「文化祭の屋台ってなんであんなに混んでるの?」
「祭りだからみんな浮かれてるんだよ」
晴と夜風がぐったりしながら階段の踊り場に戻ってくる。手には買ってきたらしい焼きそばがあった。
「夜風、次の本番何時から?」
「14時丁度。あと40分弱あるから、比較的ゆっくり食べれるよ」
「そっか、良かった」
割り箸をパキッと割って、プラスチックのパックを開く。ふわりと立ち昇るソースの食欲をそそる香りが、2人の鼻を擽った。
「「いただきます」」
揃って手を合わせて、焼きそばを口に運ぶ。晴は目を大きく見開き、夜風は頬をふっと緩ませた。
「美味しい」
「うま」
勢いそのままに食べ進める夜風に、晴が思い出したように問う。
「そういえば夜風、なんで今日の代役受けてくれたの?」
「…うーん、何だろうな……エンターテイナーに憧れていたのはあるかも」
晴が初めて聞く話であった。何かを思い出すように、夜風が遠くを見る。
「ねぇ晴。サンタさんって信じてる?」
「小学校中学年ぐらいまでは信じてた」
「私も似たようなものだなぁ。でも1年に1回、北国からサンタさんが来てプレゼントをくれるって、すごく夢があるでしょう? 小さい頃は、サンタさんの存在にすごく救われてたの。良い子にしてたらサンタさんは見ててくれるって」
「……うん」
話の意図が掴み切れず、少し戸惑ったように晴が頷く。
「あとはテーマパークのキャラクターとかかな。あれは全部作り話で、すごく悪く言えば夢を見せてくれる甘い嘘。でも信じる信じないは別として、それに救われる人は少なからずいるわけで。私も含めて」
晴は、夜風がマジックを始めたきっかけを話した時の恍惚とした表情を思い出していた。
「だからずっと、こんなだけど夢を見せるエンターテイナーになりたかった」
晴が「そっか」と頷くと、夜風もこくりと頷いた。『こんなだけど』。そう言う彼女の目には、ほんの微かに寂しそうな光が映っているように思える。
「でも私、小学校の時に校内発表会で大コケしてさ。それから、人前に立つのがもう怖くて怖くて」
悲しそうに笑う夜風を見て、晴の頭の中にもその日の記憶が克明に蘇った。
小学4年生だっただろうか。
発表会の終わりの言葉を任された夜風は、沢山練習して本番に臨んだ。側から見ていた晴がそう思うのだから、相当練習していたに違いない。
でも、あの日。舞台に立って息を吸い込んだ夜風の表情が一瞬固まって、みるみるうちに顔が真っ青になっていって。
泣きそうな目をして、逃げるように舞台を降りていった。
未だにあの出来事を覚えている人は、本人と晴の他には殆どいないかもしれない。でも幼かった彼女の心には、相当深い傷が残ったことだろう。
あの時自分は、何をしていただろうか。
覚えていない。その後夜風になんで声をかけたのかさえ、全く覚えていない。
あの時の僕は。
失敗、しなかっただろうか。
「エンターテイナーに憧れても、人前に出ることなんて出来やしないから、マジック練習して、なんとなく晴に見てもらったり、親に見てもらったりね。それはそれで楽しかったんだけど」
でも、と続ける声に少し希望の色が混ざったように感じて、晴は夜風の方を見た。
「今回はお面を被って出るってことだったじゃん? だったらできるかもしれないと思って。晴が推薦してくれなかったら考えなかったよ。ありがとう」
そう言って、夜風が花開くように笑う。
「良かった。どういたしまして」
夜風の顔を見て、晴も嬉しそうに笑った。
「ところで夜風、あと何分?」
「あと30分。結構喋っちゃったな」
「頑張れ。僕もう食べ終わっちゃったよ」
「……晴は昔から早すぎるんだよ」
不満気に頬を膨らませる夜風に、晴は思わず声を上げて笑った。
「祭りだからみんな浮かれてるんだよ」
晴と夜風がぐったりしながら階段の踊り場に戻ってくる。手には買ってきたらしい焼きそばがあった。
「夜風、次の本番何時から?」
「14時丁度。あと40分弱あるから、比較的ゆっくり食べれるよ」
「そっか、良かった」
割り箸をパキッと割って、プラスチックのパックを開く。ふわりと立ち昇るソースの食欲をそそる香りが、2人の鼻を擽った。
「「いただきます」」
揃って手を合わせて、焼きそばを口に運ぶ。晴は目を大きく見開き、夜風は頬をふっと緩ませた。
「美味しい」
「うま」
勢いそのままに食べ進める夜風に、晴が思い出したように問う。
「そういえば夜風、なんで今日の代役受けてくれたの?」
「…うーん、何だろうな……エンターテイナーに憧れていたのはあるかも」
晴が初めて聞く話であった。何かを思い出すように、夜風が遠くを見る。
「ねぇ晴。サンタさんって信じてる?」
「小学校中学年ぐらいまでは信じてた」
「私も似たようなものだなぁ。でも1年に1回、北国からサンタさんが来てプレゼントをくれるって、すごく夢があるでしょう? 小さい頃は、サンタさんの存在にすごく救われてたの。良い子にしてたらサンタさんは見ててくれるって」
「……うん」
話の意図が掴み切れず、少し戸惑ったように晴が頷く。
「あとはテーマパークのキャラクターとかかな。あれは全部作り話で、すごく悪く言えば夢を見せてくれる甘い嘘。でも信じる信じないは別として、それに救われる人は少なからずいるわけで。私も含めて」
晴は、夜風がマジックを始めたきっかけを話した時の恍惚とした表情を思い出していた。
「だからずっと、こんなだけど夢を見せるエンターテイナーになりたかった」
晴が「そっか」と頷くと、夜風もこくりと頷いた。『こんなだけど』。そう言う彼女の目には、ほんの微かに寂しそうな光が映っているように思える。
「でも私、小学校の時に校内発表会で大コケしてさ。それから、人前に立つのがもう怖くて怖くて」
悲しそうに笑う夜風を見て、晴の頭の中にもその日の記憶が克明に蘇った。
小学4年生だっただろうか。
発表会の終わりの言葉を任された夜風は、沢山練習して本番に臨んだ。側から見ていた晴がそう思うのだから、相当練習していたに違いない。
でも、あの日。舞台に立って息を吸い込んだ夜風の表情が一瞬固まって、みるみるうちに顔が真っ青になっていって。
泣きそうな目をして、逃げるように舞台を降りていった。
未だにあの出来事を覚えている人は、本人と晴の他には殆どいないかもしれない。でも幼かった彼女の心には、相当深い傷が残ったことだろう。
あの時自分は、何をしていただろうか。
覚えていない。その後夜風になんで声をかけたのかさえ、全く覚えていない。
あの時の僕は。
失敗、しなかっただろうか。
「エンターテイナーに憧れても、人前に出ることなんて出来やしないから、マジック練習して、なんとなく晴に見てもらったり、親に見てもらったりね。それはそれで楽しかったんだけど」
でも、と続ける声に少し希望の色が混ざったように感じて、晴は夜風の方を見た。
「今回はお面を被って出るってことだったじゃん? だったらできるかもしれないと思って。晴が推薦してくれなかったら考えなかったよ。ありがとう」
そう言って、夜風が花開くように笑う。
「良かった。どういたしまして」
夜風の顔を見て、晴も嬉しそうに笑った。
「ところで夜風、あと何分?」
「あと30分。結構喋っちゃったな」
「頑張れ。僕もう食べ終わっちゃったよ」
「……晴は昔から早すぎるんだよ」
不満気に頬を膨らませる夜風に、晴は思わず声を上げて笑った。



