「井田先生、用事済みました?」
保健室のドアが開いて、養護教諭の水野木先生がやってきた。
優しい笑みを浮かべて、入り口に立っている。
「あ、すみません。お借りして」
慌てて立ち上がって、ぺこりと頭を下げる。
水野木先生はベテランの養護教諭だ。
この学校での勤務歴が長く、生徒や先生のことはよく知っている。
「白衣着るとほんと、医者の顔だわ」
茶化すように、水野木先生は笑みを浮かべて言った。
「やめてくださいよ、俺は今、理科の先生です」
この学校で、俺が医師免許を持っていることを知っている先生は、校長と水野木先生くらいである。
俺は相談がてら白河咲の話を、水野木先生にした。水野木先生はその話を聞いて、顔を曇らせる。
「白河さん、去年の春の健康診断ではそういう線の話は上がってきてなかったけれど……この1年で、彼女を取り巻く状況が、変わってきてるのかもね」
保健室の中を、重い空気が包む。
彼女の1年間の変化は、殊更、表面上ではわからないことが多い。
ただ、水面下で起きていることが、少しずつ、表にも出てきているのは、今日のお昼で確信した。
「来週の健康診断で、いろいろわかることがあるかもしれません」
「そうだね」
4月は、年度始めの健康診断がある。
校医には俺の知り合いもいる。
