結婚式まで残り数日。
会場では直前のリハーサルが始まっていた。
彩夏は進行表を片手に、スタッフへ次々と指示を飛ばす。
「入場のタイミングはここで一拍置いて…照明は新婦が歩き出した瞬間に合わせてください」
優斗はその横でカメラを構え、真剣な眼差しで動線を確認していた。
「この位置からだと、二人の表情が自然に映ります。
彩夏さん、もう少し新郎新婦の立ち位置を中央に寄せてもらえますか?」
「分かりました」
彩夏は即座に動き、スタッフに指示を伝える。
その時、優斗がふっと笑みを浮かべた。
「やっぱり、彩夏さんの段取りは安心できますね。撮影もすごくやりやすいです」
不意に向けられた言葉に、彩夏の胸が少し熱くなる。
――安心できるって、そんな風に言われると…。
彼の声は落ち着いていて、どこか支えられているような気持ちになる。
リハーサルは続く。
二人のやり取りに、会場の空気が柔らかくなる。
彩夏はその光景を見つめながら、胸の奥で静かに思った。
――二人の幸せを支えるために、私はここにいる。
その隣で、優斗がカメラを構え続けている。
真剣な横顔に、彩夏の視線がふと留まる。
頼りになる仲間。
そう思うだけなのに、なぜか心が少しざわめいた。
リハーサルが終わり、スタッフが片付けを始める。
優斗が彩夏に近づき、進行表を覗き込む。
「本番も、きっと大丈夫ですよ。彩夏さんがここまで準備してきたんですから」
その言葉に、彩夏は小さく笑みを返した。
「ありがとうございます。…そう言ってもらえると、少し気が楽になります」
ほんの一瞬、二人の視線が重なった。
それはまだ、恋と呼ぶには遠い。
けれど、心の奥で小さな芽が静かに息を吹き始めていた。
