君が覚えていなくても

 それから一週間。
 毎朝ノートを読んで、毎朝和哉と会って、毎日少しずつ、何かが積み重なっていくような気がした。

「なあ、梨紗」
 ある日の昼休み、和哉が真剣な顔で言った。
「梨紗は、俺と一緒にいて楽しい?」
「......うん」
「嘘ついてない?」
「嘘じゃない。今、この瞬間は、楽しいと思ってる」
「そっか」

 和哉は安心したように微笑んだ。
「ならいいんだ。梨紗の『今』が幸せなら、それでいい」
その言葉に、胸が熱くなった。
「......和哉は、私と一緒にいて疲れない?」
「疲れないよ」
「どうして?」
「だって、梨紗が笑ってくれるから」

 彼は真っ直ぐに私を見つめた。
「梨紗の笑顔、すごく綺麗なんだ。毎朝見られるだけで幸せだよ」
涙が溢れそうになった。でも、泣いちゃいけない。明日になったら、この感情も忘れてしまうから。
「......ありがとう」
 それだけ言うのが精一杯だった。
 その日の夕方、また公園のベンチで。
「梨紗、返事聞かせてくれる?」
 和哉が優しく問いかけた。

「......いいよ」
「何が?」
「和哉と、付き合う」
 彼の顔がぱっと明るくなった。
「本当に?」
「うん。でも、明日になったらーー」
「分かってる。また一から始めるだけだろ」
 和哉は私の手を握った。温かかった。
「毎朝、梨紗に恋をする。それが俺の日課になるだけだ」
 その夜、ノートに書いた。
『今日、和哉と付き合うことになった。嬉しい。でも不安。明日の私は、この幸せを覚えていない』