「さてさて皆様、大変長らくお待たせいたしました。開演のお時間でございます」
黒ネコのお面を被った少女が、観衆を目の前にして朗々と語りだす。
「本日最後の回となりますが、少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。よろしくお願いします」
20人程の観衆から、ぱちぱちと拍手が起こった。
「本日最後はメンタル系のカードマジックをご覧に入れましょう。さて、トランプというものは、普通は赤いカードと黒いカードがバラバラになってまとめてありますよね。7並べも何もしていないのに、ある日突然赤と黒がパックリ分かれていた……なんてことがあったら、ご家族ご友人の悪戯か、幽霊の存在を疑ってしまいます」
笑いが起こったのを嬉しそうに眺めつつ、少女は表向きにしたカードの束から取り上げた数枚を、赤と黒に仕分けて並べていく。
「このように1枚ずつ見ていけば分けることはできますが、ジョーカーを除いてもトランプは全部で52枚。全部確認して分けていくのは面倒ですね。私も嫌です。そこで」
赤と黒の1枚ずつを教卓の上に残し、仕分けたカードをカードの束に戻す。束をまとめて裏返してから、彼女がパチンと指を鳴らした。
「すべてのカードを、勘で仕分けてみます。少々時間がかかりますが、お付き合いくださいね」
そう言って、教卓に置かれた赤いカードと黒いカードの上にトランプを1枚ずつ重ねていく。頭を使って仕分けているような速度ではなかった。
カードの束が半分ほどになったところで、彼女が動きを止める。束の残りを教卓の隅に置いて、顔を上げた。
「半分ほど仕分けましたので、試しに赤いカードの方を見てみましょうか。合っていたら褒めてくださいね」
『合っていたら褒めて』なんて子供のような物言いに笑っていた観衆が、彼女がカードを1枚捲るごとに少しずつ静まり返っていく。
「赤。赤、赤、赤、赤、あか…」
観衆から驚きの声が洩れた。あろうことか、赤いカードの上に積み上げていたトランプは、全て赤色であった。
「やった。天才かもしれないです」
少し戯けたように笑う彼女をぽかんとして見ていた客の1人に、彼女から声が掛かる。
「では次。其方のお客様、あと半分を、私がやったように適当に仕分けて頂けますか? 表を見てはいけませんよ」
戸惑うように少女の横に立った彼は、にっこりと笑う彼女にカードの束を手渡される。
「分かりやすいように、先ほどとは赤と黒を積み上げる位置を入れ替えてしまいますね」
先程は教卓の少女側が赤、観衆側が黒だった。少女は裏返された赤いカードのうち1枚を観衆側に、そしてどこからともなく取り出した黒いカードを少女側に置く。
「さぁ、お手数お掛けしますが、ちょっと猫のお遊びに付き合うと思って。何卒よろしくお願いしますね」
彼は恐る恐るといった調子でカードの束を仕分け始める。でも、途中で変に頭を使うのが考えるのが面倒になったのか、仕分けるスピードが一気に跳ね上がった。
あっという間に仕分け終わった彼に、にこりと笑って彼女が言った。
「ありがとうございます。では、いま仕分けて頂いた黒いカードの方。見てみましょうか。よろしいですか?」
「え、ちょっと」
戸惑うように、彼が声を上げる。
「良いんですか?本当に適当でしたけど」
「構いませんよ」と笑って、少女がトランプを裏返し始める。
「黒。黒、黒、黒、黒、くろ……」
彼の目が大きく広がった。
「すごいです、お客様。全部黒ですよ」
はじけるように笑った彼女と、呆然と立ち尽くす彼。
大きな拍手が2人を包み込んだ。
「皆様、お忘れですか? もう半分ありますからね」
彼が客席に戻ると同時に、彼女が観客の意識を自分に向ける。観衆側に積み上げられたカードの束を表向きに返して、彼女が教卓の上に2色の虹をかけた。
赤と黒に、ちょうど分かれている。
観衆から、もう一度驚きの声が上がった。
「勘というものも捨てたものじゃありませんね。今回は以上となります。ありがとうございました」
沸き起こる大きな拍手で、会場が満たされていった。
黒ネコのお面を被った少女が、観衆を目の前にして朗々と語りだす。
「本日最後の回となりますが、少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。よろしくお願いします」
20人程の観衆から、ぱちぱちと拍手が起こった。
「本日最後はメンタル系のカードマジックをご覧に入れましょう。さて、トランプというものは、普通は赤いカードと黒いカードがバラバラになってまとめてありますよね。7並べも何もしていないのに、ある日突然赤と黒がパックリ分かれていた……なんてことがあったら、ご家族ご友人の悪戯か、幽霊の存在を疑ってしまいます」
笑いが起こったのを嬉しそうに眺めつつ、少女は表向きにしたカードの束から取り上げた数枚を、赤と黒に仕分けて並べていく。
「このように1枚ずつ見ていけば分けることはできますが、ジョーカーを除いてもトランプは全部で52枚。全部確認して分けていくのは面倒ですね。私も嫌です。そこで」
赤と黒の1枚ずつを教卓の上に残し、仕分けたカードをカードの束に戻す。束をまとめて裏返してから、彼女がパチンと指を鳴らした。
「すべてのカードを、勘で仕分けてみます。少々時間がかかりますが、お付き合いくださいね」
そう言って、教卓に置かれた赤いカードと黒いカードの上にトランプを1枚ずつ重ねていく。頭を使って仕分けているような速度ではなかった。
カードの束が半分ほどになったところで、彼女が動きを止める。束の残りを教卓の隅に置いて、顔を上げた。
「半分ほど仕分けましたので、試しに赤いカードの方を見てみましょうか。合っていたら褒めてくださいね」
『合っていたら褒めて』なんて子供のような物言いに笑っていた観衆が、彼女がカードを1枚捲るごとに少しずつ静まり返っていく。
「赤。赤、赤、赤、赤、あか…」
観衆から驚きの声が洩れた。あろうことか、赤いカードの上に積み上げていたトランプは、全て赤色であった。
「やった。天才かもしれないです」
少し戯けたように笑う彼女をぽかんとして見ていた客の1人に、彼女から声が掛かる。
「では次。其方のお客様、あと半分を、私がやったように適当に仕分けて頂けますか? 表を見てはいけませんよ」
戸惑うように少女の横に立った彼は、にっこりと笑う彼女にカードの束を手渡される。
「分かりやすいように、先ほどとは赤と黒を積み上げる位置を入れ替えてしまいますね」
先程は教卓の少女側が赤、観衆側が黒だった。少女は裏返された赤いカードのうち1枚を観衆側に、そしてどこからともなく取り出した黒いカードを少女側に置く。
「さぁ、お手数お掛けしますが、ちょっと猫のお遊びに付き合うと思って。何卒よろしくお願いしますね」
彼は恐る恐るといった調子でカードの束を仕分け始める。でも、途中で変に頭を使うのが考えるのが面倒になったのか、仕分けるスピードが一気に跳ね上がった。
あっという間に仕分け終わった彼に、にこりと笑って彼女が言った。
「ありがとうございます。では、いま仕分けて頂いた黒いカードの方。見てみましょうか。よろしいですか?」
「え、ちょっと」
戸惑うように、彼が声を上げる。
「良いんですか?本当に適当でしたけど」
「構いませんよ」と笑って、少女がトランプを裏返し始める。
「黒。黒、黒、黒、黒、くろ……」
彼の目が大きく広がった。
「すごいです、お客様。全部黒ですよ」
はじけるように笑った彼女と、呆然と立ち尽くす彼。
大きな拍手が2人を包み込んだ。
「皆様、お忘れですか? もう半分ありますからね」
彼が客席に戻ると同時に、彼女が観客の意識を自分に向ける。観衆側に積み上げられたカードの束を表向きに返して、彼女が教卓の上に2色の虹をかけた。
赤と黒に、ちょうど分かれている。
観衆から、もう一度驚きの声が上がった。
「勘というものも捨てたものじゃありませんね。今回は以上となります。ありがとうございました」
沸き起こる大きな拍手で、会場が満たされていった。



