……長引いている会議を、響子にまかせて。
折角パンを、食べにきたはずなのに……。
「……ちょっと。その縫いかただとすぐ取れてしまいますよ」
「え〜。だったらつぼみちゃん、かわってよ〜」
顧問である、わたくし藤峰佳織と。
校長の寺上つぼみは現在。
海原君の、ブレザーのボタンをつけている。
あぁ……ボタンつけなんて。
ただでさえ面倒なのに。
「ねぇ普通、こんなことする?」
「そんなの……あなたの『推し』に直接聞きなさいよ」
おまけに、第二ボタンだけじゃなくて。
美也がまさかの……『全部』のボタンを奪ったらしい。
ちなみに『放送部員』の女子たちは。
あるとき『ふと』理解したらしく。
そのあとは『暴走した卒業生』の、後始末はしないと。
「ホント、妙なときに一致団結するよねー」
「けしかけた犯人でしょ、あなたがやりなさい」
つぼみちゃんの裁定によって、わたしがやる羽目になっている。
「もう、どうせならさぁー。ブレザーごと持って帰ったらよかったと思わない?」
「彼の卒業はまだ先よ。おまけに冬は、どうするの?」
「じゃあいっそ放送部も、ジャージを『正装』にするとか?」
「やめてよ……そんなのは女子バレー部だけで十分だわ……」
それから結局、わたしには無理そうだからと。
つぼみちゃんがボタンをつけながら話しだす。
「いよいよ『次回作』から、海原君は二年生ね」
「ねぇ。次のタイトル、知ってるの?」
「気づいたら机の上に置いてあったわよ、見てみなさい」
そういわれて首を伸ばすと……なるほど。
『恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない』
「あれ? 末尾が『忘れない』に変わってない?」
「あなた……『お別れ』に反応しないで、そっちなの?」
なるほど、ボタンをつけながらなので。
さすがのつぼみちゃんでも、わたしの『表情』までは。
いまは読む余裕は、ないらしい。
「誰かは知りませんよ、わ・た・し・は」
つぼみちゃんは、そういうと。
「終わったわよ、『感謝』しなさい」
そう告げて、わたしをジッと見る。
「『読者のみなさんに』、感謝します!」
「ちょ、ちょっと。そこはわたしに、でしょう」
「なんで? ボタンつけただけなのに?」
「ちょっと! でしたら全部外しますよ!」
「待ってつぼみちゃん! ご、ごめんなさい〜」
「待ちません。でしたらきちんと、感謝しなさい!」
「わ、わかったからぁ〜!」
……と、い・う・こ・と・で。
読者のみなさんへの。
とっておきの『佳織スマイル』はご想像におまかせして。
わたしは、ある意味で。
一年で一番、校内が寂しくなるこの日。
校長室の窓から、卒業した生徒たちの教室を眺めながら。
誰かの『お別れ』が、どうか悲しいものにはなりませんように。
それとあと、これから『一年後』に。
どうかどうか、ボタンつけをしなくて済みますようにと。
割と神妙な顔で……きちんと祈ってから。
……青空に向かって、ウインクをしてみた。
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シリーズ・六作目。
『恋するだけでは、終われない / 卒業したって、終われない』
最後までお付き合いいただきまして。
本当にありがとうございました。
まずは、シリーズと話数が進む中で。
ずっと変わることなく。
あるいは、なにか心の琴線に触れた折に。
さまざまな形で応援してくださる、読者のみなさまに。
作者としまして、日々感謝しながら。
きょうも創作活動を続けております。
なお次回作品につきましては、誠に勝手ながら。
連載開始日を、2026年3月2日(月曜日)からとさせていただきます。
少々間隔が開きますことを、ご容赦ください。
それでは、よろしければどうかこれからも。
『丘の上』の放送部員たちの過ごす日々を。
少しでも、お楽しみいただければ幸いです。
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つくばね なごり
次回作
心からうまれて、喉元まで出てきたその想いを……。
僕は息をとめて、飲み込んだ。
『恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない』
2026年3月2日(月曜日)、連載開始です。
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