「皆様、大変長らくお待たせいたしました。開演のお時間でございます」
安っぽい黒布が被さった教卓の上には、ひとつのトランプケースが置かれていた。
その縁を撫でながら観衆に向かっているのは、1人の少女。彼女の顔の上半分は、黒いネコのお面で覆われている。
教卓を囲むように半円状に並んで座った、たった10人いない程度の観衆に向かって、少女はにっこりと笑って見せる。トランプケースの蓋を開けると、青いカードの山が滑るように現れた。
「出演者がただいま席を外しているので、この回だけ急遽代役を務めることになりました。今回は、こちらのトランプを使って皆様にお楽しみ頂きたいと思います。短い時間とはなりますが、どうぞよろしくお願い致します」
ぱちぱちと疎らな拍手が起こった。少女がにっこりと笑って、続ける。
「まず4枚のエースを使いましょうか」
そう言って、トランプの山から4枚のカードを取り出した。トランプの山の上に表向きに置き、一枚ずつ検めていく。マジシャンらしい、流れるような動きだった。
「ハートのエース、クラブのエース、スペードのエース、ダイヤのエース。ちゃんと4枚あります。よろしいですね?」
そう言うと彼女は、裏向きにして山に重ねたそれらを、一枚ずつ机の上に並べていく。青いカードが等間隔に4枚、机の上に置かれた。
「では、ついでに3枚ずつ、それぞれのカードに重ねちゃいましょう」
少女の戯けたような物言いに、観衆から少しの笑いが零れた。悪戯っ子のようにぺろりと舌を出して、彼女がカードを操っていく。
「気休めですが、少し混ぜまして……」
彼女はそう言いながら、4枚1組になったカードの束を入れ替える。しかし、本当に気休め程度だ。目で追うことは容易い。
「それでは、そちらのお客様」
黒ネコの鼻先が、1人の客に向いた。
「……はい」
少女と目が合ったらしい彼は、少し戸惑ったように少女とカードの束を交互に見つめる。
「カードの束をこの中からひとつ、適当に選んで仰ってください」
「……え、はい。じゃあ…これで」
彼が指差した束をぱっと取り上げて、少女は念を押すように彼に問うた。
「こちらですね? 宜しいですか?」
「……はい」
彼女がパチンと指を鳴らす。
4枚のカードが扇のように裏返されると、会場にどよめきが波紋のように広がった。
「お客様。お見事です」
彼女の手の中にあったのは。
バラバラに置いたはずのエースが4枚。
あっけにとられた様子の彼と、ふわりと笑った彼女。
2人は、あっという間に拍手に包まれた。
安っぽい黒布が被さった教卓の上には、ひとつのトランプケースが置かれていた。
その縁を撫でながら観衆に向かっているのは、1人の少女。彼女の顔の上半分は、黒いネコのお面で覆われている。
教卓を囲むように半円状に並んで座った、たった10人いない程度の観衆に向かって、少女はにっこりと笑って見せる。トランプケースの蓋を開けると、青いカードの山が滑るように現れた。
「出演者がただいま席を外しているので、この回だけ急遽代役を務めることになりました。今回は、こちらのトランプを使って皆様にお楽しみ頂きたいと思います。短い時間とはなりますが、どうぞよろしくお願い致します」
ぱちぱちと疎らな拍手が起こった。少女がにっこりと笑って、続ける。
「まず4枚のエースを使いましょうか」
そう言って、トランプの山から4枚のカードを取り出した。トランプの山の上に表向きに置き、一枚ずつ検めていく。マジシャンらしい、流れるような動きだった。
「ハートのエース、クラブのエース、スペードのエース、ダイヤのエース。ちゃんと4枚あります。よろしいですね?」
そう言うと彼女は、裏向きにして山に重ねたそれらを、一枚ずつ机の上に並べていく。青いカードが等間隔に4枚、机の上に置かれた。
「では、ついでに3枚ずつ、それぞれのカードに重ねちゃいましょう」
少女の戯けたような物言いに、観衆から少しの笑いが零れた。悪戯っ子のようにぺろりと舌を出して、彼女がカードを操っていく。
「気休めですが、少し混ぜまして……」
彼女はそう言いながら、4枚1組になったカードの束を入れ替える。しかし、本当に気休め程度だ。目で追うことは容易い。
「それでは、そちらのお客様」
黒ネコの鼻先が、1人の客に向いた。
「……はい」
少女と目が合ったらしい彼は、少し戸惑ったように少女とカードの束を交互に見つめる。
「カードの束をこの中からひとつ、適当に選んで仰ってください」
「……え、はい。じゃあ…これで」
彼が指差した束をぱっと取り上げて、少女は念を押すように彼に問うた。
「こちらですね? 宜しいですか?」
「……はい」
彼女がパチンと指を鳴らす。
4枚のカードが扇のように裏返されると、会場にどよめきが波紋のように広がった。
「お客様。お見事です」
彼女の手の中にあったのは。
バラバラに置いたはずのエースが4枚。
あっけにとられた様子の彼と、ふわりと笑った彼女。
2人は、あっという間に拍手に包まれた。



