今度こそ文化祭当日!…というか、劇直前だ。
文化祭の劇。それの一番手がうちのクラス。僕はそれにムカついてしまい、危うく平等な順番の決め方・あみだくじを恨んでしまうところだった。
「ねぇ、ねぇっ。お客さんは今何人…?」
せっかく僕が恨みがましく思ってるのに、それを打ち消す勢いで苑田が尻尾をブンブンと振る。
「えっとね…、20人くらいかしら?」
ズーンッ。素晴らしい効果音が聞こえた。苑田の気分が下がったようでなにより。グッジョブ紀田さん!
「あら?25、30…どんどん増えてるわね」
いやなんで5人ずつ!ツッコミたいところだが、そんな暇もないらしい。苑田の元気メーターが、みるみる上昇していく。
「まじかよ、嬉しすぎるっての!!」
大声で吠える。お陰で僕は、苑田の遠吠えが客席に聞こえないかハラハラし、結果的に「苑田、お座り!」という犬扱いをするハメになった。落ち着いてくれたならいいけど。
「ウタカケのみなさーん、お願いシマース」
お、呼ばれた。ちなみにウタカケとは、「歌う少年は、追いかける」という僕らがやる劇の略称。
「じゃあ、行くよ!」
芯のある紀田さんの格好良い合図によって、僕らは舞台場へと繰り出した。
『あ、…なんでお前がここに居るんだよ…』
『なんでって。俺はピアノを弾きに来ただけだけど?』
爽やかな苑田の笑みに、役を演じる僕本体もやられそうになる。
『そっちこそなんで?』
大袈裟に指を指してくるけど、僕はその指を掴んで下げさせる。『音が聞こえたからだよ』という言い訳を言う。
…え、僕ら演技上手くね?演劇部の大道具にでもなってみよっかな。そんなくだらないボケに、心の中で笑ってしまった。
気づけば劇の終盤。
ピアノの席に座ってる苑田が突然、僕が演じてる役の名前を口にした。本当に突然。アドリブとか言うやつだ。
『ちょっと歌ってみてくれよ』
苑田が悪戯っ子に笑う。劇を観ている苑田のファンが悲鳴を抑えている気がする。
『…わかった』
『お、さんきゅ』
僕は覚悟を決めて観客の方を向いた。
…行くぞ、歌うんだ。
ザッとピアノに指を当てると、少しばかりざわついていた空気が打って変わって静かになった。
『…〜♪』
人前で歌うのが苦手な僕。劇の一部のシーンだとはいえ、普通に劇をするよりかなり緊張する。だけど、苑田の伴奏が柔らかくて、僕の緊張は一瞬にして解れた。
でも、
(歌いたくないぃ…)
心の中で低く唸り声を上げているうちに、歌唱シーンが終了した。
「いやー、2人共凄すぎよぉ…っ!」
後夜祭の時間だ。紀田さんが興奮状態で話しかけてきた。
ぴょんぴょん飛びはここまでくると今にも飛び立ちそう。兎より鳥だな。どちらにせよ、小動物なのに変わりはないけど。
「それほどでもだよ♪」
苑田はデレデレすることもなく爽やかにニコッと笑う。
ドサッドザッドサッ。
あ、クラスメイトの女子が倒れていく。まるでドミノ倒しだな。
「…それにしても、苑田ってピアノ弾けたんだな?」
僕が思い出したように言うと、苑田がこちらをふらっと振り返る。
「あー、まぁね。習ってたし」
「今は習ってねーのか?」
「んー、飽きたしいいかな」
飽き性かよ。思わずツッコんでしまった。
でも結構弾けてたし、飽きるのも時間の問題だったんだろうなぁ。と、99.9%くらいの確率で当たりそうな考えを頭にポンっと浮かべた。
「…あ。私、先生に呼ばれてたんだった。ちょっと言ってくるわねー」
「りょ…」
紀田さんは変わり身が早いようで、クラスメイトの一人が返事を終える間もなく走り去ってしまった。
こりゃ鳥じゃねぇな。…かまいたちか?
さて、クラス唯一のブレーカーが居なくなってしまい、みんなの紐が解けたようだった。一瞬であたりがざわつき出し、あれやこれやとみんながどこかへ散らばってしまった。
その隙を見計らったかのように、苑田が唐突に、グーを前に突き出してきた。
「ねぇ、昨日んとこいかね?」
昨日んとこか…
苑田も悪ふざけしてしまうタイプなようだ。返事はもう決まっている。
「いいね」
僕はそのグーに、自分のグーを軽くぶつけた。
文化祭の劇。それの一番手がうちのクラス。僕はそれにムカついてしまい、危うく平等な順番の決め方・あみだくじを恨んでしまうところだった。
「ねぇ、ねぇっ。お客さんは今何人…?」
せっかく僕が恨みがましく思ってるのに、それを打ち消す勢いで苑田が尻尾をブンブンと振る。
「えっとね…、20人くらいかしら?」
ズーンッ。素晴らしい効果音が聞こえた。苑田の気分が下がったようでなにより。グッジョブ紀田さん!
「あら?25、30…どんどん増えてるわね」
いやなんで5人ずつ!ツッコミたいところだが、そんな暇もないらしい。苑田の元気メーターが、みるみる上昇していく。
「まじかよ、嬉しすぎるっての!!」
大声で吠える。お陰で僕は、苑田の遠吠えが客席に聞こえないかハラハラし、結果的に「苑田、お座り!」という犬扱いをするハメになった。落ち着いてくれたならいいけど。
「ウタカケのみなさーん、お願いシマース」
お、呼ばれた。ちなみにウタカケとは、「歌う少年は、追いかける」という僕らがやる劇の略称。
「じゃあ、行くよ!」
芯のある紀田さんの格好良い合図によって、僕らは舞台場へと繰り出した。
『あ、…なんでお前がここに居るんだよ…』
『なんでって。俺はピアノを弾きに来ただけだけど?』
爽やかな苑田の笑みに、役を演じる僕本体もやられそうになる。
『そっちこそなんで?』
大袈裟に指を指してくるけど、僕はその指を掴んで下げさせる。『音が聞こえたからだよ』という言い訳を言う。
…え、僕ら演技上手くね?演劇部の大道具にでもなってみよっかな。そんなくだらないボケに、心の中で笑ってしまった。
気づけば劇の終盤。
ピアノの席に座ってる苑田が突然、僕が演じてる役の名前を口にした。本当に突然。アドリブとか言うやつだ。
『ちょっと歌ってみてくれよ』
苑田が悪戯っ子に笑う。劇を観ている苑田のファンが悲鳴を抑えている気がする。
『…わかった』
『お、さんきゅ』
僕は覚悟を決めて観客の方を向いた。
…行くぞ、歌うんだ。
ザッとピアノに指を当てると、少しばかりざわついていた空気が打って変わって静かになった。
『…〜♪』
人前で歌うのが苦手な僕。劇の一部のシーンだとはいえ、普通に劇をするよりかなり緊張する。だけど、苑田の伴奏が柔らかくて、僕の緊張は一瞬にして解れた。
でも、
(歌いたくないぃ…)
心の中で低く唸り声を上げているうちに、歌唱シーンが終了した。
「いやー、2人共凄すぎよぉ…っ!」
後夜祭の時間だ。紀田さんが興奮状態で話しかけてきた。
ぴょんぴょん飛びはここまでくると今にも飛び立ちそう。兎より鳥だな。どちらにせよ、小動物なのに変わりはないけど。
「それほどでもだよ♪」
苑田はデレデレすることもなく爽やかにニコッと笑う。
ドサッドザッドサッ。
あ、クラスメイトの女子が倒れていく。まるでドミノ倒しだな。
「…それにしても、苑田ってピアノ弾けたんだな?」
僕が思い出したように言うと、苑田がこちらをふらっと振り返る。
「あー、まぁね。習ってたし」
「今は習ってねーのか?」
「んー、飽きたしいいかな」
飽き性かよ。思わずツッコんでしまった。
でも結構弾けてたし、飽きるのも時間の問題だったんだろうなぁ。と、99.9%くらいの確率で当たりそうな考えを頭にポンっと浮かべた。
「…あ。私、先生に呼ばれてたんだった。ちょっと言ってくるわねー」
「りょ…」
紀田さんは変わり身が早いようで、クラスメイトの一人が返事を終える間もなく走り去ってしまった。
こりゃ鳥じゃねぇな。…かまいたちか?
さて、クラス唯一のブレーカーが居なくなってしまい、みんなの紐が解けたようだった。一瞬であたりがざわつき出し、あれやこれやとみんながどこかへ散らばってしまった。
その隙を見計らったかのように、苑田が唐突に、グーを前に突き出してきた。
「ねぇ、昨日んとこいかね?」
昨日んとこか…
苑田も悪ふざけしてしまうタイプなようだ。返事はもう決まっている。
「いいね」
僕はそのグーに、自分のグーを軽くぶつけた。
