冬が訪れた。
 症状はさらに進行し、今では一日に五回、六回とリセットが起きるようになった。医師からは、入院を勧められた。

「もう学校生活は難しいかもしれませんね」
 その言葉が、胸に重く沈んだ。
「......和哉と、離れなきゃいけないの?」
「治療に専念した方がいいでしょう」

 でも、和哉は違った。
「梨紗が入院しても、毎日会いに行くよ」
「......迷惑じゃない?」
「迷惑なわけないだろ」
 彼は優しく微笑んだ。
「梨紗に会えるなら、どこへでも行く」
 その言葉に、涙が溢れた。

 入院の日。
 病室で、和哉が言った。
「梨紗、これ」
 渡されたのは、小さなぬいぐるみだった。
「これは?」
「俺の代わり。梨紗が忘れても、これを見れば、誰かが梨紗のこと大切に思ってるって分かるから」
 ぬいぐるみを抱きしめる。柔らかくて、温かかった。
「......ありがとう」

 それから毎日、和哉は病院に来てくれた。
 私がリセットするたび、彼は名乗り直し、また一から話しかけてくれた。

「俺、桐島和哉。梨紗の彼氏」
「......よろしく」
「こちらこそ」
 そんな繰り返しが、嫌じゃなかった。むしろ、和哉と会うたび、胸が温かくなった。

 ある日、医師が言った。
「不思議ですね。梨紗さん、症状の進行が止まっています」
「......本当?」
「ええ。何か、心に変化があったのかもしれません」
 その言葉を聞いて、私は思った。和哉だ。和哉が、私の心に何かを残してくれている。
忘れても、忘れても、彼の存在だけは——どこかに刻まれている。