湘南の海は、俺の日常の傍にあった。
神奈川県平塚市。JR平塚駅から舗装された道をまっすぐ南へ下ると、俺たちが通う高校を過ぎたあたりで潮の匂いがぐっと濃くなり、相模湾が静かに姿を現す。
クラスメイトとの放課後サイゼの代わりに、俺はこの景色を手に入れた。
「どうせ今頃、俺の話で笑ってるんだろうな」
夜の海に慰められに来たわけではないが、なんとなく、ここはなにかを吐き出すのに手頃な場所だった。
イヤホン越しにも聞こえてくる波の音。音楽を流す気にすらならなかった今日は、そのぶん、転校生の昼間の言葉が頭の中で何度も繰り返された。
――『お前、よんごーもんじゃな』
気になって調べてみると、〝ひねくれもん〟という意味らしい。
そうか、ひねくれてたか。そんなつもりはなかったんだけどな。
なんであれ、卒業まであと一年。そう考えれば多少のことを言われたってスルーが正解だ。
卒業後はきっと近場の大学に進学する。そこでまた誰かと関わることもあるのだろうが、高校ほど距離の近い関係というのはこの先そうそうあるまい。
それでも入学式はこのデカさのせいで目立ってしまうんだろうな。そんなことを考えながらスマホをいじり、暗闇の中、画面からの光を顔に浴びていた。
さて。そろそろお待ちかね、『ギャラハン』のランクアップの時間だ。
ランクが90を超えると次のランクアップに必要な経験値が実にエグさを増す。途端にやり込みゲーと化し、エンジョイ勢を容赦なく振り落としていくのがこのギャラハンの流儀だ。
しかしこの矢壁、まだ落ちん。次のランクアップに向けて最後の冒険を始めようとした、その時だった。
「レベル95? お前、なーんが『ほどほど』やっちゅが」
いつの間にか背後にいた大男が、俺のスマホを後ろから覗き込んでいた。
「……え」
「はぁ、しかしここにおったんか。華の高校生が夜ん海でひとりゲームとは、こりゃ寂しかなぁ」
そう言った男は、俺の座っていた階段の隣へと歩み寄り、どっかりと腰を下ろした。
「転校生……お前、放課後サイゼに行ったんじゃ」
「放課後サイゼ? ああ、ガストには行ってきた。んで、寄り道」
もう放課後からずいぶん時間がすぎていた。
夢中になるといつもこうだ。時間が波にさらわれてしまったような。
スマホをポケットにしまったところで、転校生はさっきの俺の発言を掘り起こしていた。
「てかサイゼて。駅から遠くね? 学校から反対だし、だいぶ歩くっつか」
「確かに……」
そういえば俺はなぜサイゼにこだわっていたのだろうか。
それはきっと、俺が入りたかったグループがいつもサイゼを使っていたから。しかし彼らは「属性が違う」だか妙な理由でガストを避け、いつも駅から遠いサイゼを使っていた気がする。
いや、別に放課後ガストでもいいよなと、考え込んでいるうちに転校生は笑っていた。
「ぶはっ、なんだか宇宙見てるみたいだな」
「? ここの景色のことか? 確かに静かだけど」
「そういう意味じゃないっつの」
転校生はそう言うと、もう一度笑っていた。
今度はガマンできなかったように、もう少し大きな声を上げて。
「やっぱ矢壁くんのこと、気になるわ」
なんなんだ、こいつは。
すると転校生がふいに立ち上がり、帰ってくれるのかと思えば、少し離れたところからなにかをワンバウンドで投げてきた。
バスケットボール。
平塚のこの海岸には、昔から設置されている小さなバスケコートがある。
転校生がゴール下に突っ立ったまま俺の方を見ていると、それはまるで手招きしているようで、奴がなにをしようとしているのかがなんとなく伝わった。
「……バスケはもうしない」
「五本先取。負けたら矢壁くん、オレのこといい加減『転校生』以外で呼んでな?」
「だからしないっつの」
「オレが勝ったら矢壁くんのこと、『佐之助』って呼ぶから」
「は? 下の名前で呼ぶとかアメリカかよふざけんな」
転校生がまた笑う。
こいつ、俺を見て笑ってばっかりだ。やはり気に食わん。
しかし俺は大人。どうせこの転校生は早速仲良くなったクラスメイトとなにか盛り上がって、そのノリでここまでやってきたんだろう。
転校初日、最もハメを外しやすい時期だ。ああ、構わん構わん。その勢いで酒でもタバコでも初めてSNSに投稿して炎上してくれ。
そう思って転校生を無視して帰ろうとしたところ――。
「なんだ。負けたら怖いって顔してるな、矢壁くん」
転校生がボールを夜空へ向けて放り、綺麗な放物線が浮かんだ。
それに見惚れることもなく、俺の足は地面を蹴り出していた。
◇
中学三年の夏。同じバスケ部の仲間をケガさせてしまった。
三年最後の大会に向け、部内の紅白戦が盛り上がっていた時のことだ。
ずっとレギュラーとしてチームを引っ張っていたそいつをマークしたのは、背が伸び始めていろいろな意味で目立っていた俺だった。
どこか力の入れどころを間違えてしまったのだろう。ゴール下で本気でボールを奪いに挑むと、着地の瞬間に足裏にイヤな感触が走った。
そこには、仲間の折れ曲がった足があったんだ。
それからだ。ほどほどでいい、なんて願うようになったのは。
「……シッ!」
ボールを持った転校生が俺の横を抜け、一瞬感じる息づかい。当時の俺を呼び起こすに十分な火種だ。
どん、と重い音が響くと、床には突き飛ばされた転校生のデカい身体が転がっていた。
「痛ェ〜〜〜〜っ!」
うずくまった転校生。
それでも、そいつはジェットコースターを降りたばかりの子どものようにはしゃいでいた。
「はぁ、はぁっ……佐之助、体幹、バッカ強よ……ッ! まじかよ……!」
「おい、勝手に俺を下の名前で呼ぶな。まだ勝ってないだろ」
「あと一本でオレの勝ちなんだ、もうその名前は実質オレのもんだ」
「あげる約束はしてねぇっつの……っふぅ」
おかしいな、背が伸びる前からワン・オン・ワンは得意な方だったんだが。
転校生はといえば、朝礼で見せた柔らかい笑顔を今やすっかり忘れたようだった。
「次だ、次」
「だったら早くボール渡せ」
ワンバウンドしたボールを受け取る。
今度は俺が攻める番だ。奴はあと一本。かたや俺はあと二本。
別に名前のことなんてどうでもいいが、なんとなく、転校生に負けるのだけは癪だった。
どう攻めようかと考えていると、向かいで息を荒くした転校生が口を開く。
「やっぱりオレの勘はよくあたる」
「は?」
「なにが〝ほどほど〟だ。バスケは中学で辞めたって聞いたけど、その動きはずっとやってないとできんわな。オレも経験者だから分かる」
「…………」
「ここで黄昏てたのは、海があるからじゃない。バスケコートがあるからだ」
こいつ、俺がバスケコートで練習しているところまで見ていたのか。
転校生の方がよっぽど面倒な奴じゃないか。舌打ちが漏れたと同時に、ふと、手からボールが離れた。
早く決着をつけたいという焦りが無意識に身体を急かしたらしい。
転校生は、その一瞬を待っていた。
「おおっと! 惜しい!」
伸びてきた手を見て咄嗟に後ろに下り、かろうじてボールを奪われずに済んだ。
ダン、ダン、とボールが地面を叩く音が、夜の海へ向かって伸びていく。
「っぶねぇ……」
「ははっ。やっぱ〝ほどほど〟なんかじゃなくて、ガチる方が好きなんだろ? だったらその捻くれたとこ、ちょっと直した方がいいぞー」
「……うるせぇよ、お前こそ猫かぶってんだろが」
「お?」
「なにクラスで媚びへつらってんだよ。くっそ寒いネタ披露してまで、そんなクラスの仲間になりたかったのか? デカいクセして必死なのが見え見えなんだわ」
わざわざ言ってやろうと思っていたことではない。だけど転校生に好き放題言われて、言い返せないことの方がイヤだった。
俺とて息が荒い。それはこの運動のせいか、それとも緊張のせいか。
「やっぱお前、『よんごーもん』じゃ」
転校生がぐっと腰を落として構える。
こいつには絶対に負けられない。
身体を低くしてドリブルを始めると、転校生はそれよりさらに低い姿勢で食らいついてくる。
転校生の呼吸とぶつかった。並走。ゴールまでの短い距離を、ほとんど肩を並べるように進む。それでも、このままレイアップで強引にねじ込める。そんな確信めいた自信があった。
踏み切り足に力を込め、地面を蹴る。コートがわずかに沈んだような感覚のあと、身体がふわりと持ち上がった。
飛翔。リングへ向かって突っ込んでいく、その瞬間――。
転校生の額が、俺の額にゴチンとぶつかった。
……やってしまった。俺は石頭だから構わないが、転校生は今頃地獄の苦しみだろう。
悪いことをしてしまった。そう思ったその時。
目を開け、視界に映っていたのは〝俺〟だった。
――俺が、俺を見ている。
さっきまであったゴールのリングは視界のどこにも見当たらない。
代わりに広がっているのは、さっきまで俺たちが座っていた階段と、その向こうに広がる真っ黒い海。
は…………?
着地。
しかし尻餅をつき、ボールがぽすん、ぽすんと床を跳ねて転がっていく。
転校生はそれを追おうともしない。
いや、そもそも転校生はどこへいった――。
そう思って視線を自分の手元へ落とす。
そこにある大きな手は、俺のものではなかった。
転校生の手だった。
神奈川県平塚市。JR平塚駅から舗装された道をまっすぐ南へ下ると、俺たちが通う高校を過ぎたあたりで潮の匂いがぐっと濃くなり、相模湾が静かに姿を現す。
クラスメイトとの放課後サイゼの代わりに、俺はこの景色を手に入れた。
「どうせ今頃、俺の話で笑ってるんだろうな」
夜の海に慰められに来たわけではないが、なんとなく、ここはなにかを吐き出すのに手頃な場所だった。
イヤホン越しにも聞こえてくる波の音。音楽を流す気にすらならなかった今日は、そのぶん、転校生の昼間の言葉が頭の中で何度も繰り返された。
――『お前、よんごーもんじゃな』
気になって調べてみると、〝ひねくれもん〟という意味らしい。
そうか、ひねくれてたか。そんなつもりはなかったんだけどな。
なんであれ、卒業まであと一年。そう考えれば多少のことを言われたってスルーが正解だ。
卒業後はきっと近場の大学に進学する。そこでまた誰かと関わることもあるのだろうが、高校ほど距離の近い関係というのはこの先そうそうあるまい。
それでも入学式はこのデカさのせいで目立ってしまうんだろうな。そんなことを考えながらスマホをいじり、暗闇の中、画面からの光を顔に浴びていた。
さて。そろそろお待ちかね、『ギャラハン』のランクアップの時間だ。
ランクが90を超えると次のランクアップに必要な経験値が実にエグさを増す。途端にやり込みゲーと化し、エンジョイ勢を容赦なく振り落としていくのがこのギャラハンの流儀だ。
しかしこの矢壁、まだ落ちん。次のランクアップに向けて最後の冒険を始めようとした、その時だった。
「レベル95? お前、なーんが『ほどほど』やっちゅが」
いつの間にか背後にいた大男が、俺のスマホを後ろから覗き込んでいた。
「……え」
「はぁ、しかしここにおったんか。華の高校生が夜ん海でひとりゲームとは、こりゃ寂しかなぁ」
そう言った男は、俺の座っていた階段の隣へと歩み寄り、どっかりと腰を下ろした。
「転校生……お前、放課後サイゼに行ったんじゃ」
「放課後サイゼ? ああ、ガストには行ってきた。んで、寄り道」
もう放課後からずいぶん時間がすぎていた。
夢中になるといつもこうだ。時間が波にさらわれてしまったような。
スマホをポケットにしまったところで、転校生はさっきの俺の発言を掘り起こしていた。
「てかサイゼて。駅から遠くね? 学校から反対だし、だいぶ歩くっつか」
「確かに……」
そういえば俺はなぜサイゼにこだわっていたのだろうか。
それはきっと、俺が入りたかったグループがいつもサイゼを使っていたから。しかし彼らは「属性が違う」だか妙な理由でガストを避け、いつも駅から遠いサイゼを使っていた気がする。
いや、別に放課後ガストでもいいよなと、考え込んでいるうちに転校生は笑っていた。
「ぶはっ、なんだか宇宙見てるみたいだな」
「? ここの景色のことか? 確かに静かだけど」
「そういう意味じゃないっつの」
転校生はそう言うと、もう一度笑っていた。
今度はガマンできなかったように、もう少し大きな声を上げて。
「やっぱ矢壁くんのこと、気になるわ」
なんなんだ、こいつは。
すると転校生がふいに立ち上がり、帰ってくれるのかと思えば、少し離れたところからなにかをワンバウンドで投げてきた。
バスケットボール。
平塚のこの海岸には、昔から設置されている小さなバスケコートがある。
転校生がゴール下に突っ立ったまま俺の方を見ていると、それはまるで手招きしているようで、奴がなにをしようとしているのかがなんとなく伝わった。
「……バスケはもうしない」
「五本先取。負けたら矢壁くん、オレのこといい加減『転校生』以外で呼んでな?」
「だからしないっつの」
「オレが勝ったら矢壁くんのこと、『佐之助』って呼ぶから」
「は? 下の名前で呼ぶとかアメリカかよふざけんな」
転校生がまた笑う。
こいつ、俺を見て笑ってばっかりだ。やはり気に食わん。
しかし俺は大人。どうせこの転校生は早速仲良くなったクラスメイトとなにか盛り上がって、そのノリでここまでやってきたんだろう。
転校初日、最もハメを外しやすい時期だ。ああ、構わん構わん。その勢いで酒でもタバコでも初めてSNSに投稿して炎上してくれ。
そう思って転校生を無視して帰ろうとしたところ――。
「なんだ。負けたら怖いって顔してるな、矢壁くん」
転校生がボールを夜空へ向けて放り、綺麗な放物線が浮かんだ。
それに見惚れることもなく、俺の足は地面を蹴り出していた。
◇
中学三年の夏。同じバスケ部の仲間をケガさせてしまった。
三年最後の大会に向け、部内の紅白戦が盛り上がっていた時のことだ。
ずっとレギュラーとしてチームを引っ張っていたそいつをマークしたのは、背が伸び始めていろいろな意味で目立っていた俺だった。
どこか力の入れどころを間違えてしまったのだろう。ゴール下で本気でボールを奪いに挑むと、着地の瞬間に足裏にイヤな感触が走った。
そこには、仲間の折れ曲がった足があったんだ。
それからだ。ほどほどでいい、なんて願うようになったのは。
「……シッ!」
ボールを持った転校生が俺の横を抜け、一瞬感じる息づかい。当時の俺を呼び起こすに十分な火種だ。
どん、と重い音が響くと、床には突き飛ばされた転校生のデカい身体が転がっていた。
「痛ェ〜〜〜〜っ!」
うずくまった転校生。
それでも、そいつはジェットコースターを降りたばかりの子どものようにはしゃいでいた。
「はぁ、はぁっ……佐之助、体幹、バッカ強よ……ッ! まじかよ……!」
「おい、勝手に俺を下の名前で呼ぶな。まだ勝ってないだろ」
「あと一本でオレの勝ちなんだ、もうその名前は実質オレのもんだ」
「あげる約束はしてねぇっつの……っふぅ」
おかしいな、背が伸びる前からワン・オン・ワンは得意な方だったんだが。
転校生はといえば、朝礼で見せた柔らかい笑顔を今やすっかり忘れたようだった。
「次だ、次」
「だったら早くボール渡せ」
ワンバウンドしたボールを受け取る。
今度は俺が攻める番だ。奴はあと一本。かたや俺はあと二本。
別に名前のことなんてどうでもいいが、なんとなく、転校生に負けるのだけは癪だった。
どう攻めようかと考えていると、向かいで息を荒くした転校生が口を開く。
「やっぱりオレの勘はよくあたる」
「は?」
「なにが〝ほどほど〟だ。バスケは中学で辞めたって聞いたけど、その動きはずっとやってないとできんわな。オレも経験者だから分かる」
「…………」
「ここで黄昏てたのは、海があるからじゃない。バスケコートがあるからだ」
こいつ、俺がバスケコートで練習しているところまで見ていたのか。
転校生の方がよっぽど面倒な奴じゃないか。舌打ちが漏れたと同時に、ふと、手からボールが離れた。
早く決着をつけたいという焦りが無意識に身体を急かしたらしい。
転校生は、その一瞬を待っていた。
「おおっと! 惜しい!」
伸びてきた手を見て咄嗟に後ろに下り、かろうじてボールを奪われずに済んだ。
ダン、ダン、とボールが地面を叩く音が、夜の海へ向かって伸びていく。
「っぶねぇ……」
「ははっ。やっぱ〝ほどほど〟なんかじゃなくて、ガチる方が好きなんだろ? だったらその捻くれたとこ、ちょっと直した方がいいぞー」
「……うるせぇよ、お前こそ猫かぶってんだろが」
「お?」
「なにクラスで媚びへつらってんだよ。くっそ寒いネタ披露してまで、そんなクラスの仲間になりたかったのか? デカいクセして必死なのが見え見えなんだわ」
わざわざ言ってやろうと思っていたことではない。だけど転校生に好き放題言われて、言い返せないことの方がイヤだった。
俺とて息が荒い。それはこの運動のせいか、それとも緊張のせいか。
「やっぱお前、『よんごーもん』じゃ」
転校生がぐっと腰を落として構える。
こいつには絶対に負けられない。
身体を低くしてドリブルを始めると、転校生はそれよりさらに低い姿勢で食らいついてくる。
転校生の呼吸とぶつかった。並走。ゴールまでの短い距離を、ほとんど肩を並べるように進む。それでも、このままレイアップで強引にねじ込める。そんな確信めいた自信があった。
踏み切り足に力を込め、地面を蹴る。コートがわずかに沈んだような感覚のあと、身体がふわりと持ち上がった。
飛翔。リングへ向かって突っ込んでいく、その瞬間――。
転校生の額が、俺の額にゴチンとぶつかった。
……やってしまった。俺は石頭だから構わないが、転校生は今頃地獄の苦しみだろう。
悪いことをしてしまった。そう思ったその時。
目を開け、視界に映っていたのは〝俺〟だった。
――俺が、俺を見ている。
さっきまであったゴールのリングは視界のどこにも見当たらない。
代わりに広がっているのは、さっきまで俺たちが座っていた階段と、その向こうに広がる真っ黒い海。
は…………?
着地。
しかし尻餅をつき、ボールがぽすん、ぽすんと床を跳ねて転がっていく。
転校生はそれを追おうともしない。
いや、そもそも転校生はどこへいった――。
そう思って視線を自分の手元へ落とす。
そこにある大きな手は、俺のものではなかった。
転校生の手だった。
