息を止める。



今の……なに?

 

気づけば、手が震えていた。

 

「天河?」

 

「……ごめん、ちょっと、外の空気、吸ってくる」

 

それだけ言って、席を立つ。

教室を出て、廊下に出た瞬間。

一気に息を吐いた。

「……なに、あれ」

壁にもたれかかる。

さっきの声。

あれは______私の声……?

そのとき。

「見えてるんだろ」

背後から、低い声がした。振り返ると…
 
「衣笠、先生……」

先生は、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

そして、私の前で立ち止まった。

「どうせ空になんか見えているんだろ。そうだな…星とか?」

短く、それだけ言う。

心臓が、跳ねる。

「……なんのこと、ですか」

しらばっくれる。自分でもわかるくらい、声が震えている。

先生は、小さくため息をついた。

「やっぱりな。名前見た時に思ったんだよ。」

そう呟いてから、まっすぐ私を見る。

「天河星。お前は、選ばれたんだよ」

その言葉で。

すべてが、音を立てて崩れ落ちた気がした。

朝から起こったこと。神楽ちゃんたちから聞いたこと。もしかしたらって、思った。でも、そう思いたくなかった。

でも、もうこれは抗えないんだ。受け入れるしか、ないんだ。

でも私は信じたくなかった。だからまた、しらばっくれた。

「なににですか?選ばれてなんて、ないですよ私。」

「何があっても知らないからな。忠告はした。」

そう言って、衣笠先生は歩いていった。次の日、衣笠先生が退職したと新しい担任の先生から報告を受けた。