準透明人間の僕ら

 「今日はどうしたの?」

授業を聞いてもおもしろくなくなったから、杉原くんと話そうとまた来てしまった。

「暇になったから、話し相手になってよ」

「いいけどさー、あ!」

ニヤリと運動場で競争したあの日と同じ顔をし、私の口角が引きつった。

「今度は何?」

「今日は風もあるし、ちょうどいいと思ってね」

「いや、だから何するの?」

「どっちが紙飛行機を遠くまで飛ばせるか」

「・・・やっぱり子供だ」

「まえと同じようなことを言わないで。ほら、いらない紙がここに二つあるし」

そう渡されたのは、先日渡された修学旅行のお知らせの手紙だった。

しかも、子供用と、親用の二枚だ。

「・・・杉原くんもこんなガキみたいなことするんだ」

「まあまあ、口を動かす前に飛行機を作って」

ため息をつき、手紙を紙飛行機へと折っていく。

「久しぶりだったなぁ。でも、結構出来はいいよ」

そう笑って紙飛行機を見せてくる。それは綺麗に折られていて、彼の器用さが垣間見える。

サッと自分の紙飛行機を背中の後ろに隠す。

「隠したね。見せて!」

パッと手の中にあったはずの紙飛行機が消える。

いつのまにか後ろに回っていた杉原くんに取られたらしい。

「・・・ふっ」

「笑ったね・・・」

知ってますよ。私が手先が器用ではないことぐらい。

「まあ、飛んだらいいから。・・・っふ」

最後に笑ったらフォローになってない。どちらかというと、いじられている気もする。

「じゃあ、せーので飛ばすよ」

「・・・せーの!!!」

杉原くんの手から放たれた紙飛行機は、風に乗って高く高く昇っていく。

「すごい」

「ふっ、そ、そうだね」

杉原くんはまた笑い出した。

その理由はわかっている。

「笑わなくてもいいでしょ」

「いやっ、だって。飛んだ瞬間上に行くんじゃなくて真下に落ちていったから」

ずっと笑っている杉原くんを睨みつけ、この前のことを思い出す。

「今回は私が負けたから、何すればいい?」

「ん?今回は別にいらないよ。ただ飛ばしたかっただけだし」

そう笑って、飛んで行った紙飛行機を見つめる。

だけど、紙飛行機はずっと飛んでることはできなくて。

落ちてしまった。

彼は「これでも長い方だったね」と笑っていた。

楽しい時がずっと続いていくわけがないのだ。

杉原くんの紙飛行機のように、最後には終わる。

それを忘れてしまっていた。




紙飛行機を飛ばしてからは、たまに杉原くんに勉強を教えてもらい、成績がぐんと上がった。そんな日々が続いて、木の色も赤や黄に色づいてきた頃。

「こんにちは。お兄ちゃんたちに言わなきゃいけないことがあるんだ」

そう声をかけてきたのは、白い髪に白いワンピースを着た美少年だった。

その日も杉原君に勉強を教えてもらうために、図書室に来ていた。

「何?」

私は内心びびっているのを悟られまいと睨みつける。

「お姉ちゃんたちは今、透明人間と人間の狭間にいるんだ。で、残り一か月でどちらが透明人間になるのか。決めてもらうよ」

「透明人間になるってどういうこと?」

杉原くんが、眉間にしわを寄せながら険しい声で問いかけた。

「そのままの意味だよ。誰にも認知されなくなる」

「それって、消えるってこと?」

美少年が言うには私たちはまだ完璧に透明化しているわけでないらしく、透明化すると誰からも忘れられて存在も認識されなくなることだそうだ。

「それは死と何が違うの?」

消えてなくなるのなら、死ぬのと何が違うのだろう。

「そうだね。しいていうなら、痛みとか何もない。ただ、忘れ去られていく存在だよ」

なんと魅力的な誘いだろう。喜んで透明人間になってもいいと心から思った。

だけど、その喜びをすぐに打ち消すことになる。

「じゃあ、俺が透明人間になる」

「え?」

それは困る。ものすごく困る。

だって、消えれないじゃないか。

こんないい条件で消えれることなんて、もう一生ないだろう。

「私が透明人間になる」

「あれ、一人しかなれないんだよね。透明人間は。だからさ、二人で話し合いなよ。一か月後にまた会いに来るから」

そう笑って消えていった。

「・・・なんで透明人間になりたいの?」

「そっちこそ、なんで?」

質問に質問に返され、言葉が詰まる。

一度、空を見上げる。

深い深い息を吐き、杉原くんをみつめる。

「消えたいからに決まってんじゃん」

今度はハッキリと言い切る。

「そっちこそ、なんで透明人間になりたいの?」

「それは・・・っ」

杉原くんは顔をしかめ、下を向く。その手はスラックスをシワがつくほど握りしめていた。

「私、人をいじめるのは趣味じゃないから。また、今度聞かせて。でも、言えないなら私が透明人間になるから」

それだけ言って教室へと戻った。

その時、杉原君がどんな顔をしていたのか。そんなことは気にならなかった。