……すべての葉を散らした並木道の木々が、小刻みに揺れている。
きょうの寒さを、より強調するように。
時折強い風がさらに吹く。
その風を避けるように、顔を少し下げ。
僕が校舎へ戻ろうと、急いでいたところ……。
「あれ……海原君?」
あたたかくて、少し弾んだ声がした。
「えっ?」
思わず顔をあげると。
毛布みたいなものを巻いた都木先輩が。
数メートル先で、僕に手を振ってくれている。
「なんだか……膨らみました?」
「うーん。そのいいかたは、ちょっと失礼」
先輩の声が、一瞬低くなったので。
「着膨れしていますね、に訂正します」
僕はすぐに表現をやわらげたものの。
「それもなんだか、複雑な表現だなぁ……」
引き続き、不評だったらしい。
「まぁ、事実だから。受け入れてあげる」
でもすぐに先輩は、いつもの明るい声に戻ると。
「もしかして、使いっ走り?」
お返しといわんばかりに、微妙な表現で僕に聞いてくる。
……放送室で藤峰先生が、茶葉の入った缶を盛大にばら撒いた。
「先生曰くは、波野先輩のおでこがまぶしかったらしいです」
「なんだか……めちゃくちゃないいいわけだね」
「キャビネットの上の缶を、背伸びして取っていたんですけどね……」
そのタイミングで、先輩が声をかけたもんだから。
締まり切っていなかった蓋が外れて。
真下にいた高嶺が、大量の紅茶葉を浴びたのだ。
「まるで、猿の毛繕いみたいで嫌だわ……」
「似た色だから、見つけにくいよね……」
三藤先輩と玲香ちゃんが。
高嶺の栗色の髪の毛の中から、ピンセットで茶葉をつまみはじめると。
なんでも、今朝はちょっと時間があったからと。
その準備に気合を入れたらしく。
「痛いんでやさしくしてください! あと絶対髪型そのままで!」
高嶺の注文が多くて、時間がかかりそうだった。
「とりあえず、急ぎのものだけいってきます」
市野さんはかわりに印刷室に向かって。
「なんかこれ、細かいところ吸いにく・い」
波野先輩は掃除機を担当する。
「え……? じゃぁ佳織先生は?」
「百貨店の初売りで買った、お得だけれど高い茶葉だったからって泣いています」
「ほんと、困った先生だよね……」
「おまけに、いつもと違う紅茶を飲みたいって暴れはじめて……」
「それで、お使いなの?」
「コンビニの新商品のペットボトルで済むなら、それでいいと思ったんです」
まったく。寒いのに、面倒ですよ……。
僕が続けて、そういいかけたとき。
もう一度強い風が吹いてから。
ふと、気がついた。
「そういえば、都木先輩はどちらへ?」
すると先輩は、うれしそうに僕を見て。
「自習時間の、気分転換だから……決まってるでしょ?」
「へ?」
「海原君と、コンビニだよっ!」
そういって、僕の右腕を桃色の手袋でグッと掴むと。
つい先ほどいったばかりのコンビニへと。
また僕を、引きずりだした。
……手袋とかストールとか、マフラーとかコートとか。
寒くないように色々着て。
少し外の風に、当たろうとしていただけだったのに。
……なんだかわたし、運がよかったみたい。
この手袋の『おかげ』で、少し大胆に海原君に触れられる。
でも、この手袋の『せい』で。
……感じられる体温は、少しわかりにくいんだよね。
ひょっとしたら海原君は。
あとで佳織先生に、紅茶が遅いってまた泣かれてしまうかな?
ほかのみんなも……彼を占有してごめんね。
ただ、わがままで申しわけないのだけれど。
それでもいまは、少しだけ。
……わたしの好きに……させてください。
ふたりで向かう、コンビニまでの道のりは。
ひとりでいくときとは全然違って。
あっけないほど……早く着く。
「じゃぁ、外で待っていますね」
「えっ? 入らないの?」
「僕はもう、買うものも特にないですし……」
「わたしも、別にないけど?」
「え? でもコンビニにいくって……?」
決して『察してくれる』ことのない会話を。
いつまでしていても、しかたない。
「ほんと、そういうところは変わらないよね〜」
「えっ?」
まぁ……変わられても、困るのだ。
海原君が、もし。
女の子たちの『空気を読める存在』になってしまったら。
それはそれで……大問題だ。
「別に、気にしないでね」
「は、はぁ……」
「じゃ、戻ろっか?」
「は、はい……」
そういって、反転して学校に戻ろうとしたとき。
「おっ、美也と……海原君じゃん!」
うわっ、店内から……よりによって出てきたの?
「あ、新聞部長さん」
「『元』だし! で、なになに。ふ・た・り・で・買い物?」
「いえ、特にないんですけど……あの、一緒に帰られます?」
あぁ……海原君が。
不要なところだけ『気をつかう』。
「ねぇそれって……誰と誰が、『一緒』なの?」
しまった!
思わず声に出した、わたしを見て。
「もう美也ってば、大胆だねぇ〜。しかも受験前なのに、余裕だねぇ〜」
その子がニヤリとすると。
「じゃぁ海原君に、質問します」
あぁ……嫌な予感。
「このあとは『ふたり』がいい? それとも『三人でも』いいの?」
ちょっと……お願いだから余分なことを聞かないでよ……。
ただ、奇跡というか。
いったいどうしたことか。
「あの……すみません」
海原君が、その子に。
「自分がいっておいて、申しわけないのですが……」
わたしと、『ふたりのほう』にしておきますと。
……自分できちんと、答えてくれた。

