知ってほしい。そのままの君が、こんなにも素敵なことを

『消える』

この空の闇は世界の広さだ。黒い天井に見えるのに、手で触れてみようとしても多分どこまでも続いてる。そしてそこには海の砂粒を数えるくらい天体が途方もない数存在してる。ここもまた今見える恒星と同じく浮かんでる。
 そんな中、誰かも同じようにこの空を見上げているのだろうか。一体何を思っているんだろうか。

 辺りは寝静まり返ってて音を持たない風が流れる。その風が服を通り抜けて肌を優しく心地いいように撫でてくれた。耳を澄ませればコオロギもまだ起きてる。
 そこまで蒸し暑くもないのに目が覚めてしまった。しばらくしてると暗さに目が慣れて天井の木目がぼんやり見えるようになる。
そして気づけば椅子に腰を下ろして空いてる窓の縁に腕を置いていた。
 空は快晴で雲の陰なんか見当たらない。空の色もよく見れば昼の青さをどこかまだ帯びている。
遠くで小さく光る無数の恒星と傷一つない円の衛星に目をやった。そのあまりにも明るい燈が自分の手の形や人の家の屋根の形をくっきりと分けた。
でもそんな夜に空を見上げて頭に浮かんだ言葉は

「綺麗……」

じゃなくて

「消える」

だった。
こんな夜なのに皮肉なことを考えた。この脈が止まる瞬間を。
 どこまでも続く宇宙に、有り余るほどの星、そしてここには生物、人間、がいる。たった一人なんて宇宙から見たらいてもいなくても同じだ。知らない人の目から見てもきっとそうだ。
そんな風に夜空を見て思っていたのかもしれない。
 でも本当に唐突そう頭に浮かんだ。

 定かな理由なんてなかった。ただ自分が分からなくて、空気みたいで。いてもいなくてもいい存在のように思えた。
でも消えたら何か問題が解決するか、何もかもなくなるのか、楽になれるのかなんて誰も知らない。分からない。
ただきっと残された家族や誰かに後始末をさせるだけ。
 というよりその前に消える勇気なんてない。本当に灯台の頂上に立った時、首に縄の輪を引っ掛けた時、刃の先を己の腹に向けた時、その後の一歩は踏み出せずにその場に戸惑ってる自分が想像できる。きっとその一歩がとても重くて脚が動かないんだろう。
だから今日もこうして中途半端に生きてる。
情けない。消えるのなら早くどこかに消えたい。


 流星群でも現れて欲しい。それからその流れてきた星の一つがこの頭を貫いてくれたら少しはロマンチックかもしれない。気づく間に終わってるかもしれない。

「……」

瞼を閉じてみたけどそんなことは結局起こらなかった。
やっぱりこの手でどうにかしなきゃいけないんだ。
もうダメだ。息をしてるのに苦しい。
目の前の景色がぼんやりとする。
まともに足が動かない。
 これから約束だってあるのに。

「……――ぁ」

 ため息にもならない空気が漏れてった。
また、こんな夜を過ごす度に今日を思い出すのだろうか。きっとまた次もあの満月を見るときに『諦める』って言葉が浮かんでくる気がする。それかその前にもうこの世からいなくなってるのかもしれない。


 この時はまだ何も分かっていなかった。