side:咲
4月。正門の桜は満開から少し過ぎ、既に緑の葉が少しずつ顔を出していた。
中等部2年生になって、初めての登校日。
わたしは学校に来られることに誰よりも安心していたと思う。
思えば、酷い春休みだった。思い返したくもないくらいに。
クラスのみんなはそれなりに楽しいこともあったんだと思うけれど、わたしにとっては休みなど無い方がいい。
家の中より、外の方があったかいし、なにより学校の方が安全だ。
入学してから、1度もクリーニングに出せていない制服に身を包み、せめて、伸びきってしまった髪の毛を綺麗に束ね直す。
今日は、クラス替えして新しいクラスの最初の日だ。気合い入れて行かなくては。
「よし、笑って笑って」
わたしは呪文のように呟くと、ひとつ、笑顔をつくって昇降口へと歩いて行った。
人だかりができている掲示板の前につくと、わたしも背伸びをして張り紙を見つめる。
5組あるクラスの中で、目を凝らして名前を見つけるのは、至難の業だ。
白河咲
ようやく見つけたわたしの名前は、2年2組の欄にあった。
人混みの中、クラスが一緒で喜ぶ子たちの声や、離れ離れになって残念がるような声もきこえる。
同じく2組になった女子たちの声が響いて、わたしの耳に入ってきた。
「2組の担任、井田先生だって!」
「え!あのイケメンの!!」
「めちゃくちゃラッキーじゃん」
わたしもその会話を聞きながら、内心、井田先生でほっとしていた。
井田先生は、理科の先生で、いつもふんわりとした雰囲気の先生だ。学校で飼っている動物の世話は、ほとんど井田先生がしていた。
うさぎ、かめ、めだかはもちろん。
学校の敷地に住み着いている野良猫に関しては、正式に学校で飼うことを校長に直談判して、去勢手術の費用を自腹で出したという噂だ。休みの日でもお世話をするくらいだから、動物が好きなんだと思う。
去年の理科の教科担当が井田先生で、教え方もすごく良かったのも覚えている。
しかし、その印象を覆すように、ひとりの女子生徒が言った。
4月。正門の桜は満開から少し過ぎ、既に緑の葉が少しずつ顔を出していた。
中等部2年生になって、初めての登校日。
わたしは学校に来られることに誰よりも安心していたと思う。
思えば、酷い春休みだった。思い返したくもないくらいに。
クラスのみんなはそれなりに楽しいこともあったんだと思うけれど、わたしにとっては休みなど無い方がいい。
家の中より、外の方があったかいし、なにより学校の方が安全だ。
入学してから、1度もクリーニングに出せていない制服に身を包み、せめて、伸びきってしまった髪の毛を綺麗に束ね直す。
今日は、クラス替えして新しいクラスの最初の日だ。気合い入れて行かなくては。
「よし、笑って笑って」
わたしは呪文のように呟くと、ひとつ、笑顔をつくって昇降口へと歩いて行った。
人だかりができている掲示板の前につくと、わたしも背伸びをして張り紙を見つめる。
5組あるクラスの中で、目を凝らして名前を見つけるのは、至難の業だ。
白河咲
ようやく見つけたわたしの名前は、2年2組の欄にあった。
人混みの中、クラスが一緒で喜ぶ子たちの声や、離れ離れになって残念がるような声もきこえる。
同じく2組になった女子たちの声が響いて、わたしの耳に入ってきた。
「2組の担任、井田先生だって!」
「え!あのイケメンの!!」
「めちゃくちゃラッキーじゃん」
わたしもその会話を聞きながら、内心、井田先生でほっとしていた。
井田先生は、理科の先生で、いつもふんわりとした雰囲気の先生だ。学校で飼っている動物の世話は、ほとんど井田先生がしていた。
うさぎ、かめ、めだかはもちろん。
学校の敷地に住み着いている野良猫に関しては、正式に学校で飼うことを校長に直談判して、去勢手術の費用を自腹で出したという噂だ。休みの日でもお世話をするくらいだから、動物が好きなんだと思う。
去年の理科の教科担当が井田先生で、教え方もすごく良かったのも覚えている。
しかし、その印象を覆すように、ひとりの女子生徒が言った。
