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「中等部2年2組の担任になりました。井田春斗です。うーん、そうだな、趣味は動植物の世話、この学校にいる動植物に関しては、僕がいちばん詳しいかも」

黒板に自分の名前を書くでもなく、のんびりとした口調で教室を見渡しながら、井田先生は言った。
植物もカバーしていたか……!
噂以上の範囲の広さに、生徒たちがざわめく。

「どうぞよろしくね」

どこからともなく拍手が広がり、井田先生は2年2組のクラスに歓迎された。
そんな井田先生を、キラキラした目で見ている子もいれば、何か少し緊張して見つめている子もいる。降り混ざった空気の中で、わたしは控えめに拍手をした。

「みんなの自己紹介は、この後の学活でしっかり時間とるから、考えておいてよ〜」

拍手の中で、「えー」とか「どうしよう」と、声が聞こえる。もれなくわたしもそっち側だ。
好きなものとか趣味とかないしな……。
わたしがぼんやりと考えていると、教壇に立つ井田先生は背筋を伸ばした。
その緊張感に、一瞬で生徒も静まる。

「そんでまぁ、僕のクラスになったということで」

なんとなく、さっきとは違う声色になった井田先生。

「このクラスにはルールがあります」

真剣な目で、ひとりひとりと目を合わせる井田先生に、誰も何も言えなかった。
わたしも井田先生と目が合って、なんとなく目を逸らしてしまう。

「今日から、みんなには自分の生活について、体について、記録をつけてもらいます。何時に寝たとか起きたとか、食べた物とか、そんな感じで。体だけじゃなくてね、心の方もね」

井田先生はそう言いながら、生徒ひとりひとりにノートを配っていく。

わたしにノートを手渡すとき、井田先生は少しだけ微笑んで、わたしの目を覗き込んだ。井田先生は柔らかくも何かを見透かそうとしてくるような目をしていた。少し怖くなったわたしは、ノートを手に取ると、また俯いてしまう。
その挙動が、井田先生に与える違和感のことなどは頭から抜け落ちていた。

手にしたノートを開くと、日記のようになっていた。時間毎になにをしたのか、毎日記録ができるようになっている。
欄外には、毎日の朝昼晩の食事を書き出すスペースがあった。