準透明人間の僕ら

 あれから、杉原くんのことを避けてしまっている。まず、授業をサボることをやめた。そうすると、圧倒的に会う時が減る。そして、遠くで見かけたら、すぐにその場から離れた。その成果で一週間ほど会っていない。

いつまで避け続けるのだろう、と考えていたころだった。

誰も下りない人気のない浜辺へと向かった。意味などなかった。だけど、ただひとりになりたかった。

なのに。どうしてここにいるんだ。

「・・・なんで」

届かないと思った声が、風に運ばれて君へと届いてしまう。

砂浜に座り込んでいる杉原くんは、ゆっくりと振り向く。

「独りになりたくて。相馬さんこそ、どうしたの?」

「なんで、そんな風になるまで笑えるの」

私の質問に答えた杉原くんの笑顔は、今にも壊れてしまいそうなほどの儚さがあった。

「どうしてだろうね。」

ねぇ、そんな顔しないでよ。

「私は、別に不満があるわけじゃなかった」

たぶん、今言わなきゃ一生言えない。なら、腹をくくってやる。そう思って、杉原くんの隣に座る。

「親だって愛してくれてたし、友達だって大切にしてくれてた」

ちらっと横に座る杉原くんの顔を見ると、目を見開いて固まっている。私が話すとは思ってなかったんだろう。

「だけど、ふとね。消えたくなる。死にたいんじゃない。消えたい。みんなの中から消えて、どうでもいい存在になりたかった。だから、いつ死んでもいいって過ごしてきた」

「・・・死にたいわけじゃないけど、消えたかったってこと?」

「まあ、そういうことかも」

自分のことは自分が一番理解しているとかいうけど、一番自分をわかっていないのは自分だと私は思う。自分のことなんて、言葉にしてやっと解った。

「ねぇ、言葉を紡ごうとして口にするんじゃない。思ったことをそのまま口にする。そしたら、言えると思うよ」

私は彼の目を見ずに、ずっとさきまで続いている海を見て言う。

「・・・誰も俺を見ない。見ているのは『杉原✕✕』という存在を見てるんだ。杉原くんはよく笑うよね。杉原くんって優しいよね。よく言われるけど、そう思われるように動いているからで。優しくない俺だったら、みんないらないとか思う。だから、なんでもできて完璧な『杉原✕✕』でいるけど、もう疲れた」

だから、消えたい。と

「だから、消えたいの?」

「ああ、俺の存在なんてどこにでもいるだろうし。別にいなくなったところで別に誰も困らない」

「まあ、そうだろうね」

「・・・そこは否定するところじゃない?」

「否定してほしいの?」

「いや、そっちの方が相馬さんらしい」

いつもの私の知る杉原くんになった。

「これは私の主観だけど。こっちから捨てちゃえば」

「え?」

「自分のことを見ない奴らなんて。自分から捨てちゃえ。こっちから願い下げだって、ね」

私は、立ち上がり横で座り込んでいる杉原くんに笑う。

「私は、杉原くんが消えるのは惜しいと思うよ」

君は、こんな言葉を望んでいないだろう。

それでも私は言わなきゃならない。

君に嫌われようと。どう思われようと。そんなもの、どうでもよかった。

「自分のことを見てこないやつなんかのせいで、消えるなんてクソじゃん」

これから言うことは、君を傷つける言葉になるかもしれない。

だけど、私は杉原くんに対してだけは後悔してはならないと。

「本当に自分を受け入れてくれる人に出逢えるきっかけになるよ」

隣に座る杉原くんは、傷ついた顔をし唇を嚙んでいる。

「相馬に何がわかるんだ!!」

もっと、怒って。傷ついて。

私なんかが消えても、よかったって思えるぐらいに。

罪悪感なんてものがなくなるように。

「期待も何もされたことないくせに!不満があるわけじゃないくせに!俺の気持ちなんてわかるわけないだろうッ」

バッと立ち上がり、私の顔を見ることなく駅へと歩き出す。

浜辺には、波の打ち寄せる音だけが響く。

ずるッと座り込む。

「はは、これで杉原くんは傷つかないし、私のやっと消えれるっ!」

願いが叶うというのに。

どうして、どうして、こんなにも涙がとまらないのだろう。

「ああ、うっ、ふうっ」

誰もいないのをいいことに、思いっきり泣いてみる。

嗚咽だけが響いていて、またひとりだ。

しばらく、涙が止まることはなかった。