【シナリオ】【NL】捨てる鬼あれば拾う鬼あり



○冒頭のヒキ、2話のヒーローとのシーン
黒鬼の屋敷、寝室、向かい合う(よい)(よもぎ)

宵「俺はずっと蓬を必要としていた」
黒い鬼角に黒髪、金色の瞳、美男子、着物

蓬「(驚き)私を……?」
鶯色の髪、緑の瞳、平凡な顔立ち、寝巻きに宵の羽織
蓬M(私はずっと無能と呼ばれていたのに)

○月守家、庭、昼
現在、義妹の花に虐げられる蓬、庭で脅えながらうずくまる。

花「この無能め!」
花、誰もが振り向く美少女。艶のある淡い金の髪、金色の瞳、透き通る肌。色鮮やかな紋様の着物。

蓬M(この世は持てるものと持たざるものの世界だ)
蓬、土汚れのついた色褪せた着物。

花「どうしたの?抵抗して見せなさいよ。ほら……『蓬、そこでうずくまってなさい』」

蓬M(花の異能、言霊だ)

花「ほら、抵抗しないとこうよ!」
花、蓬を蹴り付ける。

花「(高笑い)あっははははっ!無様ね!」

蓬「うう……っ」
蓬M(花がこの家にやって来てから全てが変わってしまった)

○蓬10歳、過去回想。月守家。
立ち竦む蓬。

母「どうしてよ!どうしてこの子は異能を開花できないの」
啜り泣き憤る母。

母「白鬼の若君との婚約もあるのに!先方にどうお詫びをすればいいのよ!」

蓬M(私が決めた訳じゃない。月守は代々異能を受け継ぐから生まれた時に婚約が決まったのだ)
蓬、俯きながら震える。

父「喜べ!ある農村に異能持ちが生まれたんだ!これで月守は異能を絶やすことはなくなる!」
父が顔を輝かせながら9歳の花を連れてくる。

蓬M(その日から、この家の全ては花のものになった)
蓬、ショッキングな表情で見つめる。

○現在に戻る、月守の屋敷、玄関口、昼
響が花に会いに来る。

響「会いたかったぞ、花!」
響、白い鬼角、銀髪、赤目の美男子。羽織つきの着物。

花「私もよ!響!」
抱き合う2人。
花、ふと蓬を蔑み見る。

花「(ニッと勝ち誇りながら)アンタ、まだいたの?月守の面汚し」

響「そうだ!異能も受け継がない役立たずが!」
響、怒りの表情。

花「ほんと、どうしてアンタみたいなのがいつまでもこの家にいるのかしら」
ふんと鼻を鳴らす花。

響「だが、屈辱の日々も今日で終わりだ」
響、勝ち誇った笑み。

蓬M(どう言うこと?)
蓬、呆然と2人を見る。

響「ついに蓬との婚約破棄が認められたんだ!」
響、ぱああっと顔を輝かせる。

蓬M(鬼は勝手だ。女鬼が少ない彼らは人間の花嫁を娶ることで繁殖する)
蓬、悔しげに唇を噛み締める。

響「無能なお前などぼくには相応しくない」
響、掌に電撃を浮かべる。

響「やはり鬼には異能持ちの花が相応しい」

花「響!」
花、顔を輝かせて響を見上げる。

蓬M(鬼は必ず異能を持つが人間はそうではない。鬼は異能を持った人間をより娶りたがる)

響「だからとっとと消えろ、無能め!」
響の電撃が襲う。

蓬「きゃっ!?」
驚き逃げる蓬、しかし逃げきれず転ぶ。

花「出ていきなさい!アンタみたいな無能はもういらないのよ!」
蓬、必死で立ち上がり、屋敷の門を飛び出し走る。

○屋敷の外、道
土の道をとぼとぼ歩く蓬。

蓬「これからどうすれば……」
その時蓬、道の脇の茂みに何かを見つける。

蓬「何だろう……ひと?」
覗き込む。宵が倒れている。宵、乱れた着物。

蓬「違う。鬼だ(ぶるぶる)」
宵、倒れて動かない。

蓬「(勇気を振り絞る)……大丈夫?」
※鬼は響のせいでトラウマだが倒れている鬼を放ってはおけない

蓬、そっと宵の頬に触れる。
蓬「……っ」
何かが弾けるように手を放す。
※蓬、異能を使ったことに気が付いてない。

宵「(目半開き)ん……うぅ……(見開く)蓬?」

蓬「……どうして私の名前を知ってるの?」

宵「……(一拍考える)」
宵、頭を掻きながら。
宵「その、白鬼の跡取りの婚約者くらい知ってる」
※咄嗟にらしいことを告げる

蓬「その、もう婚約者じゃ……ないです」
俯く蓬。

蓬M(私が無能だから婚約者らしいことすらしてもらえなかった)

宵「(剣呑な表情)どう言うことだ」

蓬「婚約は破棄されてしまって」

宵「(驚愕しながら)鬼と人間の契約を!?そんな簡単に出来ることじゃ……」

蓬M(鬼は契約を大事にするから。でも……)
蓬「私が無能だから……」

宵「(憤り)そんなこと誰が……っ」
※宵は蓬の異能に気が付いている

蓬「(自信なさげ)その、ごめんなさい」
※大きな声に畏縮し反射的に謝る

宵「責めてるわけじゃない。それに」
宵、立ち上がる。

宵「随分と土埃がついている」
宵、蓬の着物の土埃を払う。

蓬「……っ!」
蓬M(優しい……)
鬼に優しくされたのが初めてで驚いている。

宵「(手を差し伸べる)送ろう」

蓬「いえ……その、もう、帰れなくて」

宵「何故?」
宵、ぽかんとする。

蓬「私が無能だから追い出されてしまって……」
俯き涙が滲む。

宵「……っ」
宵、つい手を伸ばしかける。

宵「なら、俺と来るといい」

蓬「でもっ」

宵「こんなところでひとりに出来るか」
宵、今度こそ蓬の手を掴む。

宵「いいから来るといい」

蓬「……はい」
※断れない蓬

○黒鬼の屋敷への道、夕方前
蓬の手を引く宵の前に長身の鬼(焔)。

焔「宵!こんなところにいた!」
赤い鬼角、赤紫の髪に金色の瞳、頬に刺青、長身の美青年、武官姿、刀

宵「悪い、焔。反動で少し伸びてた」

蓬M(異能の反動?強すぎる異能は反動も大きいと聞くけど)

焔「(蓬を見ながら)その子は……蓬ちゃん?」

蓬M(この(ひと)も私を知っているの?)

焔「まさか連れ帰る気か」
蓬、俯く。※反対されると思っている

宵「そうだ」
強い意思の籠った表情で。

焔「だが白鬼はどうする?」

宵「問題ない。この子と婚約破棄をして家から追い出したそうだ」

焔「それはそれは。ひどいことをする。分かった、連れて帰ろう」
焔が仕方がないと破願。

宵「ああ」
にこりと宵。

蓬M(いいの……?私は無能なのに)
蓬、驚きを隠せない。

○黒鬼の屋敷、玄関、夕方前
屋敷の中へ招かれる蓬。

葵「お帰りなさいませ、宵さま。焔さま」
青い鬼角に藍色の髪、水色の瞳、ナイスバディな美女、上品な着物。
葵、上品に出迎える。

蓬M(女鬼!?珍しい……)
葵、蓬に気が付く。

葵「その子は?」

宵「蓬だ。客間を出してやってくれ。あと適当な衣も」

葵「私のお古でも良ければ」

宵「そんな……っ、私は」
申し訳ないと恐縮。

葵「(優しく微笑む)気にしなくて大丈夫よ。お古ならたくさんあるから」

蓬M(優しそうな(ひと)だ)
蓬、その雰囲気に安心する。

○黒鬼の屋敷、浴室、夕方
葵、蓬を湯殿に案内する。
葵「まずは湯浴みを。(アメニティを用意しながら)これがタオルで……湯殿の中のものは好きに使ってね。衣はその間に用意しておくわ」

蓬「でも湯浴みだなんて……」
蓬M(無能だからいつも残り湯。湯浴みですらさせてもらえなかったこともある)

葵「気にすることないわ。女の子なんだから。さぁどうぞ」

蓬「は……はい」

蓬M(本当にいいのだろうか)
蓬、戸惑いながらも湯殿へ。

✕ ✕ ✕

湯殿から上がる、桃色の寝巻き用の衣を手に取る蓬。

○鬼の屋敷、客間、夕方
客間に通される蓬
葵「それじゃぁここでゆっくりしていてね」

蓬「はい、ありがとうございます」
襖が閉められる、部屋には蓬ひとり。

蓬M(こんなによくしてもらっていいのだろうか)

襖がノックされる。

宵「(襖の向こうから)蓬、いいか?」

蓬「は、はい!宵さん」
宵、襖を開ける。

宵「呼び捨てでいい。昔もそう呼んでくれたろ?」

蓬M(昔……?どこかで宵さんと会ったことがあるの?)

宵「それと夕食も用意させる。仕度が済むまで少し待っていてくれ」

蓬「そんな……っ、私は無能なのに食事までっ」

宵「蓬は無能じゃない。だから大丈夫だ」

蓬「けど……」
戸惑う蓬。

宵「いいから。待っていてくれ」
宵、安心させるように微笑む。
そして部屋を後にする。

蓬M(宵さんは励ましてくれている。けれど無能の私は何の役にも立てない)
蓬、ひとり部屋で俯く。

○黒鬼の屋敷、客間、夜
蓬、廊下から聞こえる声を聞く。

花嫁A「聞いた?宵さまが連れてきた子。無能なんですって」
花嫁B「無能なんかのためにどうして宵さまが食事まで……!」

蓬M(鬼に嫁いだ人間の女性たちだろうか。きっと彼女たちも異能持ちに違いない)

花嫁A「図々しくも黒鬼の屋敷に上がり込むなんて!」

蓬M(やっぱり私はここにいちゃいけないんだ)

○黒鬼の屋敷、玄関→外へ、夜
蓬は玄関からこっそり外へ出る。

蓬「このお着物……本当は返したいけど」
蓬M(元の衣は洗濯されてしまったから)

蓬「ごめんなさい、葵さん。いつかご恩がお返しできたら返します」
戸に手をかけ外へ出る。

○鬼の屋敷の外、夜、星空の下
蓬の吐く息が白い

蓬「(星空を見上げる)……ひとりぼっち」
親切にしてくれた宵の顔が浮かぶ。

蓬「(宵への名残惜しさ)……ごめんなさい」
寂しげに呟く。