「まず、スキルの種別ですが、戦闘系のスキルを持っている方が多くいらっしゃいました」
チラチラとロロの方を気にしながらも、隣りに立って『思考処理加速』のスキルで整理した報告を始めてくれる。
「そんな中で国作りに有用と思われるスキルの持ち主は……」
「いや、待て。選別してくれたことはありがたいが、一度大方のスキルを頭に入れておきたい。ルミネはスキルの概要も聞いて来てはくれているのだろうが、スキルについての知識はアスガルドで王族として日々学んでいた俺の方があるだろう」
「……全て、で、よろしいのですか?」
驚愕と聞き間違いを疑うような声音で確認をしてくるルミネ。
「ああ、頼む」
だが、俺は構わずに頷いた。
『思考処理加速』のスキルがあるからこそ、俺の発言はより突拍子もなく聞こえたのだろう。
しかし、こう見えてスキルの扱いには定評があるのだ。
都度、ルミネを頼っていては対応力に欠けることもあるかもしれないし、ここに今どんなスキルがあって、アスガルドでは有用だったどのスキルがイグドラシルにないのか、それを改めて確認しておきたかったのだ。
「かしこまりました。まず……」
ルミネが全員分のスキルをなるべく分かりやすいように振り分けて列挙してくれる。
そこから分かったことは、父コントラスの世界樹化への考察はかなり真に迫ったものであったということだ。
イグドラシルの民353名+ルミネの354名中、戦闘系のスキル発現者はなんと驚異の六割弱。
母ラーノの『氷結の刃』ような戦闘系スキルの中でも、さらに希少なスキル覚醒者こそほとんどいなかったものの、属性武器スキルと呼ばれる騎士などに多く見られるスキルの所有者がかなり多かった。
アスガルドでは個人のスキルの特性に見合った職を王宮から推薦しているが、それを選ぶかどうかについてはスキルの所有者に任されている。
特に貴重な『念写』スキルの持ち主などはかなりの好条件をぶつけて囲い込むが、そうでない場合はある程度職業選択の自由が認められていたのだ。
だから、戦闘系スキルの覚醒者であっても、普段から戦闘を行うような職に就いていない者も多くいたのだろう。
もしかするとその自由によって器が成長せず、世界樹化することになってしまったのかもしれないが、これはもう今更どうすることもできない。
そして、次に多かったのが汎用スキルの括りでまとめられるスキルの持ち主たち。
これは戦闘系スキルの所持者を除いた残りの四割の内の六割程度に認められた。
汎用スキルは先日アスガルドにて俺が政務に赴いた街で利用した『浮力付与』や『固定の鎖』などのスキルのことだ。
用途が限られない、応用の利くスキルとして俺個人としては勉強のし甲斐があるスキルたちだと思っていた物。
アスガルドではこの汎用スキルに分類されるスキルの所持者が最も多いため、イグドラシルではこの程度の人数に落ち着いていることからも、父コントラスの世界樹化への考察の確実性の一つの根拠になるだろう。
そして、残りの一割弱の人たちはルミネの『思考処理加速』のような、いわゆる希少スキルと言われるスキルの覚醒者だった。
国民の一割弱と言えば、少なく感じられるかもしれないが、これは戦闘系スキル覚醒者の六割と言う数字以上に驚異的なことだ。
希少スキルはどれも唯一無二なスキルであることが多く、その性能は特化した分野で言えば、汎用スキルの数倍以上の有用性を誇る。
そんなスキルが三十はこの国にあると言うのだ。
アスガルドではその特異性から完全に活かし切れないスキルもあった。
だが、せっかくならこの国ではそんなスキルを存分に活かしてもらいたい。
一先ず国が興るまでは職業選択の自由を与えてあげることは難しいが、その分、スキル所持者が最も活躍できる場所を俺は選び、采配しなければならない。
「ありがとうルミネ。……そうだな、まずは生活空間を整える必要がある。ロロ、ここでは食事はどうなるんだ?」
スキルの情報をルミネほどの精度ではないにしろ自分の中で消化しつつ、どこから国を作っていくかを考えるためにロロに衣食住のうち人間が生きるために最も重要な食事について質問してみる。
「……食事については、必要ありませんよ」
すると、未だにこちらをまっすぐ見るのが恥ずかしいのか少し俯きながらロロはそう答えた。
「必要ない? どういうことだ?」
「そのままの意味です。ここにいる民たちは皆、世界樹となってここへ取り込まれています。その時点で生物として食事を取る必要はありません。必要な栄養は世界樹より供給されています」
「……なるほど。そう言えば、ここに来てからもう大分時間が経つのに空腹の感覚がなかったのはそのせいか」
「はい。ですので、国造りとして一番先に始めるべきは衣食住の住。家を整えるところからでしょう」
確かに言われてみれば、木の根が幾重にも入り組みこの地面を形成している。
所々、木が伸びていたりはするが、恐らくあれらも世界樹なのだろう。
こんな土壌ではどんな種も苗も育たなそうだ。
食事の心配が要らないと言うのは、かなりラッキーかもしれない。
と、すれば、ロロの言う通り、一番先にやるべきは住居を建て、人々の生活空間を整えること。
じゃあ、まず呼ぶべきは……
「ルミネ。『造園監督』のスキル所持者と『資材化』のスキル所持者、それから『怪力』などの力に関係するスキルの所持者を連れてきてくれ」
「かしこまりました」
俺の指示を聞くや否や、すぐに階段を降り、仕事を始めるルミネ。
そうして俺は、ルミネを起こす前ぶりにロロと二人になった。
「……」
すると、プイッと顔を背け、まだ怒ってるぞアピールをしてくるロロ。
「ごめんよロロ。俺が少し調子に乗りすぎたね。もう今後は揶揄わないからさ。機嫌直してよ」
王の頭は軽くない。
そう簡単に下げて良いものではない。
だが、それはあくまで王として、民に振る舞う時に限った話であり、一人の人間として接する相手に対してはその限りではない。
父もよく、母にはぺこぺこと頭を下げていた。
父のように軽く下げるつもりもないが、ここは誠意を示すという意も込めて、改めてロロに謝った。
「……別に、怒っているわけでも機嫌が悪いわけでもありません。ただ、どうすれば良いか分からないだけで……本当に私が婚約者で良いのですか?」
すると、ロロは顔は背けたまま、だが、体はこちらに向けてそんなことを聞いてくる。
「当たり前だよロロ。俺はアスガルドでもかなりたくさんの人たちと関わって来た。まあ、あまり同世代と関わることはなかったけど、貴族家の子息子女とも少なからず関わっているし、政務先で同世代と話す機会がない訳じゃなかった。でも、ロロみたいに心が温かくて、熱くなる相手は初めてだったんだ。だから、キミが良いんだロロ」
この感情は俺の中でも消化し切れたわけではない。
だが、そんな中でも確かに今、俺の中にある気持ちを言葉にしてロロに伝える。
今度は揶揄い半分ではなく、真剣に。
「――っ! ほ、本当にアルトは……。……分かりました。あなたの想いは確かに伝わりました。改めて、よろしくお願いします。私の王アルト」
そんな真剣さは寸分の狂いもなくロロに届いてくれたようで、ようやくこちらを向いてくれたロロはこれまで見て来たどんな笑顔よりも眩しい笑顔でそう言って、そして――軽く、だが確かに俺の頬へキスをしてくれた。
「………………ハッ、ハハッ!」
俺から離れ、また少し俯くロロを見ていれば、俺の口からは自然と笑い声が漏れていた。
これは確かに、誰かに自慢したくなる。
今までは母との惚気話を無限に聞かせて来た父に辟易していたものだが、こうしてみると父の気持ちも分かる気がした。
「……笑うだなんて、失礼な方ですね。アルトは」
すると今度は本当に拗ねたような声でロロがぼやく。
どうやら俺の笑い声が自嘲ではなく、ロロに向けたものだと勘違いされてしまったらしい。
「違うよロロ。すごく、すごく嬉しくてさ」
だから、俺はそれを真っ向から否定しながら、ロロの手を取り――その甲へ唇を落とした。
「――っ!」
「ははっ、やっぱり、少し恥ずかしいけど幸せだよ。ねぇ、ロロ、これから作る家だけどさ、俺とロロの家は同じでもいいかな?」
「……わ、私はアルトのスキルですから、アルトが良いなら構いませんっ」
頬を染めながら早口気味にロロが言う。
ああ、幸せだ。
確かにアスガルドからここに来て、『世界樹の王』として魔獣ニーズヘッグを倒さなければ、世界樹が枯れ、アスガルドにもスキルが発現しなくなるなんて、ひっ迫した状況ではあるのだけれど。
それでも、俺はここに来れて、ロロに出会えてよかったと心の底から思っている。
そして、だからこそ、絶対に魔獣ニーズヘッグを倒さなければ、と言う意思も強くなっていく。
食事の心配が要らないのであれば、住居の次は戦闘の準備になるだろう。
ニーズヘッグ……一体どんな魔獣なんだろうか?
俺は今の幸せを噛み締めながら、この世界樹を侵しているという魔獣に思考を巡らせた。
◇◇◇
「アルト様、ご要望のスキル所持者を連れて参りました」
俺とロロが仲を深めてしばらくした頃、ルミネが俺の頼んだ人物たちを引き連れて戻って来た。
「ありがとうルミネ。……皆、いきなり呼びつけてしまいすまない。しかし、今イグドラシルが求めるのはまさに皆の力だ。その力、頼らせてもらうぞ」
「「「「はっ」」」」
集まった二十名ほどの国民が揃って返事をして膝を付く。
男女それぞれ偏りはなさそうだが、やはり皆同世代に見える。
おそらく全員二十代前後だろう。
服装は世界樹化した時点で統一化されるのか、男女差以外特に変わったところは見られなかった。
ただ、一人を除いて。
「ルミネ、『造園監督』のスキル所持者を紹介してくれ」
「はい。マチスさん、アルト様に自己紹介を」
「おう!」
俺がルミネに希少スキルである『造園監督』のスキル所持者の紹介を頼めば、マチスと呼ばれた、なぜか一人だけ頭にハチマキをしている、いかにもな男性が立ち上がった。
「お初にお目にかかるアルトサマ。俺はマチス。アスガルドではとある貴族様の下で一から領地を築いたりしてやした。俺をおよびっつうことは、街づくりから始めなさるんですかい?」
俺相手にも敬意こそ払えど、ペースは崩さないこの感じ。
政務でも何人かあったことがある。
こう言う人は大抵頼れる人のことが多い。
「ああ、マチス。どうやら世界樹のおかげで食事の必要はないみたいだからな。娯楽として、食料品の開発をするのはありかもしれないが、それはまだ先の話。まずは世界樹を侵す魔獣ニーズヘッグを倒さなければならない。食事の必要なくとも休息の取れる場所は必要だろう。よってまずは我や民の住まう住居を作る。あなたの力、頼らせてもらうぞ」
ざっと状況を説明しつつ、マチスに笑いかける。
「おうよ! ここは広くて色々なものの作り甲斐がありそうだ。存分に俺を使ってくれ」
すると、マチスもニカっとその人相の悪い顔を楽しそうにゆがめた。
「……ロロ、この辺りに自生している木は切って資材にしても良いんだよね?」
「はい。ニーズヘッグのように世界樹を枯らす毒炎を放つのでなければ、木々の利用は全く問題ありません。それにアルトは世界樹の王なのですから、私に確認を取る必要もないのですよ」
「そうか。よし、ではマチスは区画の計画を立てつつ、必要な資材の量をルミネに伝えておいてくれ。他の者は我について来い」
「おうよ、じゃあルミネの嬢ちゃん。悪いがちょっと付き合ってくれ」
「はい。かしこまりました」
こうして俺はルミネ、マチスとは分かれ、残りの『資材化』と『怪力』など力に関係したスキルの所持者を連れて、ドーム状の空間の突き当りになっている森の方に足を伸ばした。
「さて、ではこれから我が木々を切り倒していく。『資材化』のスキル所持者はそれに続き、その木を資材としてすぐに加工せよ。そして、加工された資材を『怪力』等のスキル所持者がマチスたちの元へ運んでくれ」
「「「はっ」」」
『資材化』のスキルはアスガルドにいた頃からよく見かけるスキルだった。
アスガルドが様々な資源に恵まれた国だったことも関係しているのだろうか?
火災や水害、風害、地震、雪崩など自然に囲まれているからこそ、自然災害は多いアスガルドだったが、その度にこの『資材化』のスキル所持者たちがすごく重宝した。
基本、自然に生えている木や採掘した鉱物、石材などは乾燥させたり、切ったり、割ったりと資材として扱うのに加工が必要だ。
どれも時間と人手のかかる加工で、災害復旧には基本的には年単位の時間がかかる。
だが、この『資材化』のスキルがあれば、例えば川の氾濫によって起こった倒木なども、その場で資材に変えてしまうことが出来る。
災害によって出た災害ゴミとも呼べる存在をそのまま捨てるのではなく、再利用することが出来たのだ。
実際に俺はこの『資材化』スキルの利用法を広めて街の復興を助けたこともあった。
だから、このスキルへの信頼は厚かった。
そんなことを考えながら、俺は一本目の木へと近づいて行く。
丸々と太い、年月を感じさせるような木がずっと先まで並び立っている。
俺たちが目を覚ました開けた空間とは違い、視界の先は暗く、閉ざされているが不思議と恐怖は感じなかった。
「そちらへ倒す。巻き込まれぬように注意せよ」
そして木の隣に立ってから、俺の背後で待つ民たちに声を掛けた。
「世界樹権能:斧形態」
次に『世界樹の王』を発動させ、その形を斧に変えた。
12歳の俺の膂力では到底切り倒せないであろう巨木。
だが、少しだけ離れたところでこちらを見守るロロへ視線を向ければ、その顔は「問題ありません」と告げている。
「よしっ!」
俺はその顔に確かな根拠を感じ、ゆっくりと斧を振り上げてから、全力で巨木へと振り払った。
最初に手が感じたのは、物理的な重さと刃の鋭さが樹皮を通っていく感覚。
普通ならば、この後すぐに刃が止められ、手に反動が返って来るのだが……この斧は違った。
最初に感じた刃の通っていく感覚のまま斧は進んで行き、気が付けば、俺は12歳どころか『怪力』系スキルの持ち主ですら、どうやっても一振りでは切り倒せない巨木を、その一振りで切断していた。
「――っ!? もう、倒れるぞ! 気を付けろ!」
俺自身、一振りで切り倒せるとは思っていなかったため、連れて来た民たちも焦るだろうと思い咄嗟に声を掛けるが、
「「「問題ありませんっ!」」」
返って来たのはそんな返事。
どうやら、『世界樹の王』を過小評価していたのは俺だけだったらしい。
やがて、地響きのような鈍い音が辺りに響き渡り、俺の切り倒した巨木が横を向いた。
するとすぐに『資材化』のスキル所持者がそれらを加工済みの木材のような形へと変え、『怪力』のスキル所持者が四人がかりで運んでいく。
「アルト様! 次もお願いします!」
なんて頼りになる国民たちだろうか。
俺はすっかりこの斧の切れ味の良さに驚いてしまっていると言うのに、それを傍から見せられていた彼らは、早く仕事を寄こせと言わんばかりに、俺に次を切り倒せと言ってくる。
「あい分かった! だが、くれぐれも倒木に巻き込まれぬようにだけ注意せよ!」
俺は彼らにそれだけ伝えると、次の木へと立ち位置を変え、斧を振るった。
チラチラとロロの方を気にしながらも、隣りに立って『思考処理加速』のスキルで整理した報告を始めてくれる。
「そんな中で国作りに有用と思われるスキルの持ち主は……」
「いや、待て。選別してくれたことはありがたいが、一度大方のスキルを頭に入れておきたい。ルミネはスキルの概要も聞いて来てはくれているのだろうが、スキルについての知識はアスガルドで王族として日々学んでいた俺の方があるだろう」
「……全て、で、よろしいのですか?」
驚愕と聞き間違いを疑うような声音で確認をしてくるルミネ。
「ああ、頼む」
だが、俺は構わずに頷いた。
『思考処理加速』のスキルがあるからこそ、俺の発言はより突拍子もなく聞こえたのだろう。
しかし、こう見えてスキルの扱いには定評があるのだ。
都度、ルミネを頼っていては対応力に欠けることもあるかもしれないし、ここに今どんなスキルがあって、アスガルドでは有用だったどのスキルがイグドラシルにないのか、それを改めて確認しておきたかったのだ。
「かしこまりました。まず……」
ルミネが全員分のスキルをなるべく分かりやすいように振り分けて列挙してくれる。
そこから分かったことは、父コントラスの世界樹化への考察はかなり真に迫ったものであったということだ。
イグドラシルの民353名+ルミネの354名中、戦闘系のスキル発現者はなんと驚異の六割弱。
母ラーノの『氷結の刃』ような戦闘系スキルの中でも、さらに希少なスキル覚醒者こそほとんどいなかったものの、属性武器スキルと呼ばれる騎士などに多く見られるスキルの所有者がかなり多かった。
アスガルドでは個人のスキルの特性に見合った職を王宮から推薦しているが、それを選ぶかどうかについてはスキルの所有者に任されている。
特に貴重な『念写』スキルの持ち主などはかなりの好条件をぶつけて囲い込むが、そうでない場合はある程度職業選択の自由が認められていたのだ。
だから、戦闘系スキルの覚醒者であっても、普段から戦闘を行うような職に就いていない者も多くいたのだろう。
もしかするとその自由によって器が成長せず、世界樹化することになってしまったのかもしれないが、これはもう今更どうすることもできない。
そして、次に多かったのが汎用スキルの括りでまとめられるスキルの持ち主たち。
これは戦闘系スキルの所持者を除いた残りの四割の内の六割程度に認められた。
汎用スキルは先日アスガルドにて俺が政務に赴いた街で利用した『浮力付与』や『固定の鎖』などのスキルのことだ。
用途が限られない、応用の利くスキルとして俺個人としては勉強のし甲斐があるスキルたちだと思っていた物。
アスガルドではこの汎用スキルに分類されるスキルの所持者が最も多いため、イグドラシルではこの程度の人数に落ち着いていることからも、父コントラスの世界樹化への考察の確実性の一つの根拠になるだろう。
そして、残りの一割弱の人たちはルミネの『思考処理加速』のような、いわゆる希少スキルと言われるスキルの覚醒者だった。
国民の一割弱と言えば、少なく感じられるかもしれないが、これは戦闘系スキル覚醒者の六割と言う数字以上に驚異的なことだ。
希少スキルはどれも唯一無二なスキルであることが多く、その性能は特化した分野で言えば、汎用スキルの数倍以上の有用性を誇る。
そんなスキルが三十はこの国にあると言うのだ。
アスガルドではその特異性から完全に活かし切れないスキルもあった。
だが、せっかくならこの国ではそんなスキルを存分に活かしてもらいたい。
一先ず国が興るまでは職業選択の自由を与えてあげることは難しいが、その分、スキル所持者が最も活躍できる場所を俺は選び、采配しなければならない。
「ありがとうルミネ。……そうだな、まずは生活空間を整える必要がある。ロロ、ここでは食事はどうなるんだ?」
スキルの情報をルミネほどの精度ではないにしろ自分の中で消化しつつ、どこから国を作っていくかを考えるためにロロに衣食住のうち人間が生きるために最も重要な食事について質問してみる。
「……食事については、必要ありませんよ」
すると、未だにこちらをまっすぐ見るのが恥ずかしいのか少し俯きながらロロはそう答えた。
「必要ない? どういうことだ?」
「そのままの意味です。ここにいる民たちは皆、世界樹となってここへ取り込まれています。その時点で生物として食事を取る必要はありません。必要な栄養は世界樹より供給されています」
「……なるほど。そう言えば、ここに来てからもう大分時間が経つのに空腹の感覚がなかったのはそのせいか」
「はい。ですので、国造りとして一番先に始めるべきは衣食住の住。家を整えるところからでしょう」
確かに言われてみれば、木の根が幾重にも入り組みこの地面を形成している。
所々、木が伸びていたりはするが、恐らくあれらも世界樹なのだろう。
こんな土壌ではどんな種も苗も育たなそうだ。
食事の心配が要らないと言うのは、かなりラッキーかもしれない。
と、すれば、ロロの言う通り、一番先にやるべきは住居を建て、人々の生活空間を整えること。
じゃあ、まず呼ぶべきは……
「ルミネ。『造園監督』のスキル所持者と『資材化』のスキル所持者、それから『怪力』などの力に関係するスキルの所持者を連れてきてくれ」
「かしこまりました」
俺の指示を聞くや否や、すぐに階段を降り、仕事を始めるルミネ。
そうして俺は、ルミネを起こす前ぶりにロロと二人になった。
「……」
すると、プイッと顔を背け、まだ怒ってるぞアピールをしてくるロロ。
「ごめんよロロ。俺が少し調子に乗りすぎたね。もう今後は揶揄わないからさ。機嫌直してよ」
王の頭は軽くない。
そう簡単に下げて良いものではない。
だが、それはあくまで王として、民に振る舞う時に限った話であり、一人の人間として接する相手に対してはその限りではない。
父もよく、母にはぺこぺこと頭を下げていた。
父のように軽く下げるつもりもないが、ここは誠意を示すという意も込めて、改めてロロに謝った。
「……別に、怒っているわけでも機嫌が悪いわけでもありません。ただ、どうすれば良いか分からないだけで……本当に私が婚約者で良いのですか?」
すると、ロロは顔は背けたまま、だが、体はこちらに向けてそんなことを聞いてくる。
「当たり前だよロロ。俺はアスガルドでもかなりたくさんの人たちと関わって来た。まあ、あまり同世代と関わることはなかったけど、貴族家の子息子女とも少なからず関わっているし、政務先で同世代と話す機会がない訳じゃなかった。でも、ロロみたいに心が温かくて、熱くなる相手は初めてだったんだ。だから、キミが良いんだロロ」
この感情は俺の中でも消化し切れたわけではない。
だが、そんな中でも確かに今、俺の中にある気持ちを言葉にしてロロに伝える。
今度は揶揄い半分ではなく、真剣に。
「――っ! ほ、本当にアルトは……。……分かりました。あなたの想いは確かに伝わりました。改めて、よろしくお願いします。私の王アルト」
そんな真剣さは寸分の狂いもなくロロに届いてくれたようで、ようやくこちらを向いてくれたロロはこれまで見て来たどんな笑顔よりも眩しい笑顔でそう言って、そして――軽く、だが確かに俺の頬へキスをしてくれた。
「………………ハッ、ハハッ!」
俺から離れ、また少し俯くロロを見ていれば、俺の口からは自然と笑い声が漏れていた。
これは確かに、誰かに自慢したくなる。
今までは母との惚気話を無限に聞かせて来た父に辟易していたものだが、こうしてみると父の気持ちも分かる気がした。
「……笑うだなんて、失礼な方ですね。アルトは」
すると今度は本当に拗ねたような声でロロがぼやく。
どうやら俺の笑い声が自嘲ではなく、ロロに向けたものだと勘違いされてしまったらしい。
「違うよロロ。すごく、すごく嬉しくてさ」
だから、俺はそれを真っ向から否定しながら、ロロの手を取り――その甲へ唇を落とした。
「――っ!」
「ははっ、やっぱり、少し恥ずかしいけど幸せだよ。ねぇ、ロロ、これから作る家だけどさ、俺とロロの家は同じでもいいかな?」
「……わ、私はアルトのスキルですから、アルトが良いなら構いませんっ」
頬を染めながら早口気味にロロが言う。
ああ、幸せだ。
確かにアスガルドからここに来て、『世界樹の王』として魔獣ニーズヘッグを倒さなければ、世界樹が枯れ、アスガルドにもスキルが発現しなくなるなんて、ひっ迫した状況ではあるのだけれど。
それでも、俺はここに来れて、ロロに出会えてよかったと心の底から思っている。
そして、だからこそ、絶対に魔獣ニーズヘッグを倒さなければ、と言う意思も強くなっていく。
食事の心配が要らないのであれば、住居の次は戦闘の準備になるだろう。
ニーズヘッグ……一体どんな魔獣なんだろうか?
俺は今の幸せを噛み締めながら、この世界樹を侵しているという魔獣に思考を巡らせた。
◇◇◇
「アルト様、ご要望のスキル所持者を連れて参りました」
俺とロロが仲を深めてしばらくした頃、ルミネが俺の頼んだ人物たちを引き連れて戻って来た。
「ありがとうルミネ。……皆、いきなり呼びつけてしまいすまない。しかし、今イグドラシルが求めるのはまさに皆の力だ。その力、頼らせてもらうぞ」
「「「「はっ」」」」
集まった二十名ほどの国民が揃って返事をして膝を付く。
男女それぞれ偏りはなさそうだが、やはり皆同世代に見える。
おそらく全員二十代前後だろう。
服装は世界樹化した時点で統一化されるのか、男女差以外特に変わったところは見られなかった。
ただ、一人を除いて。
「ルミネ、『造園監督』のスキル所持者を紹介してくれ」
「はい。マチスさん、アルト様に自己紹介を」
「おう!」
俺がルミネに希少スキルである『造園監督』のスキル所持者の紹介を頼めば、マチスと呼ばれた、なぜか一人だけ頭にハチマキをしている、いかにもな男性が立ち上がった。
「お初にお目にかかるアルトサマ。俺はマチス。アスガルドではとある貴族様の下で一から領地を築いたりしてやした。俺をおよびっつうことは、街づくりから始めなさるんですかい?」
俺相手にも敬意こそ払えど、ペースは崩さないこの感じ。
政務でも何人かあったことがある。
こう言う人は大抵頼れる人のことが多い。
「ああ、マチス。どうやら世界樹のおかげで食事の必要はないみたいだからな。娯楽として、食料品の開発をするのはありかもしれないが、それはまだ先の話。まずは世界樹を侵す魔獣ニーズヘッグを倒さなければならない。食事の必要なくとも休息の取れる場所は必要だろう。よってまずは我や民の住まう住居を作る。あなたの力、頼らせてもらうぞ」
ざっと状況を説明しつつ、マチスに笑いかける。
「おうよ! ここは広くて色々なものの作り甲斐がありそうだ。存分に俺を使ってくれ」
すると、マチスもニカっとその人相の悪い顔を楽しそうにゆがめた。
「……ロロ、この辺りに自生している木は切って資材にしても良いんだよね?」
「はい。ニーズヘッグのように世界樹を枯らす毒炎を放つのでなければ、木々の利用は全く問題ありません。それにアルトは世界樹の王なのですから、私に確認を取る必要もないのですよ」
「そうか。よし、ではマチスは区画の計画を立てつつ、必要な資材の量をルミネに伝えておいてくれ。他の者は我について来い」
「おうよ、じゃあルミネの嬢ちゃん。悪いがちょっと付き合ってくれ」
「はい。かしこまりました」
こうして俺はルミネ、マチスとは分かれ、残りの『資材化』と『怪力』など力に関係したスキルの所持者を連れて、ドーム状の空間の突き当りになっている森の方に足を伸ばした。
「さて、ではこれから我が木々を切り倒していく。『資材化』のスキル所持者はそれに続き、その木を資材としてすぐに加工せよ。そして、加工された資材を『怪力』等のスキル所持者がマチスたちの元へ運んでくれ」
「「「はっ」」」
『資材化』のスキルはアスガルドにいた頃からよく見かけるスキルだった。
アスガルドが様々な資源に恵まれた国だったことも関係しているのだろうか?
火災や水害、風害、地震、雪崩など自然に囲まれているからこそ、自然災害は多いアスガルドだったが、その度にこの『資材化』のスキル所持者たちがすごく重宝した。
基本、自然に生えている木や採掘した鉱物、石材などは乾燥させたり、切ったり、割ったりと資材として扱うのに加工が必要だ。
どれも時間と人手のかかる加工で、災害復旧には基本的には年単位の時間がかかる。
だが、この『資材化』のスキルがあれば、例えば川の氾濫によって起こった倒木なども、その場で資材に変えてしまうことが出来る。
災害によって出た災害ゴミとも呼べる存在をそのまま捨てるのではなく、再利用することが出来たのだ。
実際に俺はこの『資材化』スキルの利用法を広めて街の復興を助けたこともあった。
だから、このスキルへの信頼は厚かった。
そんなことを考えながら、俺は一本目の木へと近づいて行く。
丸々と太い、年月を感じさせるような木がずっと先まで並び立っている。
俺たちが目を覚ました開けた空間とは違い、視界の先は暗く、閉ざされているが不思議と恐怖は感じなかった。
「そちらへ倒す。巻き込まれぬように注意せよ」
そして木の隣に立ってから、俺の背後で待つ民たちに声を掛けた。
「世界樹権能:斧形態」
次に『世界樹の王』を発動させ、その形を斧に変えた。
12歳の俺の膂力では到底切り倒せないであろう巨木。
だが、少しだけ離れたところでこちらを見守るロロへ視線を向ければ、その顔は「問題ありません」と告げている。
「よしっ!」
俺はその顔に確かな根拠を感じ、ゆっくりと斧を振り上げてから、全力で巨木へと振り払った。
最初に手が感じたのは、物理的な重さと刃の鋭さが樹皮を通っていく感覚。
普通ならば、この後すぐに刃が止められ、手に反動が返って来るのだが……この斧は違った。
最初に感じた刃の通っていく感覚のまま斧は進んで行き、気が付けば、俺は12歳どころか『怪力』系スキルの持ち主ですら、どうやっても一振りでは切り倒せない巨木を、その一振りで切断していた。
「――っ!? もう、倒れるぞ! 気を付けろ!」
俺自身、一振りで切り倒せるとは思っていなかったため、連れて来た民たちも焦るだろうと思い咄嗟に声を掛けるが、
「「「問題ありませんっ!」」」
返って来たのはそんな返事。
どうやら、『世界樹の王』を過小評価していたのは俺だけだったらしい。
やがて、地響きのような鈍い音が辺りに響き渡り、俺の切り倒した巨木が横を向いた。
するとすぐに『資材化』のスキル所持者がそれらを加工済みの木材のような形へと変え、『怪力』のスキル所持者が四人がかりで運んでいく。
「アルト様! 次もお願いします!」
なんて頼りになる国民たちだろうか。
俺はすっかりこの斧の切れ味の良さに驚いてしまっていると言うのに、それを傍から見せられていた彼らは、早く仕事を寄こせと言わんばかりに、俺に次を切り倒せと言ってくる。
「あい分かった! だが、くれぐれも倒木に巻き込まれぬようにだけ注意せよ!」
俺は彼らにそれだけ伝えると、次の木へと立ち位置を変え、斧を振るった。


