優しく咲く春 〜先生とわたし〜

しばらくしてから、井田先生は大きく息を吸って吐いた。
腕時計を少し見つめて、生徒の方へと向き直る。

「……さて……あと30分余ったから」

沈黙に耐えかねたように、井田先生が静かに声を上げる。

「中庭で動物と触れ合おうか。課外授業かな」

その瞬間に、井田先生は教壇を降りて、先導するように、教室を出ていく。
生徒たちは突然破られた沈黙と、井田先生の言葉に、歓喜の声をあげる。
その後を追って次々と賑やかに椅子を引きずる音が鳴った。
思いもよらぬ自由時間に、みんなの心が弾む。

「先生!わたし、うさぎ触ってみたい」

「住み着いた野良猫、俺んちの猫に似てるんだよね」

先を歩く井田先生に、追いつくように生徒たちは口々に言った。

そんな生徒たちの声を背中で聞きながら、井田先生は振り向くと、唇に人差し指を当てて、いたずらっぽく言った。

「シーッ、静かに。この時間、中庭の許可取ってないから、学年主任にバレたら怒られる。みんな、こっそりついてきて」

クラスみんなが秘密を共有するような雰囲気に、わくわくしていた。
クスクスと小さな笑い声を漏らしながら、ぞろぞろと中庭を目指す。わたしはその時間が、今までの学校生活の中で、いちばん楽しい時間のように感じた。