月はきっと、星を願う

スマホが鳴ったのは、夜だった。

「……はい」

嫌な予感しかしなかった。


『北野晴月さんの様態が急変しました。至急、病院の方へ』


それだけで、すべてが分かった気がした。

「……っ」

言葉が出ないまま通話が切れる。

体が勝手に動いた。

コートも着ずに、靴だけ履いてスマホだけ持ち、親にさえ声をかけず、外に飛び出す。

夜の空気が冷たい。

でも、それすら感じない。







違う
















____________________違う違う違う











頭の中で、それだけが繰り返される。

タクシーを止める手が震える。

声がうまく出ない。

「病院まで……できるだけ早くお願いします……!」

自分の声じゃないみたいだった。

車が動き出す。

窓の外の景色が流れていく。

その全部が遠い。















まだ大丈夫、大丈夫。




















誰に向けてもない言い訳を繰り返す。

でも、胸の奥のざわめきだけは消えない。むしろ、強くなる。

病院に着いた瞬間、走った。


「晴月くんは……!」


息が切れているのに、止まれない。

前にお見舞いに来た病棟に着き、看護師が一瞬、顔を曇らせる。

「……こちらです」

案内される廊下が、やけに長い。

足音が響く。





やだ。







____________________やだやだやだ。









角を曲がる。

そこに、扉の前で立ち尽くす神楽と澄井くんがいた。

「星……」

神楽ちゃんの声が震えている。

それだけで、限界だった。

「……嘘」

それしか出てこない。

「ねぇ、嘘でしょ……?」

誰も答えない。

神楽が下を向き、澄井くんが、目を逸らす。

その瞬間、すべてが崩れた。

「入っていいですよ……」

病室から医師が出てきて、声をかけられた。

足が、動かない。

でも、動かないといけないことは分かっていた。

ドアに手をかける。重い。

ゆっくり、開く。

白い光。機械音。

そして、ベッドの上にいる、晴月くん。

前に来た時と何も変わらないはずなのに、なぜか、『もう戻らない』と分かってしまう静けさだった。

「……っ」

息が止まって、足が崩れる。

「晴月……くん」

ぼやけた視界で一歩、また一歩と近づく。そして、手を握る。

冷たい。

でも、まだ完全には離れていない温度。

「ねぇ、ねぇってば!晴月君!目覚ましてよ!」

返事はない。

モニターの音が一拍ずつ、ゆっくりになる。


ピッ……
ピッ……


「晴月君が私の我が儘に付き合ってくれて、生徒会長になってくれて、部活承認してくれて、天文学部。やっと設立できたんだよ?
なのに、なのに、なのになんで…」

なんでこんなにも、好きになってしまったんだろう。


「ねぇ、晴月君!目覚ましてよ!晴月君!」

病室に、叫び声が響く。

「晴月くん!!!!!!!!!!」