第一皇子の俺、12歳の誕生日に世界樹として埋葬されました。〜どうやら俺が世界樹の王らしいので、内側から国を繁栄させようと思います〜

「……して、ルミネよ。あなたのスキルを教えてもらっても良いだろうか?」

 いくら俺がアスガルドでスキルの書に張り付いて、色々なスキルを読み込み覚えていたとは言え、さすがに誰がどのスキルを持っているかまでは把握していない。
 この広いだけの空間に一から国を興すとなれば、スキルの力無しにはなりえないだろう。

 そんな意を込めて、俺はルミネに質問した。

「はい。私のスキルは『思考処理加速』と言うスキルです」

 すると、ルミネからは簡潔にそんな言葉が返って来る。

「『思考処理加速』か……稀有なスキルだな。それもかなり重宝される」

『思考処理加速』このスキルは文字通り、一度にたくさんの情報を並列処理して理解、記憶することが出来るというスキル。
『念写』と同じように、このスキルの持ち主は王城にて取り立てられることが多く、父コントラスの側近であり直属の従者だった人もこのスキルを持って父のサポートに当たっていた。

 つまり、秘書に置くのに最適なスキルと言う訳だ。

 ……ああ、なるほど。
 そこまで分析したところで、俺はようやく先ほど感じた違和感に納得がいった。
 目を覚ましてからのルミネの落ち着き用には違和感を覚えていたが、このスキルが再び動き出したことにより、状況を理解し、すぐに適応してきたということだったのだろう。

「お褒めに預かり光栄です」

 恭しく頭を下げて見せるルミネ。
 ふむ、『思考処理加速』のもたらす冷静さや落ち着き様と言うものの、すごさはこれだけで十分に理解できた。

「よし、ルミネ。あなたにはこれから起こすこの国にて、俺の秘書を務めてもらいたい。頼めるか?」

 そうと分かれば、すぐに登用だ。
 現状、この世界樹の国(予定地)にいるのは俺とロロ、そしてルミネのみ。
 これから俺はルミネ以外の多くの人を起こすつもりでいるが、その際のスキルの確認や情報処理などをルミネになら、一任できる。

 スキルの書と言う便利なものがない代わりに、ルミネにスキルの管理を任せる以上、他の者とは違う立場に置くべきだろうし、これが最善だろう。

「かしこまりました。アルト様の下で、この力を存分に発揮させていただきたいと思います」

 母親の様子から察するに、きっと普通の町娘だったであろうルミネだが、そのスキルやおそらく生まれ持っての素質もあるのだろう。
 まだ任命しただけだと言うのに、どういう訳か秘書としての風格が出てきている。

「頼むぞ。俺はこれからルミネにしたのと同じように、他の者たちを起こしていく。ルミネは起きた者への状況説明とスキルの聴取を行ってくれ。現状ここには他の勢力は見られないし、全員を起こしたとしても精々数百人規模だろう。だが、それでもスキルの取り扱いには細心の注意を払いたい」

「はい。お任せください、アルト様」

 メモなどの書くものやその他記録する媒体を求めない辺り、彼女自身にもそのスキルと自身の能力に並々ならぬ自信があるのだろう。
 こう言う者は大歓迎だ。

「よし、ロロ。ルミネの前にここへ来た人の所に案内してもらえる? その方が状況を飲み込みやすいと思うんだ」

「分かりました。次の方はこちらです」

 そうして、俺とロロ、ルミネは次々に木の棺に眠る、アスガルドにて世界樹化してしまった人々を起こしていった。

 ◇◇◇

 休む間もなく人々を起こし続けて、もうどのくらいが経っただろうか?
 中には取り乱す者、泣き崩れる者など、色々な人がいた。
 だが、そう言った人たちにはロロとルミネが丁寧に対応してくれ、何とか総勢354名、俺を含めて355名の人がこの世界樹の国で目を覚ました。
 355名と聞くと、少ないと感じてしまうのはアスガルドの国力のおかげだろうが、こうして俺が目を覚ました部屋の前にある階段から見下ろしてみれば、かなりの数に見えた。
 

 世界樹化については未だによく解明されていない部分も多くあったが、こうして全員を起こしてみると若い人が大半だった。

「ロロ、若い人が多いのには何か理由があるの?」

 俺はルミネが全員を整列させてくれている間にロロに聞いてみた。

「それはおそらく、スキルの成長によるものだと思います。人の身に宿ったスキルはその心身の成長に応じて力を高めて行きます。その段階でスキルの大きさが器を超えてしまった場合、眠り、アルトの言う世界樹化を引き起こすのです」

「なるほど……スキルも成長するんだね。でも器は大きくならないの?」

「器も拡大することは可能です。ですが、それにはスキルを日常的に、そして頻繁に使っていないと中々起こり得ません。例えばルミネにしてみれば、いくらスキルが発動しようと日常では思考を加速させて処理する必要があるほどの情報に触れる機会は少ないでしょう。彼女の世界樹化はそんな原因があって引き起こされた可能性が高いと思います」

 そうか……確かに戦闘系スキルの発現者は特に世界樹化の比率が高いと言うのが、父の世界樹化についての考察だったはず。
 戦争で大戦功をあげるほどにスキルを使った母は、そこで器が成長したおかげで世界樹化しなかったのかもしれない。

「ありがとうロロ。この話はいつかアスガルドに戻った時にも役立ちそうだ」

「いえ、私はアルトのスキル、この知識も全てアルトのものなのですから。ですが、力になれたのなら何よりです」

 フワッとはにかむロロはどこか神秘的で儚げだ。
 ロロは世界樹の精霊にして、王女と言っていたはずだが、王女だと言うからには他の家族もいるのだろうか?
 と、俺がそう思って質問しようとした時、ルミネが俺の立つ階段を上って報告をあげてくれた。

「アルト様。353名への事情説明及びにスキルの聴取完了いたしました」

「そうか。では、次は俺の番だな」

 物事には順序がある。
 ロロへの質問はいつでも出来るだろうが、ここに目覚めた人たちの中には恐らく俺が生まれるよりも前にここへ来た人だっているはずだ。
 そう言う人にも俺を知って、付いてきてもらわなければならない。

 そのための示しを付けておく必要がある。

 まあ、全員がスキルをルミネに教えてくれたところを見れば、全員ある程度は状況を飲み込んでくれているのだろうけど、それでも、王族と言うのはその立ち居振る舞いから民に王族たるところを見せなければならない。

 階段の段差ギリギリのところまで進み出て、階下に並ぶ353名に俺の顔が見えるようにする。
 世界樹権能:指揮形態(ユグドラシル:モードタクト)を使って声を届けることも考えたが、やはり第一印象は大切だ。
 それに、俺自身としても最初は自分の声で話を聞いてもらいたい。

 一度下からは分からないように深呼吸をする。
 これからは父の政務の手伝いではない。
 俺が王として国を作り上げ、民を、仲間を率いて魔獣を倒さねばならない。

 まだまだここについても理解できていないことばかりだが、だからと言って泣き言を言っているわけにはいかない。
 大丈夫。
 俺はアルト・アンドレアル。
 誇り高きアスガルド王国の第一皇子にして、アンドレアル王家の血を引くもの。
 
 アスガルドに居たって、後十数年もすれば、父から王位を譲られていたはずだ。
 それが少し早くなっただけだと思えば、いくらか肩の荷が軽くなった気がする。

 さて、見せるとしようか。

「民よ! アスガルドより世界樹となり、そして再び我が呼びかけに応じて目を覚ました民の皆よ! 我はアスガルド王国、アンドレアル王家第一皇子であるアルト・アンドレアルだ!」
 
 ざわついていた民の視線が一気に俺へと集中する。
 だが、この程度では気圧されない。

「我が秘書ルミネより説明もあっただろうが、ここはアスガルドではない。だが、アスガルドと全く別の場所と言う訳でもない。それは世界樹となった皆も感じていることだろう。ここはアスガルドよりさらに世界樹に近い、いや、世界樹の本体とも言える場所である。そんなここが今、暴虐たる魔獣ニーズヘッグの被害に遭い、深刻な状況に陥っている」

 目を覚ました瞬間に、こんなことを言われれば混乱は必須だろう。
 だが、一度説明してあったおかげか、ここで取り乱す者は現れなかった。

「そこで、世界樹より救援を求められ、応じ参じたのが我、アルト・アンドレアルである。しかし、魔獣の脅威は強大、そんな相手を我一人で駆逐するのは、恥ずかしながら難しい」

 王族は民に弱さを見せるべきではない。
 だが、時にはそんな慣例より、正直なところ、素直な感情を表現する方が効果的なこともあるのだ。
 そして、俺は今こそその時であると思っている。

「そんな時、世界樹の精霊にして王女であり、我がスキルでもあるロロより聞かされたのが、皆のことだった。一人の力では成しえなくとも、信を置き合った仲間を頼れば、きっと大成するであろうと、世界樹の王女ロロは言った」

 隣に進み出たロロを軽く紹介しながら、俺は続ける。

「だから、だからどうか、我に力を、皆の力を貸してほしい! 我と共に魔獣ニーズヘッグを討伐し、世界樹を、そして、アスガルドを救って欲しいのだ」

 頭は下げない。
 王の頭はそう易々と下げて良いほど、軽いものではない。
 だが、それとは別に誠意は見せる。
 どれだけ俺が世界樹を、アスガルドを救いたいと思っているか、皆の力を必要としているかを示すために。

世界樹権能:剣形態(ユグドラシル:モードソード)

 右手の中に権威を象徴するような剣を出現させる。
 そして俺はそれを掲げた。

「我についてきてくれると言う者、我が力になってくれる者は(とき)の声を上げよ。我に続け! 『世界樹万歳! アスガルド万歳!』」

 高く掲げた剣の元、俺は大きく声を上げた。
 すると、しばらくの沈黙が辺りを包む。

 一瞬、俺の心の中に失敗の二文字が過った。
 だが――

「「「「世界樹万歳! アスガルド万歳! アルト様万歳!!!」」」」

 すぐにそんな思考は振り払われる。
 割れんばかりの大声援。
 それぞれがそれぞれを高めあう、正しく鬨の声が世界樹のドームのような空間に木霊した。

 そんな声は沈黙の時間以上に続き、中々収まることを知らない。
 どうやら、俺の演説は想像以上に民の心に届いたようだ。

 しかし、これで終わりではない。

世界樹権能:指揮形態(ユグドラシル:モードタクト)

 俺は掲げた剣を今一度指揮の杖へと変化させる。
 そして、この声の中でも間違いなく俺の声を届けるために、その杖を振るった。

「(民よ、今一度静まり、顔を上げよ)」

 俺の声は杖を伝って全354名の脳内へと直接届けられる。
 すると、すぐに鬨の声は止み、再びこちらへと皆の視線が返って来た。

 先ほどとは違い、確かな熱量の籠った視線。
 戸惑いや迷い、不安の感情ではなく、やる気と期待に満ちた目線がこちらへ向けられている。

 そんな目線に対して、俺は『世界樹の王』の発動を止め、手ぶらになった状態で軽く手を広げながら、宣言する。

「今よりここに、世界樹の国イグドラシルの建国を宣言する! アスガルドよりもさらに世界樹に近いこの地で、アスガルドを、世界を救おうではないか!!」

 建国宣言。
 新たな地で新たなことを為すための、拠点の名を叫ぶ。
 すると、今度は一瞬の沈黙もなく、民の声が返って来る。

「「「「おおおおおおおお!!!! イグドラシル万歳! イグドラシル万歳!!」」」」

 隣を見れば、ロロが嬉しそうに微笑んでいた。
 そしてその少し後ろでは、ルミネが恭しくこちらへ膝を付いて見せている。

「素晴らしい演説でしたよアルト。さすがは『世界樹の王』に選ばれた、と言ったところですかね」

 皆で揃って万歳三唱をしている民たちを横目に見ていれば、ロロが真っすぐにこちらを向いて言う。

「それを言うなら、俺はロロに選ばれたんじゃないの?」

 それがなぜだか少し照れくさくて、照れ隠しにそんなことを言ってみれば、

「ふふっ、そうかもしれません。でも、私は確信しています。『世界樹の王』が、私の王があなたで良かったと。どうぞ、これからもよろしくお願いしますアルト」

 さらに真っすぐな言葉で肯定されてしまった。

 そんな真っすぐさを向けられてしまえば、これ以上俺が恥ずかしがる方が恥ずかしい。
 そう思い、俺はこちらに差し出されたロロの手を取る。

「ああ、こちらこそ頼りにしてる。よろしく頼むよロロ」

 お互いに真っすぐ見つめ合って固く握手を交わす。
 
 世界樹の王である俺と世界樹の王女であるロロ。

 そんな俺たちの姿を見てだろうか?
 階下では、民たちがこれ以上ないほどの盛り上がりを見せていた。

「……民の皆様も頼りになりそうですね」

「そうだね。これだけの元気があれば、きっと必ず、ニーズヘッグを打ち倒せるよ」

「はい。ですが、そのためにはまず……」

「うん、分かってる。魔獣の討伐には準備が必要だ。ルミネ」

 ロロと握手をしたまま、俺はルミネを呼んだ。

「はっ」

 すぐに膝を付いていた状態から立ち上がり、スッとこちらへ移動してくるルミネ。
 
「まずは生活の拠点を整える必要がある。役に立ちそうなスキルを持っている者のことを教えてくれ。あ、それからロロ」

「何でしょう?」

 ルミネに指示を出しながら、俺は聞き忘れていたことを思いだす。

「俺が世界樹の王でロロが世界樹の王女なら、俺たちは婚約者ってことで良いのかな?」

「……こっ!? 婚約者!?」

 先ほど照れさせられた仕返しも兼ねて、真面目なフリをしてそんなことを聞いてみれば、予想外に照れた反応を見せてくれるロロ。

「どうなの?」

「……あ、アルトが私で良いと、言ってくれるのならば」

「そっか! じゃあ、これからは婚約者としても、宜しくねロロ」

「っうぅ……どうして、どうしてアルトはそんなに普通にしていられるのですか!」

 どこか神秘的なロロの新緑の髪が揺れる。

「ハハッ! 惚れた女性にはその感情は隠さない方が良いんだって、父上の教えだよ」

 正直なところ、惚れた腫れたという感情がしっかりと理解できているわけではない。
 でも、ロロには父上や母上、テナーやカイに感じるものとはまた別の感情を覚えている。
 すごく温かくて、それでいてどこか熱すぎるような、そんな感情。
 きっとこれは惚れていると、言ってもいいのではないだろうか?

「あ、あの、アルト様……スキルの方は少し後の方がよろしいでしょうか?」

 なんて、一人で考えに浸っていれば、直前に呼びつけられたルミネが、珍しく焦ったような声で遠慮気味に聞いてきた。

「……いや、ごめん。すぐに聞かせて」

「ですが……」
 
 ルミネの視線は俺の足元でうずくまるロロに注がれる。
 ……ちょっと悪いことをしてしまったかもしれない。

「……大丈夫、きっとすぐに持ち直す。だからルミネ報告を頼む」

「……はっ」

 こうして、イグドラシル建国に向けた第一歩を俺たちは踏み出した。