君に伝えたい三つのこと

 文化祭二日目。この日、将成は来なかった。
 昨日の健さんとの一件があったし、発作の件もある。僕は来て欲しかったけれど、それよりも彼の体調面が心配だったので、来なくて正解だったと思う。

 さて。
 本来なら将成と回る予定であった各クラスの催しだが、ひとりで行くのも味気ない。仕方がないので図書室にでも行って本でも読もう。
 きっと、図書室でもなにかしらのイベント企画は行われているはずだからと期待を膨らませながら、僕は教室を出た――瞬間、僕は誰かに手を引かれて、勢いよく廊下に出た。

「えっ、さ、佐央里さん……⁉」

 僕の手を引いていたのは佐央里さんだった。
 佐央里さんは「黙って着いてきて」と僕を目の圧で脅した。抵抗するのも怖いので、ここはとりあえず大人しく彼女に引かれていようと思う。


 数分してたどり着いたのは外部からの食品物販のコーナーだった。

「……えと、なにこれ……」

「一緒に並んでちょうだい」と、そう言って佐央里さんが指を指す。
 その指された先にあったのは『おばさん食堂・バナナジュース、男女で買うと貰えるハートグマン!』という、なんともカップル受けしそうな、バナナの皮を被ったクマがハートを抱いているマスコットキーホルダーのポスターがあった。

「……佐央里さん、ああいうの、好きなの?」
「うっさい。黙って並んで」

 否定をしないところを見ると、多分好きなのだと思う。
 彼女には男子友達が将成と僕以外いないし(と思う)、今日は将成が学校にいないから仕方なく僕を指名してあのマスコットを獲得しようと狙っているのか。
 素直になれない佐央里さんは、どことなく将成に似ていて、可愛いと思った。
 ニヤついていると、佐央里さんが口をむぅっと膨らませ「なにニヤついてるのよぉ」と怒った。

「ごめんごめん。……ちょうど、喉乾いてたんだ」
「そ、そう? なら偶然ね。私もちょうど喉が乾いてたのよ」

 口ではそう言いつつも目線はポスターの『ハートグマン』に吸い寄せられていた。

「……奢ろうか?」
「え……! いいの⁉」

 佐央里さんはまるで美魚のようなキラキラとした目をして僕を見た、けれどその相手が僕だと気付くとハッとして「べ、別にいい!」とそっぽを向いてしまった。
 これが、ツンデレ……というやつだろうか。
 そうこう言っているうちに、僕たちの順番はもう次に迫っていた。

「いいよ。お礼、まだしてなかったし。僕が払うよ」
「お礼……?」
「台本の訂正。まさな、天川くん(・・・・)のことを考えて直してくれただろ?」
「あれは……何も知らないとはいえ不謹慎な話だと思ったから……」
「うん。でもおかげで助かった。だからお礼」

 僕はふたり分の特典付きジュースを買い、佐央里さんの目的であった(であろう)『ハートグマン』のマスコットキーホルダーを手渡す。
 彼女は小さく「……ありがとう」と言ってくれた。
 僕は思わず美魚にする感じで「どういたしまして」と彼女の頭を撫でた。彼女はまんざらでもない様子で僕の手を受け入れたが、気付くと顔を赤くしてすぐにどこかへと消えてしまった。

 いつもなら、ひとりで回る文化祭だった。
 将成と出会ってから、ひとと関わることが多くなった。
 いい部分もあれば、悪い部分もあるけれど、それでもこの出会いは彼がもたらしてくれた。

(ひとと回るのって、案外悪くないんだな……)

 なんて思いながら、僕はバナナジュースをひとくち飲んだ。