『出来た作品は文化祭で上映する』
その文字を読んだ瞬間、頭がクラクラした。
うそだろ?
俺、観察されて、その映像を……学校の人に見られるの?
詳細を聞く前に承諾した、数秒前の俺を殴りに行きたい。
俺の動揺を知ってか知らずか、
「文化祭の日、体育館で上映するから! いい作品作ろうな!」
と、底抜けに明るい椎名の声が追い打ちをかけてくる。
今、こいつ、体育館って言った?
ああ、わかってたよ。うん。言うと思った。
文化祭の上映といえば体育館。
演劇部、ダンス部、軽音、吹奏楽、そして映画研究会。
全校生徒があつまって舞台に視線を向けるあの空間。
ってことは──
俺の恋愛が、体育館の巨大スクリーンで暴かれるってこと?
……終わった。
今年こそ可愛い彼女を作って、文化祭を一緒に回って青春の思い出を作るつもりだったのにな。
体育館のスクリーンに映る自分の顔が浮かぶ。
俺の青春、どこへ向かっていくんだよ。
クラクラする頭を落ち着かせて
「体育館で上映は…ちょっと恥ずかしいかも、なぁ山内もそうだろ?」
と、助けを求めるように山内を見たけれど
「別に?」
と静かに一瞥されてしまった。
そうだった。
コイツは人からどう見られるとか、どう思われるとか気にしないヤツだった。
揶揄われたらどうしよう、恥ずかしい、なんて思う俺とは真逆の生活をしてたんだ、昔から。
「いいよな、山内はかっこいいもんな。大きな体育館のスクリーンに耐えられる顔面してるもんな」
と、少しの意地悪心で不貞腐れて突っかってみた。
どうせ「まぁな」とサラリと返されると思ってたのに、予想に反して「え?」と、瞳を揺らしてこちらを見てきた。
コイツ、まさか顔の良い自覚がないのか?
神様はずるい。俺がコイツの顔だったら、絶対もっとその顔面を活用して生きていくのに。
息を呑んだ気がする沈黙のあと
「…ありがと。丸瀬もかわ…かっこいいけどな」
って!なんだよ、か…って。
「言い淀みやがって!」
といえば、なんだかふわりと微笑まれた気がして、これ以上突っかかっても無駄だと思わせてくる。
俺の方に向けていた視線を企画書に戻して
「ここの部分なんだけど、」
と指を刺して椎名を穏やかな声で呼ぶ。
なんでコイツはそんなに乗り気になれるんだよ!
俺だけ動揺しているようで悔しいので、俺もなんでもない様な顔をして2人が覗き込む企画書にひょっこりと混ざってみることにした。
