■九頭竜家 本家 食卓 夜
突然、紅蓮から始祖の十二家の主になってくれと懇願され、狼狽する双葉。
双葉「紅蓮様、御冗談ですよね……?」
紅蓮「冗談なんかじゃない。双葉、自分では気づいていないだろうが、君は王の資格を持っているんだ」
紅蓮はそう言いながら双葉の頬の痣を指差す。
双葉「その蛇の痣は呪いなどではない。それこそがその身に最強の守護霊獣『八岐大蛇』を宿している証。それは同時に退魔士の王の証でもあるのだ」
双葉〈私の体内に守護霊獣が宿っている……? それが本当なら、私は呪われた存在じゃなかったんだ……!〉
双葉は慈しむ様に痣のある頬に手を当てる。
紅蓮「本来ならば双葉は祝福されて然るべき存在であった。だが、高天家から守護霊獣の伝承が喪失していたせいで奴らはそのことに気付かず、結果的に双葉はあのような惨たらしい目に遭ってしまったのだろう。それを差し引いても奴らの所業は思い出すだけで腸が煮えくり返る思いだ」
紅蓮はそう言って忌々し気に歯ぎしりする。
紅蓮「オレがもっと早くに気付いていれば双葉をあのような目に遭わせることもなかったものを。己の不徳を恥じるばかりだ。本当にすまなかった、双葉」
双葉「謝らないでください。紅蓮様のせいじゃありませんから。でも、それでようやく納得出来ました」
双葉は少し寂しそうに微笑む。
紅蓮「何がだ?」
双葉「紅蓮様が私の様な者を花嫁にお選び下さったのはこの身に八岐大蛇という守護霊獣が宿っているからなのでしょう?」
双葉〈ほんの一時でもこの方に愛されていると思えただけで、私は幸せだったわ〉
紅蓮「それは違う!」
紅蓮は慌てた様に大声を張り上げる。
双葉は大きな声に驚き両目を大きく見開く。
紅蓮「大声を出してすまない。確かに双葉の身に宿している守護霊獣も必要だ。だが、オレはそれが無くとも双葉を花嫁に望んでいた。誓って君を利用したいから求婚したのではない……!」
双葉「お気遣いはご無用ですよ。私、大恩ある紅蓮様の為なら命だって捧げても惜しくはございません」
紅蓮「そんな哀しいことを言うのは止せ。泣きたくなってくる」
紅蓮は悲痛な面持ちで双葉の両手を優しく握る。
紅蓮「双葉、これだけは約束する。これからは俺が君を守る。もう二度と辛い思いはさせないから、オレを信じてくれ」
愁いを帯びた紅蓮の眼差しに脳がとろけ落ちそうになる双葉。
双葉「分かりました、紅蓮様。例えどんなことがあろうとも私は紅蓮様を信じ何処までもついてまいります」
紅蓮「ありがとう、双葉」
紅蓮はホッとしたように微笑する。
双葉「それで、王の資格というのは何なのですか?」
セキ「それはワシが答えよう」
セキは二人の間に割って入ると、双葉に飛びついた。
紅蓮はあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべるが黙ってセキを睨みつけた。
セキ「ワシは竜の守護霊獣ではあるが、あくまで霊獣。他にも現存している二体の守護霊獣も力の差は多少あれど同格じゃ。しかし、八岐大蛇だけは違う。双葉がその身に宿し守護霊獣のみ神の力を持っているのじゃ」
双葉「そうなのですか⁉」
紅蓮「一度顕現すれば、ワシらのごとき矮小な存在は平伏すより他はない。それすなわち王の証、というわけじゃな。本来ならば始祖の十二家の序列1位の席は高天家のものじゃった。しかし、何代か前にその伝承が喪われ守護霊獣を継承することが出来なくなってしまい、今の様に失墜してしまったのじゃ」
双葉「そういう理由があったのですね」
双葉はなるほど、と頷く。
紅蓮「つまり双葉が八岐大蛇を自在に使役出来るようになれば、自ずとオレ達退魔士の主になるというわけだ。オレが双葉に最初に言った言葉を覚えているか?」
双葉「はい、先程のことのように覚えております」
〈双葉、今日からオレは君のものだ。どうかオレを双葉の花婿にしてくれないか?〉
双葉は紅蓮の求愛の言葉を思い出し、顔ばかりか耳まで真っ赤に染まる。
紅蓮「オレを君の物にしてもらいたいというのはそういう理由だからだ。双葉はオレの花嫁になるのと同時に主でもあるのだから」
双葉「そこまでは分かったのですが、後一つ、竜の巫女とはなんなのですか?」
セキ「それは単純に双葉にはワシを守ってもらいたいのじゃ。竜の巫女なんて大仰な役職ではあるが、簡単に言えばワシの世話役ということじゃ」
双葉「セキ様を守る? そう言えば、あの時も妖に襲われていらっしゃいましたよね? 九頭竜家の守護霊獣であらせられるセキ様がどうしてあのようなことに?」
セキ「理由は簡単じゃ。ワシが弱いからじゃ。きっとその辺の低級霊にすら勝てぬじゃろうて」
双葉「ええええ⁉ それはどうしてでございますか⁉ 噂に名高い九頭竜家の竜神様はいかなる邪悪をも滅する最強の力を持つとお聞きしておりますが?」
セキ「本来の力さえ戻ればいかなる悪神をも滅ぼしてみせよう。しかし、事情があるのじゃ」
紅蓮「セキはオレが成人の儀を終え正式に当主に就任しなければその力を発揮出来ぬのだ。太古よりそういう契約でな。あの時もオレがちょっと目を離したすきに屋敷を出て妖に襲われ、そこを偶然双葉が救ってくれたというわけだ」
双葉「そういう理由があったのですね。護衛はつけていらっしゃらなかったのですか?」
紅蓮「ある事情でオレ以外の者に守護霊獣の幼生体を任せるわけにはいかぬのだ。しかし、オレの花嫁である双葉ならば別。どうか竜の巫女となりセキを守ってはくれないだろうか?」
セキ「ワシからも頼むぞ。何しろ、定期的に霊力を補充しなければすぐに消滅してしまうからの」
双葉「それは責任重大ですね。分かりました、私でよろしければ喜んで竜の巫女の任、拝命いたします」
紅蓮「来月にもオレは18になり元服し正式に当主に就任する。それまで頑張ってくれ、双葉」
双葉「……誰が18になるとおっしゃったのですか?」
双葉は目を点にして驚く。
紅蓮「オレがだ」
双葉「まさか、紅蓮様は私と同学年?」
紅蓮「ああ、その通り。今は双葉と同い年だぞ?」
双葉〈私、てっきり紅蓮様はとっくの昔に成人されていると思っていました!〉
驚愕する双葉。
突然、紅蓮から始祖の十二家の主になってくれと懇願され、狼狽する双葉。
双葉「紅蓮様、御冗談ですよね……?」
紅蓮「冗談なんかじゃない。双葉、自分では気づいていないだろうが、君は王の資格を持っているんだ」
紅蓮はそう言いながら双葉の頬の痣を指差す。
双葉「その蛇の痣は呪いなどではない。それこそがその身に最強の守護霊獣『八岐大蛇』を宿している証。それは同時に退魔士の王の証でもあるのだ」
双葉〈私の体内に守護霊獣が宿っている……? それが本当なら、私は呪われた存在じゃなかったんだ……!〉
双葉は慈しむ様に痣のある頬に手を当てる。
紅蓮「本来ならば双葉は祝福されて然るべき存在であった。だが、高天家から守護霊獣の伝承が喪失していたせいで奴らはそのことに気付かず、結果的に双葉はあのような惨たらしい目に遭ってしまったのだろう。それを差し引いても奴らの所業は思い出すだけで腸が煮えくり返る思いだ」
紅蓮はそう言って忌々し気に歯ぎしりする。
紅蓮「オレがもっと早くに気付いていれば双葉をあのような目に遭わせることもなかったものを。己の不徳を恥じるばかりだ。本当にすまなかった、双葉」
双葉「謝らないでください。紅蓮様のせいじゃありませんから。でも、それでようやく納得出来ました」
双葉は少し寂しそうに微笑む。
紅蓮「何がだ?」
双葉「紅蓮様が私の様な者を花嫁にお選び下さったのはこの身に八岐大蛇という守護霊獣が宿っているからなのでしょう?」
双葉〈ほんの一時でもこの方に愛されていると思えただけで、私は幸せだったわ〉
紅蓮「それは違う!」
紅蓮は慌てた様に大声を張り上げる。
双葉は大きな声に驚き両目を大きく見開く。
紅蓮「大声を出してすまない。確かに双葉の身に宿している守護霊獣も必要だ。だが、オレはそれが無くとも双葉を花嫁に望んでいた。誓って君を利用したいから求婚したのではない……!」
双葉「お気遣いはご無用ですよ。私、大恩ある紅蓮様の為なら命だって捧げても惜しくはございません」
紅蓮「そんな哀しいことを言うのは止せ。泣きたくなってくる」
紅蓮は悲痛な面持ちで双葉の両手を優しく握る。
紅蓮「双葉、これだけは約束する。これからは俺が君を守る。もう二度と辛い思いはさせないから、オレを信じてくれ」
愁いを帯びた紅蓮の眼差しに脳がとろけ落ちそうになる双葉。
双葉「分かりました、紅蓮様。例えどんなことがあろうとも私は紅蓮様を信じ何処までもついてまいります」
紅蓮「ありがとう、双葉」
紅蓮はホッとしたように微笑する。
双葉「それで、王の資格というのは何なのですか?」
セキ「それはワシが答えよう」
セキは二人の間に割って入ると、双葉に飛びついた。
紅蓮はあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべるが黙ってセキを睨みつけた。
セキ「ワシは竜の守護霊獣ではあるが、あくまで霊獣。他にも現存している二体の守護霊獣も力の差は多少あれど同格じゃ。しかし、八岐大蛇だけは違う。双葉がその身に宿し守護霊獣のみ神の力を持っているのじゃ」
双葉「そうなのですか⁉」
紅蓮「一度顕現すれば、ワシらのごとき矮小な存在は平伏すより他はない。それすなわち王の証、というわけじゃな。本来ならば始祖の十二家の序列1位の席は高天家のものじゃった。しかし、何代か前にその伝承が喪われ守護霊獣を継承することが出来なくなってしまい、今の様に失墜してしまったのじゃ」
双葉「そういう理由があったのですね」
双葉はなるほど、と頷く。
紅蓮「つまり双葉が八岐大蛇を自在に使役出来るようになれば、自ずとオレ達退魔士の主になるというわけだ。オレが双葉に最初に言った言葉を覚えているか?」
双葉「はい、先程のことのように覚えております」
〈双葉、今日からオレは君のものだ。どうかオレを双葉の花婿にしてくれないか?〉
双葉は紅蓮の求愛の言葉を思い出し、顔ばかりか耳まで真っ赤に染まる。
紅蓮「オレを君の物にしてもらいたいというのはそういう理由だからだ。双葉はオレの花嫁になるのと同時に主でもあるのだから」
双葉「そこまでは分かったのですが、後一つ、竜の巫女とはなんなのですか?」
セキ「それは単純に双葉にはワシを守ってもらいたいのじゃ。竜の巫女なんて大仰な役職ではあるが、簡単に言えばワシの世話役ということじゃ」
双葉「セキ様を守る? そう言えば、あの時も妖に襲われていらっしゃいましたよね? 九頭竜家の守護霊獣であらせられるセキ様がどうしてあのようなことに?」
セキ「理由は簡単じゃ。ワシが弱いからじゃ。きっとその辺の低級霊にすら勝てぬじゃろうて」
双葉「ええええ⁉ それはどうしてでございますか⁉ 噂に名高い九頭竜家の竜神様はいかなる邪悪をも滅する最強の力を持つとお聞きしておりますが?」
セキ「本来の力さえ戻ればいかなる悪神をも滅ぼしてみせよう。しかし、事情があるのじゃ」
紅蓮「セキはオレが成人の儀を終え正式に当主に就任しなければその力を発揮出来ぬのだ。太古よりそういう契約でな。あの時もオレがちょっと目を離したすきに屋敷を出て妖に襲われ、そこを偶然双葉が救ってくれたというわけだ」
双葉「そういう理由があったのですね。護衛はつけていらっしゃらなかったのですか?」
紅蓮「ある事情でオレ以外の者に守護霊獣の幼生体を任せるわけにはいかぬのだ。しかし、オレの花嫁である双葉ならば別。どうか竜の巫女となりセキを守ってはくれないだろうか?」
セキ「ワシからも頼むぞ。何しろ、定期的に霊力を補充しなければすぐに消滅してしまうからの」
双葉「それは責任重大ですね。分かりました、私でよろしければ喜んで竜の巫女の任、拝命いたします」
紅蓮「来月にもオレは18になり元服し正式に当主に就任する。それまで頑張ってくれ、双葉」
双葉「……誰が18になるとおっしゃったのですか?」
双葉は目を点にして驚く。
紅蓮「オレがだ」
双葉「まさか、紅蓮様は私と同学年?」
紅蓮「ああ、その通り。今は双葉と同い年だぞ?」
双葉〈私、てっきり紅蓮様はとっくの昔に成人されていると思っていました!〉
驚愕する双葉。


