月はきっと、星を願う

「星ーー!起きなさいーーー!!!!!遅刻するわよー!」

「ん…分かってる…」


眠そうに、隣にいて、かろうじて聞こえるかどうかという大きさの声で返事をする。


1階のリビングに居る母に、2階の自室にいる私_____天河星の声は届いてるのだろうか。

ま、十中八九聞こえていないだろう。



カーテンの隙間から差し込む春の日差しが眩しくて、布団を頭まで被る。
ふぅっと息を漏らし、起き上がる。




今日から高校1年生。





3ヶ月前までは受験があったから、朝早く起きて勉強していたのに、今では全く起きられない。
ほんと、受験の時ってがむしゃらだったもんなぁ。


部屋に置いていた、新しい制服に袖を通す。


まだ少し硬いシャツの感触に違和感を覚えながら、鏡の前でリボンを付ける。

私の進学する学校…華樹園(かじゅぞの)学園高等部を第一志望にしたのは、制服がめちゃくちゃ可愛いから!

まぁ、元々50を切っていた私の偏差値からは手が届くか危うい学校だったんだけど、死に物狂いで勉強して、偏差値を15くらい伸ばして、合格することが出来た。




紫色に紺色のストライプが入った少し大きめのリボン、紺色のブレザー、紫色とピンク色の混ざった漫画のようながチェック柄のスカート。






「可愛い…受験勉強頑張って本当によかった」




小さく呟いて、鞄を手に取る。

階段を降りると、キッチンからいい匂いが漂ってきた。焼きたてのトーストと、私の大好きな砂糖たっぷりの甘い紅茶の香り。

「やっと起きたのね。もう時間ギリギリよ?」

母は呆れたように言いながらも、テーブルに朝食を並べてくれている。

「ごめんって…」

椅子に座り、「いただきます」と言って、急いでトーストをかじる。サクッという音と一緒に、少しだけ現実味が増していく。

(高校生、か…)

まだ実感がない。

でも、胸の奥が少しだけざわついているのは確かだった。

期待と、不安と、ほんの少しの緊張。



「友達、できるといいわね」



不意に母がそう言って、私は思わず顔を上げた。



「…うん」



短く返事をする。

人と話すのが苦手なわけじゃないし、どちらかというと得意な気がする。

それでも、新しい環境、新しいクラス、新しい人たち。

うまくやれるだろうか。

そんなことを考えているうちに、時計の針は止まることを知らず、無情にも進んでいく。

「ほら、もう行きなさい!」

「やばっ」

時計を見ると、もう間に合うのがギリギリの時刻だった。慌てて紅茶を飲み干し、鞄を掴んで玄関へ向かう。

靴を履きながら、深呼吸をひとつ。

ドアノブに手をかける。





___その瞬間。






胸の奥のざわめきが、少しだけ大きくなった気がした。

「いってきます!」

勢いよく扉を開けると、春の風が頬を撫でる。

そして、空を見上げると、ほんの一瞬だけ___






































見えるはずのない『牡羊座』が見えた気がした。






































「……え?」

思わず声が漏れる。

もう一度確かめるため、空を見上げてみると、ただの澄んだ青空ときれいな太陽だけだった。





気のせい、だよね。






そう思っていても、胸のざわめきは消えなかった。



あれは牡羊座。
10月とか秋の南の空高くで見れる星座。
2等星の『ハマル』が一番輝いていて、ひらがなの『へ』を逆さまにしたような形。

星座とか天文学は、小学校の頃、理科の授業で習って以来、ずっと大好きだ。













___だから見間違えるなんてないはず。
















さっきとは別の意味で胸がざわざわしているような、不思議な気持ちを取り払うように、真新しいローファーで走り出す。






走りながら少し考える。





そもそも今は太陽が出ている日中。
星なんて見えるわけない。そもそも牡羊座が4月に見れるはずない。
だって、誕生星座はその月には見れないんだもん。

仮に見えるとしても、夜の暗闇で見つけづらい牡羊座が、見えるわけない。







気のせいでしょ。浮かれてるんだよ、私。









まだもやもやしているけど、無理やり自分を納得させた。