「皆様、大変長らくお待たせいたしました。開演のお時間でございます」
ぱちぱちと拍手をした15人程の観衆を、黒いネコのお面を被った彼女は楽しげに見つめた。トランプをケースから取り出しながら、朗々とした声で話し始める。
「本日最初の回に来て頂いた方々が、何人かまたお見えになっていますね。ありがとうございます。さて2回とも来て頂いた何人かのお客様、私は今朝、何と言いましたか? 『この回だけ、急遽代役を務めることになりました』と……あれ? おかしいですね」
トランプをシャッフルしながら戯けた調子で話す彼女に、会場から笑いが起こる。
「元々こちらに出演予定だった者が訳あって出られなくなってしまったので、僭越ながら今回も私がお相手を。よろしくお願い致します」
もう一度拍手が起こった会場を見渡し、彼女は1人の客に目を留めた。
「今回は簡単なカード当てをしましょう。そちらのお客様、こちらに来て頂いても宜しいですか?」
「あたし? えっと…はい」
彼女と同学年と思われる女子生徒が立ち上がる。ふんわりと巻かれた艶やかな黒髪が揺れた。
教卓を挟んで女子生徒と向かい合った彼女は、にっこりと笑って言う。
「お好きなカードを1枚、お選びください。……此方ですか? では、私は後ろを向いておりますので、そのカードを皆様に見せて差し上げてください」
彼女が後ろを向く。女子生徒が控え目に掲げたカードは、ダイヤのクイーンだ。
「……よろしいですか? では、カードを元通り裏向きにして、こちらの束の好きなところに戻してください」
カードがするりと音を立てて束の中に潜り込むと、彼女はカードの束をケースの中に戻してしまった。
「少し幼稚な気もしますが……こうしておまじないを掛けますと」
彼女の細い指が、ケースの上で踊った。
ケースからカードの束が取り出され、黒布を被せた教卓の上に青い虹がかかる。
その中で、ただ1枚。
ダイヤのクイーンだけが、表向きになっていた。
「こちらですね? 貴女が選んだカードは、ダイヤのクイーン。合っていますか?」
驚いた様子で、女子生徒はこくこくと頷く。
今回の演技で最も大きな拍手が、彼女を包み込んだ。
ぱちぱちと拍手をした15人程の観衆を、黒いネコのお面を被った彼女は楽しげに見つめた。トランプをケースから取り出しながら、朗々とした声で話し始める。
「本日最初の回に来て頂いた方々が、何人かまたお見えになっていますね。ありがとうございます。さて2回とも来て頂いた何人かのお客様、私は今朝、何と言いましたか? 『この回だけ、急遽代役を務めることになりました』と……あれ? おかしいですね」
トランプをシャッフルしながら戯けた調子で話す彼女に、会場から笑いが起こる。
「元々こちらに出演予定だった者が訳あって出られなくなってしまったので、僭越ながら今回も私がお相手を。よろしくお願い致します」
もう一度拍手が起こった会場を見渡し、彼女は1人の客に目を留めた。
「今回は簡単なカード当てをしましょう。そちらのお客様、こちらに来て頂いても宜しいですか?」
「あたし? えっと…はい」
彼女と同学年と思われる女子生徒が立ち上がる。ふんわりと巻かれた艶やかな黒髪が揺れた。
教卓を挟んで女子生徒と向かい合った彼女は、にっこりと笑って言う。
「お好きなカードを1枚、お選びください。……此方ですか? では、私は後ろを向いておりますので、そのカードを皆様に見せて差し上げてください」
彼女が後ろを向く。女子生徒が控え目に掲げたカードは、ダイヤのクイーンだ。
「……よろしいですか? では、カードを元通り裏向きにして、こちらの束の好きなところに戻してください」
カードがするりと音を立てて束の中に潜り込むと、彼女はカードの束をケースの中に戻してしまった。
「少し幼稚な気もしますが……こうしておまじないを掛けますと」
彼女の細い指が、ケースの上で踊った。
ケースからカードの束が取り出され、黒布を被せた教卓の上に青い虹がかかる。
その中で、ただ1枚。
ダイヤのクイーンだけが、表向きになっていた。
「こちらですね? 貴女が選んだカードは、ダイヤのクイーン。合っていますか?」
驚いた様子で、女子生徒はこくこくと頷く。
今回の演技で最も大きな拍手が、彼女を包み込んだ。



