「……え……また、井田先生……?」

ほかの2人が不思議そうに口々に言う。

「え、井田先生、好きじゃないの?」

「嬉しくないの?」

迷ったような表情で、彼女は呟くように言った。

「うーん、うち、1年生の時、井田先生のクラスだったけど、あんな顔していちばん厳しいと思うよ」

「えー!なにそれ、こわ」

どういうことだ、井田先生。
一瞬で思い浮かべた雰囲気とはかけ離れた噂が流れてくる。
テストとか提出物とかも、そこまで厳しくなかったと思うけれど……なんだろう。

チャイムが鳴って、掲示板の前からは生徒がはけていくのと同時に、どこかの教室から教師が急かす声が聞こえた。
わたしは2組の教室へ、駆け足になりながら滑り込む。
いまさっき厳しいと聞いた井田先生が、もう既に教室にいたらどうしようと少し思ったが、先生らしき姿は教室内には見当たらない。
ほっと息をつき、出席番号順になった席を確認して、ゆっくりと椅子に腰かけた。
わたしの心配とは裏腹に、先生はチャイムがなり終わった少しあとに、気だるそうな雰囲気をまとって入ってきた。

「ほーい、席ついて〜、今日から2年2組のみんな〜」

その明るくて、ふわっとした声に、クラス中の緊張が和らぐのがわかる。
なんとなくだけど、2年生も上手くやれそうだと誰もが思った瞬間だった。
井田先生はこのクラスの期待を裏切らず、しかし、この後、噂通りの厳しさを見せて、わたしたちの予想を裏切っていくこととなる。