結婚式当日の朝。
まだ外は薄暗く、街は静けさに包まれていた。
彩夏は目覚ましの音に気づかず、寝坊しかけていた。
その時、携帯が鳴る。
「彩夏さん、もうすぐ会場に入りますよ。準備、大丈夫ですか?」
優斗の落ち着いた声に、彩夏は飛び起きた。
「すみません!すぐに向かいます!」
慌てて身支度を整える。
髪型は、もつれのない低めのお団子にまとめ、メイクはナチュラルに。
肌をきれいに見せるために血色感をほんのり足し、清潔感を意識する。
――今日は本番。きれいに仕上げていかないと。
急いで会場へ向かうと、すでにスタッフたちが慌ただしく動いていた。
照明の調整、音響の確認、テーブルセッティング。
新郎新婦も控室で準備を始めている。
「ドレスの裾、もう少し整えますね」
スタッフが丁寧に裾を直す。
新婦は、Aラインのトレーン付きのドレスに決まった。
トレーンの裾には繊細な花柄の刺繍が施され、歩くたびに後姿が映える。
正面から見ても、ウエストから緩やかに広がるラインが美しく、清らかな印象を与えていた。
「タキシードのボタン、こちらで直します」
別のスタッフが新郎の衣装を整える。
楓介が選んだのは、優花のドレスに合わせた白のタキシード。
光を受けると柔らかく輝き、純白のドレスと並んだ時に一層美しく映えるデザインだった。
二人が並ぶ姿は、まるで一枚の絵のように調和していた。
その光景を見つめながら、彩夏は胸の奥で静かに思った。
――準備を重ねてきた時間が、こうして形になっていく。
いよいよ本番が始まるのだ。
スタッフの声が飛び交い、会場は緊張と期待で満ちていた。
彩夏は進行表を片手に走り回り、優斗はカメラを構えて動線を確認している。
「彩夏さん、ここからだと新婦の表情が自然に映ります。少し立ち位置を調整しましょう」
「分かりました!」
二人は息を合わせるように動き、準備を進めていく。
ふと、優斗が彩夏に視線を向け、微笑んだ。
「朝から大変でしたね。でも、間に合ってよかった」
その言葉に、彩夏の胸が少し温かくなる。
――彼がいてくれると、安心する。
新郎新婦は緊張しながらも笑顔を見せていた。
「本番、もうすぐだね」
「すごく、楽しみ」
二人のやり取りに、会場の空気が柔らかくなる。
スタッフの声、照明の光、カメラのシャッター音。
すべてが整い、いよいよ本番を迎える準備が完了した。
結婚式当日の朝。
緊張と期待が交錯する中で、彩夏の心には小さな芽が静かに育ち始めていた。
――頼りになる人だ。そう思うだけで、少し心が軽くなる。
そして、いよいよ本番が始まろうとしていた。
