第一皇子の俺、12歳の誕生日に世界樹として埋葬されました。〜どうやら俺が世界樹の王らしいので、内側から国を繁栄させようと思います〜

 俺が次々に巨木をなぎ倒していけば、その振動と音につられてか、はたまた、手隙で暇だったからかは分からないが、イグドラシルの民たちが続々と集まってきていた。

 その中で数人、自分も木を切り倒したいという者たちが俺の代わりを買って出てくれたのだが……。

「うおぉぉぉっ!」

 ――ガンッ!

 その者たちは属性武器の使い手であり、それぞれ炎の剣やら水の斧やら、各々の手に馴染む武器を出現させては巨木に振り下ろしたものの、刃は全くと言っていいほど通らず、炎が表面を少し焦がす程度、水ならば濡らすだけ、雷も焦がすだけと属性武器たちでは巨木に()が立たなかった。

 結局、木を切り倒すのは俺の役割となり、国民たちは『怪力』などのスキル所持者でない者も数十人で力を合わせて資材化させた木を運んで行ってくれていた。

「アルト様!」

 調子よく木を切り倒していれば、いつの間にかやって来ていたルミネが俺を呼んだ。

「ルミネか。マチスから指示があったか?」

「はい。おそらくあと二、三本で十分だろうとのことです。その後は『資材化』スキルでさらにサイズ等を整えれば、もうすぐにでも建築に入れるそうです」

「分かった。民よ! 今の話は聞こえたか? あと三本だ。最後まで気を抜くなよ!」

「「「おおぉっ!!!!」」」

 要不要を考えれば、恐らく全く必要のない号令。
 だが、もし仮に俺が誰かについて行く立場だったら、こう言う風に盛り上げてくれるような人について行きたいと思う。

 だから、不要かもしれないが俺はやる。
 その先が俺の目指すべき王の姿だと思っているから。

 大分慣れて来た感覚に任せず、今一度しっかりと斧を握る。
 斧の全身は傍から見ればどうやっても樹から出来ているとは思えないような重々しい外見をしている。
 しかし、こうして握ってみれば分かる。
 この斧が間違いなく樹で、世界樹で出来ているのだと、持ち手や柄の部分だけではない。
 その刃すら、世界樹で出来ているのだろう。
 だが、まるで熟練の鍛冶師に鍛えられたかのような輝きを放つその刃は、並の金属とは比べ物にならない硬さと鋭さを誇っている。

 スゥっと息を吸い、同時に斧を振りかぶる。
 そして吐き出すと同時に真横一文字に振り下ろした。

 何度も繰り返して来たから、もうその感覚には驚かない。
 しっかりと止めの動作に入り、ゆっくりと倒れていく巨木を横目に見ながら俺はすぐに次の木の元へ移動した。

「次行くぞ!」

 資材化の作業が終わると同時に声を掛ければ、再び民たちから大声で返事が返って来る。

 ……こんなことを思うにはまだ早いかもしれないが、俺は良い民たちに恵まれた。

 そんなことを考えながら、俺は残りの二本も順番に切り倒した。

「これにて、材木の収集作業は終了だ。皆、よく働いてくれた! だが、仕事はまだ始まったばかり、音を上げてくれるなよ!」

 俺の檄に、まだこちらに残っていた民たちが声を出したり、拳をあげたりと様々な方法で返事を返してくれる。

 一先ず、建築の基礎となる材木はこれで集まった。
 しかし、本番はこれからだ。

『造園監督』のスキルを持つマチスがいるため、区画やら建築計画やらは問題ないだろうが、ルミネから聞いたスキルの中には、アスガルドでは様々な建築に携わっていた『建築家』のスキルや『設計士』のスキル所持者はいなかった。

 おそらくマチスは建築の経験者なのだろうが、スキル無しで一体どこまでできるのかは分からない。
 ルミネに建築関係の仕事をしていた者たちも事前に集めてもらえばよかったか。

 一仕事を終えた途端、もっとうまくやる方法があったんじゃないかと思えてくる。
 これが王か……言葉一つで国中の人を動かせる存在。
 だからこそ、その言葉には深い思慮と責任が必要だ。

 もっと気を引き締めなくては。

「お疲れ様です、アルト。少し休憩を挟みませんか?」

 俺が自省をしていれば、木を切っている間、ずっと傍でこちらを見ていたロロが駆け寄ってくる。

「ああ、いや、まだ俺が休むわけにはいかないよ。今は皆、建国宣言の盛り上がりでテンション高く作業をしてくれている。この調子を崩すわけにはいかない。せめて雑魚寝でも全員が屋根の下で休める環境を作ってからじゃないと」

 寄りかかっていた斧の世界樹権能を解除しながら、俺は民たちの後を追って歩き出す。

「……そうですか。でも、きちんと休んでくださいね? 確かにここでは食事の必要がありませんが、だからと言ってエネルギーが無限にあるわけではないのです」

「ああ、気にしてくれてありがとうロロ。……今日の所は雑魚寝でも良いとして、問題は寝具だな。いや、それよりも衣服か? ……これが建国か。なんて考えることの多い……」

 俺はロロに感謝の言葉を伝えながらも、脳内では次にすべきことや問題についてを考え続ける。
 一からアスガルドを建国した初代国王アスガルド・アンドレアルは一体どのように国を興していったのだろうか?

 もちろん全くのゼロ、何もないところから建国したわけではないはずだが、彼の実績は凄まじく、もう何代も離れた俺たちにまでその名前は轟き知れ渡っている。
 初代国王の名前アスガルドは現在では国名であり、皇名として、国王が名乗ることになっているほどなのだ。歴史上、そんな王は彼以外に現れていない。

 まだ若い母を抜擢し、その戦争を大勝利に導いた父コントラス・アンドレアル・アスガルドでさえ、初代国王の名声には及ばない。
 
 しかし、俺はそんな父や初代国王でさえ、辿っていないようなゼロからの建国をしようとしている。
 休むなんてもってのほかだ。
 考え続けなければ、示し続けなければならない。
 それに建国だけではない。俺の両肩には世界樹で繋がるすべての世界の未来すら乗っているのだ。

「アルト……」

 ロロが一歩後で何かを呟いたような気がしたが、特にそれから何かを言ってくることはなかったため、聞き間違いだと気にせず、俺は思考を巡らせ続けた。

 ◇◇◇

「アルト様、マチスさんがお呼びです」

 皆を目覚めさせた広間の中心地に戻って来た俺の元へ、再びルミネがやってくる。

「分かった」

 マチスが呼んでいるとのことだったので、ルミネについて行くと、そこでは両手の親指と人差し指で四角形を作りながら、辺りをその四角の中に収めて見ようとしているマチスがいた。

「マチス、それは一体何をしているんだ?」

「おお! アルトサマ! 待ってやした!」

 俺が声を掛けるとマチスはその妙な行為を一度やめてこちらに走って来た。

「今のが俺のスキル『造園監督』の使い方でさぁ。ちょっと待っててくだせぇ」

 一言、そう簡単に説明するとマチスは資材を積んでいた民たちの方へ呼びかける。

「おーい皆! 今から、街の設計図を共有するからちょっと集まってくれ!」

 そして、皆を連れて戻って来たかと思えば、また片目の前に両手の指で四角形を作り、その中を覗き込んだマチスが俺に言った。

「見ててくだせぇ、俺のスキルは中々に優秀なんでさぁ『設計図共有』」

 マチスのその言葉を聞いた瞬間、視界が変わる。
 
「「「おおぉぉぉぉ!」」」

 民たちからも感嘆の声が上がり、俺もその視界に驚愕していた。

 マチスが『設計図共有』と言った瞬間、見たことが無いような立体的な建築物の設計図が視界に浮かび上がって来たのだ。
 何かと思って視界の先に手を伸ばしてみるが、手は空を斬り、そこに何かが実際に出現したりしている様子はない。
 つまりこれは、マチスが思考し、頭の中で思い描いた設計図をそのまま皆と共有する力と言うこと。

 これまでも『造園監督』のスキル所持者とは関わったことがあったが、こんなことが出来る人には会ったことが無い。
 なるほど……これがあれば、『建築家』や『設計士』のスキル所持者がいなくとも、効率よく建築をしていくことが出来る。

「どうです? アルトサマ。アルトサマの邸宅はあんな感じにしようかと思ってるんですが……」

 すると、俺の肩を叩き、背後の俺が目覚めたあの部屋の前、ここでは唯一少し高くなっている切り株の階段の上をマチスが指さしてくる。

 言われるがままに振り返ると、そこには――巨大ではないが、確かに立派な城の設計図が浮かび上がっていた。

「こんな立派な城を?」

 思わず、王として被っていた仮面が剥がれ、素の俺が出てしまう。
 だが、マチスは気にせずに続けた。

「当たり前でさぁ。アルトサマは俺たちの王サマだ。俺がいるからには立派なところに住んでもらわねぇと!」

 驚く俺の様子を見てガハハと嬉しそうに笑いながら、マチスはそう言ってのける。
 
 これが、俺に向けられる期待の大きさなんだ。
 俺は頭上にそびえる巨大な城を見て、今一度それを再認識する。

「おいみんな! 城作りから始めるぞ! 力自慢は材木をドンドン運んでくれ!」

 俺がそんなことを考えていれば、マチスは俺の指示を受ける前に民たちへ指示を出していた。
 ……俺も負けていられない。

「ルミネ、『職人』系スキルの所持者をマチスの元に集めてくれ。多分これから必要になる」

「かしこまりました」

 ここまで見事な設計図を見せられては、建築に関してはマチスに任せてしまって良いだろう。
 と、すれば俺はその間に次に移らなければ。
 民を動かすにはまずは自分が動いてこそ、俺はそうやって政務をこなして来た。

「ねぇ、ロロ。この辺りで寝具や衣服の材料になるような動物や植物って何かある?」

 建築についてはこれ以上俺が手を出せることは少ないだろうと考え、俺は次の課題である衣服、寝具の解決に向けてロロに質問した。

「……残念ながら、ここには動物や世界樹以外の植物は自生していません。ですが、世界樹の森の中にいる魔獣なら、素材になるかもしれません」

「そっか……ここには動物や植物はないんだね。そして、魔獣か……確かにアスガルドでも魔獣の素材は高級だったけど……」

 いざ魔獣と聞かされると足がすくむ思いがした。
 アスガルドで魔獣の素材が高級だったのは、そもそもその数が少なかったということもあるが、それ以上に採取に付きまとう危険性からである。

 実際俺も、王都以外に出て政務をこなしたことはあっても魔獣と対峙したことはないし、万が一に備えて騎士団が随行していた。
 そんな魔獣と戦わなければ、寝具や服の素材が手に入らない。

 俺に出来るのだろうか?
 ……いや、出来る出来ないの話ではないな。
 今は俺がこのイグドラシルの王なんだ。
 母が大戦功をあげたように、父がその策謀で軍を率いたように、俺は俺の力で民を引っ張らねばならない。

「分かった。ロロ、その魔獣の出るところまで案内してもらえる? 森の中ってことはここの周りに出るんだよね?」

「それはそうですが……アルト、今から行くつもりですか?」

 俺が案内を頼むと、ロロは心配そうな顔で確認してくる。

「もちろん。寝具や衣類もすぐに必要なものだからね。それに、数がいるし、早く動きだすに越したことはないよ」

「……分かりました。ですが、あと最低二人は同行者を付けましょう。確かに『世界樹の王』となったアルトは強いです。しかし、相手は魔獣。あまり人数は割けないにしてもそれが案内の最低条件です」

「分かった。確かに俺もいきなり一人での戦闘は難しいだろうし、そうしよう。ルミネが戻ってきたら、魔獣との戦闘経験がある戦闘系スキルの所持者を連れてきてもらおう」

「……はい」

 万全を期すと約束しても、どうしてかロロの顔は晴れない。
 魔獣との戦いをそれほど心配してくれているのだろうか?

 でも、後には世界樹を枯らしてしまうような魔獣ニーズヘッグとも戦わなければならないのだ。
 今回の経験は必ず俺の糧になる。

 それに、建築作業で疲れているだろうみんなの元へ寝具を届けることが出来れば、この士気の高い状態を明日以降も継続することが出来るかもしれない。

 俺はまだまだ未熟な王なんだ。
 出来ることは全部やらないと。

 もう一度振り返り、視界に映る設計図を見る。
 少しずつ、その設計図通りに組みあがっていく城は、まだ何もなしていない俺が貰うには過分すぎる物に思える。

 確かに王としての見栄えは大切だ。
 自分たちの仕える王が見すぼらしい恰好をしていたり、情けない姿を晒していれば、民の信頼は離れてしまう。

 だが、不釣り合いな物に溺れる王もまた良い王とは言えない。

 あんな城を作ってもらうからには、俺も民たちのためになることを成し遂げなければならない。
 誰に求められているわけでもないが、俺自身が強くそう思うのだ。

 ルミネが『職人』系のスキルの持ち主たちを連れてマチスの元に戻って来たのが見える。

 俺はその引き渡しが終わるのを待ってルミネに話しかけた。

「ルミネ。度々悪いが、『鋼鉄の盾』のスキル所持者と『魔術師』のスキル所持者の二人を連れて来てくれ。二人を呼んで来たら、休息をとってもらって構わない」

「……かしこまりました。ですが、一体どうしてその二人を? 戦闘訓練でもなさるおつもりなのですか?」

 俺が頼むと、珍しくルミネがその意図を聞いてくる。

「いや、違う。その二人がいれば魔獣との戦闘も比較的安全にこなせるはずだと思ってな。……ああ、もし二人が魔獣との戦闘経験がないようなら、悪いがルミネの方で適任者を選んでもらえるか?」

「……魔獣との戦闘、ですか? お言葉ですがアルト様、アルト様ご自身が出向かれるのは少々危険ではないでしょうか? 確かに今おっしゃられた二人は騎士団に籍を置いていたはずですが、流石に二人だけと言うのは……」

「いや、問題ない。魔獣と言っても寝具や衣服の素材になる魔獣だ。俺たちの目標であるニーズヘッグとは違う。それに、あまり多くの者を割いてしまっては建築の方が滞ってしまうだろう。資材の運搬とは違い、『怪力』スキル所持者十数人程度でどうにかなる問題ではないからな」

「……かし、こまりました。ですが、無礼を承知で申し上げます。アルト様もきちんと御休息をお取りください。では、連れて参ります」

 俺の説明に一応は納得してくれた様子のルミネが一礼して去っていく。
 ロロやルミネには悪いけど、まだ休むわけにはいかないんだ。
 俺がこの流れを切ってしまう訳にはいかないから。

 そう気合いを入れなおし、俺はルミネが二人を連れてきてくれるのを待った。