君に伝えたい三つのこと

 十二月一日。将成が教室に帰って来た。
 今回は随分と長い休みだったなと思う。入院中、何度かお見舞いに行こうかと迷ったけれど、あんな姿を見てしまったらいったいどんな顔をして会えばいいのか分からず、結局行けず仕舞いだった。
 それに……と、後ろの席の将成を確認する。
 将成はなんだか元気がなさそうだった。いつもの自信に満ち溢れた彼はどこかへと行ってしまったようで、僕は少しだけ寂しく思った。

(……少し、痩せたな)

 入院をしていたのだ。当たり前だ。けれど彼の痩せ方はやはり病気の所為であることは目に見えて明白だった。
 僕は彼のことが気になっていたけれど、今僕が将成に関わると、彼に負担を掛けてしまうかもしれない。そう思うとなかなか話を切り出せずにいた。

 冬休みが始まるまでの約二週間。
 僕は――
 一度も将成と話すことがなかった。

 僕はこの時、心のどこかで安心してしまったんだ。
 彼のいない空間に、以前の僕に、戻れてしまったことに。


 そうして冬休みが始まる。
 終業式、あとは帰宅するのみとなった僕に将成が声を掛けた。

「……海音、このあと少しだけ時間、いいかな」

 少しよそよそしい彼の表情は柔らかく悲しげで、まるで何かを覚悟しているみたいだった。揺るがない彼の目に、僕は「いいよ」と将成の誘いを受け入れた。
 帰り道、将成がその重たい口を開いた。

「ごめんな。今回、長引いて」
「いや……体、もういいの」
「ああ。もう、大丈夫だ」
「そっか。それは、よかったよ」

 僕は……将成の目を、見ることができなかった。

「……なあ、海音」
「……なに」

 怖い。彼の、続ける言葉を聞くことが。

「今までありがとう」

 何を言われているのか、理解ができなかった。

「俺と、友達(・・)になってくれて」

 やめてよ。らしくないだろ。

恋人(・・)に、なってくれて」

 だから、そんな言い方するなよ。

「……だから、これで(・・・)終わりに(・・・・)しよう(・・・)、海音」

 その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になる。僕の心がぐしゃぐしゃに壊れるのに時間は()らなかった。
 冷たい風が僕たちの間をすり抜けていく。風と共に僕の血の気が引いていく。

「終わり……って、なに」

 聞くまでもないことくらい僕は分かっていたけれど、それでも聞かないわけにはいかなかった。

「……そのままの意味だよ。……俺はもう、海音とは会わないようにする」
「どうして」
「前から決めていたことだから」

 理由を、はっきりとは教えてはくれない将成に僕は失望した。
 僕の道標だった将成。いつも自信に満ち溢れていた将成。
 そんな彼が今は生きる道(・・・・)を作ろうともしないことに、僕は、失望したのだ。
 答えをはぐらかされたことはすぐに理解できた。

(そうじゃない……)

 そうじゃないことは分かっていたのに。
 裏切られた。そう思ってしまった。

「……じゃあな、海音。本当にありがとう」

 将成は僕のことを抱き締めた。
 その温もりは吐き気がするほどに優しかった。

 冷たい風が再び吹く。
 僕の体から彼の腕が離れていく。
 僕の体は力を失い地面に崩れる。

「……、ざけんな……」

 僕は目の前を歩いていく将成に訴える。()で彼の姿が見えなくなる。

「勝手に、いなくなるな……っ」

 訴える。訴える。声が枯れるまで。僕は彼に訴える。

「勝手に好きにさせておいて、自分だけ逃げるなよ!」

 心が張り裂けるように痛い。苦しいのは空気が冷たいせいなのか。

「――将成ぃ‼」

 僕の声が彼に届くことは、なかった。

 雨が雪に変わる。雪は僕の視界を白くした。
 その雨が()だと気付いたのは、雪がしんしんと降り始めた時だった。