青春はナニイロだ?

気づけば文化祭当日。…ではなく、文化祭前日だ。授業なしで文化祭の準備に取り組む日。段ボールや絵の具の匂い。元気な生徒の声が学校全体を活気尽かせている。
と、悠々語っている僕だが、そんな僕がいる場所は静かな体育館である。
言うほど静かではないのだけれどね。
『ちょっ、転校とか聞いてねーよ!?』
大声で僕は叫んだ。もう静かなんかじゃないな。
『仕方ないでしょ。親の都合なんだから』
『親の都合って。…連絡は取れるんだよな?』
苑田は黙り込み、『しらね』とだけ口にした。
「はいカットー!!」
紀田さんのぴょんぴょん跳びでこの"シーン"が終了した。
実は今、劇のリハを行なっていたところなのだ。
「2人ともすごいわね!?練習沢山したでしょ」
「いうほど練習してないよ」
紀田さんの興奮に、爽やかな笑みで返す苑田。
いや、しました。なんなら台本貰った日の夜、ぶっ通しで練習しました。苑田のかなりの練習って、どれくらいだよ。
少し考えてみて、ゲッソリした。
「さて、30分休憩よ。他の子達の面倒は任せて」
休憩か。丁度疲れてたから嬉しいなぁ。
バチッと格好いいウィンクを決める紀田さんに、僕は感謝した。
僕らは軽く話し合い、少し学校を出た近くの駄菓子屋に向かうことにした。
「どうやって学校を出ようかねー」
苑田がそう呟くや否や、僕は「いい場所があるぜ」と、先程の苑田に負けないくらいの爽やかさで笑った。
それから体育館裏へ向かって、目的の場所に着く。
「この茂みの奥!!」
「え、なんか怪我しそー」
背高草の茂みを見て、明らかゲンナリする苑田。
そりゃそうか。苑田みたいな"イケメン"には、顔が傷つくとか一大事だもんねー!?
…はぁ、なんだろ。自虐が過ぎたというかなんというか。簡単に言えば、虚しくなってきたというところか。
そんな思いを背負いながら、苑田の手首を掴み茂みを進んだ。奥には学校の柵がある。草が雁字搦めな柵に隠れるようにして、草ブロックで塞がれた人っ子一人が通れるくらいの通り道がある。
「ここでしょっちゅうサボってた」
「おいおい…」
ここを知っている秘密を訊かれる前に白状すると、案の定呆れられた。僕の秘密の場所だ、教えて貰ったことに感謝するといいさ。
柵を潜ると、人気のないコンクリート道路を踏んだ。
直ぐ側の角を曲がれば駄菓子屋だ。
「うわ。なつすぎ。どれにしよ〜」
懐かしい雰囲気に目を細めながら、駄菓子選びに浮き足立つ。そして僕は、あるものを見つけて「待って、見るのお久すぎ」 と手に取った。
「んー、何々。荻ちゃんは何にするの?」
苑田が僕の手を覗き込んで来て、「あぁ、ラムネねぇ」と声に漏らした。
そう、あのしゅわしゅわが心地よい飲むほうのラムネだ。
丁度いいや。額に汗がじわりと滲んでて気持ちが悪かった。少しでも涼めるといいのだが…
僕が真っ先にレジに向かうと、苑田も「待ってよ荻ちゃ〜ん」と情けない声を上げながら、ラムネを手にこちらへ小走りで駆けてくる。
「おっちゃん。これお願い」
税込120円。僕はどこからか500円玉を取り出し、レジに置いた。まさかという顔でこっちを見る苑田。
「神様仏様荻ちゃん様ー!!」
ギューッと苑田が抱きついてくる。むさ苦しいため直ぐにでも引っ剥がしたいが、苑田に対して調子に乗る機会は少ないので、ここは素直に調子に乗りまくって置くことにした。残りのお金では、きな粉棒や蒲焼きさんなどの駄菓子を買うことにする。
「そこの椅子にでも座るか?」
「さんせーい」
ゆるーい会話で、駄菓子屋の椅子でラムネを飲むことを決めた。
「「かんぱーい」」
コツンッとラムネ瓶を当てあって口に流し込む。ゴクゴクッと疲れた喉に水分が通っていく。
「…ぷはぁ、うめぇ…!」
パタパタと宙を仰ぎながら、苑田が感嘆の言葉を漏らした。おまけに簾が掛かってたりしてる駄菓子屋でキンッキンに冷えたラムネを飲んだ。昭和っぽいがかなり涼しい。
「ねぇ、荻ちゃん。ラムネ瓶をさ、こうやって透かしてみ?」
「えー、…こう?」
言われた通りに、ラムネ瓶を透かしてみると…
「…っわ。きれぇ…」
ラムネ瓶が空色の光を放っていた。ラムネ瓶の中に空が閉じ込められてしまったようだ。一生飾って置きたいが、透かすのを辞めると見えなくなってしまう。
「写真撮りてーけど、撮ったは撮ったでなんかちげぇんだよなぁ…」
その言葉に大いに頷く。仕方がないし、とても勿体ないが、僕は瞳にその光景を焼き付けることにした。