「その喋り方も、堅苦しいし。僕とか俺とか言えないの?」
「言えますよ……!」
「じゃあ最初からそうしてちょうだい」
「はぁい」


 喜世はしょぼんと落ち込んだ。悪さをして怒られた子犬みたいだ。

 喜世は天音に仕えて今年で九年になる。天音が早く出されたのは八年前のことであった――。



 一之瀬の開花時期は七つ。小学校に入学してから一つとったあとだ。一之瀬は天音の双子の妹・明音(あかね)は六つで早くに開花を起こした。
 だが、天音だけ開花がいっこうに来なかった。そして、天音は養子へと出されてしまったのだ。



 それから、喜世は尊敬し、母親と父親に内緒で仕えるようになった。きっと一之瀬だからだろう。

 喜世は天音の護衛として知られている。『一之瀬の無能』『一之瀬の落ちこぼれ』『一宮に落ちた出来損ない』……など、挙げればあげるほど永遠に出てくる卑下したあだ名。そんな者に仕えているのだから、到底有名だ。


「喜世はどうして私に構うの?」
「天音様は、家柄を気にしないからです!」
「はぁ……。全くこの子は……」


 天音は大きなため息をついた。そんな理由……と思ったからだ。家柄を気にしない、それは基本的にそうなのではないだろうか。
 一之瀬から一宮は家系のトップ……、他の桐島から木村のまとめた序列は二位。だが、一之瀬はトップ(序列一位)だ。