──六花の生活は、〝あの日〟からすべてが変わった。

 突如襲ってきたあの男。

 理由など分からない。なにが目的だったかも不明だ。

 六花の脳裏に焼きつき消えてくれない、血に濡れたあの男の姿が何度も思い起こされる。

 毒々しいまでの赤黒いあの瞳を持った男により、両親は死に、霞もまた重傷を負った。

 それだけならまだしも、霞は癒えぬ呪いをかけられた。呪いは自分が与えたものであると主張するように、わざわざ自らが好む黒薔薇の刻印を刻んで――。

 このままでは苦しみぬいて死んでいくしかなく、霞を守るためには呪いをかけたあやかし本人に呪いを解かせるか、その者を殺すしかない。

 両親を亡くし、霞の呪いが発現した日から六花はずっと探し続けている。

 呪いは日に日に霞の体を侵食していき、最初はまだ自力で動けていた霞はもう最近では人の手を借りなければ歩けないほど衰弱してきている。

 発作を起こす頻度も多くなっていたが、ただひとつ幸いだったのは、六花が宵闇の主だったこと。

 宵闇はその昔、あやかしと人とをつなぐ神から与えられた神器だ。

 あやかしの世界の秩序を守る役目を天鬼月に与え、あやかしを粛清できる宵闇は破邪の刀でもある。

 だからこそ、霞の中にある呪いを一時的にだが抑えることができるのだ。

 問題なのは、あくまで進行を遅らせるだけにすぎず、解呪するには呪った張本人を討つしかない。

 それなのに、いまだに手がかりさえ見つけられずにいた。

 「もし私が宵闇を使いこなせていたら……」

 そうすればきっと状況は変わっていた。

 自分の無力さが悔しく歯がゆい。けれどあきらめたりはしない。

 「どんなことをしても助けてみせる」

 六花は決意に満ちた強い眼差しで、片方の手には霞の手を、もう片方の手には宵闇を握りしめた。