初恋シンデレラタイム



【地味子と王子様】


「ねぇ、今月号のスウィガ見た?」

「見た見た!妃花(ひめか)ちゃん載ってるよね!」

「すごいよねぇ~妃花ちゃん」

 朝の教室でクラスの女の子達が輪になって雑誌を広げて興奮気味に話しているところに、「おはよ~」と可愛らしい元気な声が聞こえた。

「あ、妃花ちゃん!」

「 見たよ~今月の『SWEET GIRLS』」

「妃花ちゃん超カワイイね~」

 本人の登場で、女の子達はさらに盛り上がり始めた。

『SWEET GIRLS』は、十代の女の子を中心に人気のある原宿系ファッション雑誌。

 その最新号で、一般人を載せるコーナーに如月(きさらぎ)さんが載っているんだ。

 ピンクを基調にしたリボンとフリルたっぷりのスイーツ柄ワンピースを着て微笑む如月さんは、まるでおとぎの国のお姫様みたい。

「これ、Pinky Candy の最新ワンピだよね。妃花ちゃん、もう持ってるんだ」

「うん。お母さんに買ってもらったの」

「いいな~。ここの服って高いんだよね~」

「やっぱり元モデルのお母さんは違うよねぇ」

 如月さんを取り囲んでいる子達が羨ましそうに口にしている。

 如月さんのお母さんは、結婚するまでファッションモデルをしていたらしい。

 パッチリ二重も、透き通るように白くて綺麗な肌も、百六十五センチの長身も、きっとお母さんゆずりだ。

「そういえば、今読者モデル募集してるんだよね。妃花ちゃん応募してみたら?」

「うん。実はそのつもりなの」

「そうなの? 妃花ちゃんなら絶対選考通るよ!」

「そうそう。誰かさんみたいな地味子じゃムリだろうけど~」

 女の子のひとりが、わたしの方に視線を向けてわざと大きな声で言った。

「確かに、あれじゃムリかもね~」

 如月さんもそう言ってクスクスと笑っている。

「ねぇねぇ、もし読モになれたら、凛ちゃんに会えるのかな?」

「うん。会えるんじゃないかな」

「そしたら妃花ちゃん、サインよろしくね!」

「ちょっと、気が早すぎだって~」

 如月さんを中心に楽しそうに盛り上がる女の子達。

 そんな女の子達の輪に入れず、ただ自分の席で静かに過ごすわたし、月島(つきしま) 美夢(みゆ) は、クラスで 「地味子」と呼ばれ、いつもひとりで過ごしている。

 黒髪を二つ結びにしてメガネをかけて、スカートは校則通りのひざ下丈をキープ。

 小さな一重の目に、百五十センチの特に目立たない地味な顔立ち。

 我ながら、まさに絵に描いたような地味子だと思う。

 小さな頃から、よく「名前は可愛いのに」って言われてきた。

 それはつまり「可愛いのは名前だけ」という意味で、わたし自身は可愛いどころかブスだと遠回しに言われている気がして。

 そんな風に言われる度に、わたしは自分の名前が嫌いになっていった。

 美しい夢なんて、どう考えてもこんなわたしには似合わない名前をつけたのはお母さん。

 少女漫画やキラキラしたものが大好きなお母さんが考えた名前。

 わたしの両親は共働きで、家に帰ってくるのはいつも深夜。

 海外の仕事で数週間家にいないなんてこともしょっちゅうだ。

 だけど、教育には厳しくて、小さな頃から習い事や家庭教師をつけられていた。

 おかげで、学校の成績はいつもトップ。

 だから、小学生の頃からあだ名は「ガリ勉地味子」だった。

「あ~それにしても皇月(こうづき)先輩カッコイイよねぇ」

 机に広げた雑誌を見ながら、うっとりした表情でつぶやく女の子達。

 表紙には、光の世界の王子をモチーフに、白を基調にした王子様ファッションをした皇月 七星先輩が写っている。

 皇月先輩は、わたし達が通っている夢ヶ丘学園高等部の三年生で、「学園の王子様」と呼ばれている。

 芸能活動が認められているこの学園で、ファッションモデルとして活躍しつつ生徒会長も務めている超有名人。

 入学する女子生徒のほとんどは皇月先輩のファンだと言われているほど。

 実際、入学式で生徒会長として挨拶をしていた皇月先輩はクールな美少年と言う言葉がピッタリで、式が終わった後はみんな先輩の話で盛り上がっていた。

 そんな校内の女子誰もが憧れる学園の王子様の隣には、今スウィガ専属モデルとして圧倒的な人気を誇る夜咲(やざき) (りん)ちゃん。

 闇の世界の王女をモチーフに、黒を基調にしたゴスロリ風ワンピースを着ている。

 美男美女のふたりはとてもお似合いで、まるで映画のワンシーンから抜け出したみたい。

 凛ちゃんと皇月先輩は、わたしにとっても憧れの存在。

 いつも地味なわたしだけど、本当はオシャレしてみたい。

 メイクもしてみたいし、凛ちゃんが着ているような服だって着てみたい。

 だけど、きっとわたしなんかが着たって似合わない。

 こういう服は、凛ちゃんや如月さんみたいに可愛い子が着るから可愛いんだ。

 如月さんは読モ応募するつもりなんだよね。

 わたしだって如月さんみたいにパッチリ二重だったら、色白で肌が綺麗だったら、

 整った顔立ちだったら、もっと背が高かったら。

 自分に自信があったら、迷わずに応募するのに。

 だけど現実は……如月さんの言う通り、わたしみたいな地味子じゃムリだ。

 そんなの、自分が一番よくわかってる。

 地味子と王子様じゃ分不相応なのは充分わかってるけど。

 だけど、憧れるくらいはいいよね?

 いつかわたしもふたりみたいに輝ける日が来ることを夢見るくらいはいいよね?

 スマホの待ち受け画面にしている凛ちゃんと皇月先輩を見つめながら、心の中で自分に言い聞かせた。


 【夢見るシンデレラ】


「きゃ~皇月先輩!」

「七星くんカッコイイ~!」

 放課後、廊下から聞こえてきた女の子達の声

 視線を向けると、ちょうど皇月先輩が通りかかるところだった。

 少し離れたところから見ても、ものすごい存在感。

 まるで皇月先輩の周りだけスポットライトが当たっているみたいにキラキラ輝いている。

 やっぱり素敵だなぁ……。

「―さん。月島さん!」

「は、はい!」

 皇月先輩に見とれていたから、名前を呼ばれていたことに気がつかなかった。

 慌てて振り返ると、目の前には如月さんとその友達ふたりが立っていた。

「あのね、月島さんにお願いがあるんだけど~」

 わざと上目遣い気味にわたしを見て、甘えたような声を出す如月さん。

 お願いがなんなのか薄々気づきながら、「なに?」と尋ねる。

「今日、どうしても外せない予定があるから、掃除当番代わってくれない?」

 やっぱりそうか。

 予想通りの言葉に、わたしは内心ため息をついた。

 本当はイヤだって言いたい。

 たまには他の人にお願いして、って言いたい。……だけど。

「代わってくれるよね、月島さん?」

 さっきの甘えた口調とはまるで違う有無を言わせない口調で言われて、わたしは頷くことしかできなかった。

「ありがと~! じゃあ、よろしくね」

 如月さんは嬉しそうな笑顔でそう言うと、友達と一緒に教室を出ていった。

 結局わたしは如月さんグループの掃除担当場所である資料室へ向かい、ひとりで掃除をすることになってしまった。

「…はぁ…」

 床をほうきで掃きながら思わずため息が出る。

 一通り掃除を終えて帰ろうと昇降口へ向かって廊下を歩いていた時。

「あ~ホントあの地味子うざいよねぇ」

 どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 声が聞こえた方へ視線を向けると、昇降口とは反対側に面した方にある中庭に如月さん達がいた。

 予定があるって言ってたのに、まだ帰ってなかったの?

「さっきも皇月先輩のことうっとりした顔で見つめちゃってさぁ」

「こっち見んなブスって感じ?」

 もしかして……わたしの話?

 思わず立ち止まって話を聞いていると、

「でも予定あるとかウソつけば掃除当番代わってくれるから便利だよねぇ」

 如月さんの声でそんな言葉が聞こえて来た。

 ウソってことは、予定なんかなかったの?

 わたしに掃除当番を押し付けたかっただけなの?

 呆然と立ち尽くしていると、如月さんの友達がわたしの存在に気づいてしまった。

「盗み聞きとかありえないんですけど~」

 その言葉で如月さんもこちらへ視線を向けて、一瞬バツが悪そうな表情を浮かべた。

 けれど、すぐに

「地味子は地味子らしく掃除してなよ~。わたしはこれからレッスンがあるから忙しいの」

 そう言ってスクバを肩にかけて立ちあがり、わざとぶつかるようにわたしの間横を通り過ぎた。

 その時、ぶつかった拍子に手に持っていたスマホが地面に落ちてしまった。

 慌ててすぐに拾ったけど、

「皇月先輩と凛ちゃん?」

 運悪く如月さんが待ち受け画面を見てしまったらしい。

 やばい、わたしがふたりに憧れてるなんてバレたら……

「へぇ、月島さんもふたりのファンなんだ?」

 バカにされる覚悟でスマホを手に握りしめてうつむいていたら、予想外に優しい口調で如月さんに言われて、思わず顔を上げた瞬間。

「地味子が少女趣味とかキモイ」

 思い切り笑顔で如月さんが言った。

 でも、瞳が笑っていない。

「自分の顔、鏡で見てからにしなよ」

 そう吐き捨てるように言うと、さっさと歩いて行ってしまった。

 如月さんの言葉が胸に突き刺さる。

 そんなの、わたしだってわかってるよ。

 だけど、せめて遠くから見て憧れるくらい、いいじゃない。

 スマホの画面に映る皇月先輩と凛ちゃんの笑顔が涙で滲んでいく。

 思わずしゃがみこんで泣いていたら、

「大丈夫?」

 突然、頭上から声が聞こえてきた。

 ビックリしてはじかれたように顔を上げると、そこにいたのは今まさに話に出ていた人。

「……皇月先輩?」

 ウソでしょ? なんでこんなところに皇月先輩がいるの?

「とりあえず、こっちおいで」

 皇月先輩は、そう言ってわたしの腕を引いて歩き出した。

「ここなら、今誰もいないから」

 そう言って案内されたのは、生徒会室だった。

 ちょっと待って。これはなに? 夢?

 憧れの皇月先輩に声をかけられたうえに、部屋にふたりきりなんて。

 信じられない出来事に、さっきまで溢れていた涙も止まった。

「あの女子たちに何か言われてただろ?」

「え?」

「偶然通りかかったら、なんかやばそうな感じだったから。廊下から少し様子見てたんだ」

 やだ、皇月先輩にいじめられてるところ見られてたんだ。

「地味子のくせに少女趣味なんてキモイって。でも、その通りですよね。わたしなんかが可愛くなりたいなんて夢見ちゃいけないんですよね……」

 言いながら、また涙が溢れてきた。

 よりにもよって憧れの皇月先輩にいじめられてるところを見られるなんて、恥ずかしくて、情けなくて。

「わたしなんかって言うなよ」

 ぽつりとつぶやくように言われた言葉に顔を上げると、目の前に皇月先輩がいた。

 こんなに至近距離で皇月先輩を見たのは初めてで、間近でみるとそれはもうこの世の生き物とは思えないくらい眩しくて。

 あまりの眩しさと近さに慌てて視線を逸らす。

 心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしてる。

 こんな時にドキドキしてる場合じゃないのに。

「悔しかったら、あいつらを見返すくらい変わればいい」

「え?」

 どういうこと?

 訊き返そうとした、その時。

「七星、いるか~?」

 突然、そんな元気な大声と共に勢いよく扉が開かれた。

虹希(こうき)、そんなでかい声出すなよ」

 皇月先輩が振り返って不機嫌そうに言うと、

「わりぃ、取り込み中だった?」

 “こうき”と呼ばれた男の子がわたしと皇月先輩を交互に見て言った。

「思い切り取り込み中だろ」

「……って七星、なに女の子泣かせてるんだよ?」

「違うって。俺が泣かせたんじゃない。それより、例の件だけど」

「ああ、見つかったのか?」

「この子にしようと思うんだ」

 ふたりしてわたしの存在を無視して何やら話してるけど、なんのことだかさっぱりわからない。

 例の件ってなんだろう?

「え、マジで? この子が今年のシンデレラ候補?」

 シンデレラ? なんのこと?

 ふたりが何の話をしているのか、全くわからない。

「……あの、何のお話ですか?」

 おそるおそる尋ねると、

「ああ、新入生だからまだ知らないか」

 皇月先輩が、わたしの方に視線を戻して言った。

「夢ヶ丘学園には、年に一度、生徒会が主催するプリンセス・プロジェクトっていう学校行事があるんだ」

「プリンセス・プロジェクト?」

 訊き返したわたしに、皇月先輩が詳しく説明してくれた。

「そう。いわゆるミスコンだけど、ちょっと違うのが、女子が制服姿でノーメイクの状態からドレスアップした時の変身ぶりを見て、評価するんだ。それで優勝すると、学園主催のクリスマス・パーティーの時に好きな人とダンスできる権利がもらえる」

「それで、七星はきみをシンデレラ候補として生徒会長直々に指名したいんだって」

「――え?」

 「可愛く変身して優勝して、さっきいじめてたやつらを見返してやればいい」

「……でも……」

 急にそんなこと言われても、何をどうしたらいいのかわからないよ……。

「俺らが協力するから大丈夫だよ。あ、自己紹介まだだったよな。俺は雨沢(あまの) 虹希。七星の親友で一応生徒会副会長やってます」

 戸惑うわたしに気さくな笑顔でそう言ってくれた雨沢先輩。

 雨沢先輩って、生徒会副会長だったんだ。

 いつも皇月先輩ばかり目立っているから雨沢先輩の存在を初めて知った。

「1年A組 月島 美夢です。よろしくお願いします」

 わたしも自己紹介をすると、

「みゆちゃん? どういう字書くの?」

 雨沢先輩が訊いてきた。

「美しい夢で美夢です」

「へぇ~綺麗な名前だね~」

「そんなことないです。わたしなんかに似合わない名前だから……」

「ストップ! “わたしなんか”って言っちゃダメだよ」

「……え?」

 その言葉、さっき皇月先輩にも言われた。

「これからは “わたしなんか”は禁句。自信を持ってプロジェクトに参加しなくちゃ」

「そんな、自信なんてないです! さっきも宝城さんにブスって言われたばかりで……」

「……だってさ、七星。どうするよ?」

 わたしの言葉に、雨沢先輩が困ったように皇月先輩を見て言う。

「じゃあ、月島も一緒に連れてくか」

「よし、そうこなくちゃ!」

 雨沢先輩は嬉しそうにパチンと指を鳴らすと、

「美夢ちゃん、行くよ」

 そう言ってわたしの手を引きながら生徒会室を出た。

「え? ちょっとどこに行くんですか?」

 わけがわからないまま先輩についていく。

 一体何がどうなってるの?


 【秘密のネバーランド】


「おはようございます。よろしくお願いします」

 雨沢先輩と皇月先輩に連れて来られたのは、都内にある撮影スタジオだった。

「七星くん、おはよう。あれ、その子は?」

 スタッフさんらしき女の人が皇月先輩にあいさつしたあと、わたしの存在に気づいてそう尋ねた。

「ああ、高校の後輩です。それで、前に話してた読者コーナー、この子を使ってほしいんですけど」

「あら、変身しがいがありそうね。まかせて!」

 女の人はそう言うと、

「じゃあ、ちょっとこっちに来てくれる?」

 軽くわたしの背中を押して、別の場所へ移動するように歩き始めた。

 その途中、

「あ、美雲(みくも)さん、お疲れ様です!」

 聞こえて来た可愛らしい声と、ふんわり漂ってきた甘い香水の匂い。

「凛ちゃん、これから撮影よね。頑張って」

「はい、ありがとうございます!」

 美雲さんと呼ばれた人の言葉に眩しい笑顔で答えたのは、まさかの憧れの存在、夜咲 凛ちゃんだった。

 うわ、顔ちっちゃい! 足細い! お肌すごくキレイ!

 雑誌で見るよりずっと本物の凛ちゃんは可愛くて眩しくてキラキラなオーラを放っている。

 皇月先輩に続いて凛ちゃんにまで会えて、しかもこんなに間近で見ることができるなんて、なんだか今日一日で一生分の運を使っちゃったような気がする。

 そう思っていたけれど、このあとわたしには一生分どころじゃないくらいの信じられない出来事が待っていたんだ。

 ☆ ☆ ☆

「はい、できあがり」

 目の前の鏡に映った自分を見て、目を疑った。

「……これ、ホントにわたし?」

 あれから控室に案内されて、ヘアメイクさんにされるがままになっていたら。

 見慣れた地味子の顔じゃなくて、パッチリお目目、ふんわり女子の顔になっていた。

「うん、やっぱり思った通りメイク映えする顔ね。さぁ、次は衣装選びよ」

 メイクを終えると、美雲さんが満足気に頷いて別の部屋へ案内された。

「うわ、すごい!」

 そこには、大好きなpinky candyをはじめ、スウィガで人気のブランド服がズラリと並んでいる。

「あ、このvery berryの最新ワンピ可愛い~」

 なんてはしゃいでいたら、

「今回はピーターパンがテーマだから、これなんてどうかな」

 スタイリストさんから渡されたのは、ティンカーベルをイメージしたワンピース。

 背中には羽がついている。

「あら、サイズもちょうど良かったわね。よく似合ってるわよ」

 着替え終わると、美雲さんが笑顔で言ってくれた。

 こんな可愛い服が着られるなんて嬉しいけど、ホントにこれをわたしが着ていいのかな?

 そもそも、これからいったい何が始まるの……?

「さぁ、冒険が始まるわよ」

 そう言われて再びスタジオに戻ると、

「七星くん、そのまま目線まっすぐで」

「凛ちゃん、もう少し七星くんの方に寄ってくれる?」

 皇月先輩と凛ちゃんが撮影しているところだった。

 カメラマンさんの指示に的確に動いてポーズを決めるふたりは、プロそのもの。

「はい、OKです。次、読者コーナー入ります」

 その言葉でスタッフさん達が慌ただしく動き始めた。

「さぁ、出番よ」

 美雲さんに背中を押されて、皇月先輩と凛ちゃんの前に出る。

「上出来だな。さすがドリームチーム」

 皇月先輩がわたしの姿を見て感心したようにつぶやいた。

「ドリームチーム?」

「ここではヘアメイクさんやスタイリストさんのことをそう呼んでるのよ。モデルさんが夢の世界へ入りこめるようにすること、そして読者に夢を見せてあげることがお仕事だから。ちなみにわたしは七星くんと凛ちゃんが所属する事務所でマネージャーを務めている美雲です。よろしくね」

 そう言って美雲さんが微笑んだ。

 美雲さんって、皇月先輩と凛ちゃんのマネージャーさんだったんだ。

「実はね、来月号から、一般の女の子が七星くんや凛ちゃんと一緒に物語のキャラクターになって撮影できるっていう読者コーナー企画が始まるの。それで、誰かいないかなって探してたところだったのよ」

 ということはつまり、その読者コーナーにわたしが皇月先輩や凛ちゃんと一緒に載るの……?

「そんな、いきなり言われても心の準備が……」

 だって、ずっと憧れてた皇月先輩と凛ちゃんと一緒に撮影なんて、一生分の運を使うどころの騒ぎじゃない。

 明日地球が滅亡するかもしれない。

 でも、この機会を逃したらもうこんなチャンス二度とないかもしれない。

 それに、せっかく皇月先輩と雨沢先輩に連れて来てもらったんだし。

「やってみなよ、美夢ちゃん」

 まるでわたしの心を読んだかのように、わたしたちの会話をそばで聞いていた雨沢先輩が言った言葉に背中を押されて。

「よろしくお願いします」

 わたしは皇月先輩と凛ちゃんに頭を下げた。

 ☆ ☆ ☆

「はい、目線こっちに向けて」

「もう少し顎引こうか」

「そのまま、まっすぐで」

 スタジオにカメラマンさんの指示と、シャッター音が響く。

 眩しいライトを浴びながら、ポーズを決めるんだけど。

「う~ん……やっぱり笑顔が堅いんだよなぁ」

「自然な笑顔で撮りたいんだけどねぇ」

 撮った画像をモニターで見ながら、カメラマンさんがつぶやく。

 当たり前だけど、ど素人のわたしはカメラを向けられただけで緊張してしまって、なかなかOKが出ない。

 皇月先輩と凛ちゃんに迷惑をかけている。

 それが本当に申し訳なくて、いたたまれない気持ちになる。

 やっぱりわたしなんかここに来るべきじゃなかったんだ。

「今また “わたしなんか”って思っただろ?」

「え?」

 なんでわかったんだろう……。

「月島って気持ちがすぐ顔に出るタイプだな」

「う……」

 はい、その通りです。

「言っとくけど、俺も凛も迷惑だなんて思ってないからな」

「そうそう。わたしだって初めての撮影の時はすごいガチガチで何回も撮り直したんだから」

 皇月先輩の言葉に続いて、凛ちゃんが笑顔でそう言ってくれた。

「最初から完璧にできる人なんていないんだから、大丈夫だよ」

 凛ちゃんの優しくて力強い言葉が、心の奥にじんわり響く。

「だから、もうちょっと頑張ろう?」

「はい」

 そのあとは、ふたりのフォローのおかげでなんとかOKが出て。

「撮影終了です。お疲れ様でした~」

 その言葉に一気に体中の力が抜けた。

「そういえば、読者名どうする?」

 控室に戻ると、美雲さんに訊かれた。

「読者名ですか?」

「そう。本名でもいいならそれでもいいんだけど、違う名前にした方がいいよね?」

「はい」

 さすがに、本名が載るのはまずい。
 
「じゃあ、何か希望する名前ある?」

「えっと……」

 どうしよう。いざ違う名前にするとなると、迷うな。

「美夢ちゃんっていう本名も素敵だけど……そうね、 “夢”の字を使って音夢(ねむ)ちゃんなんてどう?」

 音夢って、響きも可愛いし、スウィガの雰囲気にピッタリの素敵な名前だ。

「すごくいいと思います! ぜひそれでお願いします」

「良かった。じゃあ、読者名は音夢ちゃんで載せるようにするわね」

 美雲さんがそう言ったその時、控室のドアをノックする音が聞こえた。

「あ、ちょっと待ってね」

 先に美雲さんが出てくれて、わたしの方に視線を向ける。

「王子様達がお迎えに来てるわよ」

 悪戯っぽく笑いながらそう言われてドアを開けると、

「撮影お疲れ~!」

 笑顔の雨沢先輩と、少し疲れたような表情を浮かべる皇月先輩がいた。

「七星はまだ他の仕事があるから、着替え終わったら駅まで一緒に行こう」

「……いいんですか?」

「うん、もちろん。外の休憩スペースで待ってるから」

 雨沢先輩がそう言ってくれて、わたしはその言葉に甘えることにした。

 メイクを落として制服に着替えたら、そこにはいつもの地味子のわたしがいる。

 なんだかシンデレラの魔法が解けてしまったような気分だった。

「さっきの美夢ちゃん、すごく良かったよ」

 駅までの道を歩きながら、雨沢先輩が笑顔で褒めてくれた。

「そんなことないですよ。わたし、皇月先輩にも凛ちゃんにも迷惑かけちゃって、本当に自分が情けなくて……」

「本当にそうかは、来月号のスウィガを見たらわかるよ、きっと」

「え?」

「とりあえず、今日のことは学校のみんなには秘密ってことで、よろしく」

「はい。それは大丈夫です」

 もしわたしが雑誌に載ってることがバレたら宝城さんに何をされるかわからないから、わたし自身みんなに言うつもりなんてない。

「それじゃあ、またね」

 駅の改札で雨沢先輩と別れて、ひとり自宅の最寄駅まで電車に乗った。

 文字通りなんだか夢みたいな一日だったな。



【お茶会へようこそ】


あの夢のような日から数週間後、スウィガの最新号が発売された。

「この音夢っていう子が来てるワンピース超可愛いね~」

「皇月先輩や凛ちゃんと一緒に撮影できるなんて羨ましすぎる!」

教室で、いつものように如月さんを中心に盛り上がっている会話。

如月さん達が見ているのは、わたしが載っているページだ。

ピーターパンをテーマに、皇月先輩がピーターパン、凛ちゃんがウェンディ、そしてわたしがティンカーベルをイメージした服でポーズを決めている。

皇月先輩と凛ちゃんに囲まれて真ん中に映っているわたしはとても自分とは思えないくらい可愛くて、プロの人達の腕ってこんなにすごいんだって改めて感動した。

如月さん達も、まさか音夢がわたしだなんて思わないんだろうな……。

「あ、見て見て! 『6月にSweet Girls主催のティーパーティー開催決定』だって!」

如月さんが嬉しそうな声をあげた。

わたしも、発売前に出版社から送られてきた最新号の告知を見て気になってたんだよね。

都内のホテルにある宴会場で、【Sweet Girls】の人気モデルさんと一緒に過ごせる読者イベントらしいんだけど。

30名限定だから、きっとすごい競争率になるんだろうな。

「参加すれば、凛ちゃんにも皇月先輩にも会えるんだよね」

「妃花ちゃん、応募してみなよ」

「うん、そうする!」

早速盛り上がってる。

私も行ってみたいけど、如月さんに会うのはイヤだな。

また何かイヤミとか言われそうだし。


応募する勇気がないまま数週間が過ぎたある日。

授業を終えて家に帰ると、ポストに何通か手紙が入っていた。

誰もいないリビングで、届いた手紙を確認する。

どうせいつも届くどうでもいいダイレクトメールばかりだろうと思っていたら、1通だけ真っ白で少し厚みのある立派な封筒が混ざっていた。

まるで何かの招待状みたいだけど、お父さんかお母さんの仕事関係の手紙かな?

そう思って宛名を確認すると、『月島 美夢様』と書いてあった。

私に届いた手紙みたいだけど、いったい誰から?

心当たりがなくて不思議に思いながら差出人を確認すると、『乙女の森社』と書かれていた。

乙女の森社ってスウィガの出版社だ。

でも、出版社が一体なんで私に手紙を……?

心当たりがないまま封を開けると目に飛び込んできたのは、『Sweet Girls主催 ティーパーティー招待状』という言葉だった。

「月島 美夢様。この度、6月15日に当社が開催するティーパーティーに特別ゲスト様としてご招待致します。当日は招待状をお持ちのうえ、ご来場下さい」

手紙の文面を声に出して読み上げてみる。
ちょっと待って、特別ゲスト様ってどういうこと?

そもそも、なんで応募もしてないのに招待状なんて……。

と、そこでふと思い当ることが。

もしかして、この前スウィガの読者コーナーに載せてもらったから……?

でもティーパーティーに行くっていうことはドレスコードがあるわけで、普段着じゃダメなんだよね。

スウィガの服は大好きだけど、私には似合わないし、金額的にも高くて買ったことがないから、持ってないんだよね。

唯一、去年親戚の結婚式のために買ってもらったワンピースくらいしかないんだけど、それでもいいのかな。

でも私、メイクも自分で上手くできないし……。

この前は全てスウィガのスタッフさんがやってくれたから良かったけど。

そう考えると、やっぱりやめた方がいいような気がする。

せっかく招待してもらっているんだし、普通に応募したってなかなか当たらないイベントだから、本当はすごく行きたいけど。

どうしよう……。

招待状を見つめたまま、私は行くか行かないか決められずにため息をついた。


翌朝、日直当番になっている私は日誌を取りに職員室へ向かった。

「失礼しました」

日誌をもらって教室へ向かおうとした、その時。

「あれ、美夢ちゃん?」

突然後ろから名前を呼ばれた。

この声はもしかして……

「雨沢先輩?」

振り返ると、予想通り生徒会副会長の雨沢先輩がいた。

「この前の雑誌、見たよ。いい出来だったね」

「ありがとうございます」

「あ、そういえば招待状届いた?」

「……え?」

なんで雨沢先輩が知ってるんだろう?

疑問に思っていると、

「ちょっとだけ時間いい?」

雨沢先輩がそう言って、職員室のすぐ隣にある進路指導室へ入った。

まだ朝早い時間だから、中には誰もいない。

「お茶会の招待状、届いた?」

中に入るなりもう一度そう訊かれて、やっぱりあの招待状のことだと確信する。

「届きました」

「あれ、七星が美雲さんにお願いしたんだって」

「え?」

なんで皇月先輩が……?

「プリンセス・プロジェクトに参加するためのミッションだって」

「ミッション?」

「そう。この前の読者コーナー、読者から評判良かったみたいだから、美夢ちゃんが参加するならまたドリームチームが協力してくれるってさ。どうする?」

どうするって言われても……どうしたらいいんだろう。

この前の撮影はとても緊張したけど、可愛い服を着てメイクをして違う自分になれた気がして嬉しかった。

だけど如月さんも参加するかもしれないイベントだし、もしもわたしだってバレたら……。

「あ、ちなみに美夢ちゃんいじめてた子は落選したらしいよ」

「え、なんで知ってるんですか!?」

「企業秘密」

そう言って雨沢先輩は人差し指を唇にあてて微笑んだ。

「だから、安心して参加できるよ」

「……」

どうして雨沢先輩も皇月先輩も、こんなわたしのためにここまでしてくれるんだろう……。

と、その時廊下から話声と足音が聞こえてきた。

壁にかかっている時計を見ると、朝練も終わってそろそろみんなが登校してくる時間になっていた。

「じゃあ、そういうことだから。考えておいてね」

そう言うと、雨沢先輩は先に指導室を出た。

「え~落選しちゃったの!?」

教室に入ったとたん、聞こえて来た声。

視線を向けると、如月さんの席の周りに取り巻きの女子数人が集まっていた。

「うん。昨日の夜に当落メール届いたんだけど、落選しちゃった。凛ちゃんと皇月先輩に会いたかったのに~」

輪の中心で如月さんが悔しそうに言った。

と言うことは、さっきの雨沢先輩の話は本当だったんだ。

「そういえば月島さんも皇月先輩と凛ちゃんのファンだったよね?」

そう言って取り巻きのひとりがわたしの方を見てきた。

とたんに他のクラスメートの子達までがわたしの方に視線を向けてきて、小声で「え、そうなの?」「あの地味子が?」なんて囁き合ってるのが聞こえる。

「月島さんも応募したんじゃないの?」

「もしかして当選したとか?」

興味津々の瞳でそう言われたけど、もちろん本当のことなんて言えるわけがない。

「……わたしは応募してないから」

消え入りそうな声でかろうじてつぶやくと、

「だよねぇ? だいたいドレスコードで着ていく服なんてないだろうし」

如月さんが明らかにバカにしたような言い方でそう言うと、周りからクスクスと嘲笑が聞こえてきた。

やっぱりわたしが参加するなんてバレたら大変なことになりそう…。

でも、“音夢”になればわたしだってあんな風に変われるんだ。

せっかく皇月先輩がくれたチャンスを無駄にしたくない。

そして、如月さん達を見返したい。

もう一度あの夢のような時間を過ごしたい。

そう思ったわたしは、お茶会に参加することを決めた。


☆ ☆ ☆


6月15日、お茶会当日。

梅雨の合間の晴天は、まるでわたしに『頑張れ』と言ってくれているみたい。

時刻は午後1時。目の前には乙女の森社の事務所がある大きなビル。

いざ、夢の世界へ!

気合を入れて一歩足を踏み出すと、自動ドアが開く。

「いらっしゃいませ」

中に入ると優しそうな女性が出迎えてくれて、わたしは届いた招待状を出して見せた。

「それでは、こちらへどうぞ」

案内されて通されたのは、応接室らしき立派な部屋。

シンプルだけど高そうな黒い革張りのソファと、これもまた高そうなテーブル。

いかにもザ・ビップルームって感じがするけど、わたしなんかが入っていいのかな。

「担当を呼びますので、おかけになってお待ちください」

「あ、はい」

言われてソファに座ると、ふかふかで座り心地が良かった。

少しして、ドアをノックする音が聞こえた。
返事をしてドアが開くと、

「音夢ちゃん、いらっしゃい! 来てくれてよかったわ」

美雲さんが嬉しそうな笑顔でそう言って部屋に入ってきた。

美雲さん、今わたしのこと「音夢」って呼んだ?

「今からもうあなたは音夢よ。さぁ、早速支度しましょう」

美雲さんに案内されてやってきたのは、たくさんの洋服が飾られた部屋。

どれも乙女の森社が出版しているファッション雑誌の服だ。

もちろんスウィガで使われてる服もたくさんある。

「あ、これ可愛い!」

パステルカラーの水色を基調に、クッキーやマカロンなどのスウィーツやティーポットが描かれたワンピース。

お揃いの色と柄で靴下とリボンカチューシャもある。

まさにお茶会をイメージした服。

「気に入った? じゃあ、それにしましょうか」

「え?」

美雲さんは、わたしが見ていたワンピースを手に取ると、部屋の奥にある試着室らしき場所へ向かった。

つまり、これを着てお茶会に参加していいってことだよね。

着替え終えると、美雲さんに案内されてまた別の部屋へ。

「音夢ちゃん、よろしくね」

前回もメイクをしてくれたヘアメイクさんが笑顔で声をかけてくれた。

「今日はワンピースに合わせてアリス風メイクにしようか」

そう言って私を椅子に座らせると、手際良くメイクを始めた。

「はい、出来上がり!」

声を掛けられて目の前に映る自分は、いつもより大きくてキリッとしたクールなネコ目になっていた。

でも、唇や頬は甘いピンクを使っていて、可愛らしさもある。

「音夢ちゃんの顔にはアリス風ピュアメイクよく合うね」

「ホントですか?」

「うん。すごく可愛い」

可愛いなんて言われなれてないから、恥ずかしいな。

「行ってらっしゃい!」

ヘアメイクさんに背中を押されて部屋を出ると、向かい側の部屋で待っていてくれた美雲さんに声をかけた。

「変身完了ね。それじゃあパーティー会場へ行きましょうか」

エレベーターで地下1階へ降りると駐車場があって、美雲さんに助手席に乗るよう案内された。

車で会場まで行くんだ。

確かに、この格好で電車移動なんてしたら注目の的だよね。

運転席に乗った美雲さんは、わたしがシートベルトをしたことを確認すると車を発進させた。

カーステレオから、今人気のアイドルソングが流れている。

あ、この曲わたしが好きな曲だ。

心の中で歌いながら流れる景色を眺めていると、15分ほどで会場となるホテルへ到着した。

関係者用の裏口から中に入って、控室へ向かう。

「失礼します」

美雲さんと一緒に控室の中へ入ると、すでに皇月先輩と凛ちゃんが楽しそうに話していた。

「美雲さん、おはようございます」

「おはよう」

凛ちゃんに笑顔であいさつを返す美雲さん。

「音夢ちゃんも来てくれたんだね」

「……え」

凛ちゃんに名前を呼ばれて、ビックリ。

わたしのこと、覚えてくれていたんだ。

「その衣装、すごく可愛い! 音夢ちゃんに合ってる」

「…あ、ありがとう…」

思いがけない褒め言葉に、嬉しいのと恥ずかしいのとでお礼を返すのが精いっぱい。

この前も思ったけど、凛ちゃんってすごく気さくな子なんだな。

モデルさんって、もっと気取っててキツイ感じなのかなって思っていたけど、凛ちゃんは全然違う。

「ちゃんと来たんだな。すっぽかすかと思った」

皇月先輩が安心したようにそう言った時、控室のドアをノックする音が聞こえて。

「そろそろ準備お願いします」

ドアが開くと同時に、スタッフさんらしき人が顔を覗かせてそう言った。

「行こうか」

皇月先輩を先頭に、3人で控室から会場へ向かう。

扉の前で待機していると、

「それでは、早速スペシャルゲストをお呼びしましょう! どうぞ~」

マイクを通した司会の声と歓声が聞こえて来た。

その言葉を合図に扉が開かれて会場の中へ入ると、さっきよりさらに大きな歓声に包まれた。

「モデルの皇月 七星くん、夜咲 凛ちゃん、読者モデルの音夢ちゃんで~す!」

司会の人が紹介すると、

「七星く~ん」

「凛ちゃ~ん」

ふたりの名前を呼ぶファンの子達の声が響いた。

わたしは、そんなふたりの横でただ立っていることしかできない。

会場の子達の「あんた誰?」っていう視線を感じて、ますます緊張してしまう。

「大丈夫だから、堂々としてな」

皇月先輩にそう小声で言われて、ハッとする。

わたしが緊張していることに気づいてくれたんだ。

先輩のさりげない言葉が嬉しくて、わたしは一度深呼吸をすると、まっすぐ顔を上げた。

目の前には、雑誌や絵本から飛び出してきたような可愛い服を着た女の子達。

天井にはきらめくシャンデリア。

テーブルに並べられた美味しそうなお菓子。

憧れていた大好きなキラキラ輝く世界が目の前に広がっていて、まるで童話のお茶会に迷い込んだような気持ち。

せっかくこんな素敵な場所にいるんだから、楽しまなくちゃ。

今の私はガリ勉地味子の美夢じゃなくて、音夢なんだから、大丈夫。

そう思ったら不思議と緊張が和らいで、心がふっと軽くなった。

「まずは3人の衣装をご紹介しましょう。凛ちゃんはPinky Candyの新作ワンピースを着てくれてます」

司会の人の言葉に、改めて凛ちゃんの衣装を見る。

黒いギンガムチェックに、ケーキと蝶々型のクッキーの柄が描かれている清楚で爽やかなイメージのワンピース。

甘すぎないちょっとクールな雰囲気で、凛ちゃんによく似合っている。

「七星くんは、今年の春から立ちあがった男の子向けブランドking sing(キングシング)の王子様スタイルで決めてくれてますね」

皇月先輩は、まさにおとぎの国から抜け出した王子様のような衣装。

黒いシルクハットとクラウンのネックレスがアクセントになっていて、さらに王子様感を醸し出している。

「そして最後は大好評読者コーナーモデルの音夢ちゃんです! 今日の衣装のポイントはなんですか?」

「え? えっと…」

突然訊かれてビックリして一瞬言葉に詰まる。

どうしよう。こんなこと訊かれるなんて予想してなかった。

焦りながら思わず皇月先輩の方へ視線を向けると、

「今日はアリスのお茶会をテーマにしたみたいですよ」

そう言ってフォローしてくれた。

「ああ、なるほど、確かにワンピースの絵柄もティータイムらしくて可愛いですね」

司会の人がそう言うと、

「可愛い!」

「いいなぁ~あのワンピース欲しい!」

会場の子達からそんな言葉が聞こえてきた。

良かった。うまくやり過ごせたみたい。

皇月先輩のおかげだ。

それから私は美雲さんに案内されて別の席へと移動して、凛ちゃんと皇月先輩がトークショーをしながらのティータイムが始まった。

「凛ちゃんと七星くんには、事前に募集していた質問に答えてもらいましょう。まずは一番多かったこちらの質問。“モデルになろうと思ったきっかけはなんですか?”ということで、まずは凛ちゃんからお願いします」

「私は、実は中学生の頃かなり太ってて、それがコンプレックスで。学校でもいじめられてたんです。でもテレビで同じように太っていて悩んでいる女の子がエステやメイクのプロの人達の協力で別人のようになったのを観て、私も頑張ればあんな風に変われるのかなって思って。それから本気でダイエットを始めて、メイクも雑誌をたくさん見て練習したりして、そしたらどんどん楽しくなってきて。中学卒業の記念に思い切って【Sweet Girls】の読者モデルに応募したら合格したんです」

初めて凛ちゃんのモデルデビューのきっかけを知って、ビックリした。

こんなに可愛くて気さくで優しい凛ちゃんが、昔は太っていていじめられていたなんて、信じられない。

一生懸命自分で努力して頑張って今の凛ちゃんがいるんだ。

「今の凛ちゃんからは想像できないけど、深イイお話ですね~。では、七星くんはどうでしょうか?」

「僕は、小さい時人見知りがひどくて、友達が全然できなかったんですよ。それを親が心配して、習い事として子供向けのタレント養成所に入ったんです。それで高校生の時にオーディションに受かってデビューが決まりました」

皇月先輩も、そんな過去があったんだ。

知らなかった。

入学式のときに生徒会長として挨拶していた時、落ち着いて堂々としていて、すごいなぁって思っていたけど。

それは人見知りを克服して得たものだったんだ。

華やかで眩しい世界の裏には、私たちが知らない努力や涙があるんだ。

皇月先輩と初めて話した時、「わたしなんかって言うな」って言われた意味がよくわかった。

何もしないで自分を卑下してるだけじゃダメなんだ。

自分で変わる努力をしなくちゃ、周りも変わらない。

だから皇月先輩はわたしをシンデレラ・プロジェクトに参加させようとしてくれたのかな。

そうだとしたら、わたしも、もっと頑張りたい。変わりたい。

今のふたりの話を聞いて、初めて思った。

プリンセス・プロジェクトで優勝したいって。

それからもふたりへの質問は続き、トークショーが終わったあとは会場に来ている人達との撮影会が始まった。

凛ちゃんと七星くんだけだと思ったら、なんとわたしも記念撮影のメンバーになっていて。

わたしと一緒に写真を撮りたい人なんて誰もいないんじゃないかなと思ったけれど、予想以上にたくさんの人が声をかけてくれて。

中には「ファンになりました! 握手して下さい」なんてキラキラの笑顔で言ってくれた子もいた。

そして最後には全員で記念撮影をして、約2時間のお茶会はあっという間に幕を閉じた。

「お疲れ様でした」

控室に戻ると、一気に緊張が解けて体の力が抜けた。

放心状態で椅子に座ったわたしに、

「お疲れ。よく頑張ったな」

皇月先輩が声をかけてくれた。

「最初はガチガチで心配だったけど、最後はちゃんとポーズも決めててサマになってたよ」

「ホントですか?」

「ああ。今日のミッションは合格!」

「ありがとうございます!」

良かった。皇月先輩に認めてもらえた。

「ねぇ、ミッションってなになに!?」

わたしたちの話を聞いていた凛ちゃんが興味津々の目で尋ねてきたけど、

「ふたりだけのヒミツ」

皇月先輩がそう言って笑った。

「わたし、優勝できるように頑張ります!」

わたしがそう言うと、

「よし、頑張れ!」

先輩は笑顔でわたしの頭を軽くぽんと叩いた。


【星に願う誕生日】


静まり返った教室に、ペンを走らせる音が響く。

窓の外では夏を告げる蝉の大合唱が聞こえ
る。

最後の一問を見直し、私はシャープペンシルを机に置いた。

勉強したかいあって、手応えは充分。

「はい、そこまで!」

先生の言葉と同時にチャイムが鳴り、解答用紙を後ろの席から回しながらみんなが一斉に話し始めて、教室が一気に騒がしくなった。

お茶会でもう一度夢の様な素敵な時間を過ごしたあと、私に待ち受けていたのは期末テストという現実。

でも、それも今解放された。

あとは夏休みが来るのを待つだけ。と言っても、わたしの場合は友達もいないし何の予定もない夏休みだけど。

「え~妃花ちゃんすごい! 」
突然聞こえて来た声に視線を向けると、如月さんの席に早速いつもの取り巻きの子たちが集まってはしゃいでいた。

「夏休みに家族でフランス旅行なんて、さすが元モデルのお母さんだよねぇ」

わざとみんなに聞こえるように大きな声で話しているのか、離れたわたしの席にまで聞こえて来た言葉。

その言葉にさらに周りの子たちも反応して、「すごい、さすがお嬢様」「うらやましい~」なんて盛り上がり始めた。

「毎年家族で行ってるんだ」

自慢げにそう言った如月さん。

フランスか。いいなぁ、私もいつか行ってみたいな。

うちは両親共休みが不規則な仕事だから、夏休みに家族旅行なんてしたことがない。

誕生日やクリスマスだって一緒に過ごしたのは数えるくらいしかない。

今日だってふたりとも仕事で、帰ってくるのはきっと深夜だ。

H.R.が終了した後、特に予定もないわたしはすぐに教室を出て早く帰ろうと昇降口へ向かった。

すると、中庭の方から女の子達の賑やかな歓声が聞こえて来た。

「七星先輩、お誕生日おめでとうございます!」

「プレゼント受け取って下さい!」

そう言ってプレゼントらしきものを手に、皇月先輩を囲んでいる光景が見えた。

7月7日、今日は皇月先輩の誕生日だ。

前にスウィガのインタビューで、「七夕生まれだから七星と名付けられた」って話していたっけ。

「ありがとう。でも、気持ちだけ受け取っておくよ」

そう言って微笑んだ皇月先輩に、またしても「キャ~!」と歓声があがる。

やっぱり皇月先輩は学園の王子様で、人気モ
デルなんだ。

ついこの前お茶会で一緒に話していたのが信じられない。

今こうして制服を着ている私は、ただの地味子で、とても話しかけることなんてできない。

同じ日に生まれたのに、この差はなんだろう。

誕生日だからって祝ってくれる友達なんていないし。

両親だって子供の誕生日より仕事が優先なんだ。

暗い気持ちのまま帰宅すると、ポストの中に厚めの封筒が入っていた。

宛先にはわたしの名前。差出人は『乙女の森社』ということは、きっとスウィガの最新号だ。

早速中を開けてみると、予想通り来週発売のスウィガが入っていた。

中にはこの前のお茶会のレポートが掲載されている。

ページを確認して見てみると、思っていたよりも大きく『音夢』のわたしが写っていた。

わたしじゃないわたし。

魔法にかけられた夢の中のわたし。

だけど、確かにあの日あの時あの場所にわたしがいたことを証明している。

お茶会のページを確認したあと、わたしは改めて最初のページから読み始めた。

今月号の巻頭特集も、もちろん凛ちゃんだ。

七夕をテーマにした『スターライトファンタジー』という特集で、フリルのブラウスに星図と惑星の柄が描かれているサックスブルーのスカートという衣装。

スカートのウエスト部分には大きなリボンがついていて、とても可愛いデザイン。

凛ちゃんはどんな服を着ても似合ってる。

夢中になって読んでいたら、気がつけばもう窓の外は日が暮れ始めていた。

テレビをつけると、天気予報のコーナーでアナウンサーのお姉さんが、

「七夕の今夜は残念ながら雲が多く、天の川は見られないでしょう」

と残念そうに言った。

窓を開けて空を見上げると、確かに雲が多くて星は見えなかった。

「こちらFテレビ局の広場にはたくさんの短冊が飾られています。皆さんはどんな願い事をしましたか?」

テレビから聞こえて来たアナウンサーの問いかけに、ふと心の中で考える。

願い事か。今のわたしが願うことは、やっぱり……。

「プリンセス・プロジェクトで優勝できますように」

そう言葉にしてもう一度空を見上げると、雲の隙間からちょうど星が見えた。

凛ちゃんも皇月先輩も、あの星みたいに遠くて手の届かない存在だったのに。

今は実際に会って話すことができるようになったなんて、信じられないけど。

頑張って優勝して、自信を持って皇月先輩と凛ちゃんの隣に立てるようになりたい。

ひとりきりの誕生日で落ち込んでいたけれど、今日届いたスウィガは、まるで『音夢』というもうひとりのわたしからの誕生日プレゼントのように思えた。


【花火と浴衣と恋心】


「ということで、夏休みのクラス交流会は矢坂神社の夏祭りに決定しました」

1学期最後の終業式のホームルーム。

クラス委員の言葉にクラス中から拍手が起きた。

夢ヶ丘学園では、1年生の学校行事として夏休みにクラスごとに交流会をやるらしく、私のクラスは学校の近くにある神社の夏祭りに行くことになった。

「みんなせっかくだから浴衣着て参加して下さいね~」

「は~い!」

明日から始まる夏休みにテンションが上がっているのか、クラス委員が続けて言った言葉に、元気な返事が響いた。

正直交流会なんて行きたくない。

行ったってどうせひとりで浮くだけだし。

家族で出かける予定があると言って欠席しようかと考えたその時。

「ねぇ、もしかして皇月先輩に会えるかなぁ!?」

突然聞こえてきた皇月先輩の名前に思わず反応してしまう。

「確か生徒会の人達も毎年夏祭りに行ってるんだよね。運が良ければ会えるんじゃない?」

夏祭りに行けば、皇月先輩に会えるかもしれない?

それを聞いたわたしは、夏祭りに参加することにした。

「変じゃない?」

夏祭り当日、お母さんに浴衣を着せてもらって最終チェック。

「大丈夫よ。もう出ないと間に合わないでしょ」

「あ、ホントだ! じゃあ、行ってきます!」

慌てて玄関へ向かって家を出た。

急がないと午後6時の集合時間に遅れちゃう。

慣れない下駄で走りながら、集合場所の矢坂神社へ向かう。

神社へ着くと、聞こえてきたお囃子の音。

屋台から漂ってくる美味しそうな焼きそばの匂い。

夏祭り独特の雰囲気に、自然と気持ちが高揚する。

入口に、わたしたちのクラスらしき集団がいた。

みんな浴衣姿で雑談している。

「それじゃ、ここからは自由に回って下さい。花火が終わったら、またここに集合して下さい」

クラス委員の言葉に、それぞれが友達同士で移動し始めた。

わたしはもちろん一緒に回ってくれる友達なんていないから、みんなの後ろをひとりで歩く。

「妃花ちゃん、その浴衣超可愛いね~!」

少し前を歩く、如月さん達のグループから聞こえてきた言葉。

グループの真ん中にいる如月さんは、ピンクの生地にバラ柄、襟や袖にはレースがついたワンピース型のゴスロリ浴衣を着ていた。

「これ、Pinky Candyが出してる限定ものの浴衣なんだ」

ちょっと得意げに言った如月さん。

言われてみれば、わたしもスウィガで凛ちゃんが着てるのを見ていいなと思ってた浴衣だ。

如月さんみたいに可愛い子が着るとなおさら可愛く見える。

通り過ぎる人達も、如月さんを振り返って見てる。

「地味子さんが羨ましそうに見てるよ~」

わたしの視線に気づいたのか如月さんの隣にいた子がそう言って、如月さんが振り返ってわたしを見た。

「あ、月島さんも浴衣着てきたんだ」

言いながらわたしの浴衣を見て、

「……古くさい浴衣」

バカにしたようにつぶやいた。

「地味子さんはやっぱり浴衣も地味なんだね~」

そう言ってクスクスと嘲笑する3人。

周りから感じる憐みと好奇の視線。

「……」

この場から逃げ出したくて、わたしは人混みの中をすり抜けて駆け出していた。

賑わう屋台を抜けて辿り着いたのは、神社の境内。

これから始まる花火を見ようと、カップルや家族連れが場所取りをしている。

息が苦しくて、立ち止まって呼吸を整えていたら、堪えていた涙が溢れてきた。

悔しい、悔しい、悔しい。

この浴衣は、去年亡くなったおばあちゃんの大切な形見なのに。

確かに地味かもしれないけれど、わたしにとっては大好きな浴衣なのに。

「……月島?」

境内の階段に座り込んで泣いていると、突然誰かに名前を呼ばれた。

振り向くと、そこにいたのは皇月先輩だった。

「大丈夫か? 具合でも悪くなった?」

心配そうに訊いてくれる先輩の優しさに、抑えようとしていた涙がさらに溢れて来た。

「………っ」

「何があった?」

話していいのかな。

「そんなことか」って呆れられないかな。

そんなことを考えて話すことを躊躇っていたら、

「余計なこと考えないで話してみな」

皇月先輩がそう言ってくれた。

思い切ってさっき如月さん達に浴衣をバカにされたことを話すと、

「そんなくだらないこと言うヤツなんて気にするな」

先輩はそう言いながら笑った。

やっぱりわたしが気にし過ぎなのかな。

「……その浴衣、俺はいいと思うよ。月島に似合ってる」

……え?

思わず先輩の顔を見上げた瞬間、ドンという大きな音が聞こえて、一瞬周りが明るくなった。

「……花火?」

いつのまにか、花火大会が始まる時間になっていたんだ。

「綺麗だな」

何事もなかったようにそう口にした先輩の頬がほんのり赤く見えるのは、花火の色のせいかな?

次々と夜空を鮮やかに染めていく花火。

偶然とはいえ、こうして憧れの皇月先輩と見られるなんて思わなかった。

そっと先輩の横顔を見る。

相変わらずキレイに整った顔。

今は音夢としてではなく、月島 美夢として先輩の隣にいるんだよね。

ずっとこうして先輩の隣にいられたらいいのに……。

そう思ったら、胸の奥がしめつけられるような感覚がした。

最初はただ遠くから見ていられればそれで良かったのに。

もっと近づきたいって思ってる。

この気持ちは、きっともうただの憧れじゃない。

わたし、皇月先輩のことが好き―。

【ライバルは魔女!?】


あの夏祭りの日から、ずっと皇月先輩の言葉と笑顔が頭から離れなくて。

雑誌の中の先輩を見てはドキドキして、早く会いたいと思いながら毎日を過ごしていた。

今までは遠い存在だった皇月先輩と、音夢として一緒にお仕事をするようになって。

学校では絶対話すことなんてできない地味な私に話しかけてくれて。

いつの間にか、芽生えてしまった“好き”という気持ち。

一度気がついたら、どんどん大きくなっていく。

皇月先輩に会いたくて、いつもなら終わらないで欲しいと願う夏休みが早く終わってほしいと思ってしまうくらい。

そんな、夏休みもあと数日に迫った8月の終わり。

冷房の効いた自分の部屋で、ベッドに寝転がりながらスウィガを読んでいると、手元に置いてあったスマホの画面が着信を告げた。

私に着信なんて滅多にないのに、一体誰から?

画面に表示された名前を確認すると、美雲さんだった。

お茶会の時に連絡先を教えていたけど、今まで電話なんて来たことなかったのに。

「はい、月島です」

「あ、美夢ちゃん? 美雲です。今、ちょっと話しても大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です」

「実はね、次号のスウィガの読者コーナー、音夢ちゃんに出てもらいたくて。来月撮影に参加してもらいたいんだけど」

「え、いいんですか!?」

「スウィガの読者さんからも音夢ちゃんのコーナーをもっと見たいって意見がいっぱいきてるのよ。だから、編集長もぜひ出てほしいって」

「うそ」

「うそじゃないわ。もうすでに音夢ちゃん宛にファンレターも来てるくらいなのよ」

ファンレター!? わたしに……!?

「……なんか信じられないです」

学校では地味子って言われてバカにされてばかりのわたしにファンレターなんて……。

「撮影の時に見せてあげるわ。撮影日は9月21日で、七星くんも凛ちゃんも一緒だから」

「わかりました。よろしくお願いします!」

また皇月先輩と一緒に撮影ができるんだ。

そう思うと、嬉しくて思わず笑顔になる。

「なんか、美夢ちゃん変わったわね」

「……え?」

「初めて七星くんに撮影に連れてこられた時は、カチカチに固まっててホントに自信なさそうにしてたのにね」

美雲さんが優しい口調でそう言って、ふふっと笑った。

確かに、最初は何が何だかわからないくらい、緊張していて。

憧れの皇月先輩が目の前にいるっていうだけでパニックだった。

でも今は、撮影の日が楽しみだって思えるようになった。

それは、皇月先輩や凛ちゃんはもちろん、美雲さんやスウィガのスタッフの方達が、優しく見守ってくれたからだ。

「変われたのは、皆さんのおかげです」

「特に、七星くんのおかげ、かな?」

「えっ!?」

美雲さんの言葉に驚いて思わず大きな声を出すと、

「美夢ちゃんって、ホント素直ね」

美雲さんが笑いながらそう言って、恥ずかしさで顔が熱くなっていく。

「七星くんから美夢ちゃんに伝言」

「伝言?」

「ええ。これがラストミッションだから、気合い入れて来いって」

ラストミッション……つまりプリンセス・プロジェクトに参加する前の最後のミッションということ?

そうか。それならなおさら頑張らなくちゃ!

「ありがとうございます」

「それじゃ、また来月にね」

通話を終えると、改めて嬉しさがこみ上げてきた。

先輩がくれたラストミッション、絶対成功させなくちゃ!


☆ ☆ ☆


夏休みが明けて新学期が始まった。

わたしは相変わらずクラスに馴染めないまま、放課後に日直の仕事や掃除当番を押し付けられる毎日。

如月さんは休みの間に家族で行ったフランス旅行の話を自慢気に話していて、取り巻きの子達がわざとらしいくらいに如月さんを誉めていた。

皇月先輩は時々見かける程度で、学校では一切話をしていない。

だけど、撮影の日になれば、先輩に会えるし、話もできる。

また音夢になれる。

そう思うと、今まで憂鬱だった学校も頑張ろうって思えた。

そして、待ちに待った撮影日当日。

わたしは、事前に伝えられていた都内にある撮影スタジオに向かった。

日曜だから街中はたくさんのカップルや家族連れで賑わっていて、オシャレで高級というイメージ通りすれ違う人達はみんな雑誌の中から抜け出してきたみたいにオシャレで、アウェイな空気を感じながらスタジオまでの道のりを歩いた。

「おはようございます」

スタジオに着いて、緊張しながらも既に準備を始めているスタッフの皆さんに挨拶をした。

「あ、音夢ちゃん。今日もよろしくね!」

初めて読者コーナーの撮影してもらった時から同じメンバーだから、もうすっかり顔を覚えてもらっているみたい。

笑顔で声をかけてもらえて、緊張が少し和らいだ。

「音夢ちゃん、おはよう。 ちゃんと迷わないで来られたのね」

後ろから声をかけられて振り向くと、美雲さんが立っていた。

「美雲さん、おはようございます。今日はよろしくお願いします」

そう言って頭を下げると、

「音夢ちゃん、もう本当にプロのモデルさんみたいね」

美雲さんが優しくそう言いながら、わたしに手紙の束を差し出した。

「この前話してたファンレターよ。メイクの順番が来るまで、良かったら読んでみて」

「え、こんなに!?」

受け取った手紙は、思っていたよりたくさんあってビックリした。

「音夢ちゃんが思っている以上に、読者の子達は音夢ちゃんのことを応援してくれているのよ。だから、自信を持って今日の撮影も頑張ってね」

美雲さんの言葉に、胸の奥がじんわり温かくなっていく。

「ありがとうございます」

わたしはお礼を言って、スタジオの隅にある椅子に座って早速手紙を読み始めた。

【音夢ちゃん、初めまして。私は今中学2年生です。お姉ちゃんの影響でスウィガを読み始めました。 初めて音夢ちゃんのコーナーを見た時から音夢ちゃんのファンになりました。 音夢ちゃんを生で見てみたくて、お姉ちゃんと一緒にお茶会に参加しました。 本物の音夢ちゃんもとても可愛くて感動しました。これからもずっと応援しています。】

【私は今高校2年生です。凛ちゃんと音夢ちゃんに憧れて毎日メイクの練習をしたりバイト代でふたりが着ている服を買ったりしています。私もいつかスウィガのモデルになりたいです】

その後も次々に書かれている「応援してます」や「憧れです」の言葉たち。

嬉しくて、何度も読み返したくなる。

本当に、こんなにわたしのことを応援してくれている人達がいるんだ。

学校ではバカにされてるわたしだけど。

目立たない地味子のわたしだけど。

『音夢』のわたしは、憧れの存在になれているんだ。

感動で胸がいっぱいになって、思わず泣きそうになっていると、

「音夢ちゃんメイクお願いします」

ヘアメイクさんに声をかけられて、メイクルームへと向かった。

中へ入ろうとした時、ちょうどメイクを終えたらしい皇月先輩とすれ違った。

「あ、皇月先輩、今日もよろしくお願いします」

そう声をかけると、

「ああ。頑張れよ、音夢」

皇月先輩が笑顔を見せてくれて。

久しぶりに見た本物の先輩の笑顔に、ドキドキと心臓の音が大きくなっていく。

「今日はハロウィン特集だから、ゴスロリメイクにするね」

メイクルームに入ると、ヘアメイクさんがそう言って早速メイクを始めた。

鏡に映るわたしは、言葉通りいつもの甘ロリ女子じゃなくてちょっとダークな小悪魔女子へと変身していく。

「衣装はこれね」

メイクを終えると、スタイリストさんから今日の衣装が渡された。

黒で統一されたフリルたっぷりのブラウス、ビスチェ、ロングスカート。

今まで着たことのないゴスロリスタイルだ。

こんな風に撮影がなかったら、絶対に「わたしなんか似合わない」と思って着ないような服。

着替えを終えてスタジオに戻るとすでに皇月先輩と凛ちゃんがいて、ふたりで楽しそうに談笑していた。

顔を寄せ合って、かなり親密な雰囲気。

今まで気にしたことなかったけど、もしかしてふたりってつきあってたりするのかな……?

「それでは、撮影入ります」

その言葉に、慌ててふたりのもとへ駆け寄る。

「あ、音夢ちゃん。よろしくね」

凛ちゃんが声をかけてくれた。

「よろしくお願いします」

そう返して、改めて凛ちゃんを見る。

わたしと同じように黒で統一された衣装。

ドレス風ワンピースに編みあげブーツで、魔女っ子スタイルだ。

皇月先輩も黒をメインにしたロックテイストな王子様スタイル。

ハロウィンの夜に現れた魔界のお姫様と王子様をモチーフに、森の中にひっそりと建てられた洋館スタジオで撮影が始まった。

アンティークな家具が置かれた部屋や、蔦の絡まる壁が素敵な緑がいっぱいの庭で、カメラマンさんの指示に従ってポーズを決める。

まだカメラを向けられると緊張はするけど、最初の頃よりも自然に笑顔が作れるようになった。

「お疲れ様でした」

撮影は順調に進んで、思っていたよりも早く終了した。

「お疲れ。今日の撮影すごく良かったよ」

ポンっと後ろから肩を軽く叩かれて振り返ると、皇月先輩が笑顔でそう言ってくれた。

「ありがとうございます」

先輩に誉めてもらえるのが一番嬉しい。

「最初はどうなるかと思ったけど、これならプリンセス・プロジェクトも自信もって出場できるな」

……そうだ。わたし、肝心なこと忘れてた。

先輩は、プリンセス・プロジェクトに参加するための準備としてわたしをここに連れて来てくれたんだ。

わたしをいじめてた如月さん達を見返すために協力してくれているんだよね。

わたしが『音夢』だから、こうして笑顔を見せてくれているんだよね。

そう思ったら、なんだか急に胸が苦しくなった。

「音夢ちゃん、ちょっといいかな?」

その時、凛ちゃんに声をかけられて一緒にメイクルームの方へ向かった。

「凛、音夢のこといじめるなよ」

からかうように言った皇月先輩に、

「そんなことしないもん!」

と否定した凛ちゃん。

凛ちゃんは気さくで優しい子だし、今さらわたしをいじめるようなことはしないだろうと思うけど、真剣な表情に少し不安になる。

「単刀直入に聞くね。音夢ちゃんって、七星くんのこと好き?」

人通りの少ない廊下の端で、凛ちゃんが声をひそめて尋ねた。

「……え?」

予想していなかった質問になんて答えればいいか戸惑っていると、

「わたし、七星くんのこと好きなんだ」

真っすぐわたしを見て、凛ちゃんが言った。

「だから、もし音夢ちゃんも七星くんのことが好きなら。正々堂々、勝負しようと思って」

凛ちゃんはわたしから視線を逸らさず、迷いのない真剣な瞳で言葉を続けた。

どうしよう。なんて答える?

「わたしも好き」って正直に答える?

「ただ憧れてるだけだよ」って誤魔化す?

そしたら凛ちゃんは皇月先輩と本当につき合うかもしれない。

でも、ライバルが凛ちゃんなんて敵うわけがない。

だって、わたしなんか……と、そこまで考えた時。

『わたしなんかって言うなよ』

突然、皇月先輩と初めて話した時に言われた言葉を思い出した。

そうだ。わたしは変わりたいから、ここにいるんだ。

ここでまた「わたしなんか」って逃げてたら、いつまでたっても地味子の美夢のままだ。

皇月先輩のことが好きっていう気持ちから逃げたくない。

――だから。

深呼吸して、顔を上げて、まっすぐ前を見て。

「わたしも、皇月先輩が、好き」

勇気を出して口にした言葉は、少し震えていたけれど。

でも、これが今のわたしの精一杯。

少しの沈黙の後、凛ちゃんがふっと軽く息を吐く音が聞こえて。

「そっか。やっぱり、わたしたちライバルだね」

そう言って笑った。

それは、決してバカにしたような嘲笑ではなくて。

まるで「良く言えたね」と誉めてくれているような、優しい笑顔だった。

「お互い、頑張ろうね」

差し出された手を、戸惑いながらもそっと握る。

凛ちゃんの手は、とても温かかった。

ずっと憧れの存在だった凛ちゃんが恋のライバルになるなんて、数ヶ月前までなら思いもしなかった。

だけど、もう「わたしなんか」って逃げたりしない。

変わりたいって思うきっかけをくれた皇月先輩にきちんとお礼の言葉を伝えたい。

そして、「好きです」って伝えたい―。

【シンデレラは誰!?】


「ヤバい、この皇月先輩めちゃカッコイイ!」

「まさにクールな王子様!って感じだよね~」

あの撮影の日から1カ月近くが過ぎ、10月も半ばを過ぎた頃。

スウィガの最新号が発売され、いつものように教室で如月さん達がはしゃいでいた。

今彼女達が騒いでいるのは、わたしも音夢として写っているハロウィン特集のページだ。

「この音夢って子、最近よくスウィガに出てるよね」

突然聞こえてきた音夢の名前に、思わず反応してしまう。

「読モだけどいつも皇月先輩や凛ちゃんと一緒に出てるよね。いいなぁ~」

羨ましそうにつぶやく如月さんの言葉に、何ともいえない複雑な気持ちになる。

もしもわたしが音夢だって知ったら、みんなどんな反応するんだろう……?

中間テストが終わって11月に入ると、季節は本格的な秋。

夢ヶ丘学園には、文化祭がない。

そのかわり、生徒会主催のプリンセス・プロジェクトと、クリスマス・イブに学園主催のクリスマス・パーティーがあるらしい。

プリンセス・プロジェクトに出場する生徒は、当日配られる候補者一覧で発表されるけれど、生徒会指名のシンデレラ候補だけはサプライズとして登場する瞬間まで秘密にされているんだとか。

つまり私は、ステージに上がる瞬間までシンデレラ候補であることをみんなに知られてはいけないんだ。

「今年のサプライズ出場者って誰なんだろうね?」

「すごい気になる~」

時々そんな会話が聞こえてくる度にドキドキしながら、ついにプロジェクト当日を迎えた。

会場となるのは夢ヶ丘学園の敷地内にあるイベントホール。

数年前に建てられたばかりの、入学式や卒業式などが行われる立派なホールだ。

クラスごとに席に着いて開始を待ちながら、配られたプログラムを真剣な表情で見ている。

そして開始時間になると会場の照明が消え、音楽が流れ始めた。

「夢ヶ丘学園の生徒の皆さん、プリンセス・プロジェクトへようこそ!」

聞き覚えのある声だなと思ったら、ステージに現れたのは生徒会副会長の雨沢先輩だった。

ステージの中央でマイクを手にスポットライトを浴びている。

とたんに会場から女子達の歓声が聞こえてきた。

雨沢先輩って、やっぱり女子から人気なんだ。

周りの興奮ぶりを見て、冷静にそんなことを思いながらステージを見る。

「今日は学園のシンデレラをみんなに探してもらいたいと思います。盛り上がって行きましょう!」

そう言って雨沢先輩がステージを会場の方に向けると、「イェ~!」という大きな歓声が返ってきた。

まるでコンサートみたいな盛り上がり方に圧倒される。

こんな中であのステージに立つなんて、本当にわたしは大丈夫だろうか。

そう思ったら、急に緊張してきた。

「それでは早速始めましょう! 最初のシンデレラ候補は、2年A組、石井 美里さん」

雨沢先輩が名前を呼ぶと、ステージ中央のスクリーンに顔写真が映された。

「さぁ、どんなシンデレラに変身したのでしょうか!? 登場して頂きましょう!」

その言葉を合図に、中央のスクリーンがゆっくりと天井へ上がっていく。

綺麗なヒールを履いた足元が見えて、スクリーンが上がるにつれて、少しずつ石井さんの姿が見えてくる。

そして現れたのは、綺麗にメイクをして、お嬢様スタイルをした女の子。

最初にスクリーンに映し出された女の子とはまるで別人のよう。

会場からも、「おお~」というどよめきが起きている。

「2年A組 石井 美里です。憧れのお嬢様服が着てみたくて参加しました。よろしくお願いします!」

緊張しながら石井さんが自己紹介をすると、会場から拍手が起きた。

その後も、最初に制服姿の素顔の写真がスクリーンに映されたあと、ドレスアップした女の子達がステージに登場するという演出でプロジェクトは進行して行った。

そしていよいよ最後のひとりとなった時、私は暗転になったタイミングでこっそり会場を出て、控室へと向かった。

事前に雨沢先輩から、「最後のひとりの順番が来たら、控室へ来るように。準備は全部こっちに任せて」と言われていたから。

メイクも衣装も、何も自分では用意していないけど、本当に大丈夫なのかな?

不安を抱えながら、控室のドアをノックする。

「はい」

聞こえてきた返事が、なんとなく聞き覚えがある声のような気がするのは気のせいだろうか。

「失礼します」

ドアを開けた瞬間、わたしは自分の目を疑った。

だって、控室にいたのは……

「美雲さん?」

美雲さんと、いつもわたしのヘアメイクを担当しくれていた雪村さんだったから。

どうしてふたりがここにいるの…?

「サプライズ成功ね」

わたしの驚きぶりを見て、美雲さんが笑顔で言った。

一体何がどうなっているの……?

「私たち、夢ヶ丘学園の卒業生なのよ」

「え?」

この学校の卒業生?

「毎年、プリンセス・プロジェクトでシンデレラ候補にメイクをしてるの」

雪村さんがそう言うと、

「私は衣装の担当ね」

美雲さんが続けて言った。

「なんてのんびり説明してる場合じゃないわね。急いで準備しなくちゃ」

「そうね。さぁ、こっちに座って」

美雲さんに促されて、控室の奥にある鏡の前に座る。

そして雪村さんに手際良くメイクをしてもらったあと、美雲さんが用意してくれていた衣装に着替えた。

「よし、完璧! さぁ、いよいよ本番よ。頑張ってね」

ふたりに見送られて控室を出て舞台袖へと向かうと、

「皆さんお待たせしました! いよいよサプライズ候補の登場です」

雨沢先輩の言葉が聞こえて、拍手と歓声が響いた。

ついに本番なんだ。

どうしよう。緊張し過ぎて手足が震えてきた。

やっぱりわたし……

「また “わたしなんか” って思ってる?」

後ろから突然そんな言葉が聞こえて、振り返る。

「……皇月先輩」

「月島なら大丈夫だよ。胸張ってステージ立ってあいつら見返して来い!」

「……っ」

先輩に背中を押されて、嬉しくて思わず泣きそうになる。

そうだよ。今まで音夢として頑張ってきたわたしなら、大丈夫。

皇月先輩も天野先輩も、美雲さんも、雪村さんもいる。

わたしはひとりじゃない。

目を閉じて深呼吸して、ステージへ一歩ずつ踏み出す。

一瞬、雨沢先輩と目が合うと、「頑張れ」と言う様に笑顔で頷いてくれた。

「まずはこちらからご覧ください」

雨沢先輩がそう言ってスクリーンに映しだされたのは、『Sweet Girls』の音夢の画像。

とたんに大きな歓声が響く。

「うそ!? 音夢がサプライズ候補なの!?」

「音夢ってうちの学校の子だったの!?」

女の子達が騒ぎ始めてる。

ちょっと待って。もしかして、ここで音夢が私だってカミングアウトするってこと!?

「そう、サプライズ候補はなんと『Sweet Girls』で読者モデルとして人気急上昇中の音夢ちゃんで~す!」

雨沢先輩と言葉と共にスクリーンが上がっていく。

今のわたしはドレスアップしている音夢。

きっと名前を言わなければわたしが月島 美夢だなんて誰も気がつかない。

「ホントに音夢ちゃんだ!」

「実物超かわいい!」

ステージに現れた本物の音夢の姿に、みんな大興奮。

「本物のシンデレラみたい!」

最前列の席に座っている女の子が目を輝かせて言ってくれた言葉に、嬉しくなる。

美雲さんが用意してくれていたのは、シンデレラをイメージしたドレス。

淡いミントグリーンを基調にしたフリルたっぷりのとても素敵なドレス。

まるで自分が絵本の中から抜け出したみたいな、不思議な気持ちになる。

「実は音夢ちゃん、夢ヶ丘学園の1年生なんですよね」

雨沢先輩に話を振られて、一瞬戸惑う。

きっとこの流れで本名を公表しなくちゃいけないんだよね。

もう音夢としてのわたしは今日で終わりということなんだ。

そうだよね。もとはこのプロジェクトのためのモデル活動だったんだもん。

このプロジェクトが終わったら、わたしはもう音夢になる必要なんてないんだ。

そう、まるでシンデレラと同じ。

時間が来たら、わたしは地味子の美夢に戻らなくちゃいけない。

ホントはもう少し音夢でいたかった。

もう少し夢を見ていたかった。

でも、もうこれで終わりなんだ―

覚悟を決めて顔を上げた時。

ステージ袖にいる皇月先輩と美雲さんと雪村さんの姿が見えた。

みんな、「頑張れ」というように笑顔でわたしを見てくれている。

そして雨沢先輩がわたしにだけ聞こえるくらいの小さな声で「大丈夫だよ」とつぶやいた。

そして、「いい?」と瞳で尋ねられた気がして、無言で頷く。

大丈夫。魔法は解けてしまうけれど、わたしにはこうして見守ってくれる人達がいる。

「それでは音夢ちゃん、クラスと名前をお願いします」

雨沢先輩の言葉に、わたしは一度深呼吸をしてからマイク越しに答えた。

「――1年A組、月島 美夢です」


【王子様とダンスを】


「優勝おめでとう!」

コンテスト終了後の控室。

放心状態のわたしを、美雲さんと雪村さんが笑顔で迎えてくれた。

あのあと、プロジェクトの結果発表が行われて、見事わたしが優勝した。

「……なんか信じられない」

いまだに実感がわかない。

その時、ドアをノックする音が聞こえて。

「おめでとう、美夢ちゃん!」

雨沢先輩と皇月先輩が入ってきた。

「ありがとうございます」

「よく頑張ったな、月島」

そう言って、皇月先輩がわたしの頭に手を乗せた。

その温もりが優しくて、嬉しくて、気づけば涙が溢れていた。

「今まで本当にありがとうございました」

地味子のわたしをこんなに可愛くしてくれて、たくさん夢を見させてもらった。

手の届かない存在だと思っていた皇月先輩と凛ちゃんに会えて話ができるようになった。

だけど、それも今日まで……。

「何これで最後みたいなこと言ってんだよ」

皇月先輩が笑いながらそう言って、

「そうだよ。まだクリスマスパーティーもあるんだから」

雨沢先輩も言葉を続けた。

「でも、もう音夢としては……」

「ちょっと、美夢ちゃん、何か誤解してない?」

言いかけたわたしの言葉を遮って、美雲さんが言った。

「……え?」

「別にプロジェクトが終わったからって、スウィガに出るのも終わりってわけじゃないわよ。この前も話したでしょ? 音夢ちゃんのファンも増えて来てるし、これからも七星くんや凛ちゃんと一緒に頑張ってほしいな」

「それって、これからも音夢でいていいってことですか?」

「ええ。この学校は芸能活動認められているしね。もちろん、美夢ちゃんさえ良ければだけど」

そんなの、答えはもちろん……

「よろしくお願いします!」

「こちらこそ」

わたしの言葉に、美雲さんが笑顔でそう返してくれた。

☆ ☆ ☆

――数週間後。

「はい、音夢ちゃん目線こっちね」

ただ今、皇月先輩と凛ちゃんと一緒に、『Sweet Girls』の撮影真っ最中。

今日の衣装は、クリスマス特集ということで、クリスマスカラーの赤いタータンチェックのワンピース。

そしてとっても可愛いテディベアを抱っこしての撮影。

「はいOKです。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」

無事に撮影が終わって楽屋へ戻ろうとした時、凛ちゃんに呼びとめられた。

ふたりで、楽屋の向かい側にある使用されていない会議室に入る。

「プロジェクト、優勝したんだってね。おめでとう」

「ありがとう」

凛ちゃんは、美雲さんと皇月先輩から夢ヶ丘学園のプリンセス・プロジェクトの話を聞いてわたしが優勝したことも知っていたみたい。

「それで、実は音夢ちゃんに言っておきたいことがあるんだ」

「言っておきたいこと?」

なんだろう?

思い当ることがないか心の中で考えていると、凛ちゃんが口を開いた。

「正直に言うね。わたし、七星くんにフラれちゃったの」

「……え?」

フラれた? 凛ちゃんが?

「……ウソ」

「ホントだよ。実はわたし、いつも一緒に仕事してるし結構脈アリかなって思ってたんだよね。でも、ただ自惚れてただけみたい。『仕事仲間としか見られない』ってあっさり言われちゃった」

「……そんな……」

こんなに可愛くて優しくて素敵な凛ちゃんを振るなんて、信じられない。

「まぁ、わたしは玉砕しちゃったけど。きちんと七星くんに想いを伝えたからね。次は音夢ちゃんの番だよ」

「……え……」

「学校でクリスマス・パーティーあるんでしょ? そこでちゃんと気持ち伝えなよ」

「………」

伝えたいけど、凛ちゃんがダメならわたしなんてもっとダメな気がする。

「こら、弱気になっちゃダメだよ」

「……え?」

「わたしに堂々と七星くんが好きって言ってくれた音夢ちゃんなら、大丈夫だから」

「………」

どうして、凛ちゃんはこんなに優しいんだろう。

ライバルのはずなのに。本当は好きな人にフラれて辛いはずなのに。

「どうしてそんなに優しくしてくれるの?」

「……わかるから」

「え?」

「わたしも学校でいじめられて、自分に自信がなくて辛かった時があるから、音夢ちゃんの気持ちよくわかるの。正直言うと、音夢ちゃんが七星くんとうまくいったら悔しいなって思う気持ちもあるけど。応援したいなって気持ちもホントなの」

ああ、そうか。お茶会の時、言ってたよね。

同じ苦しみや痛みを知っているから、だからこんなに優しくできるんだ。

「……ありがとう……」

わたしも、凛ちゃんみたいな人になりたい。

凛ちゃんみたいなモデルになりたい。

「結果、報告してね」

「……うん」

怖いけど、不安だけど、最強で最高のライバルが背中を押してくれたから。

勇気を出して、伝えよう。


☆ ☆ ☆


クリスマス・パーティー当日。

会場は有名な一流ホテルの宴会場。

生徒もドレスやスーツ姿で参加していて、本格的。

学園が主催するパーティーだけあって豪華で、さすがお金持ち学校っていう感じ。

「月島さん、そのドレスすごい可愛いね~」

テーブルから少し離れたところでぼんやりみんなの様子を見ていたら、クラスの女の子に声をかけられた。

フリルとレースたっぷりの白いドレスは、スウィガのスタッフさん達からプロジェクトの優勝祝いでプレゼントしてもらったもの。

リボンとレースつきのカチューシャや靴までセットでプレゼントしてもらって、本当に嬉しかった。

「わたし、スウィガの今月号持ってるんだ。サインしてもらっていい!?」

興奮気味にバックから取り出す姿に、思わず苦笑する。

プロジェクトで優勝してから、わたしに対するクラスのみんなの態度はすっかり変わった。

それまで地味子として浮いていたわたしだけど、みんなが一目置くようになった。

こうしてサインを頼まれることも増えた。

嬉しい半面、複雑な気持ちもある。

人って単純だなって、つくづく思う。

渡されたペンでサインをしようとしたその時。

「――月島さん」

名前を呼ばれて振り返ると、如月さんと取り巻きの子達がいて。

「皇月先輩が呼んでたよ。裏玄関に来てほしいって」

如月さんが言った。

皇月先輩がわたしを呼んでる?

このあとのダンスのことかな。

「わかった。ありがとう」

如月さんにお礼を言って、わたしは宴会場を出て裏玄関へ向かった。

「……あれ?」

言われた通り裏玄関へ向かうと、そこには誰もいなかった。

冬の冷たい風が頬に当たる。

もしかして、如月さん達の嫌がらせ?

嫌な予感がして、戻ろうと思って踵を返した時、

「こんな古典的なウソに引っ掛かるなんて、ホントバカだよね」

「え?」

聞こえて来た言葉に顔を上げると、目の前に冷たく笑う如月さん達がいた。

「地味子のクセに、サインとか。ホントムカつく!」

「調子乗ってんじゃねぇよ!」

そう言いながら、取り巻きのひとりがわたしに向かって手を振り上げた。

――ぶたれる!

そう思って目を閉じた瞬間。

「何してるの?」

聞き覚えのある声が聞こえた。

「俺の大事なお姫様に怪我させたら、君たちこの学校にいられなくなるよ」

「……え?」

「……は?」

わたしと如月さん達の声が重なる。

驚いて顔を上げると、目の前に如月さん達を睨むように見つめている皇月先輩がいた。

「行こう」

皇月先輩は、わたしの手を取ると唖然としている如月さん達の横を足早に通り過ぎていく。

誰もいないホテルの裏口まで辿り着いた時。

「先輩、あんなウソついちゃっていいんですか?」

わたしがそう訊ねると、

「月島はイヤだった?」

逆に先輩に聞き返された。

「え!? イヤだなんて、そんなことないです!」

むしろ、すごく嬉しかったけど。

絶対に、学園の王子様である皇月先輩が地味子とつき合ってるなんて悪意のあるウワサが一気に広まってしまう。

そうしたら皇月先輩に迷惑をかけることになるから。

「周りのことなんか気にするな。言いたいやつには言わせとけばいい」

ああ、どうして。どうして先輩は、わたしの思ってることがわかるんだろう。

「月島?」

泣きそうになってうつむいたわたしを、先輩は不思議そうな表情で見ている。

「……です」

「え?」

「皇月先輩が好きです」

ずっと「わたしなんか」って思ってた。

でも、先輩のおかげで、自分にほんの少し自信が持てるようになった。

自分の力を信じられるようになった。

だから、たとえ結果はダメでも自分の気持をしっかり伝えたかった。

「………」

皇月先輩は黙ったままで、わずか十数秒の沈黙がとても長く感じられた。

そして、返ってきた言葉は……

「ありがとう」

とても優しい言い方で。

顔を上げると、先輩が優しく微笑んでいた。

「七星~!」

突然、沈黙を破って大きな声が響いた。

この声はきっと……

「虹希、もう少し声のボリューム下げろよ」

呆れ顔で言った皇月先輩。

振り返ると、雨沢先輩がいた。

「何も言わずにいなくなるから、慌てて探したんだぞ。もうダンス始まるから早く戻れよ!」

雨沢先輩に急かされて、慌てて会場へ戻る。

さっきの「ありがとう」って、どういう意味なんだろう。

聞きたいけど、今はそれどころじゃない。

「さあ、お待たせしました! 皆様お待ちかねのダンスタイムです」

雨沢先輩がステージに立ってマイクでそう言うと、会場から拍手が起きた。

そしてステージに揃った吹奏楽部の生演奏が始まると、みんなダンスを踊り始めた。

「踊るか」

「え?」

不意に皇月先輩に言われて、慌てて顔を上げる。

「プロジェクト優勝者の権利。月島は俺と踊るってことだろ?」

そっか。プロジェクトの優勝者は、クリスマスパーティーで好きな人と踊る権利がもらえるんだよね。

「お手をどうぞ、お姫様」

そう言って手を差し出したタキシード姿の皇月先輩は、本当に王子様みたいだ。

「よろしくお願いします」

わたしは、その手をそっと握った。

ふたりで会場の中央へ向かう。

「さぁ、学園の王子様とシンデレラの登場です!」

雨沢先輩の言葉に、会場中の視線がわたしたちに集まる。

恥ずかしいけれど、でも嬉しい。

「美夢」

踊りながら、皇月先輩がわたしの名前を呼んだ。

「今度は音夢じゃなくて美夢のこと、お姫様にするから。覚悟しといて」

小さく囁かれた言葉。

もしかしてそれって……

胸に甘い期待が広がる。

曲が終わった瞬間。

わたしの体がふわっと宙に浮いて…

「この場を借りて皆さんに紹介します。彼女の月島 美夢です」

会場に大きな歓声が響いた――


【見つけたお姫様〜 七星Side 〜】


「おはようございます」

「今日もよろしくお願いします」

冬休みに入って訪れた今年最後のスウィガ撮影日。

スタジオに入って、関係者に挨拶をしながら歩いていると。

「七星くんおはよう」

元気な声が聞こえたのと同時に後ろから肩を叩かれた。

振り返って確認すると、声をかけてきたのはモデル仲間の夜咲 凛だった。

今日は凛とふたりで特集コーナーの撮影を行うことになっている。

「やっぱり凛か。相変わらず元気だな」

「相変わらずは余計だと思います~。それより、ダンスパーティーどうだった?」

気になって仕方ないという感じで興奮気味に訊かれて、その勢いに苦笑しながら「大成功だよ」と答えた。

「ホント!? 良かったぁ~」

「凛も美夢のこと色々フォローしてくれてありがとな」

「ううん。だって美夢ちゃん一生懸命でいい子だもん。で、ちゃんと七星くんの気持は伝えたの?」

「え? ……あぁ」

「ちゃんと」と言われると、微妙かもしれない。

「なに、その曖昧な感じ。美夢ちゃんはずっと気になってた初恋の子なんでしょ? きちんと言わないとダメだよ!」

珍しく感情的になっている凛に、少し驚いた。

「なんでそんなムキになってるんだよ」

「だって美夢ちゃんが約束してくれたから」

「約束?」

「わたしなんかって逃げないで七星くんに告白するって。だから……」

「凛ちゃん、そろそろメイク入るよ~」

言いかけたところでタイミング悪くスタッフから声がかかった。

「とにかく、七星くんの気持ち美夢ちゃんに言ってあげてね!」

凛はビシッと人差し指を俺に向けてそう言うと、楽屋へ向かって走って行った。

初恋の子、か。

自分の楽屋に向かいながら、さっき凛に言われた言葉を思い出す。

俺が初めて美夢と会って話したのは、高校に入学するずっと前、小学4年生の時だ。

美夢は完全に忘れてるみたいだけど。

あの時、美夢が言ってくれた言葉があるから、俺は今こうして人気モデルとして活躍できているんだ。

当時、既に週2回タレント養成所に通っていた俺は、その日もいつものように放課後養成所でレッスンを受けていた。

だけどもともと人見知りだった俺は、その頃グループでのレッスンがとても苦手で、その日も憂鬱な気持ちでレッスンを受けていた。

一緒のグループでレッスンを受けている子達が俺のことを嫌っているのがわかっていたから、尚更嫌だったんだ。

なんとかレッスンを終えて帰ろうとした時、偶然通りかかったロッカールームで同じグループの子達の話声が聞こえてきて。

「皇月ってなんかキモイよな~」

「うん、ほとんど喋らないし何考えてるかわかんないし」

「女の子みたいな顔してるしさ。実はあっち系の人だったりして」

「うわ~もっとキモイ」

俺の悪口を言っているんだってことはすぐにわかった。

容赦なく飛び出す悪意に満ちた言葉達が胸に突き刺さった。

レッスンを終えた帰り道、人通りの少ない道端で溢れてくる涙を堪えきれずにしゃがみこんで泣いていたら、

「大丈夫? どこか痛いの?」

突然誰かに声をかけられた。

顔を上げると、知らない女の子が心配そうな表情で俺を見つめていた。

ランドセルを背負っているから、学校帰りなんだろう。

「誰かにいじめられてるの?」

黙ったままの俺に、女の子はもう一度尋ねた。

悪口もいじめというんだろうか。

でも、もとはといえば人見知りでみんなと話せない自分が悪いのかもしれない。

どうせみんなに迷惑かけて嫌われるんだから、レッスンなんか行ったって意味ないんだ。

自分なんか何をやってもダメなんだ。

「僕なんか何やってもダメなんだから、もうやめた方がいいんだ」

どうしようもなく絶望的な気持ちになって、零れ落ちた言葉。

もう何もかも投げ出したくなった。逃げ出したくなった。

別にレッスンなんて行きたくて行ってるわけじゃない。

だから、もう辞めてしまいたい。

そう思ったその時だった。

「僕なんかって言ったらダメだよ!」

女の子が、突然強い口調で言った。

「みゆのおばあちゃんがいつも言ってるよ! やる前からできないって言ってあきらめるなって。自分にもできるって思ってやりなさいって。だからあきらめちゃダメだよ!」

一気にそう捲し立てると、今度は女の子の方が泣きそうな顔になった。

そして、「これ、使っていいから」とポケットからハンカチを差し出した。

「……ありがと」

戸惑いながらもハンカチを受け取った、その時。

「みゆちゃ~ん」

どこからか、女の子 (“みゆ”という名前なんだろう) を呼ぶ女の人らしき声が聞こえて。

「あ、おばあちゃんが呼んでるからもう行かなきゃ!」

女の子は、そう言うと走って行ってしまった。

なんだったんだろう、今のは。

突然現れて、お説教して、ハンカチを渡して去って行くなんて。

でも、泣いている見ず知らずの他人に声をかけて一生懸命励まそうとしてくれたんだよな。

そう思ったら、絶望に沈んでいた気持ちがふっと軽くなって思わず小さく笑みが零れた。

たった数分の出来事だったけど、俺にとっては忘れられない大切な思い出。

「七星くん、メイク入るわよ」

思い出に浸っていたら、楽屋のドアをノックする音が聞こえてマネージャーの美雲さんに声をかけられた。

バッグの中からお守り代わりのハンカチを取り出してポケットに入れると、メイクルームへ向かう。

「今日は美夢ちゃんいないけど、次の撮影日にはまた来てもらう予定だから」

意味ありげに笑う美雲さんは、恐らくクリスマスのダンスパーティーのことを知っているんだろう。

「やっと会えた初恋のお姫様、大切にしてあげてね」

「……はい」

凛のヤツ、美雲さんにもあのこと話したな。

「七星くん入りま~す」

メイクを終えスタジオに入る前、深呼吸をしてあの言葉を思い出す。

“僕なんかって言ったらダメだよ”

美夢は覚えてないかもしれないけど、あの時からずっと俺はこの言葉に支えられてきた。

だからこうして今日も自信を持ってカメラの前に立てるんだ。

今度会えた時にはきちんと伝えるから。


【雪の妖精と音楽会】


「あ、月島さんだ」

「皇月先輩の彼女なんだよね」

冬休みが明けて3学期。

わたしは地味子から完全に学園内の有名人になってしまった。

というのも、プリンセス・プロジェクトで優勝して、クリスマスのダンスパーティーで皇月先輩がわたしのことを「彼女」だと紹介したから。

そしてもうひとつ、わたしが学園で有名な理由は―

「音夢ちゃん、サインお願い!」

突然目の前に差し出された雑誌。

顔を上げると、見覚えのない制服姿の女の子が立っていた。

制服のリボンの色が紺色ということは、2年生の先輩だ。

少し戸惑いながらもペンを取りだしてサインをする。

「わたし、音夢ちゃんのファンでスウィガ毎月買ってるの。これからも頑張ってね」

「ありがとうございます」

「こちらこそ、サインありがとう」

先輩は本当に嬉しそうな笑顔でそう言うと、2年生の校舎の方へ歩き出した。

わたしが学園で有名なもうひとつの理由。

それは、『音夢』という名前で雑誌のモデルをしているから。

最初はいきなり皇月先輩にスタジオに連れていかれて、言われるがまま必死にやっていた感じだけど、だんだん違う自分になれることが楽しくなってきて。

さっきみたいに「ファンです」って言ってくれる人も増えて、もっとモデル活動してみたいなって思うようになった。

もともと地味子でモデルなんて華やかな世界に全く縁がなかったわたしだけど、密かにスウィガで活躍している皇月先輩と夜咲 凛ちゃんに憧れていたから。

だから、冬休みの間に両親と美雲さんに話をして、正式に皇月先輩と凛ちゃんが所属する事務所に入って、芸能活動を始めることにしたんだ。

憧れのふたりと一緒にモデルの仕事をしているなんて、本当に夢を見ているみたい。

「見て見て!この凛ちゃん可愛い~!」

「ホントだ、このドレス欲しい~!」

教室に入ると、クラスの子達がスウィガを見て盛り上がっていた。

「あ、月島さん! おはよう!」

自分の席に着こうとした時、わたしに気づいた日野さんが顔を上げて声をかけてきた。

彼女は如月さんグループのひとりだ。

「おはよう」

なんとなくイヤな予感がしながらも挨拶を返すと、

「ねぇねぇ、月島さんってまたスウィガの撮影ある?」

瞳をキラキラさせながら聞いてくる日野さん。

「あるけど……」

「じゃあ、今度凛ちゃんのサインもらえるかな!?」

やっぱり、それが目的か。

如月さんグループの子達がわたしに話しかけてくる理由は、ほとんどが凛ちゃんのサインが欲しいから。

わたしのことを認めてもらえたからではないんだ。

でも、だからこそ思う。

もっと頑張って自分に自信をつけて、「人気モデルの音夢だ」って認めてもらいたい、って。

☆ ☆ ☆

「音夢ちゃん入りま~す」

スタジオにマネージャーの美雲さんの声が響く。

「よろしくお願いします」

周りのスタッフに挨拶をしながらスタジオに入る。

「音夢ちゃん、久しぶり~」

真っ先に笑顔で声をかけてくれたのは凛ちゃん。

「お久しぶりです」

ちょっと緊張しながら挨拶すると、

「表情堅いよ! リラックス、リラックス!」

凛ちゃんがそう言って軽く肩を叩いてくれた。

相変わらず凛ちゃんは優しいな。


1月半ばの3連休初日。

今日は久しぶりの撮影日で、実はかなり緊張していたんだけど……。

きっとそんなわたしの気持ちを、凛ちゃんはわかってくれているんだ。

「せっかくプロジェクト優勝したんだから、自信もって堂々と、ね?」

「……え……」

どうして凛ちゃんがそのことを知ってるんだろうと一瞬疑問に思ったけど、そういえば美雲さんは夢ヶ丘学園の卒業生だし、皇月先輩もいるし、きっとふたりから聞いてるんだ。

「七星くん入りまーす」

再び美雲さんの声が聞こえて来て、今度は皇月先輩がスタジオに入って来た。

先輩に会うのはあのクリスマス・パーティーの時以来だ。

「お久しぶりです」

「ああ、久しぶり」

わたしが声をかけると、皇月先輩は笑顔で返してくれた。

「久しぶりって、ふたりとも冬休み会ったりとかしてないの?」

わたし達の挨拶を聞いて、凛ちゃんが驚いている。

でも、皇月先輩は受験生でもあるし(夢ヶ丘学園は大学附属校だけど)何より人気モデルだ。

わたしが気やすく会えるような人じゃないことはよく分かっている。

実際、「彼女」と全校生徒に紹介されたものの、お互い連絡先すら交換してないし。

学校でも、学年が違うからそんなに会えるわけじゃない。

あの時のことは全部夢だったんじゃないかと思ってしまうくらい現実感がない。

「そうだ! 音夢ちゃん今日撮影の後って何か予定ある?」

「いえ、ないですけど」

友達もいないし、両親も出張で家を空けているし、撮影が終わったら自宅でひとりのんびりするつもりだった。

「よし、じゃあ今日は美夢ちゃんも一緒に行ってもらおう」

「「え?」」

凛ちゃんの言葉に、わたしと皇月先輩の声が重なる。

どういうこと?と訊こうとした時、

「それではスタンバイお願いします」

タイミング悪くスタッフから声がかかった。

「とりあえず、撮影終わったらそのまま帰らないで待ってて」

凛ちゃんはそう言うと、セットの方へ向かった。

「音夢ちゃんもう少し前に出て、目線はこっちね」

「凛ちゃんそのままのポーズで」

そして、久しぶりの撮影が始まった。

今日は乙女系女子の音楽会をテーマにした衣装で、わたしは鍵盤や音符柄の入ったワンピースとヴァイオリン型のバッグを持っている。

「―はい、OKです。お疲れ様でした」

午後4時、無事に撮影が終了した。

「ありがとうございました」

関係者に挨拶をして、楽屋へ戻ろうとした時。

「音夢ちゃん、ちょっと待って!」

廊下で凛ちゃんに声をかけられて、慌てて立ち止まった。

「美雲さんが車出してくれるから、そのまま駐車場に行こう」

「え?」

どういうこと?

この衣装のままでいいの?

「時間ギリギリだから、早く!!」

「は、はい!」

凛ちゃんの急かすような強い口調にビックリして、わたしは言われるがまま駐車場へ向かった。

「あ、やっと来た! ちょっと急ぐから、シートベルトしっかりしてね」

車に乗り込むなり美雲さんがそう言って、わたしと凛ちゃんがベルトをつけたのを確認すると車を発進させた。

「あ、あの。どこに行くんですか?」

時間がないって一体どういうこと?

しかも衣装のままで来ちゃったけど、こんな派手な服で行っていいところなの?

「社会勉強って感じかな」

わけがわからず戸惑っているわたしに、美雲さんはますます意味のわからないことを口にした。

そういえば撮影の前に凛ちゃんが「一緒に行ってもらおう」って言ってたけど……。

結局どこに行くのかわからないまま、車は速度を上げて進んでいく。

「良かった、ギリギリ間に合いそう」

しばらくして、美雲さんがつぶやいて車を駐車場に停めた。

すぐそばに、東京文化ホールと書かれた看板が見える。

「関係者席の入り口だからこっちね」

車から降りると、美雲さんが案内してくれた。

入口の前で美雲さんが受付の人にチケットを2枚見せると、パスを渡された。

「それ、つけて入ってくれる?」

美雲さんに言われて、渡されたパスを首にかけて中に入る。

「Mille Fleurs(ミル・フルール)スペシャルコンサート?」

ロビーに貼られているポスターを見て、やっと何をしに来たのかわかった。

「もしかして、ミルフルのコンサート観るんですか?」

「そうよ。関係者席のチケット用意してもらったの。もう七星くんは席で待ってるから」

「え!?」

ミルフルのコンサートを観られるの!?

信じられない気持ちで、美雲さんの後をついていく。

「ギリギリセーフだな」

席に着くと、隣には本当に皇月先輩が座っていた。

席についてすぐ、照明が落ちてコンサートが始まった。

拍手と歓声に包まれる中、白いドレスで登場した3人の女性。

Mille Fleursは通称「ミルフル」と呼ばれている実力派アーティストだ。

フランス語で千の花という意味があり、メンバーの名前が「さくら」、「すみれ」、「かすみ」と全員花の名前であることと、千の花のように美しく華麗に咲き誇れるようにという想いを込めて名づけられたらしい。

J-POPとオペラやクラシックを調和させた壮大で美しい楽曲と、低音域担当のさくらさん、中音域担当のすみれさん、高音域担当のかすみさんの3人の綺麗なハーモニーが素晴らしいと最近メディアでも注目されている。

美しい容姿とクラシカル・ロリータの衣装で歌う3人はまるでお姫様のようで、海外でも「カワイイ」と人気があるみたい。

わたしは偶然テレビで観てから好きになって、いつかコンサートに行ってみたいなって思っていたんだけど。

まさかこうして観られるなんて思ってなかった。

初めて生で聴く3人の歌は本当に綺麗で、まるで雪の妖精が舞い降りて歌っているみたい。

どんどん歌の世界に惹きこまれて、約2時間半のコンサートはあっという間に終了した。


☆ ☆ ☆


「ミルフルってホントに歌上手だね!」

「それに衣装もすごく可愛かった!」

帰りの車の中、大興奮状態でコンサートの感想を熱く語り合うわたしと凛ちゃん。

その様子をちょっと呆れたように黙って見ている皇月先輩。

美雲さんがわたしたち3人を車で家まで送ってくれることになって、助手席に皇月先輩、後部座席にわたしと凛ちゃんが乗っているんだけど。

わたしと凛ちゃんはもともとお互いミルフル好きだったとわかって、大盛り上がり。

「ふたりとも、そんなにミルフル好きだったの?」

美雲さんもわたしたちの興奮ぶりにかなり驚いている。

「テレビにはほとんど出ないけど、アニメの主題歌を歌っていて結構人気あるんですよ」

「なるほどね~アニソンアーティストか」

凛ちゃんが説明すると、美雲さんが納得したように頷いた。

「はい、到着」

あっという間にわたしの家の近くに着いて、名残惜しい気持ちでシートベルトをはずす。

「今日のその衣装、美夢ちゃんにあげるからね」

「え、いいんですか!?」

思いがけない美雲さんの言葉に、思わずはしゃいだ声を上げてしまった。

「よく似合ってるから、今度は七星くんとのデートの時に着たら?」

皇月先輩に聞こえないように耳打ちしながら言われた凛ちゃんの言葉に、思わず顔が赤かくなった。

「今日は本当にありがとうございました」

車を降りてお礼を言うと、凛ちゃんと美雲さんが「また撮影でね」と言ってくれた。

皇月先輩も、微かにだけど笑ってくれた。

玄関の前に行くと美雲さんが車を発進させて、わたしは車が見えなくなるまで手を振った。

夢のような時間の余韻に浸りながら、わたしは玄関のドアを開けて現実の世界へと戻った。


【バレンタインの告白】


2月に入ると、世間も学校もバレンタインで盛り上がり始める。

去年までは「わたしには関係ない」と思っていたけど、今年は違う。

皇月先輩にチョコを渡そうと思っているから。

「え~妃花ちゃんすご~い!」

バレンタインまであと数日となったある日の休み時間。

突然聞こえてきた大きな声に視線を向けると、如月さんの席の周りに女の子達が集まっていた。

「読者モデルのオーディション最終審査まで残るなんてさすがだよね!」

読者モデルって、もしかして春に応募するつもりって言っていたスウィドリの読者モデル?

「今週の日曜に原宿の撮影スタジオで最終審査なの」

みんなの中心で如月さんが得意げに言っているのが聞こえた。

今週の日曜って、わたしも撮影がある日だ。

もしかしてスタジオで会ったりしないかな。


☆ ☆ ☆

日曜日、わたしはいつも以上にドキドキしながら撮影スタジオに向かった。

今日は、初めて私ひとりで撮影をするんだ。

でも、皇月先輩も別の撮影で同じスタジオに来るらしいから。

カバンの中には昨日頑張って作ったバレンタインのチョコレート。

初心者だからオーソドックスなハート型のチョコレートだけど、皇月先輩への想いをたっぷりこめた。

今日、撮影が終わったら渡そうと思ってるんだ。

スタジオの中に入って自分の楽屋へ向かう途中、廊下を歩いていると。

「――ずっと好きだったんです」

どこからか聞き覚えのある可愛いソプラノボイスが聞こえた気がした。

もしかしてこの声は……如月さん?

思わず声が聞こえたところで立ち止まってみると、皇月先輩の楽屋の前だった。

ドアが閉まっているから、中の様子は見えない。

「ごめん。気持ちは嬉しいけど、受け取れない」

「どうしてあんな地味子がいいんですか!? わたしの方が―」

でも、声はハッキリと聞こえてきた。

やっぱりこの声は如月さんと皇月先輩だ。

地味子って、きっとわたしのことだよね。

盗み聞きなんていけないとわかっていても気になってその場から動けない。

「あ、音夢ちゃんおはよう」

「お、おはようございます」

通りかかった撮影スタッフさんに声をかけられて、我に返ったわたしには慌てて自分の控室へ向かった。

「音夢ちゃんはもう七星くんにチョコ渡したの?」

幸村さんにメイクをしてもらいながらそう訊かれて、さっきのことを思い出した。

皇月先輩は如月さんのチョコを受け取らないでくれたみたいけど。

でも、わたしのことをどう思っているのかちゃんと先輩から聞いたことないし。

「まだです」

「あら、そうなの? 七星くん毎年ファンの子からたくさんチョコもらってるみたいよ」

「そう、ですよね」

やっぱりわたしなんかがチョコを渡しても、先輩にとっては迷惑かもしれない。

なんてそんなネガティブなことを考えてしまったせいか、撮影中もうまくいかなくて。

「音夢ちゃん、大丈夫? もしかして体調悪
い?」

「七星くんも凛ちゃんもいなくてひとりだからちょっと緊張しちゃったかな?」

久しぶりに何度もNGを出してしまって、スタッフさんにも心配をかけてしまった。

「――OKです、お疲れ様でした」

やっと撮影が終了した時には、ものすごい疲労感が全身を襲っていた。

本当はこのあと皇月先輩の楽屋に寄ってチョコを渡そうと思っていたんだけど。

こんな気持ちじゃ先輩に会えないし、今日はもう早く帰りたい。

そう思いながら自分の控室へ戻ろうと足早にスタジオを出たその時。

「美夢」

突然聞き覚えのある声で名前を呼ばれたと同時に、腕を掴まれた。

「皇月先輩?」

どうして控室じゃなくてここに?

「撮影早く終わったから気になって来てみたんだ」

わたしの疑問を察したようにそう言った先輩。

わたしのことを気にしてくれたのは嬉しいけど、今はひとりになりたい。

でも、そう思ったわたしの心を見透かしたかのように先輩が「ちょっと話あるから」とわたしの腕を掴んだまま歩き出した。

着いたのは皇月先輩の控室。

またさっきの如月さんとの会話を思い出して胸が痛む。

「今日、如月ってヤツと話した。なんか、オーディションの最終審査に残ったらしくて」

「………」

いきなり核心をついた話題で、返す言葉も見つからない。

「あいつ、美夢のこといじめてたヤツだよな?」

無言のまま頷くと、突然目の前にハンカチが差し出された。

一瞬戸惑ったけど、このハンカチになんとなく見覚えがあるような気がする。


「これ、おまえのだから返すよ」

「……え?」

わたし、先輩にハンカチなんて貸したことあった?

それとも気づかないうちに落としてたのかな?

でも、最近こんなハンカチ使ってないけど。

不思議に思いながらもハンカチを受け取ると、端の方に黒いマジックで『つきしま みゆ』と名前が書かれていた。

だいぶ色褪せて薄くなっているけど、確かにわたしのハンカチだ。

「それ見てもまだ思い出さない?」

「え?」

思い出す?なにを?

「“僕なんかって言ったらダメだよ!”って言ってそのハンカチ俺に渡してきたこと」

「……?」

そんなことあった?

「やっぱり覚えてない、か」

「……ごめんなさい」

一生懸命記憶の糸を手繰り寄せても、これと思える出来事が思い出せない。

「小4の時、レッスンの帰り道に落ち込んでたら偶然通りかかった美夢が声をかけてくれて、一生懸命俺のこと励まそうとしてくれたんだ。“僕なんかって言っちゃダメだよ、やる前からできないってあきらめちゃダメ”って」

「……あ」

言われてみればそんなことがあったような気がする。

「あの言葉があったから、今の俺がいるんだ。だから美夢は俺の恩人なんだよ」

そう言ってくれた先輩の笑顔が、とても優しくて。

まさか過去にそんなつながりがあったなんて思わなくて。

嬉しさと恥ずかしさと驚きで、言葉が出てこない。

言葉のかわりに溢れてきた涙で、目の前の視界がゆらゆらと滲む。

「入学式の時、美夢の名前聞いてやっと見つけたって思った。ずっと会いたかった初恋の子だから」

まさかそんな、先輩の初恋の人がわたしだったなんて……。

さっきから信じられないことばかりで頭が完全にパニックだよ。

「俺にあんな強気で説教してた子だから、今も強気な感じの子なのかなと思ったら、まさかの地味子でいじめられてるなんて思わなかったけどな」

「じゃあ、もしかして、最初にわたしのこと助けてくれたのは……」

「そう。本当は偶然見かけたからじゃなくて、美夢のこと知ってたからだよ」

「……そうだったんだ」

ずっと不思議に思ってた。

いくら生徒会長とは言え、なんの接点もない1年生がいじめられてるところを見かけたからって助けてくれた上にプリンセス・プロジェクトの候補にまでするなんて。

なんでわたしなんだろうって。

でも、今の先輩の話で全てが繋がった。

「ずっと美夢に言いたかったんだ。あの時声をかけてくれてありがとうって」

「そんな、わたしの方こそ……」

いじめられた時、助けてくれただけじゃない。

撮影の時も、プロジェクトの時も、いつだって先輩はわたしの背中を押してくれた。

「俺はあの時からずっと美夢のこと好きだから」

「………」

うそみたい。夢みたい。

だって、ずっと憧れてた皇月先輩から『好き』って言ってもらえるなんて。

「美夢」

涙が止まらないわたしを優しい声で先輩が呼んで遠慮がちに手が伸ばされた、その時。

「七星くん、そろそろ車出すわよ」

控室のドアをノックする音と同時に、美雲さんの声が聞こえた。

「あら、お邪魔だった?」

ドアが開いて中を見た美雲さんが、からかうように言ったけれど。

「ぜ、全然そんなことないです!失礼します!」

「あ、待って!せっかくだから音夢ちゃんも車で送ってあげるから支度したら駐車場までいらっしゃい」

慌てて控室を出ようとしたわたしに、美雲さんがそう声をかけてくれた。

ということは、先輩と途中まで一緒に帰れるんだ。

「わかりました」

急いで涙を拭って、私は自分の控室へ向かった。

着替えを終えた私は美雲さんの車で家まで送ってもらって。

皇月先輩にチョコレートを渡すこともできて、「ありがとう」と笑顔で受け取ってもらえて安心した。

美雲さんに冷やかされて恥ずかしかったけど、初めて先輩の気持ちを聞くことが出来て思い出に残るバレンタインになった。


【宣戦布告の卒業式】


季節が少しずつ冬から春へと変わり始めた3月月3日。

ひな祭りの今日は夢ヶ丘学園の卒業式の日でもある。

会場は学園の近くにあるイベントホール。

有名アーティストがコンサートを開催するような大きなホールだ。

学園の王子様の卒業式ということで、もうすでに泣きそうになっているファンの女子生徒もいる。

皇月先輩は附属の大学へ進学することになっているけど、キャンパスは高校と違う所にあるから、卒業してしまったら学校で会うことはできなくなってしまうんだ。

卒業式は順調に進み、いよいよ終りに近づいてきた頃。

「答辞。卒業生代表、皇月 七星」

司会の先生に名前を呼ばれた皇月先輩が、ステージに立った。

周りから「やっぱり答辞は皇月先輩なんだ」とヒソヒソ声で話しているのが聞こえる。

広い会場で一年生は二階席にいるから先輩の姿は遠目にしか見えないけれど、やっぱり先輩は一際輝いて見える。

マイクの前に立って答辞を読み始めた先輩は、さすが生徒会長とモデルをしているだけあって、落ち着いて堂々としていて。

読み終えた後には会場から盛大な拍手が起きた。

そしてクライマックスの卒業ソングを歌う場面では、卒業生はもちろん、在校生からもあちこちですすり泣きが聞こえて来て、思わずわたしまで目が潤んでしまった。

無事に式が終わり、ロビーは記念撮影をする生徒や保護者で溢れている。

皇月先輩のところには当然ファンの人達が長蛇の列を作っていて、とても近寄って話しかけられる雰囲気じゃない。

もう諦めて帰ろうと出口へ向かった時。

「月島さん」

後ろから呼び止められて振り向くと、そこにいたのは如月さんだった。

「ちょっと話があるんだけど、いい?」

そう声をかけられたけど、クリスマスパーティーの時みたいにまたいじめられたらどうしようという不安が胸をよぎった。

でも、如月さんがそんな私の気持ちを察したように「もう前みたいなことはしないから安心して」と言った言葉を信じて、話を聞くことにした。

「場所変えていい?」と尋ねてきた如月さんに頷いて、ふたりでホールの外にある広場へ移動した。

三月とは言えまだ風は肌寒い。

だけど、あと数週間もすればこの広場にある桜も咲き始めるんだよね。
なんてぼんやり考えていたら、

「……落ちちゃった」

わたしと如月さん以外誰もいない静かな空間に、ぽつりと落ちた言葉。

何のことだかわからずに戸惑っていると、
「スウィガの最終選考」と言われて、そういえば受けるって話していたことを思い出した。

「皇月先輩にもフラれちゃったし、もう最悪」

そう言いながら自嘲気味に笑う如月さんは、今までとどこか雰囲気が違う気がした。

うまく言葉にできないけど、何かが吹っ切れたような、刺々しさがなくなったような感じ。

「でもわたし、諦めないから」

「え?」

「いつか絶対モデルデビューするから」

まっすぐわたしを見つめて言った如月さんの言葉に、皇月先輩のことじゃなくてモデルのことかと内心ホッとしていたら。

「皇月先輩のこともね」

まるでわたしの心を読まれたかのような言葉に「えっ!?」と思わず大きな声が出てしまった。

「……と言いたいところだけど、あんな話聞かされたら悔しいけど諦めるしかないよね」

「あんな話?」

「皇月先輩の初恋の話」

「……あ……」

バレンタインの日に先輩が話してくれたこと、如月さんにも話していたんだ。

「でも、油断してたらモデルも先輩のことも遠慮しないからね!」

怒ったようにそう言いながらも、如月さんの表情はどこか優しくて。

初めて認めてもらえた、そんな気がして嬉しくて。

「わたしも遠慮しないから!」

宣戦布告されているのに、笑顔でそう答えていた。

「なんか、月島さん変わったよね」

「え?」

「なんていうか……明るくなった」

「そう、かな」

だとしたら、それは間違いなく音夢としてモデル活動を始めたおかげだ。

「……今まで色々ごめん」

それはとても小さな声だったけど、わたしには確かに聞こえた。

恥ずかしそうにうつむいた如月さんに、わた
しは右手を差し出した。

「これからはお互い正々堂々闘おう?」

「……うん」

一瞬戸惑いながらもわたしの手を握ってくれた如月さんの笑顔は、やっぱり綺麗だなと思った。

【桜色メモリー〜凛Side〜】


「おはようございます、よろしくお願いします」

期末試験を終えて春休みに突入した3月半ば。

撮影でスタジオに入ったわたしは元気に挨拶をした。

「あ、音夢ちゃん! おはよう」

「凛ちゃん、おはよう」

スタジオの隅でスタッフさんと打ち合わせをしている音夢ちゃんを見かけて声をかけると、笑顔で返してくれた。

その笑顔は最初に撮影に来た時とは違って、すっかり場慣れした笑顔だ。

「見たよ~今月のスウィガ! 音夢ちゃんのソロ、可愛かった~」

音夢ちゃんに会ったら真っ先に伝えようと思っていたことを口にすると、

「ホント? ありがとう」

音夢ちゃんが少し照れたように笑って言った。

そう、今月発売されたスウィガで、音夢ちゃんは初めてソロ撮影に挑戦している。

赤を基調にしたちりめんプリントのジャンパースカート。

日本人形を思わせる和風ロリータだった。

「和ロリも可愛いよね」

「確かに、日本人ならではって感じがするよね」

ふたりで盛り上がっていると、

「相変わらず仲いいな、ふたりとも」

メイクを終えたらしい七星くんが呆れたようにわたしたちの様子を見て言った。

「あ、七星くん、卒業おめでとう」

今日七星くんに会ったら言おうと思っていたことを言うと七星くんは一瞬驚いたような表情をしたけど、すぐに「ありがとう」と返してくれた。

無事に高校を卒業した七星くんは、4月から大学生になる。

ということは、わたしと七星くんがスウィガで仕事をするようになってからちょうど2年が経つんだ。

わたしがスウィガの読者モデルとしてデビューしたのは2年前の春。

ちょうど高校に入学したばかりの頃で、初めて撮影をした日は桜が満開でとても綺麗だったことを今でもよく覚えている。

緊張と不安でいっぱいだったわたしに、「そんなに緊張しなくても大丈夫だから」と声をかけてくれたのが七星くんだった。

すでに1年前からモデルとして活動していた七星くんは、わたしにとっては先輩で。

たった一年しか違わないのに、すでに落ち着いて周りに気を遣えて、さすがだなぁって思った。

そして初めて間近で見た七星くんはとてもカッコ良くて、ただイケメンということではなく、内面から輝いて見えたんだ。

今思えばいわゆる一目惚れだったのかもしれない。

初めて一緒に仕事をしたその時から、わたしは七星くんのことを素敵だなって思ってた。

だけど告白する勇気がないまま約一年が過ぎて、私はスウィガの専属モデルになって、ようやくモデルの仕事に慣れてきた頃。

突然撮影スタジオに私と同い年くらいの女の子が現れた。

その子は七星くんの学校の後輩で、新しく始まる読者モデルコーナーのモデルとして七星くんが選んだ子だった。

おそらく今までモデル経験は一切ない完全な素人の子。

正直最初は本当にこの子と一緒に撮影するの?って不安に思った。

だけど、なかなかOKが出なくて今にも泣きそうで申し訳ないって表情をしている彼女を見たら、初めて撮影をした日のことを思い出した。

わたしだって、1年かかってやっとカメラの前でポーズをとることに慣れたんだ。

今日初めて撮影をする子がいきなり最初からいい表情なんてできるわけがない。

「言っとくけど、俺も凛も迷惑だなんて思ってないからな」

七星くんの言葉に、

「そうそう。わたしだって初めての撮影の時はすごいガチガチで何回も撮り直したんだから」

気がつけば思わずそう言葉を続けていた。

「最初から完璧にできる人なんていないんだから、大丈夫だよ。だから、もうちょっと頑張ろう?」

そして自然とそんな風に彼女を励ましている自分に自分でも驚いた。

必死に頑張っている姿が一年前の自分を見ているみたいで、なんとか一緒にいいものを撮りたいって思ったんだ。

これが成長したということなのかな。

それから、彼女……音夢ちゃんと一緒に仕事をする機会が増えた。

七星くんから、音夢ちゃんが学校でいじめられていて、プリンセス・プロジェクトというイベントで優勝できるようにするために読者モデルに選んだと聞いてますます頑張ってほしいって思う様になった。

そして、最初は自分に自信がなくて後ろ向きだった音夢ちゃんが一生懸命頑張っている姿を見て、わたしも勇気をもらった。

音夢ちゃんも七星くんのことを好きなんだろうなっていうのは、一緒に仕事をしているうちになんとなくわかった。

本来ならライバルなんだけど、音夢ちゃんがいい子だっていうことは仕事でわかっていたから、意地悪しようなんて気持ちは全くなくて。

むしろ、わたしもいじめられていたことがあるから、そんなことは絶対したくないって思った。

だから、「正々堂々と勝負しよう」って声をかけたんだ。

音夢ちゃんは、正直に七星くんのことが好きだと言ってくれた。

きっとすごく勇気を出して打ち明けてくれたんだと思う。

「お互い頑張ろうね」

そう言って交わした握手。

この時から、わたしと音夢ちゃんはライバルになった。

それから数週間後、久しぶりに七星くんとふたりだけの撮影の日。

撮影が終わった後、わたしは思い切って七星くんに声をかけて、誰もいない控室で初めて会った時から好きだったと告白をした。

1年以上ずっと一緒に仕事をしてきた仲間だし、もしかしたら七星くんも……ってほんの少し期待してた。

だけど、答えは「気持ちは嬉しいけど、凛のことは仕事仲間としてしか見られない」だった。

「もしかして誰か好きな人がいる?」

思い切って訊いてみると、七星くんはかすかに頷いた。

やっぱり、好きな人がいるんだ。

だとしたらその人はきっと……。

「音夢ちゃんでしょ?」

もう一度わたしが訊くと、七星くんは「どうしてわかったんだ」と言いたげな表情になった。

「わかるよ、好きな人のことなら」

最初に音夢ちゃんを撮影に連れてきた時から、なんとなく感じていたことだから。

わたしの言葉に、七星くんは観念したように話してくれた。

音夢ちゃんと初めて会った時のこと、今モデルとして活躍できているのは彼女のお陰であること。

そんな話を聞いたら、わたしが入る隙なんて最初からなかったんだってはっきりわかって。

フラれたことはもちろんショックだったけど、キッパリ諦めようって思えた。

今は、七星くんと音夢ちゃんが両想いになれて本当に良かったって思ってる。

これからもふたりとはいい仕事仲間でいられたらいいなって思っているんだ。

「それじゃ、3人とも撮影お願いしま~す!」

スタッフさんからの声に、わたしと音夢ちゃんは元気よく「は~い」と返事をしてセットの方へ移動した。

さあ、今日も最高の笑顔を見せよう!


【秘密の花園に舞う蝶】


春休みが終わり、新学期。

わたしは高校2年生になった。

気になるクラス替えは如月さんとは別のクラスになった。

そして、去年と違うのは……。

「美夢ちゃん、お昼一緒に食べよう!」

「うん」

わたしに友達ができたこと。

新学期初日、緊張していたわたしに「音夢ちゃんのファンなの!同じクラスになれて嬉しい」と声をかけてくれた千咲(ちさき)ちゃん。

ゆるふわウェーブのかかったロングヘアに、綺麗に手入れされたネイル。

派手すぎないナチュラルメイクが上手なキレイ系女子。

去年だったら絶対にわたしとは関わりのないタイプの子だと思う。

でも、今は音夢としてモデル活動していることをみんな知っているから、地味子とバカにする人はほとんどいない。

「今度の撮影はいつなの?」

「来週の土曜日だよ」

「そっか~頑張ってね!」

「うん。ありがとう」

千咲ちゃんは、イヤミを言ったり意地悪をしたりせず、素直にわたしのことを応援してくれているみたい。

最初は皇月先輩や凛ちゃん目当てで仲良くなろうとしているのかな、なんて思ったけど、本当にわたしのファンでいてくれてるんじゃないかって思い始めてる。

そして、千咲ちゃんと仲良くなったことをきっかけに、クラスの子達とも自然と話せるようになった。

去年はクラスの中でいつもひとりでバカにされてばかりだったから、なんだかまだ信じられないけど、クラスに馴染めていることがとても嬉しい。


☆ ☆ ☆


そして訪れた撮影当日は、春らしい淡い水色の空が広がる気持のいい天気になった。

今日はいつもの撮影スタジオじゃなくて、初めて凛ちゃんとふたりでロケ撮影をすることになっている。

場所は都内から約一時間の場所にあるハーブ園。

美雲さんに運転してもらって着いた場所は、とても静かで空気のおいしい場所だった。

今日は特別に貸し切りにしてもらっているらしく、一般のお客さんはいない。

「すごい、まるで外国映画に出てくる庭園みたい!」

「緑のアーチかわいい!」

撮影場所に着いたとたん、凛ちゃんとはしゃいでしまった。

広い庭の中に、まるで映画や童話の世界に出てきそうな緑のアーチに囲まれた木のベンチがあって、そこで撮影をすることになっている。

「それじゃ、ふたりともスタンバイお願いします」

スタッフさんに声をかけられて、凛ちゃんと一緒にベンチの前に立つ。

今日の衣装は庭園にちなんで、お花畑にウサギとリスが描かれたワンピース。

わたしはピンク、凛ちゃんは水色を基調にしたお揃いの衣装だ。

「あ、蝶々だ」

ふたりで撮影をしていたら、ふわふわとわたしたちのもとにモンシロチョウが飛んできた。

「お、すごいシャッターチャンス!」

カメラマンさんがそう言って撮影した写真を見ると、まるで演出したかのようにいい写真が撮れていた。

その後も庭園を周りながら撮影をして、撮影を終えた時にはお昼の時間を過ぎていた。

「今日は貸し切りにしてもらってるから、カフェでお茶できるわよ」

美雲さんに言われて、わたしと凛ちゃんは早速カフェに向かった。

「すごい、色んな種類のハーブティーがある」

「カモミールアイスもある。美味しいのかな」

メニューを見ながら凛ちゃんとふたりで盛り上がった。

今日は皇月先輩がいないから、完全に学校の友達のノリではしゃいでる。

わたしと凛ちゃんは、色々悩んでカモミールアイスを注文した。

「さっぱりしてて美味しい!」

「ホントにカモミールの香りがする!」

注文したアイスを口に入れた瞬間、ふたりで感動。

初めて食べたカモミールアイスは、さっぱりしていて香りも良くて、想像していたよりもずっと美味しかった。

「そういえば音夢ちゃんって七星くんとデートしたことあるの?」

そう言われてみると、まだふたりきりでどこかに出かけたことってない。

いつも撮影でしか会わないし、今は学校も高校と大学で離れてしまったし。

でも、ふたりきりでどこかに行ったとしても、人が多いところでは皇月先輩は絶対に気づかれて騒ぎになっちゃうだろうし。

「ないけど、ふたりで出かけたら色々騒ぎになりそうだから」

スキャンダルになったりしたら皇月先輩に迷惑をかけてしまう。

だから、今は撮影の時に会えるだけでも充分だ。

「まあ確かにそうだけど、今はオープンにしてる人達も多いよね。いっそのこと堂々と交際宣言しちゃえばいいのに」

「ええ!?」

凛ちゃんの言葉に思わず大きな声を出してしまって、慌てて周りのスタッフさんに謝る。

交際宣言なんて、そんなことしたら皇月先輩のファンが絶対怒るよ。

「もちろんみんな受け入れてくれるわけじゃないとは思うけど。わたしは音夢ちゃんなら七星くんとお似合いだと思うし、自信持っていいと思うけどな」

「……ありがとう」

凛ちゃんにそう言ってもらえるだけで、すごく嬉しいな。

いつかもっと自分に自信が持てるようになったら、凛ちゃんが言う通り、堂々と宣言できる日がきたらいいな。


【お茶会でサプライズ】


新しいクラスにもだいぶ慣れてきた、6月のある日。

「見て見て!わたし、スウィガのティーパーティー当選したの!」

朝、千咲ちゃんが教室に入るなり私のところに駆け寄って来た。

千咲ちゃんが手に持っていたのは、スウィガのティーパーティーの招待状。

去年私のもとにも届いたものだ。

去年は“月島美夢”の名前で特別ゲストとして招待してもらったけど、今年はモデルの“音夢”として正式にお仕事で出席することになっている。

もちろん、凛ちゃんや皇月先輩も一緒に。

「音夢ちゃんのパフォーマンス楽しみにしてるからね!」

瞳をキラキラ輝かせて言ってくれた千咲ちゃんの言葉が嬉しくて、楽しんでもらえるように頑張ろうと思えた。


☆ ☆  ☆


お茶会当日。

去年と同じホテルの宴会場を貸し切ってのパーティーで、1年ぶりの場所に懐かしい気持ちになった。

会場にはロリータファッションをした女の子達が続々と集まっていて、海外の女の子達もたくさんいる。

ロリータファッションは今や世界で認められているファッションなんだと改めて思う。

そして今日はなんとテレビの撮影も入っている。

「それではモデルの皆さんによるファッションショーをお楽しみください」

司会の言葉と同時に、扉が開かれた。

皇月先輩、凛ちゃん、わたし、スウィガ専属モデルさん数名の順番でショーが始まる。

トップバッターで登場した皇月先輩の姿に、会場内は大歓声。

やっぱり超人気モデルなんだなぁって思う。

続いて現れた凛ちゃんにもみんな大興奮で歓声があがっている。

そしていよいよわたしの出番。

今日はいつもより少し大人っぽいクラシカルロリータ風の衣装で、襟がセーラー服になっている星座盤柄のジャンパースカートを着ている。

「音夢ちゃん可愛い~」

どこからかそんな声が聞こえて視線を向けると、千咲ちゃんだった。

薄い緑を基調にしたローズ柄のジャンパースカートにオフホワイトのレースのボレロというお嬢様っぽいクラシカルロリータ風衣装がよく似合っている。

わたしも会場からたくさんの歓声と拍手をもらって、無事に出番が終わった。

その後は参加者に事前に募った出演モデルへの質問コーナーに入った。

「お休みの日は何をしてますか?」とか、
「最近のマイブームはなんですか?」という他愛ない質問のあと。

「さあ、続いての質問です。七星くんに質問です。ぶっちゃけ凛ちゃんか音夢ちゃんとつきあってますか?」

という衝撃的な質問が司会者から読みあげられた。

会場内から歓声の様な悲鳴のような声があがる。

こんな質問選んで事務所側は大丈夫なの?

普通、事前に事務所のスタッフさんやマネージャーさんがチェックしてるものじゃないの?

「ということですが、七星くん、どうなんですか?」

「ぶっちゃけていいなら、音夢とつきあってますよ」

内心焦ってパニックになっているわたしとは対照的に、マイクを向けられた皇月先輩は特に動揺している様子もなく、隣に立っていたわたしの肩を軽く抱き寄せて答えた。

その瞬間、今までで一番大きな歓声があがって、テレビや雑誌の取材陣からたくさんのフラッシュを浴びた。


☆ ☆ ☆


「すごい、もうネットニュースに上がってる」

数時間後、無事に?お茶会を終えて打ち上げで行ったレストランにて。

凛ちゃんがスマホを見ながらつぶやいた。

「ほら」と見せてもらったサイトには、『人気モデルの皇月七星、新人モデルとの交際認める』というタイトルで、さっきのことがもうニュース記事になっていた。

「サプライズ大成功だね」

いたずらっ子みたいに笑った凛ちゃんを見て、もしかしてというあるひとつのことが心に浮かぶ。

「あの質問入れたのって、凛ちゃん?」

「あたり~!これで堂々と七星くんとつきあえるね」

「そうだな」

「皇月先輩!?」

突然聞こえてきた声に振り向くと、皇月先輩が立っていた。

「もしかして、皇月先輩も知ってたんですか?」

「ああ」

だからあの時平然としていたんだ。

「でも、いいんですか? わたしなんかとつき合ってるなんてあんな堂々と言っちゃって」

すでにネットニュースには、『新人モデルの売名行為じゃないか』とか、『どうせすぐ別れるのに』とか誹謗中傷的なコメントも書きこまれている。

「“わたしなんか”って言わないでもっと自信持てよ。おまえは俺だけのお姫様なんだから」

「……!」

な、な、なんてことを言い出すの!?

皇月先輩ってこんな甘いこと言う人だった?

「先輩ってそんなこと言う人でした?」

恥ずかしさのあまり思わずそう聞くと、

「美夢の前でしか言わない」

なんて、またまた信じられないことを言われて。

「あ~空気甘すぎ。あとはふたりでお好きにどうぞ」

凛ちゃんがそう言って席を移動した。

「美夢、顔赤い」

「せ、先輩のせいです!」

わざとらしく顔を覗きこまれて、慌てて視線を逸らして答えると、先輩はおかしそうに笑った。

☆ ☆  ☆

お茶会の翌日から、予想通り皇月先輩の交際宣言はテレビやネットニュースで話題になり、わたしも学校で注目の的になった。

ダンスパーティーの時に彼女だと言われていたから、私が皇月先輩とつきあっていること自体はそれほど驚かれていない。

むしろ、「あんな風に堂々と言ってくれる彼氏なんて羨ましい」「これからもお幸せにね!」という好意的な言葉をくれる人達が多くて驚いた。

事務所も、私と皇月先輩の交際は公認してくれている。

そして皇月先輩の交際宣言はわたしの心配とは逆にファンの間では好印象だったようで。

なんとお茶会の時に取材に来ていたテレビ局のバラエティ番組に、話題のモデルカップルとして出演することが決定したんだ。

初めてのテレビ出演で、収録直前スタジオの袖で緊張してガチガチになっていると。

「大丈夫。俺もいるから」

皇月先輩がそう言って、わたしの手をそっとつないでくれた。

その瞬間、今までの緊張がうそみたいにふっと解けた。

先輩の言葉は、初めて会った時からずっとわたしを支えてくれている。

まるでシンデレラにかけられた魔法みたいにわたしを変えてくれる。

“わたしなんかって言うなよ”

初めて会った時に言われた言葉を思い出しながら、瞳を閉じて深呼吸する。

大丈夫、わたしにもできる。

心の中でそう唱えて。

「――それでは登場して頂きましょう、人気モデルの皇月七星くんと、音夢ちゃんです」

先輩と手をつないで、笑顔でスタジオへ向かった。

【人魚姫の誕生日会】


「七星くん、美夢ちゃん、誕生日おめでとう!」

「ありがとうございます」

7月半ばの週末。

わたしは、都内にあるホテルのレストランに来ていた。

所属している事務所主催で、わたしと皇月先輩の合同誕生日パーティーを開いてくれることになったから。

期末試験が終わって夏休み目前ということもあり、凛ちゃんも参加してくれている。

「美夢ちゃん、やっぱりその衣装似合ってるね。可愛い」

「ありがとう」

凛ちゃんに言われると嬉しいな。

パーティーの前に【Sweet Girls】の撮影があって、その時の衣装をそのまま着させてもらっているんだけど。

夏らしく人魚姫をテーマにした衣装で、海底をイメージした貝殻とジュエリー柄のブルーを基調にしたティアードジャンパースカートはとても可愛くて、わたしもお気に入り。

ちなみに凛ちゃんは色違いでピンクを基調にしたワンピースの衣装を着ている。

「うわ~このケーキ可愛い!“海底のパーティー” だって」

「こっちのゼリーは “人魚姫の涙” っていう名前だよ。すごいこだわってるね」

「これは絶対インスタ映えだよね!あとでアップしよう!」

瞳をキラキラさせながらスマホのカメラで写真を撮るわたしと凛ちゃん。

「おまえらはしゃぎすぎだろ」

そんなわたしたちを見て、呆れたようにつぶやいたのは皇月先輩。

「だってこんな可愛いスウィーツ見たら女子はテンション上がりますよ!」

凛ちゃんとふたりで顔を見合わせて「ね~」と言い合うと、皇月先輩は「好きにしろ」と言いながらさっさと自分の席に戻っていった。

「やっぱり男子はこういうの興味ないみたいね。ここ、最近大人気で予約取るの大変で有名なビュッフェなんだけど」

わたしたちの会話を聞いていた美雲さんが苦笑しながらそうつぶやいた。

わたしたちが来ているのは某有名高級ホテル内にある最近人気急上昇中のデザートビュッフェで、毎回予約が殺到している場所。

季節ごとに限定プランがあって、今は夏らしく童話の人魚姫をモチーフにしたスウィーツになっている。

「それにしても誕生日が七夕で好きな人と一緒なんてロマンチックだよね」

お皿いっぱいにスウィーツを乗せて席に戻りながら、凛ちゃんが言った。

「そうかな」

「そうだよ。これはもう運命の出会いって感じだよね」

「運命、か」

確かに、小学生の頃偶然出逢っていた人と同じ高校で再会したということも含めて、皇月先輩とは縁があるし、凛ちゃんの言う通りこれが運命の出会いなのかもしれない。

「美夢、これ」

そんなことを考えていたら、突然そんな言葉と共に目の前に小さな箱が差し出された。

「え?」

驚いて顔を上げると、向かいの席に座っている皇月先輩がちょっと恥ずかしそうに視線を逸らしている。

「あの、これって…」

「だから、誕生日プレゼント」

「わたしがもらっていいんですか?」

「うん」

「ありがとうございます」

まさか皇月先輩から誕生日プレゼントをもらえるなんて思っていなくて信じられない気持ちで箱を開けると、中から出てきたのは香水だった。

「これ、Pinky Candyの数量限定香水じゃない!」

隣で凛ちゃんがはしゃいだ声を上げた。

そう、箱の中に入っていたのは原宿ファッションの中でも人気の高いブランド、Pinky Candyが出している数量限定の香水だったんだ。

でも、確か発売数日で完売してもう手に入らないと言われていたはずなんだけど……と疑問に思っていると、「美雲さんに用意してもらった」と皇月先輩が口にした。

「七星くんから相談を受けて、特別ルートで頼んだの」

「ありがとうございます! 大事に使います!」

満面の笑みでそう言ったわたしに、美雲さんも皇月先輩も笑顔で頷いてくれた。

それからわたしも皇月先輩にプレゼントとして王子様モデルにちなんでクラウンデザインのペンダントを渡した。

そして凛ちゃんからはファッションブランドの中でも人気が高い『Very Berry』のバッグをプレゼントしてもらった。

大好きなふたりに誕生日を祝ってもらってプレゼントをもらえるなんて、去年の誕生日は思ってもいなかった。

「今日は本当にありがとうございました」

家までの道を美雲さんが運転する車で送ってもらって自宅の前まで着いた時、改めてお礼を言うと、「喜んでくれてよかった。また次の撮影頑張ろうね!」と美雲さんと凛ちゃんが言ってくれた。

皇月先輩も「プレゼントありがとう」と優しい笑顔で言ってくれた。

17歳は素敵な1年になるといいな。

車を見送りながら心からそう願った。


【初デートとヤキモチ】


「音夢ちゃん入ります」

「よろしくお願いします」

8月上旬のある日、わたしは仕事のため都内の撮影スタジオに入った。

でも、今日はいつもと違って凛ちゃんも皇月先輩もいない。

前にもソロ撮影はあったけれど、あの時と違うのは……

「初めまして、【étoile】(エトワール)の銀河(ぎんが)です。今日はよろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」

なんと、初めて凛ちゃんや皇月先輩以外の人と一緒に撮影をすることになったんだ。

しかも相手は今10代の女の子を中心に人気急上昇中のダンスボーカルグループの銀河くん。

爽やか王子様的な皇月先輩とは違って、しっかりしていて大人っぽい雰囲気を纏っている人だ。

こんな素敵な人と一緒に撮影なんて、ちゃんとできるか早くも不安になってきた。

でも、そんな不安は撮影が始まってすぐに吹き飛んだ。

銀河くんはすでにグループの活動で撮影慣れしているのか、わたしが撮影しやすいように色々と気遣ってくれてとてもやりやすかった。

わたしも最初は緊張していたものの、銀河くんの気さくな態度ですぐにリラックスできて皇月先輩や凛ちゃんがいる時と同じような感覚で撮影が出来た。

「お疲れ様でした~」

無事に全ての撮影を終えてスタッフさんから声がかかると、一気に体の力が抜けたような気がする。

「音夢ちゃん、お疲れ様。今日はありがとう」

「こちらこそありがとうございました」

銀河くんに声をかけられて、慌ててわたしも頭を下げる。

正直なところ、銀河くんってグループのイメージからもっとクールな感じかと思っていたけれど、実際はとても気さくで優しい人なんだ。

「あ、そうだ。今月の終わりにライブやるから、もし良かったら観においでよ」

そう言いながら、銀河くんがわたしに2枚のチケットを差し出した。

「2枚あるから彼氏と一緒にどうぞ」

「…えっ…」

銀河くんもわたしが皇月先輩とつきあっていること知っているんだ。

「ネットニュースにもテレビにも出てたし、知らない人いないんじゃない?」

まるでわたしの心を読んだかのように銀河くんが笑いながらそう言った。

「音夢ちゃんの彼氏って結構独占欲強いんだね」

「えっ!?」

「だってあんな風に堂々と宣言するってことは、裏を返せば “こいつは俺のだから手を出すな” って言ってるようなものだし」

「そうなんですか?」

皇月先輩ってあまり自分の気持ちを言葉にしない人だから、そんな風に思ってるとは考えられないんだけど。

「音夢ちゃんも有名になってきてるから、皇月くんも心配なのかもね」

銀河くんの言葉に思わず笑ってしまった。

「笑うところじゃないんだけどな」

「だって、皇月先輩に心配されるほど人気ないと思うし」

「そういう自覚ないところが可愛いんだけどね」

「え?」

「いや、なんでもない。お疲れ様でした」

銀河くんは笑顔でそう言ってスタジオをあとにした。

緊張したけど、いい経験になった1日だったな。

☆ ☆ ☆

「音夢ちゃんの衣装可愛い!」

夏休みも終わりに近づいた8月の終わり。

久しぶりに凛ちゃんと一緒にスウィガの撮影ということで、いつもの撮影スタジオに集合したんだけど。

スタジオに入るなり、凛ちゃんがそう声をかけてくれた。

今日は『赤ずきんちゃん』をイメージしたPinky Candyの新作を着ての撮影。

わたしは赤ずきんちゃんをイメージした赤を基調にしたジャンパースカートで、赤いフードケープをかぶっている。

凛ちゃんはオオカミをイメージした白基調のジャンパースカートで、頭にはオオカミの耳をイメージしたカチューシャをつけていて、お揃いの衣装なんだ。

「じゃあ、ふたり手をつないでみようか」

カメラマンさんの指示に従って凛ちゃんと手をつないで笑顔を向ける。

「OKです、お疲れ様でした~」

凛ちゃんとは今ではすっかり撮影の息も合うようになって、あっという間に撮影が終了した。

「音夢ちゃん、今度七星くんとデートするんでしょ!? 楽しんで来てね」

撮影が終わって楽屋へ戻る途中、凛ちゃんが声をかけてくれた。

「うん、ありがとう」

凛ちゃんには、仕事でétoileの銀河くんと共演したことやライブに招待してもらったこと、皇月先輩に美雲さんを通して一緒に行きたいと伝えて了解をもらえたことをラインのメッセージですでに伝えていた。

今回は皇月先輩と初めてふたりきりで行くことになっているから、事実上の初デートになるんだ。

つき合い始めて半年以上経つけど、お互い学校や仕事で忙しいのと、周りの騒ぎも考えてふたりきりでどこかへ出かけることが全然できていなかったから。

「でも、初めて七星くん以外の男の人と共演して誘われたライブで初デートって、仕事とはいえ七星くんもちょっと複雑かもね~」

「え、そうなのかな……」

「でも、七星くんってあまり自分の感情表に出さない人だから、たまにはヤキモチ妬かせるくらいでいいと思うよ」

そう言って凛ちゃんがいたずらっ子のように笑った。

ヤキモチか。皇月先輩がヤキモチ妬くところなんて想像つかないな……。
☆ ☆ ☆

デート当日。

朝からソワソワ落ち着かなくて、緊張と期待でドキドキ胸を弾ませていると、約束の時間にうちのインターフォンが鳴った。

玄関を開けると、約束通り先輩が車で迎えに来てくれていた。

大学に入学してすぐ教習所に通い始めたという皇月先輩は、無事に免許を取って仕事も自分で運転してスタジオまで行ったりしているらしい。

「お邪魔します」

ちょっと緊張しながら助手席に乗ってシートベルトをする。

「じゃあ、行くぞ」

「はい」

先輩が車を発進させて、ライブ会場まで約30分のドライブデート。

「そういえば、銀河くんと撮影した雑誌見た」

「あ、ありがとうございます! 初めて先輩以外の男の人との撮影だったから緊張したけど、銀河くん、とても優しくて安心しました」

「ふ~ん」

わたしの言葉に、先輩の表情が不機嫌そうになった気がした。

あれ、なんか気に障ること言っちゃったかな?

「先輩、なんか怒ってます?」

「いや、別に」

でも、声がどこか刺々しい気がする。

もしかしてヤキモチなわけないか。

そしてあっという間にライブ会場のアリーナへ到着。

あまり早く行きすぎてもみんなに見つかって騒がれてしまうからと、開演ギリギリに席に着いた。

「うわ、すごいステージセット!」

さすが今人気急上昇中だけあって、ステージセットも大きくて豪華だ。

そして開演時間になると会場が暗転して、大歓声と共にライブが始まった。


☆ ☆ ☆


「ライブすごく良かったですね!」

ライブ終了後、帰りの車の中でわたしは大興奮だった。

étoileのライブって初めて観たけど、あんなに楽しいものだとは思わなかった。

音の迫力も会場の熱気も凄かったし、何よりメンバーがすごく楽しそうにしていて、みんなとてもカッコ良くて、すっかり【étoile】
のファンになってしまった。

「美夢はああいう男の方がいいんだな」

「……え?」

今の言葉って、もしかしてやっぱり……。

「悪い、なんでもない」

先輩は慌ててそう言ったけど、わたしにはちゃんと聞こえていた。

やっぱり先輩、ヤキモチ妬いてくれたんだ。

「あの、わたしが一番好きなのは皇月先輩ですからね!」

わたしが笑顔でそう言うと、「急になんだよ」って照れたように視線を逸らした先輩。

だけど、暗い車内の中でも、月明かりに照らされた先輩の顔は心なしかいつもより赤く見えて。

「皇月先輩でも照れたりヤキモチ妬いてくれたりするんですね」

嬉しくて思わず笑いながらそう言うと、

「……うるさい」なんてまた怒ったように言う先輩も可愛くて。

ああ、幸せだなって心から思った。


【エンドレス・ドリーム】


「音夢ちゃん、本番行くよ~」

「はい!」

スタッフさんに声をかけられて、返事をしながら楽屋を出る。

今日は、スウィガ史上最大のイベント『Sweet Girls コレクション』が開催される。

会場は東京近郊にあるアリーナで、人気アーティストがコンサートを行うことも多い場所。

1万人以上のお客さんの前でランウェイを歩く日が来るなんて、2年前は思ってもいなかった。

この2年間、モデルとしての基礎レッスンを受けて、雑誌の撮影やイベントの出演もたくさんさせてもらった。

だから今日は自信を持っていける。

だってわたしには……

「音夢ちゃん、楽しもうね!」

「おまえらしく歩けよ」

こうしていつも背中を押してくれる大好きな人と大切な仲間がいるから。

わたしはもうひとりなんかじゃないから。

「音夢ちゃん出ます!」

舞台袖にいるスタッフさんの合図で、いよいよ本番のステージに立つ。

出た瞬間、たくさんの歓声と拍手に包まれてそれだけで胸がいっぱいになる。

「音夢ちゃ~ん!」

ランウェイを歩いていたら、客席のあちこちからわたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。

わたしを応援してくれている人達が、この広い会場にこんなにたくさんいるんだ。

「ありがとう」の気持を込めて最高の笑顔でポーズを決めて舞台袖へ戻った。

「お疲れ様!音夢ちゃん大成功だね!」

「良く頑張ったな、美夢」

舞台袖に戻ると、真っ先に凛ちゃんと皇月先輩が声をかけてくれた。

その後は一旦楽屋に戻って休憩となり、全てのモデルさん達がランウェイを歩いたあと、
クライマックスにもう一度衣装替えをしてステージに出ることになっている。

楽屋にあるモニターで他のモデルさん達のショーを見ていたら、あっというまに時間が過ぎて、気づけばイベントのクライマックス。

再びステージに立つと、変わらず温かい拍手と歓声で迎えられた。

「さあ、いよいよイベントもクライマックスということで再びモデルの皆さんに登場して頂きました。最後に会場に来てくれた皆さん、いつも応援しくれているファンの皆さんへ一言ずつお願いします」

司会の人にマイクを渡されて、まずは今やテレビ出演も多い超人気モデルの皇月先輩と凛ちゃんがコメントをした。

ふたりの人気はとどまることなくさらに勢いを増していて、会場からは割れんばかりの拍手が起きた。

「続いては音夢さん、お願いします」

ついにわたしの番が来て、凛ちゃんからマイクが手渡された。

超人気モデルのふたりの後だと思うとプレッシャーと緊張もあるけれど、それよりも今日この場所に立てた感動の方が大きくて。

わたしは一度深呼吸をして話し始めた。

「まずは今日会場に来て下さった皆さん、本当にありがとうございます。わたしは今まで本当に自分に自信がなくて、いつも“わたしなんか”って思っていました。でも、モデルのお仕事を始めて少しずつ変われたような気がします。今日こうしてこんなにたくさんの方達の前でも自信を持ってランウェイを歩けたのは、応援して下さっている皆さんのおかげです。本当にありがとうございました」

そう言ってお辞儀をすると、会場中に大きくて温かな拍手が響いた。

「音夢ちゃん~!」

「ありがとう~!」

どこからかそんな声援も聞こえて、嬉しさと感動で胸がいっぱいになって思わず涙が溢れていた。

ずっと自分に自信がなくて「わたしなんか」って思ってた。

だけど、皇月先輩がくれた「わたしなんかって言うなよ」の一言が、わたしを変えてくれたんだ。

そう、まるでシンデレラをお姫様に変えてくれた魔法のように。

あの日、皇月先輩がわたしにくれた夢は今も消えずにこうして続いている。

そしてきっとこれからも続いていく。

だから、今自分に自信がなくて“わたしなんか”って思っている人に伝えたい。

どうか「わたしなんか」って自分で自分を卑下しないで欲しい。

あなたにはあなたらしく輝ける場所がきっどこかにあるから。

「わたしにもできる」って一歩踏み出せば、きっと世界は変わるよ――。



《Fin.》