■ 都内某所 十二家会議所 円卓 時刻不明
薄暗い会議所内。
周囲には霊力の炎が灯された12体の仏像が立ち並んでいる。
室の中央には円卓が置かれ、そこには十二家の各当主が座っている。
不在なのは序列1位の九頭竜家の席のみ。
その場には、序列3位に格上げとなった双葉の父・正道の姿があった。
他の下位序列の当主は忌々し気に正道を睨みつける。
当主A〈昨日まで序列最下位であった高天家の当主めが、何を偉そうにふんぞり返っておるのか……!〉
当主B〈九頭竜家の腰ぎんちゃくの分際で我らを見下す様な態度をとりおって〉
正道は周囲の反感に対して意に介している様子はなく、むしろ誇らし気な態度でいる。
父・正道〈くくく、よもやあの醜女がこうまで役に立ってくれるとは思いもせなんだ。後は白雪を何処か中位以上の家に嫁がせればいずれは序列2位、いや、1位になるのも夢ではないぞ!〉
正道は心の中で高笑いを上げる。
そこに紅蓮が現れる。
紅蓮「お歴々、お待たせいたしました。今宵はご報告があり、不肖ながらこの紅蓮めが父の名代として十二家会議に参りましたことをお伝え申し上げます」
紅蓮はそのまま自分の席に着席する。
紅蓮「ではまず、序列の変更を申し伝えます。序列3位であった王牙家を序列4位に下げ、代わりに高天家を序列3位に格上げと致します。何か異存はございますか?」
王牙当主「大ありだ! 何故、当家が高天家などの下につかねばならぬのだ!」
大柄な体躯の王牙当主は激高し、激しく円卓を叩きつけた。
父・正道「王牙家当主殿、見苦しいですぞ? これは既に決定事項なのだ。何故、素直に現実を受け入れられないのですかな?」
王牙当主「高天、貴様、オレに対して何をほざくか⁉」
父・正道「おやおや、私は事実を申し上げたに過ぎませぬぞ? それに、貴方こそ誰に対してものを言っている。私は序列3位が高天家当主なるぞ? 我等退魔士にとって序列は何よりも優先されるべきことだと思われますが、いかに?」
王牙家当主は歯ぎしりしながら悔しそうに座る。
父・正道〈くく、九頭竜家さまさまよの。長年の恥辱をそそぐのはまだまだこれからよ。せいぜい、九頭竜家の権勢を利用させてもらおうか〉
紅蓮「まだ話は終わっておらぬ。控えよ、当主代行殿」
父・正道「……は? 誰が当主代行なので???」
紅蓮は唖然とする正道を無視して話を続ける。
紅蓮「話は前後するが、先日、守護霊獣八岐大蛇の所在を確認した。現在、かの守護霊獣を宿し高天家の御息女、高天双葉様は当家にて保護している。後日、オレが当主に就任すると同時に双葉様を我が花嫁に迎えるつもりであることを皆に報告させてもらう」
当主達「八岐大蛇が顕現されたのですか⁉」
父・正道〈それは何の話だ?〉
父・正道「紅蓮様、それはどういうことですか⁉ 私は何も聞かされておりませんぞ⁉」
紅蓮「むしろ何故、自分の娘に八岐大蛇が宿っていることに気付かなかったのか理解に苦しむぞ。まあ、それはよい。高天家当主代行殿に申し伝える。双葉様の婚礼と同時に貴様の当主代行の任を解き、正式に双葉様を高天家の当主にする。よもや異論はあるまいな?」
父・正道「あるに決まっている! 私は正式な高天家の当主ですぞ⁉ 決して代行ではございませぬ!」
紅蓮「高天家の守護霊獣をその身に宿し双葉様が高天家正当な当主であることは明確。オレとしては今すぐにでも貴様から当主代行の座を剥奪したいところだが、一ヵ月もの猶予を与えたるはお前の娘の恩情に他ならん」
父・正道「一か月の猶予とはどういう意味ですか?」
紅蓮「皆まで言わねば理解出来ぬか。簡単に言えば、お前ら家族は追放ということだ。オレの花嫁にあのような惨たらしいことをしておいて許されるとは思っていまい。追放で済ませるのは先程も申した通り、双葉様の恩情に他ならん。あと、今日限り貴様の十二家会議の出入りを固く禁じるものとする」
愕然とする正道。
王牙当主「なるほど、相分かり申した! それならば当家の序列が格落ちしたとしても納得でございまするな」
正道以外の他の当主達も納得した様子で頷く。
紅蓮は「十二家会議は以上だ」とだけ呟き、早々に退席しようと踵を返す。
父・正道「お、お待ちを、紅蓮様! 約束が違うではないですか!」
紅蓮「オレが貴様に約束したのは高天家を序列3位に格上げすること。何か相違あるか?」
紅蓮はニタリ、と残酷な笑みを浮かべる。
父・正道「そ、そんなのあんまりだあああああああああ!」
紅蓮「そのゴミをつまみ出せ」
正道は警備の退魔士によってその場から引きずり出されていった。
正道の「お慈悲を!」という叫びが木霊する。
紅蓮〈本来なら八つ裂きにしても飽き足らんのだ。むしろ命があることを感謝するのだな〉
その時、序列2位の白銀家当主白銀千手は誰にも知られずにほくそ笑む。
千手〈八岐大蛇が顕現なされる。これは好機と見るべきよな。紅蓮、覚悟せよ。いつまでも竜が白銀の上を行くと思うなよ?〉
薄暗い会議所内。
周囲には霊力の炎が灯された12体の仏像が立ち並んでいる。
室の中央には円卓が置かれ、そこには十二家の各当主が座っている。
不在なのは序列1位の九頭竜家の席のみ。
その場には、序列3位に格上げとなった双葉の父・正道の姿があった。
他の下位序列の当主は忌々し気に正道を睨みつける。
当主A〈昨日まで序列最下位であった高天家の当主めが、何を偉そうにふんぞり返っておるのか……!〉
当主B〈九頭竜家の腰ぎんちゃくの分際で我らを見下す様な態度をとりおって〉
正道は周囲の反感に対して意に介している様子はなく、むしろ誇らし気な態度でいる。
父・正道〈くくく、よもやあの醜女がこうまで役に立ってくれるとは思いもせなんだ。後は白雪を何処か中位以上の家に嫁がせればいずれは序列2位、いや、1位になるのも夢ではないぞ!〉
正道は心の中で高笑いを上げる。
そこに紅蓮が現れる。
紅蓮「お歴々、お待たせいたしました。今宵はご報告があり、不肖ながらこの紅蓮めが父の名代として十二家会議に参りましたことをお伝え申し上げます」
紅蓮はそのまま自分の席に着席する。
紅蓮「ではまず、序列の変更を申し伝えます。序列3位であった王牙家を序列4位に下げ、代わりに高天家を序列3位に格上げと致します。何か異存はございますか?」
王牙当主「大ありだ! 何故、当家が高天家などの下につかねばならぬのだ!」
大柄な体躯の王牙当主は激高し、激しく円卓を叩きつけた。
父・正道「王牙家当主殿、見苦しいですぞ? これは既に決定事項なのだ。何故、素直に現実を受け入れられないのですかな?」
王牙当主「高天、貴様、オレに対して何をほざくか⁉」
父・正道「おやおや、私は事実を申し上げたに過ぎませぬぞ? それに、貴方こそ誰に対してものを言っている。私は序列3位が高天家当主なるぞ? 我等退魔士にとって序列は何よりも優先されるべきことだと思われますが、いかに?」
王牙家当主は歯ぎしりしながら悔しそうに座る。
父・正道〈くく、九頭竜家さまさまよの。長年の恥辱をそそぐのはまだまだこれからよ。せいぜい、九頭竜家の権勢を利用させてもらおうか〉
紅蓮「まだ話は終わっておらぬ。控えよ、当主代行殿」
父・正道「……は? 誰が当主代行なので???」
紅蓮は唖然とする正道を無視して話を続ける。
紅蓮「話は前後するが、先日、守護霊獣八岐大蛇の所在を確認した。現在、かの守護霊獣を宿し高天家の御息女、高天双葉様は当家にて保護している。後日、オレが当主に就任すると同時に双葉様を我が花嫁に迎えるつもりであることを皆に報告させてもらう」
当主達「八岐大蛇が顕現されたのですか⁉」
父・正道〈それは何の話だ?〉
父・正道「紅蓮様、それはどういうことですか⁉ 私は何も聞かされておりませんぞ⁉」
紅蓮「むしろ何故、自分の娘に八岐大蛇が宿っていることに気付かなかったのか理解に苦しむぞ。まあ、それはよい。高天家当主代行殿に申し伝える。双葉様の婚礼と同時に貴様の当主代行の任を解き、正式に双葉様を高天家の当主にする。よもや異論はあるまいな?」
父・正道「あるに決まっている! 私は正式な高天家の当主ですぞ⁉ 決して代行ではございませぬ!」
紅蓮「高天家の守護霊獣をその身に宿し双葉様が高天家正当な当主であることは明確。オレとしては今すぐにでも貴様から当主代行の座を剥奪したいところだが、一ヵ月もの猶予を与えたるはお前の娘の恩情に他ならん」
父・正道「一か月の猶予とはどういう意味ですか?」
紅蓮「皆まで言わねば理解出来ぬか。簡単に言えば、お前ら家族は追放ということだ。オレの花嫁にあのような惨たらしいことをしておいて許されるとは思っていまい。追放で済ませるのは先程も申した通り、双葉様の恩情に他ならん。あと、今日限り貴様の十二家会議の出入りを固く禁じるものとする」
愕然とする正道。
王牙当主「なるほど、相分かり申した! それならば当家の序列が格落ちしたとしても納得でございまするな」
正道以外の他の当主達も納得した様子で頷く。
紅蓮は「十二家会議は以上だ」とだけ呟き、早々に退席しようと踵を返す。
父・正道「お、お待ちを、紅蓮様! 約束が違うではないですか!」
紅蓮「オレが貴様に約束したのは高天家を序列3位に格上げすること。何か相違あるか?」
紅蓮はニタリ、と残酷な笑みを浮かべる。
父・正道「そ、そんなのあんまりだあああああああああ!」
紅蓮「そのゴミをつまみ出せ」
正道は警備の退魔士によってその場から引きずり出されていった。
正道の「お慈悲を!」という叫びが木霊する。
紅蓮〈本来なら八つ裂きにしても飽き足らんのだ。むしろ命があることを感謝するのだな〉
その時、序列2位の白銀家当主白銀千手は誰にも知られずにほくそ笑む。
千手〈八岐大蛇が顕現なされる。これは好機と見るべきよな。紅蓮、覚悟せよ。いつまでも竜が白銀の上を行くと思うなよ?〉


