○実家(月守家)、花の部屋、夜

花「(呆然)祝言が行われないってどう言うことよ」

響「春宮の不興を買ったから、羽白の家がそう決めたんだ」

花「不興ってどう言うこと!?認めてもらえたじゃない!」

響「黒鬼の……宵は春宮の懐刀だ。その婚約者に手を出し異能を無効化された。それ自体が不興なんだよ」

花「何よそれ!ずるじゃない!なら帝を出して!」

響「お前は何を言ってるんだ!」

花「帝ならきっと私の話を聞いてくれるはずよ!」

響「そんなわけあるか!とにかく……羽白の家が今後のことを決めるまで君はおとなしく……」

花「嫌よ!そんなの!」
花、響を突き飛ばす。

響「花……っ!」
手を伸ばす響。
響、痛みに崩れ落ちる。

響「異能の反動……っ。まさか」
響、愕然とする。

響「今までは本当に蓬の中和の異能の力を受けてたのか?……てことは中和の異能が切れたのか……?」
響、頭を押さえながら呆然とする。

○宮廷外、昼

蓬N「宵と婚約してから平穏な日々を送っている。そんな中本日は祝言に向けた手続きにやって来た」
蓬M(まだ祝言と聞いても実感が持てないけれど)

暁「今日は蓬ちゃんを連れてきてくれたんだねぇ。嬉しいよ」

宵「ただのお役所手続きだろうが」

蓬M(本当に仲がいい。でも紛れもなく春宮さまなんだよね)

花「見付けたわよ!蓬!」
ずんずんと向かってくる花。

蓬「花!?」

門番人間「何者だ!」
武官鬼「近付けさせるな!」

宵「く……っ、諦めの悪い!」
宵、刀を構える。
花はニイとほくそ笑む。

花「蓬!私の言うことを聞きなさい!土下座して私に謝るのよ!」

蓬M(まさか言霊!?異能が復活して……っ)
蓬の身体が勝手に動く。

蓬M(身体の力が……っ)

宵「させるか!無効化!」
宵の剣薙ぎ、花に衝撃波。

花「きゃっ!?」
バランスを崩す花。

蓬「……はぁ……はぁっ」
蓬、安堵と共に膝からすとんと崩れ落ちる。

花「また邪魔をするのね!?許せない!」

宵「その女の口を塞げ!言霊の異能者だ!」
武官と門番が花を拘束、猿轡を噛ませる。

花「ん――――――っ!!」

宵「黙れ。春宮の御前で許可もなく異能を放つとは。喉ごと掻ききってやってもいいんだぞ」

花「ん~~~っ」
花、まだ諦めない。

響「もうやめてくれ、花!」
響が現れ、花がハッとする。

花「んーっ、んーっ」
花、響に助けてもらおうとアピール。響、目を合わせない。

響「……蓬」

蓬「……何でしょうか」
宵、蓬の隣に立つ。

響「お前の中和の異能は本物なのか」

蓬「本物です」

響「今まで済まなかった」

蓬「え……っ」
蓬M(今さらどういうつもり?)

響「花の起こした不祥事で俺は花と僻地に左遷されることになった」

蓬「そうですか」
蓬M(どう考えても自業自得だ)

響「だから……俺たちもう一度やり直せないか!?」

蓬「……は?」
蓬、宵双方唖然。

響「私たち鬼は契約を重視する!お前と最初に婚約の契約したのは私だ!だから私は契約通りお前と婚約する!」

蓬「……」

響「そうすれば反動に悩まされることもない!左遷されることもない!もう我が儘ばかりの花などこりごりだ!」
響、ひきつった笑顔。響からの裏切りに絶句する花。

響「だから蓬、契約通り私と結婚するんだ!」

宵「……」
宵は蓬の出方を窺う。

蓬「(決意のこもった表情で)嫌です!」

響「な、何故!?お前だって私の婚約者となれて誇りだったろう!?これからは愛してやろうと言うんだ!何が不満なんだ!」

蓬「不満なことだらけだよ!」
ふるふると震える蓬。

蓬「生まれながらにあなたの婚約者にされて良かったことなんて何ひとつない!散々無能と吐き捨てておいて都合のいい時だけ私の異能を利用する気!?」

響「……なんっ」
蓬の反撃に唖然とする響。

蓬「人間をナメるのもいい加減にして!」

宵「そうだ、よく言った」
宵、蓬を抱き寄せる。

宵「鬼は人間がいなけりゃ繁殖することもできない。さらには人間の異能には補助系が多い」

蓬M(鬼の炎や雷など攻撃もできるものに比べて、人間の異能は中和や治癒。言霊も言葉による支援に近い)

宵「俺たちは人間に支えられているし、人間の母から生を受けたものも多い」

蓬M(そして次代に男鬼が生まれる確率が上がるから彼らは生きながらえる)

宵「だからこそ人間を便利なもののように扱っている時点でお前は終わってんだよ」

響「そんな……そんなことは……っ、お願いだ、少しだけでも……っ!限界なんだ!」
響、蓬に手を伸ばす。
宵、それを叩き落とす。

宵「蓬には触れさせない。俺の最愛だからな」

蓬「宵……!」
見つめ合う宵と蓬。

宵、響を見やる。

宵「だからお前は自分の選んだ人間の娘と辺境に追いやられていればいい。お前も鬼なのだから、一度結んだ契約は大事にしないとな?」

宵、暁を見る。

暁「一度結んだ契約を無断で反故にし再び結んだんだ。帝の顔に泥を塗ったこと。その呵責から逃げ仰せると思わぬことだ」
響、へなへなと崩れ落ちる。

蓬N「その後花は喉を潰され異能を失った。辺境へ送られた響と花。花が響の裏切りを目の当たりにした以上、その行く末は目に見えている」

○黒鬼の屋敷、宵の寝室、夕方
布団から起き上がる宵、隣で看病をする蓬。

蓬「宵、反動つらい?」

蓬M(私を守るために使ってくれたのだ)

宵「蓬がいてくれるから大分よくなった」
蓬、ホッとする。

宵「でも一番効くのは……」

蓬「……?」

宵、蓬の頬を両手で包む。

宵「きっとこれだな」
宵、蓬の唇に口付ける。

蓬「……!」
蓬、頬を赤くして照れる。

宵「うん、今までの疲労も込みか?すごく調子がいい」

蓬「あう……っ、でもその……っ」
テンパる蓬。

宵「蓬」
宵、蓬を優しく抱き締める。

蓬「……っ!」
蓬、頬を赤く染めつつも安心する。

宵「(穏やかな笑み)俺を選んでくれてありがとうな」

蓬「私の方こそ……!」
蓬M(選んでくれて、ずっと見守ってくれて)

蓬「(幸せそうな笑み)ありがとう!」

○1週間後、宮廷、午前
蓬と宵の祝言。御簾越しの帝から祝福の言葉を賜る。

帝「末長く支え合う夫婦となるように」

宵「はい、主上」
宵、神前式の装い。宵が座礼を返す。

宵に続き蓬も座礼をする。蓬、神前式の装い(白無垢)。

○宮廷→黒鬼の屋敷、昼
花嫁行列が通る。神主が先導し、宵、蓬の後ろには葵や焔、黒鬼の親族たち。

宵「ようやっとだな」

蓬「うん」

宵「きれいだよ、蓬」

蓬「宵の方こそ……カッコいい」

宵「ふふっ、嬉しいよ」

○黒鬼の屋敷、外、玄関前、昼
集まるのは黒鬼の屋敷の鬼や人間の花嫁たち。

花嫁A「待ってたよ」
花嫁B「すごいねぇ、アンタ、とってもきれいだよ」
花嫁C「おめでとう、幸せになりなよ」

蓬「(感極まって)はい、みなさん!」

○黒鬼の屋敷、大広間、昼
大広間にはたくさんのごちそうが並べられている。そこに待っていたのは春宮の暁。

暁「やぁ、めでたいな」
暁、宵におーいと手を振る。

宵「何でいるんだ。宮廷にいないと思ったら」

暁「祝福の言葉は父上がかけるだろうし、私は私で自慢の懐刀の門出を祝いたいんだ」

宵「だからってなぁ」
宵、呆れたようす。

暁「ああ、でも上座は遠慮なく今日の主役が使ってくれ。私も一応次席を用意してもらえたが」
カッカと笑う暁。

宵「分かった分かった」
諦めたような宵。

葵「ほら、2人はお色直しなんだから」

焔「そうそう、こっちも乾杯の準備をしないと」

宵「分かった。蓬、行こうか」

蓬「うん」

○控え室、昼
蓬は葵や人間の花嫁たちに着付けてもらう。

葵「似合ってるわよ、かわいい」

蓬「その……ええと」

花嫁A「ほら、自信を持ちな。アンタ、だいぶいい表情になつたんだから」

蓬「私が……」

花嫁A「気付いてないの?うちに来た頃よりもずっと笑顔が増えたろ?」

蓬「……!」
思い当たる蓬。

花嫁A「その調子でいきな。負けるんじゃないよ、蓬」

蓬「(笑顔)はい……!」

○大広間、昼
お色直しを済ませた宵と蓬。

宵「(小声で)蓬、似合ってる」

蓬「(小声で)宵もだよ」
互いに微笑み合う2人。

暁「それじゃぁ乾杯の音頭と行こうか」

宵「お前がとるのか?」

暁「親友の披露宴だからなぁ。いいだろう?いつもはさせてもらえないんだ」

蓬M(あはは……春宮にやらせる披露宴は聞いたことないものね)

宵「分かったって」

暁「それじゃぁみなのものー」
暁、盃を掲げる。

暁「宵と蓬ちゃんのめでたい門出を祝って……乾杯!」

一同『カンパーイ!』

蓬M(ほんの少し前の私なら想像もしなかったろう。しかしいつの間にかこんなにも多くのみんなに祝福されて、宵と結ばれることができたなんて)

蓬「私は……幸せ者かも」

宵「ああ、俺もだよ」
盛り上がる宴会でこっそりと微笑み合う2人。
披露宴の賑やかさに包まれて蓬は幸せを享受する。

【完】