○登場人物

沙羅(さら)…ヒロイン。16歳。鬼の世界に迷い込む。

白夜(はくや)…ヒーロー。16歳。白鬼。白鬼は全員言霊の異能を持つ。

伊月(いつき)…鬼の頭領。白鬼。30代後半。

樹羅(きら)…白夜の弟。5歳。白鬼。

女鬼…白鬼の屋敷の使用人。敵。樹羅を無理矢理拐おうとする。

○冒頭のヒキ、現世→異界(鬼の世界)に通じる門、異界は昼

門を通り、異界に放り出される沙羅。白夜の上に落ちてきて抱き止められる。

沙羅「きゃあぁぁぁっ!?」
沙羅、高校のセーラー服

白夜「うわっ!?」
白夜、羽織付きの和服

沙羅「ここ……どこ?」

白夜「どこってお前……人間か?」

沙羅「人間かって……その角、鬼!?」

白夜「詳しい話は後だ。早くこちらへ」

○和風屋敷内、昼
座布団に座り向かい合う白夜と沙羅

白夜「俺は白夜。見ての通り鬼だ」

沙羅「私は沙羅です」

白夜「まず説明するがこの世界は鬼の世界。人間は普通いない」

沙羅「普通って……いる人間もいるの?」

白夜「いる。沙羅のように迷い込む人間だ」

沙羅「元の世界には戻れるのかな」

白夜「そう言った話は聞かない」

沙羅「(ショック)そんな……」

白夜「だからこの世界で生きていくしかない」

沙羅「……この世界で」

白夜「出会ったのも何かの縁だ。世話役は務めてやる。ただし」

沙羅「(首を傾げる)……?」

白夜「この鬼角をつけること」

沙羅「人間は珍しいから?」

白夜「それもあるが、中には人間を食ってやろうと言う恐ろしい鬼もいる」

沙羅「(青い顔)ひ……っ」

白夜「まぁそうそういないがな。ただそいつらに見付からないよう対策は必要だ」

沙羅「それがその角?」

白夜「そう言うこと」

角を装着する沙羅。

沙羅「変じゃない?」

白夜「まさか。似合ってる。それから着てるもの」

沙羅「このセーラー服?」

白夜「それも目立つ。着物に着替えてくれ」
白夜が衣を差し出す。

沙羅「着方なんて……」

白夜「女鬼が着付けてくれる。うちの屋敷の連中だから安心してくれ」

沙羅「うん」

○鬼の屋敷、居間、夕飯、夜
女鬼に着物を着付けてもらった沙羅。案内された居間には御膳が並ぶ。

そこには小さな男の子(樹羅)がいた。

沙羅「こんばんは。私は沙羅。君は?」

樹羅「(恥ずかしそうに)……きら」
作務衣のような和服

沙羅「樹羅くん!よろしくね」

樹羅「……ん」

沙羅M(かわいいなぁ)
なでなで

その時襖が開く。

白夜「樹羅!?樹羅もこっちに来てたのか」

樹羅「にーに」

白夜「何だ、にーにと食事を取りたかったのか」

樹羅「うん」
白夜は樹羅の頭を撫でる。

白夜「沙羅、弟の樹羅だよ。樹羅が懐くなんて珍しい。お前は変わったやつだな」

沙羅「そう……なの?よく分からない」

白夜「ははっ。いきなり鬼だらけの世界に来たのに肝が据わってるし」

沙羅「白夜も女性の鬼さんたちも優しいし、樹羅くんもかわいいもん」

白夜「だがそうじゃない鬼もいる」

沙羅「うーん、まだ会ったことがないから」

白夜「悠長だなぁ。ま、そこもいいが」
白夜はニカッと笑う。

沙羅「その……っ」
白夜の笑顔にドキッとする。
認めてくれたことが嬉しい沙羅。

白夜「樹羅はひとみしりなところがある。仲良くしてやってくれ」

沙羅「もちろんだよ。樹羅くん、よろしくね」

樹羅「……うん!」

沙羅M(本当にかわいいなぁ)
和みながら夕食を終える。

○夜、客間、寝室→廊下へ

沙羅「おトイレ……借りようかな」
沙羅、廊下へ出る
廊下の暗がりの先に女性鬼の姿を見る。

沙羅「昼間気付けをしてくれた鬼さんかな」
そっと近付く。樹羅の叫び声。

樹羅「やーっ!」

女鬼「黙りなさい!」
女鬼が無理矢理樹羅を引っ張る。

沙羅「やめて!」
止めに入り樹羅を抱き締める。

沙羅「(怒り)何をしてるの!?」

樹羅「(泣きじゃくりながら)うえ、ぇ、さらねぇね」

女鬼「人間ごときが……!鬼に逆らうなぁっ!」
女鬼が爪を尖らせ襲い掛かる。
目を瞑り樹羅を抱き締める。

白夜「そこまでだ!」
沙羅が目を開ける、白夜が女鬼の手首を捻り上げる。

女鬼「ひいぃっ」

白夜「大人しくしろ」
※言霊の力を使ってる。

白夜「貴様、沙羅と樹羅に何をするつもりだった!」

女鬼「違います!白夜さま!わたくしは樹羅さまを襲おうとしたその人間の娘から樹羅さまを助けようと……」

白夜「沙羅はそんなことをしない!」

女鬼「今日突然現れた人間を信用なさると!?」

白夜「ああ。できるさ。子どもは大人よりも敏感だ。樹羅は特に。樹羅がこんなにも懐いている沙羅が悪いやつなわけない」

沙羅「白夜……っ」
沙羅、頬を赤らめる。

白夜「それに俺自身もそう分かるよ。沙羅が俺を優しい鬼だと思ってくれるようにな」

沙羅「うん!白夜は強くて優しい鬼だよ」

女鬼「この……このぉっ!」
女鬼が最後の悪あがき。白夜を突飛ばし再び沙羅を襲う。

伊月「止まりなさい」
沙羅の隣に立つ伊月、着流し。
沙羅は不思議そうに見上げる。

女鬼「……っ」
女鬼が動きを止める。

女鬼「(ガクブル)お……長」

伊月「白鬼の異能は言霊。まだ小さな樹羅ならば拐っていいようにできると踏んだのかい?」

女鬼「そんな、わたくしは……っ」

伊月「悪いけど、君は追放だ。鬼の一族からね」

女鬼「そんな!そんなことをされたら生きていけなくなる!」

伊月「我が子に手を出すような鬼に慈悲などない。出ていきなさい」

女鬼「ひ……っ」
動きを止める女鬼、駆け付ける鬼の武人。
女鬼は屋敷から追い出され追放される。

○和室、深夜。
伊月の前に座る白夜、沙羅、樹羅。樹羅は沙羅のお膝の上。

伊月「挨拶が遅れたね。私は鬼の頭領伊月。白夜と樹羅の父でもある」

沙羅「沙羅です!」

伊月「ふふ……っ。君は面白い子だ。(白夜を見る)白夜、早く紹介してくれればいいのに」
伊月、白夜に微笑む。

白夜「いきなり鬼の頭領なんぞに会わせたら、人間は恐ろしがる」

伊月「でも彼女は違うだろう?」

白夜「まさか異能を前にしてもだとは思わなかった。沙羅、さっきの言霊が俺たち白鬼の力だ」

沙羅「う……うん」

白夜「この力があれば俺は沙羅を自由自在に操ることも可能だ。恐ろしい力だ」

沙羅「でも白夜はそんなことしないでしょ?」

白夜「それはその……そうだが。信じられるのか?」

沙羅「もちろん!だって白夜も私を信じてくれたもの」

白夜「これはますます……(沙羅に聞き取れない声で)手放せなくなりそうだ」

沙羅「……?(最後を聞き取れなかった)」

伊月「それならこれからも、沙羅ちゃんは白鬼の屋敷で暮らすと言うことでどうかな?」

白夜「沙羅さえ良ければ」

沙羅「は、はい!もちろんです!私、白夜とも樹羅くんとも一緒にいたいので!」

伊月「それは何より。樹羅も懐いているようで嬉しいよ」

沙羅「はい!」
樹羅「さらねーね」
樹羅、沙羅にすりすり。沙羅、顔がほころぶ。

沙羅「あ……でも」

白夜「何か心配ごとか?」

沙羅「私、ここで何をして過ごせば……」

伊月「それはもちろん白夜のよ……」
※『嫁』と言おうとしている。

白夜「ちょっ、待て!まだ言うな!」
白夜、慌てて制止する。

白夜「その、俺から言うから」

伊月「それなら任せるよ」

沙羅M(うーん……『よ』って?)

白夜「沙羅」

沙羅「うん」

白夜「その……俺の、花嫁になって欲しい」

沙羅「ふぇ……?(瞠目)」

白夜「ええと、嫌、か?」

沙羅「そんなことはっ」

白夜「ならいいだろうか」

沙羅「私、人間だけど」

白夜「元よりここな流れ着いた人間は鬼と縁故を結ぶものだ」

沙羅M(そうか……そうなるよね)

白夜「だからこそ俺は沙羅がいい」

沙羅「私も……白夜なら」
沙羅M(出会ったばかりなのに不思議)

白夜「鬼ってのは溺愛が深いんだ。幸せにするからな」
白夜、沙羅の手を取る。樹羅はキラキラした目で見守る。

沙羅「う……うんっ!」
頬を赤らめる沙羅。
沙羅と白夜、微笑み合う。
樹羅は嬉しそうにそれを見つめ、伊月は微笑ましそうに見守る。


【完】