「そうだね! そうしなよ! それがいい、当たり前だよ!」
新聞部の子が、海原君にやや暑苦しく答えてから。
「ほ〜んと、美也も罪作りな女だなぁ〜」
わたしに意味深な言葉を伝えると。
「寒いけど、『熱い』ねぇ〜」
さらに余分に、もうひとこと付け加えて。
「じゃ、お先っ!」
早足で学校へと戻っていく。
「ねぇ……どうして思い直したの?」
新聞部の子が、あっというまに見えなくなったあと。
わたしは海原君に、聞いてみる。
「いえ、なんだか流れで新部長を呼び出しそうな気がして……」
「……それで?」
「また『取材』になりそうだと……」
「それは……困るよねぇ」
確かに、ネタの宝庫と思われている『放送部』だから。
食いつかれたら大変だ。
「失礼なことをしてしまいましたか?」
「別に平気。あの子『ネタ』以外には、深入りしないから」
そう答えると、わたしは。
学校に戻るまでのわずかな時間を。
『わたし以外の話題』で終わりたくなくなって。
もう一度、ふたりだけの話題を見つけよう。
「ねぇ、海原君……」
とりあえずなにか話そうと思って彼に声をかけた、そのとき。
きょう一番の強い風が。
まるで狙っていたかのように吹きつけた。
「きゃっ!」
ストールとスカートを左右それぞれの手で押さえた、その瞬間。
「イテッ!」
首からわたしのマフラーが、勢いよく舞い上がって。
彼のほっぺたにバシリと当たる。
「海原君……大丈夫?」
「み、見事に飛んできましたね……」
「なんだか『予想外』、だったね」
「確かに、『予想外』でしたね」
そういい合って、互いに軽くほほえんでから。
ふと、あることに気がついた。
「『予想外』、か……」
「えっ?」
「色々と……『予想外』だよねぇ」
「は、はぁ……」
そもそも海原君と出会うなんて、予想外。
おまけに恋に落ちるなんて、予想外。
それから。告白したって、終われなくて。
このままだと『予想外』なことに。
……卒業したって、終われない。
わたしたちがお互い高校生でいられるのは、あとわずか数ヶ月。
だとしたら、まずはそのあいだ。
わたしは……できる限りの笑顔を、残したい。
「あの……どうかしましたか?」
「えっ?」
我に返って、自分でもわかった。
どうしよう、なんだかわたしの顔が……。
すっごく赤くなってしまっている。
「あの、顔が……」
「そうだ! 海原君!」
わたしは、マフラーをサッと外すと。
「寒いだろうから、どうぞっ!」
一気に彼の首に、巻きつける。
きっと『予想外』のわたしの行動に、海原君は。
「あ、あのっ……」
そういって……固まったままで。
目論見どおり、少し赤くなる。
……これできっと、おあいこだ。
おかげで、少し余裕ができて。
「どうかな? あったかい?」
笑顔で、わたしが海原君に聞くと。
彼は小さく、息を吸って気持ちを落ち着かせてから。
いつもみたいに、自分の感想を述べるより先に。
「いやそれよりも、寒くないんですか?」
……そういって、わたしの心配をしてくれた。
「そりゃぁ冬だから寒いよ。でもね!」
……心の中は、とってもあたたかいからいまは平気。
とはいえ、さすがに恥ずかしくて口にはできなくて。
「コンビニまで二往復させたせいで、風邪ひかれた困るでしょ?」
わたしは海原君の体調だって大切なのだと。
もっともらしい理由を、述べておく。
「いや、それなら僕のほうが。都木先輩に風邪ひかれたら困りますよ……」
そうだね、ありがとう。
そうやっていつもいつも、わたしを。
いや。自分以外の誰かを気にかけてくれる海原君が、大好き。
でもね、そろそろ。
……誰かに気にかけられる幸せにも、気づいてくれないかな?
ただ、きっとそれがはっきりとわかるときは。
誰かが彼の隣を『固定』したときだろう。
だったら、まだ。
そのときはこないでくれても……いいのかも知れない。
不思議なことに、校門までの帰り道。
いや、その先の並木道を歩いても。
わたしたちは学校の誰とも、すれ違わなかった。
並木道の終わりが、見えてくる。
楽しすぎる時間は本当に……あっというまだよね。
「ではそろそろマフラー、回収します」
「お、お借りしました……」
海原君の腕にくっつけていた左の手袋も、わたしはそっと離していく。
ゆっくりとそれを、首に巻き直しながら。
このあとなんといえばいいかを考える。
「お散歩してくれて、ありがと」
「いえ、こちらこそ」
「受験前に、元気出た……」
口から出た、そんな言葉とは裏腹に。
また強く吹き出した風の音に、わたしの声は負けている。
……受験まで会えないのは嫌。
どうしよう。
……卒業して会えなくなるのは、もっと嫌。
離れたくない気持ちだけが。
次から次へと、あふれ出てきてしまう。
お願い、海原君。
わたしのために、笑って。
もしここで涙を流したら。
わたしは……前に進めなくなってしまいそうで怖いの。
「また、あとで!」
いきなりいわれて、驚いた。
笑顔でいわれて、驚いた。
「うん! またあとでね!」
やっぱりわたしは、海原君が大好きだ。
そしてやっぱり海原君は。
わたしのことを……。
わたしの恋は、まだまだ続く。
そう、わたしの恋は絶対に。
……卒業したって、終われない。
「絶対! 大学合格するね!」
わたしは、聞かれてもいないのに。
勝手にそう宣言すると。
「だから……」
精一杯の笑顔で。
「またあとでね!」
たったいま、大好きになった言葉を。
……大きな声で、彼に届けた。

