危険すぎる恋に、落ちてしまいました。番外編

男たちの背中が、砂浜の向こうへと小さくなっていく。

潮風に混じって、ようやく静けさが戻った。

「……大丈夫か?」

低く落ち着いた声と同時に、椿の手が美羽の頬にそっと触れた。
指先は少し冷たくて、でも確かな温度があった。

美羽は一瞬、息を止める。

「う、うん……ありがと、椿くん……」

視線を逸らすと、胸の奥がきゅっと鳴った。
さっきまでの恐怖が、今になってじわりと込み上げてくる。

椿はその様子を見て、ふうっと短く息を吐いた。

「……つーか美羽」

眉間に皺を寄せ、じっと美羽の格好を見下ろす。

「そんな格好してるからだぞ。
もう少し足、隠せ。上も……ちょっと透けてんだろ。」

「えっ……!?」

美羽は思わずパーカーの裾を引っ張り、顔が一気に熱くなる。

「な、なに言ってるの!? そ、そんなつもりじゃ……!」

そこへ、勢いよく割って入ってきたのは悠真だった。

「ええ!? 会長、それ親父くさくなーい!?
今どき、水着+パーカーは王道でしょ!」

悠真は胸を張り、親指を立てる。

「ちなみに僕は、美羽ちゃんの今日のコーデ大す――」

「うるせぇ。」

椿は無言で悠真の額を押し、ひょいと横にどかした。

「うわっ!? ひどいな会長~!」

「話の腰を折るな。」

美羽は苦笑いしながら、小さく頭を下げる。

「あはは……悠真くん、ありがと……」



その直後美羽もはっとした。

「……っていうか!」

美羽は今度は椿を指差した。

「椿くんだって、上、何も着てないじゃない!
なにその格好!?」

視線を向けた瞬間、改めて認識してしまう。

日に焼けた肌。
肩から腕にかけてのライン。
太陽の光を受けて、やけに眩しい。

「……っ」

美羽の顔が、みるみる赤くなる。

莉子が横で、やれやれと肩をすくめた。

「いやい、美羽。椿くんもこういうファッションだから。」

「え!? そうなの!?」

「そうそう。自覚ないタイプ。」

「露出しすぎでしょ!!」

「お前に言われたくねぇ。」

椿はそっぽを向きながら、ぼそりと呟いた。

遼は楽しそうに笑っている。

「いや~、ほんと似た者同士だねぇ。
お互いに文句言いながら、しっかり意識してる感じ?」

「してない!」

「してねぇ!」

同時に言い合って、ふたりははっとする。

碧はその様子を見て、にこにこしながら頷いた。

「仲が良くて、見ていて微笑ましいですね。」

「ったく……」

椿はため息をつきつつ、美羽の頭に軽く手を置いた。

「……怖かったら、ちゃんと言え。」

美羽は少し驚いて、椿を見上げる。

「……うん。」

その瞬間。

「ふっ」

不穏な笑みとともに、玲央がスマホを構えた。

「これは今年のブロマイド、相当な需要が見込めそうだな!」

「おい、玲央やめろ!!」

「ちょっと玲央くん!?今の消してぇ!!」

「記録は大事だ。」

「どこがよ!!」

わちゃわちゃとした声が、夏の空に溶けていく。

さっきまでの不安も、怖さも、
全部、太陽と波の音にかき消されて。

美羽はふっと笑った。

――ああ、やっぱり。

この人たちといる夏は、
騒がしくて、眩しくて、
胸がきゅっとするほど、楽しい。

海はまだ、始まったばかりだった。