「じゃあね、手始めに……昨日の夕食と、寝た時間、今朝起きた時間と朝食、書き出してみて」
真新しいノートに、クラス全員が一斉にペンを走らせる音がする。
わたしは、みんなに遅れをとりながら、ペンを手に取った。
夕食の欄に「カップラーメン」と書き出そうとして、手を止めた。カップ麺は自分にとってはまだマシな方だけれど……。
隣の子のノートをこっそりと覗き見ると、『ハンバーグ』と書かれていた。別の子は「昨日、弟の誕生日でケーキ食べちゃった……」などと話している。
わたしは自分のノートを腕で隠す。そりゃ、そうだよな……。
「はい、書けた人から提出してね〜」
井田先生がそう言うと同時に、チャイムが鳴り、みんなが一斉に席を立つ。ペンを持ったまま、ノートに一文字も書けずに席に座っていると、わたしの席に井田先生が近づいてきた。
「白河さん、忘れちゃったかな?」
声をかけられて、ビクッと肩を震わせる。
わたしは腕でノートを隠しながら、困った顔を隠しきれないまま、笑顔をつくった。
「……はい」
井田先生は穏やかな顔のまま、わたしのことを見下ろすと、ゆっくりと、こう告げてきた。
「思い出せるところでいいから、書いてくれる? もうチャイム鳴ったから、後で預かる。昼休み、保健室に持ってきてくれるかな?」
「……保健室……?」
意外な場所で不安な表情を、つい晒してしまう。
それを敏感に察した井田先生は、笑いながら言った。
「大丈夫、君は何も悪いことしてないよ。ちょっとゆっくり話せる場所が保健室なだけ。じゃあ、昼休みにね。ご飯食べてからで大丈夫だから」
そう言うと、井田先生はわたし以外のクラス全員分のノートを手で抱えて、よろっと廊下に出ていった。
既にもう、「先生!手伝います!」と生徒が何人か井田先生の後を追う。
ゆっくり話す……??
何かを心にひっかけながらわたしは白紙のままのノートを見つめたが、偽る意味もわからない。
どうにでもなれと思いつつ、わたしは夕食の欄に、小さな文字で『カップラーメン』と書き込んだ。ノートにペンを立てた時、震えて上手く力が入らず、貧弱な文字に相応しい単語になってしまい、わたしは苦笑いを浮かべた。
