■ 九頭竜家 本家 双葉の部屋 早朝
部屋で目覚めると、慌てて飛び起きる双葉。
双葉「いけない、寝過ごしちゃった! 早く家事をやらないと……!」
しかし、周囲の景色を見て双葉はホッとする。
双葉「そうだった。ここは高天家じゃなく、紅蓮様の御屋敷だったわ」
双葉〈毎朝飛び起きてしまうのはまるで呪いね。早くこのお家に慣れなくっちゃ〉
■ 同 キッチン 早朝
双葉「おはようございます、皆様。私も何かお手伝いをさせてください」
双葉がキッチンに行くと、メイド達が朝食の準備で大わらわな状況。
メイドA「双葉様はまだお部屋で休んでいてください!」
双葉「でも、私だけが休んでいるのは気が引けるわ。何でもいいからお手伝いさせていただけませんか?」
メイドB「そのようなことをさせては私たちが紅蓮様に叱られてしまいます!」
メイドC「お願いですから朝食のお時間までお休みください!」
と、キッチンから追い出される双葉。
双葉〈仕方ないわね。他の方たちに何かお仕事がないか聞いてみましょう〉
屋敷内は執事やメイド達が忙しそうにしていたが、何処に行っても同じ回答が返って来るのみだった。
■ 同 庭 早朝
結局、庭にあるベンチに腰を掛けて一休みする双葉。
双葉「高天家で働いていた時は大変だったけれど、働かなさすぎるのも辛いものなのね。初めて知ったわ」
はぁ、と双葉は疲れた様に嘆息する。
双葉〈紅蓮様は昨日からお仕事に出かけていらっしゃるし、セキ様は霊力温存の為にお姿を御隠しになられているので本当に何もやることがないわ〉
双葉は、はぁ、とため息を吐く。
氷雨「双葉様」
双葉「ひゃあ⁉」
背後から声をかけられ、双葉は思わず声を張り上げる。
双葉「あ、氷雨様。すみません、大声を出してしまって」
氷雨「こちらこそすみません。何度かお声をおかけしたのですが届かなかったようで、近くまで行ってお声がけしました。もし驚かせてしまったのであれば、お詫びします」
氷雨はそう言って深々と首を垂れる。
双葉「いえ、そんなこと」
氷雨「そうですか。それでは朝食の準備ができましたので、どうぞ食卓へお越しください」
その時、双葉の脳裏に紅蓮の姿が過る。
双葉「あの、紅蓮様は……?」
氷雨「まだお戻りになっておりません」
双葉「そう、ですか……」
双葉はしょんぼりと俯く。
氷雨「双葉様、何かお悩み事ですか? もし何かございましたら遠慮せず私にお申し付けくださいませ」
双葉「ならば一つ。私に何かお仕事をいただけないでしょうか? こちらに来てからただ何もせず三食をいただいているのが心苦しくて申し訳ないのです」
氷雨「と申されましても、双葉様は九頭竜家の大事な花嫁様です。労働に従事させては私どもが紅蓮様に叱られてしまいます」
双葉「はい、皆様からもそう言われました」
双葉は更にしょんぼりと落ち込む。
氷雨はふむ、と何か思案する。
氷雨「紅蓮様はお昼ごろにお戻りになる予定でございます」
たちまち双葉の表情が明るくなる。
双葉「本当ですか⁉」
氷雨「それで一つ、ご提案があるのですが……」
■ 九頭竜家 本家 昼
屋敷前に転移門が出現すると、そこから紅蓮が現れる。
紅蓮が現れると同時に、巨大な門が開かれ、周囲は眩い光で溢れ返る。
紅蓮「氷雨、今戻った」
すでに待機していた氷雨が紅蓮を出迎える。
氷雨「お帰りなさいませ、紅蓮様」
紅蓮「双葉に変わりはないか?」
氷雨「いえ、少々懸念すべき事態が発生致しました」
紅蓮「何かあったのか⁉」
氷雨「紅蓮様に会えず、双葉様が大層お寂しそうでございました」
そう言って氷雨は茶化す様に微笑する。
紅蓮「驚かすな、氷雨。心臓に悪いぞ」
紅蓮はそう言いつつもどこか嬉し気に微笑む。
氷雨「それで十二家会議はどうでしたか?」
紅蓮「ああ、奴らにはちゃんと引導を渡してきてやったぞ。もはや退魔士としては死したも同然だ。二度と這い上がってくることはないだろうよ」
紅蓮はニタリ、と冷徹な笑みを浮かべる。
氷雨「それはようございました。私共も気が晴れるというものです。当家の花嫁様を虐げた者たちには、死ですら生ぬるいですからね」
紅蓮「それで、双葉は今、どうしている?」
氷雨「そのことなのですが、昼食はもう済まされましたか?」
紅蓮「いや、双葉と一緒にと思っていたので何も口にしていない」
氷雨「それはようございました」
氷雨は満面に笑みを浮かべながら言う。
首を傾げる紅蓮。
紅蓮「これは……オレの好物の匂いだ」
■ 同 九頭竜家 本家 食卓 昼
紅蓮が食卓に向かうと、割烹着姿の双葉が出迎えて来る。
双葉「お帰りなさいませ、紅蓮様」
紅蓮「双葉? その恰好はどうしたんだ?」
双葉「氷雨様にお願いして御台所をお借りしていたんです。あの、紅蓮様? 昼食はお済でしたでしょうか? まだなら是非とも召し上がっていただきたいものがあるのですが?」
紅蓮「いいや、まだだよ」
パァッと双葉の表情が明るくなる。
双葉「でしたら紅蓮様の為に鰆の煮つけを作っておきました。よろしければお召し上がりください」
紅蓮「もちろん、喜んでいただくよ」
そう言って双葉は鰆の煮つけをメインにした昼食を紅蓮に用意する。
双葉「お口に合わなかったら申し訳ございません」
双葉は少し不安げに紅蓮を見る。
紅蓮は一口、鰆の煮つけを口に運ぶ。
紅蓮〈これは母上と同じ味付け……またこれを食べられる日が来ようとは思いもしなかった」
双葉「いかがでしたか、紅蓮様?」
紅蓮「美味い。お世辞抜きに最高の一皿だ。ありがとう、双葉!」
双葉「お代わりも用意しておりますので、じゃんじゃん召し上がってくださいね」
紅蓮「双葉も一緒に食べよう。食事は一人より二人で食べた方が美味いからな」
双葉「では、お言葉に甘えますね」
紅蓮「双葉、良かったらまた作ってくれ。今度はサバの竜田揚げがいい。あとは肉じゃがも捨てがたいな」
双葉「はい、喜んでお作りしますね」
そう言って双葉は向日葵のような笑顔を浮かべる。
紅蓮〈双葉、やはり君は美しい。オレの魂に燃え盛る紅蓮の炎など掻き消してしまうくらいの眩しさだ〉
紅蓮は心の裡でそう呟き目を細めた。
双葉M〈いつまでもこんな幸せが続けばいい。その時の私はそう信じて疑わなかった〉
双葉M〈この時の私はまだ知る由もない。やがて自分が大罪を犯すことになるとは思いもしなかったのだ〉
■ 未来の光景 九頭竜家 本家 夜
これから数日の後、九頭竜家は襲撃を受ける。
燃え盛る九頭竜家本家は破壊しつくされた状態。
傷つき倒れる大勢の九頭竜家直属の退魔士達。
瘴気の様な霊力を放出する双葉の背後には闇に染まった守護霊獣八岐大蛇の姿がある。
近くには狂ったように笑う白雪の姿が見える。
紅蓮は満身創痍の状態で双葉と対峙している。
紅蓮「双葉、目を覚ますんだ!」
八岐大蛇の力が暴走した双葉は、虚ろな瞳で瘴気の様な霊力を放出するのであった。
双葉「お願い、紅蓮様……私を殺してください……早く!」
虚ろな表情の双葉の瞳から涙が零れ落ちた。
部屋で目覚めると、慌てて飛び起きる双葉。
双葉「いけない、寝過ごしちゃった! 早く家事をやらないと……!」
しかし、周囲の景色を見て双葉はホッとする。
双葉「そうだった。ここは高天家じゃなく、紅蓮様の御屋敷だったわ」
双葉〈毎朝飛び起きてしまうのはまるで呪いね。早くこのお家に慣れなくっちゃ〉
■ 同 キッチン 早朝
双葉「おはようございます、皆様。私も何かお手伝いをさせてください」
双葉がキッチンに行くと、メイド達が朝食の準備で大わらわな状況。
メイドA「双葉様はまだお部屋で休んでいてください!」
双葉「でも、私だけが休んでいるのは気が引けるわ。何でもいいからお手伝いさせていただけませんか?」
メイドB「そのようなことをさせては私たちが紅蓮様に叱られてしまいます!」
メイドC「お願いですから朝食のお時間までお休みください!」
と、キッチンから追い出される双葉。
双葉〈仕方ないわね。他の方たちに何かお仕事がないか聞いてみましょう〉
屋敷内は執事やメイド達が忙しそうにしていたが、何処に行っても同じ回答が返って来るのみだった。
■ 同 庭 早朝
結局、庭にあるベンチに腰を掛けて一休みする双葉。
双葉「高天家で働いていた時は大変だったけれど、働かなさすぎるのも辛いものなのね。初めて知ったわ」
はぁ、と双葉は疲れた様に嘆息する。
双葉〈紅蓮様は昨日からお仕事に出かけていらっしゃるし、セキ様は霊力温存の為にお姿を御隠しになられているので本当に何もやることがないわ〉
双葉は、はぁ、とため息を吐く。
氷雨「双葉様」
双葉「ひゃあ⁉」
背後から声をかけられ、双葉は思わず声を張り上げる。
双葉「あ、氷雨様。すみません、大声を出してしまって」
氷雨「こちらこそすみません。何度かお声をおかけしたのですが届かなかったようで、近くまで行ってお声がけしました。もし驚かせてしまったのであれば、お詫びします」
氷雨はそう言って深々と首を垂れる。
双葉「いえ、そんなこと」
氷雨「そうですか。それでは朝食の準備ができましたので、どうぞ食卓へお越しください」
その時、双葉の脳裏に紅蓮の姿が過る。
双葉「あの、紅蓮様は……?」
氷雨「まだお戻りになっておりません」
双葉「そう、ですか……」
双葉はしょんぼりと俯く。
氷雨「双葉様、何かお悩み事ですか? もし何かございましたら遠慮せず私にお申し付けくださいませ」
双葉「ならば一つ。私に何かお仕事をいただけないでしょうか? こちらに来てからただ何もせず三食をいただいているのが心苦しくて申し訳ないのです」
氷雨「と申されましても、双葉様は九頭竜家の大事な花嫁様です。労働に従事させては私どもが紅蓮様に叱られてしまいます」
双葉「はい、皆様からもそう言われました」
双葉は更にしょんぼりと落ち込む。
氷雨はふむ、と何か思案する。
氷雨「紅蓮様はお昼ごろにお戻りになる予定でございます」
たちまち双葉の表情が明るくなる。
双葉「本当ですか⁉」
氷雨「それで一つ、ご提案があるのですが……」
■ 九頭竜家 本家 昼
屋敷前に転移門が出現すると、そこから紅蓮が現れる。
紅蓮が現れると同時に、巨大な門が開かれ、周囲は眩い光で溢れ返る。
紅蓮「氷雨、今戻った」
すでに待機していた氷雨が紅蓮を出迎える。
氷雨「お帰りなさいませ、紅蓮様」
紅蓮「双葉に変わりはないか?」
氷雨「いえ、少々懸念すべき事態が発生致しました」
紅蓮「何かあったのか⁉」
氷雨「紅蓮様に会えず、双葉様が大層お寂しそうでございました」
そう言って氷雨は茶化す様に微笑する。
紅蓮「驚かすな、氷雨。心臓に悪いぞ」
紅蓮はそう言いつつもどこか嬉し気に微笑む。
氷雨「それで十二家会議はどうでしたか?」
紅蓮「ああ、奴らにはちゃんと引導を渡してきてやったぞ。もはや退魔士としては死したも同然だ。二度と這い上がってくることはないだろうよ」
紅蓮はニタリ、と冷徹な笑みを浮かべる。
氷雨「それはようございました。私共も気が晴れるというものです。当家の花嫁様を虐げた者たちには、死ですら生ぬるいですからね」
紅蓮「それで、双葉は今、どうしている?」
氷雨「そのことなのですが、昼食はもう済まされましたか?」
紅蓮「いや、双葉と一緒にと思っていたので何も口にしていない」
氷雨「それはようございました」
氷雨は満面に笑みを浮かべながら言う。
首を傾げる紅蓮。
紅蓮「これは……オレの好物の匂いだ」
■ 同 九頭竜家 本家 食卓 昼
紅蓮が食卓に向かうと、割烹着姿の双葉が出迎えて来る。
双葉「お帰りなさいませ、紅蓮様」
紅蓮「双葉? その恰好はどうしたんだ?」
双葉「氷雨様にお願いして御台所をお借りしていたんです。あの、紅蓮様? 昼食はお済でしたでしょうか? まだなら是非とも召し上がっていただきたいものがあるのですが?」
紅蓮「いいや、まだだよ」
パァッと双葉の表情が明るくなる。
双葉「でしたら紅蓮様の為に鰆の煮つけを作っておきました。よろしければお召し上がりください」
紅蓮「もちろん、喜んでいただくよ」
そう言って双葉は鰆の煮つけをメインにした昼食を紅蓮に用意する。
双葉「お口に合わなかったら申し訳ございません」
双葉は少し不安げに紅蓮を見る。
紅蓮は一口、鰆の煮つけを口に運ぶ。
紅蓮〈これは母上と同じ味付け……またこれを食べられる日が来ようとは思いもしなかった」
双葉「いかがでしたか、紅蓮様?」
紅蓮「美味い。お世辞抜きに最高の一皿だ。ありがとう、双葉!」
双葉「お代わりも用意しておりますので、じゃんじゃん召し上がってくださいね」
紅蓮「双葉も一緒に食べよう。食事は一人より二人で食べた方が美味いからな」
双葉「では、お言葉に甘えますね」
紅蓮「双葉、良かったらまた作ってくれ。今度はサバの竜田揚げがいい。あとは肉じゃがも捨てがたいな」
双葉「はい、喜んでお作りしますね」
そう言って双葉は向日葵のような笑顔を浮かべる。
紅蓮〈双葉、やはり君は美しい。オレの魂に燃え盛る紅蓮の炎など掻き消してしまうくらいの眩しさだ〉
紅蓮は心の裡でそう呟き目を細めた。
双葉M〈いつまでもこんな幸せが続けばいい。その時の私はそう信じて疑わなかった〉
双葉M〈この時の私はまだ知る由もない。やがて自分が大罪を犯すことになるとは思いもしなかったのだ〉
■ 未来の光景 九頭竜家 本家 夜
これから数日の後、九頭竜家は襲撃を受ける。
燃え盛る九頭竜家本家は破壊しつくされた状態。
傷つき倒れる大勢の九頭竜家直属の退魔士達。
瘴気の様な霊力を放出する双葉の背後には闇に染まった守護霊獣八岐大蛇の姿がある。
近くには狂ったように笑う白雪の姿が見える。
紅蓮は満身創痍の状態で双葉と対峙している。
紅蓮「双葉、目を覚ますんだ!」
八岐大蛇の力が暴走した双葉は、虚ろな瞳で瘴気の様な霊力を放出するのであった。
双葉「お願い、紅蓮様……私を殺してください……早く!」
虚ろな表情の双葉の瞳から涙が零れ落ちた。


