今週の怪獣対策当番

昨日、足立さんはこの場所に来なかった。
最後に彼女がここを通ったときには、その瞳は涙に濡れていた。

「あのとき、なにかあったのかな…」

そういえば足立さんは、なんでこんな校庭の隅を毎日歩いていたのだろう?
いつも歩いてくる方向、あの方向には鬱蒼とした山の木々と学校とを区切るフェンスしかない。

もしかしたら足立さんは、本当にボクに会いに来てくれていたんじゃないかと妄想していた。

ボクが怪獣対策当番をすることを知って、その時間にワザとここを通るようにして…

そんなワケがないんだけど。その妄想はとても楽しかった。

彼女がここを訪れていた本当の理由が知りたくなって、ボクはフェンスに近づく。

フェンスの一部が破れて、人ひとりが通れるくらいの穴が空いていた。

ここを通って裏山へ行っていたのか?

意識をその先に向けていると、裏山の奥から人の気配がした。

足立さんなら、勇気を出して話しかけよう。
悩みがあるなら聞いてあげよう。

こんな決心が出来ることすら、少し前のボクからは考えられなかった。驚くべき成長だった。
足立さんと…怪獣のおかげでボクは前向きになれた。

「やっぱ納得いかねぇわ、なんでダメなんだよ」
これは…安田の声だ。

息を潜めて、ボクは近くの木陰に隠れる。

「それはこないだ話したでしょ、こんなのバレたらデビューが取消しになるんだから」

「だからワザワザこんな所で会ってんだろ」

「でもそろそろ気付かれるよ、わたしアイツに何度も教室に戻るとこ見られたし」

「そういやさぁ、前から言おうと思ってたけど、なんで海野なんかに優しくしてんだよ、キメェからやめろよ」

「えー、だってアイドルになったら『学校でイジメられる嫌われ者にも優しい柚乃ちゃん』みたいなエピソードってウケよさそうじゃん。ね?あっちで一人暮らし始めたら絶対、家に呼ぶから」

「…絶対だぞ」

安田の腕が…

ボクを掴んで殴った腕が…

足立さんをそっと抱き寄せた。

枝葉が折り重なって、暗く陰鬱だったハズの裏山は、風のそよぎで木々に隙間を生む。
そこからときおり覗く太陽の光が、キラキラと降り注ぐ流星のように二人の周囲を舞っていた。

光のカーテンの中で、二人の口唇が触れあう。

そんな神々しいまでの青春の1ページを間近に浴びてボクは吐いた。

胃の内容物をすべて吐いたら、次は胃液を吐いて、それでもなにかを絞り出そうと身体中がケイレンした。

穴という穴から、もはや訳の分からない液体を垂れ流した。


あぁ…もういい



こ ん な 学 校 い ら な い





み ん な 食 べ ち ゃ っ て い  い